虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第百七話

 

俺が目を覚ましたのは何処なのだろうか?まず最初に浮かんだ疑問はそれだった。

周囲を観察してみれば、血圧と心肺機能を測定する機器、そして白いシーツと左腕に刺された点滴針。

 

どうやら病院のようだと、倒れたのであれば当たり前といえば当たり前だ。

少し暗闇に目が慣れてくる、少し皺の入った自分の手の甲を擦り、半透明な板を退かしてベッドから這い出していく。

 

身体は良く動くようだ、それでも何処かぎこちなさからその違和感の正体が、自分の身体と魂とでも言うべきものの同調が取れていないのだと実感する。

 

「これじゃ、あの時のガンダムと同じだな。」

 

ガンダムという言葉で自分の姿を表すのは良いことだろう、実際あの時のそれは現在の状態に最も近い。

自分の想うがままに動かくすことが出来ないもどかしさ、それが自分の肉体であることに、苛立ちがある。

 

ナースコールをするべきか?いや、どうやらその必要はなさそうだ。

コツコツと近付いてくる足音が一つ、音からして男のものだろう。少し、乱暴な歩みだ。

スルリと戸が開くと、俺が見知った顔が現れた。

 

「随分と早寝早起きだね、父さんは。」

 

「そうだな、何時頃倒れたのかは解らないが、そんなにも早い段階か?翡翠?」

 

艷やかな黒髪のセミショートと童顔、アイのそれの遺伝だろう事はすぐに分かる、その頭髪とは裏腹に、無精髭を生やしたその顔はファッションというものからは程遠い、大凡芸能人とは思えない風貌。

女っ気の何も無い、学者がそこにいた。

目元には隈を作っていて、今に睡眠を取り始めてしまうのではという疑問すら生まれる。

 

「俺なんか相手にしているより、論文でも書いていたほうが有意義じゃないのか?

それか、素材は良いんだからそろそろ、孫の顔でも拝みたいんだが?あと髭くらい剃れよ、それだけで不摂生さが見て取れるし、目の隈だって酷い。お前の幼い顔立ちに隈と無精髭は似合わない」

 

「うるせぇよ、病人は静かにしとけ。誰かさんのせいで最近忙しすぎて寝る時間が殆ど取れないし、シャワーを軽く浴びるのが精一杯で風呂には何週間も浸かっていない、この髭だってホントは鬱陶しくて仕方ないし、早いとこ剃りたいさ。けれど、その程度の身だしなみを整える時間もこの状況じゃまともに作れないんだよ。

僕が今ここにいるのだって不眠不休で父さんの心配している母さんに替わっているだけだよ。姉さん達は子育てや仕事で忙しいらしくてね?かなさんくらいじゃないかな?仕事を抜け出して来てくれるそうだ。それと大君さんからも伝言を預かってるよ。『私より先に旅立つようなことはしてくれるな。君にはまだまだやってもらわないといけないことが多く残っているのだから』だと」

 

迷惑を掛けるとはこの事か…。だが、そうも言っていられまい俺にはもう時間があまり残されていないのだから。

 

 

 

 


 

〜sideアクア〜

それは突然やってきた。

私はいつものように仕事を終え、帰宅し食事を済ませ、その後入浴を終えてパジャマに着替えて軽く休憩した後、寝入っていた翡翠の頬にお休みのキスをした後に自分の部屋に向かい就寝に着いた。

 

ドタドタという音と共に急に部屋のドアが開き、強烈な音を響かせながらルビーが入ってきたのだ。

 

「お姉ちゃん!ちょっと、聞いてよ!」

 

煩いのが入ってきた、やだやだ。こっちはゆっくり眠りたいのに、仕事に受験に立て込んでたんだから、休ませてよ。

 

「こんな時間に何?良い加減寝ないと、お肌の美容に良くないよ。今や売れっ子アイドルなんだからさ、もっと摂生しないよ。」

 

「そう言うお姉ちゃんだって副業とはいえB小町の一員であることを忘れないでよね。…ってそれどころじゃない!一大事、一大事なの!ほらっ、これ見て!」

 

薄暗闇の中に、煌々と光る折り畳み式スマートフォンの画面を私の眼の前いっぱいに広げて、何を見せようとしているのか。

 

「えっ〜と?〘ぶっちゃける、芸能人本音をぶちまけろ!〙?これって、昔流行ったTVの企画のネットバージョン?それがどうかしたの?」

 

「そこじゃなくて、ほらその下!」

 

まだ高校生とはいえ、年齢的にはもう成人したんだから良い加減落ち着きを持ってよ、せっかちなんだから。妹の大人げない振る舞いを見るとこの国の成人年齢を18歳に引き下げるのは時期尚早だった気がしてならない。まだ20歳のままにしておいた方がよかったんじゃ……

 

「〘スペシャルゲストは、星野アイ&安室嶺。甘酸っぱい苺味?〙なにこれ……?」

 

「でしょ?こんなの聞いてないよね、二人して何やってるんだろって。」

 

……うん、私達のプライベート情報。家族関係とかのそれは、確か二人に管理されてて尚且つ、開示するのは保護者である二人のそれが必要だよね?今年の3月いっぱいまでだから…。

だとすると…、まさかね。

 

「たぶん、これ私達が成人したから公表しようとしてるんだと思うけれど、にしてもこのタイミング。何か理由があるの?いや、待てよ?だからこそか。

 

ルビーも私も、2世としてではなく1人の芸能人として表舞台に立っている。自立していて、2世としてのコネは殆ど使っていない。使っていたら今頃もっと悪い意味で比べられるかもしれないけれど、それを出汁に有名にはなっていない。実力でのし上がったわけだ。だからもう良いと思ったのかもね、最悪の場合二人は表舞台から降りるかも……。」

 

私がそう言うと、「ええええ!!!!」と言って絶叫の嵐を撒き散らす、煩いが?

 

「そんなに驚くことでもないと思うよ?父様は、別に今の仕事続けなくても仕事なんてエンジニアとか、学者を続ければ良いわけで、これまでに取った発明の特許だけでも今の生活水準を十分維持できるし。

母様は、今も書いている「哀戦士」の小説の印税もあるし、そこに私の書いたシャアさんとハマーンさんの物語を書いた外伝の印税も含めればお金には困らないから。困るのは事務所くらいだけれど、こういう話題を表に出してる時点で、壱護さんも説得されてるんでしょ。父様と母様の後は私達が引きつけばいいし、今の私達ならそれが出来るだけの実力は既に持っているって自信を持って言える。むしろ心配なのは壱護さんとミヤコさんの代わりがいない事の方だよ。これまであの夫婦の絶妙な二人三脚の御蔭で父様と母様も、私達だってこの業界の柵にあまり足を引っ張られることなくやってこれたわけだし、タレントの層よりも社員の層の薄さの方が問題だね」

 

「むうううう。」

 

無理に難しい顔を作らなくても、何となく考えていることは解るから。

でも、いまいち二人の本心が見えないんだよねぇ、まさかと思うけれど私達が計画していたことばれたのだろうか?だとしたら、計画の変更を視野に入れて今後の事を考えなければならない。

 

「このまま、結婚式を挙げさせてあげたいけど騒動が大きくならないように、祈るしかないねぇ。後はそれが叶わなかった時の為の保険をいくらか準備しておくかな。今から私達にできることはそれくらいだよ」

 

「決めた!」

 

はぁ?一体何を?

 

「ちょっとママに聞いてみるよ、どうしてって。ということで、お姉ちゃん行くよ!」

 

強烈に腕を引っ張られ、私は引き摺られていく。

 

あれ?ルビーって運動神経は昔から良かったけど、こんなに力強かったけ?

 

 

〜sideかな〜

 

スケジュール管理、マネージャーとの打ち合わせ、大学の課題。色々な事が一変に私に降りかかる中、少しでも気を紛らわせようと、密かに私は考えている。まだ、何をするか具体的に考えている訳では無いけれど、取り敢えずだ。

 

という感じに現実逃避してみるけれど、眼の前にいる金髪美少女は、私の放棄した思考をこれでもかと塗り替えようと、その顔を数ミリまで近付けてくる。何がそこまで彼女をさせるのだろうか?

 

「で?今二人は何を考えているのか〜、なんてどうして私に聞くのかしら?

アンタ達の方が良く理解してると思うんだけど、私に聞いたところで解らないと思うけど?」

 

私はそう言って緑茶を啜る。眠い目を擦りながら。う〜ん、やっぱり高級品は安物とは違うわね。

 

「だって、パパとママと一緒に寝てるでしょ?」

 

「ん!っふ、えほえほ。アンタねぇ……まあ事実だししょうがないけど。何時から気づいてたのかという疑問についてはまた今度にするとして。

聞いたのは、アンタ達が二人の結婚式の準備の為に色々とコネを作ってるって事と、それを応援したいってだけの話よ。

アンタ達がやりやすいように、世間に自分たちの事実を浸透させてその後開けば余計な心配はいらないってわけよ。

全部あんた達の為よ、正直嫉妬しちゃう。」

 

あの二人と夜を共にすると言うことがどういう事なのか、いや夜を共にすると言うことがどういう事なのか。

心を許し合っている間柄での交じり合いは、互いに互いの内側を曝け出す。

 

吐露するのは苦しみか、はたまた愛しさか。

事後のピロートークには、子供達に対する愛があった。勿論、私にとっても。

アイさんとは、恋する相手を取り合う間柄だけれども、だからこそ互いのそれは知り得る。だけれども。

 

「だから、アンタ等には協力できない、私にとっても悪い話じゃないもの。

あの二人はもう止まらない、きっと突き進んでいくわ。状況に飲み込まれないように、足掻くことね。」

 

「ふぅん。解ったよ。かなちゃんの言う事は解った。

だから、ルビー。今は寝よう、動きだすのなら眠った後の方が良さそうだ。

かなちゃん。かなちゃんがこの間あかねちゃんと一緒に海賊の恰好して撮ったCMの会社、少し調べたけどちょっとコネを使わせてもらっても良い?あ、勿論友達(・・)としてお願いしたいんだ。出来る?」

 

誰の為に見に行くか知らないけれど、想像は付くわ。ま、悪い事じゃないものね、別に拒絶するものでもないし。

 

「良いわ。精々お似合いのドレスでも見つけて来なさい。」

 

2つの意味で使えると思っているのかしら?自分と親の両方で使えるのだからきっと、色々とお話しでもするんでしょ。

 

そう言うと二人は出ていった。

さ、もう一度寝ましょうか。疲れが溜まった身体に一番良いのは質の良い睡眠だから。

 

 

 

 

 

 

 

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