あの日私と彼はいつも通りに朝を起き、いつも通りに朝食を食べ。いつも通りに、生活を営んでいた。
彼が還暦を迎えて、私が54を過ぎた頃には我が家の家族は、私と彼とかなちゃんだけになっていた。
皆家を出て、独り立ち。
アクアは24の時に妊娠、その後デキ婚の電撃結婚。私はそれに反対した、自分という反面教師に対して子供達はそれを学ばなかったのか、それとも真似をしたのか?
まあ、年齢面においては16でアクアとルビーを産んだ時の私や18で私を産んだお母さんの時と違ってそこはマトモだったんだけど…その代わりにアクアが異常だったのはこの後だ。
元々が子供好きで肉食系の女子でもあるアクアは最初の男女の双子を出産した後も、なんと1年から3年おきに子供を産み続け、それでいてアムロともう一人四宮光生君の中にいる人に未来の科学技術が持ち込まれたことで社会のユビキタス化が著しく進んだによって現実のものとなった技術……。
以前はサイバーパンク作品における架空の技術でしかなかった電脳仮想世界にダイブできるVR技術を上手くフル活用することで仮想世界を通して妊娠中でも支障なく芸能活動をすることで仕事を殆ど途切れさせることなく続けてみせるのと同時に大家族の母親を両立して見せたその超がつく女傑ぶりは芸能界でも伝説のスーパーマルチタレント、ベストマザー賞の歴史を塗り替えた真のグランドマザーとして語り継がれている。
こういう欲張りな所は私に似たんだろうな…ホント脱帽だよ。しかも、もう産んだ子供達は10人を超えてるにも関わらず、まだ30代でいられる内にあと2人か3人は産むつもりだって言うんだから……もう笑うしかないね。まあいいか、可愛い孫が増えるのは私とアムロも嬉しいし。
もっと酷いのは、ルビーだった。
私の妊娠した時の元主治医雨宮先生の家へと突撃して、そのまま帰ってこない。
20を超えて21くらいの時だろう、20の頃にB小町は解散…。主にMEMちょの体力的な面、実年齢を隠し通すのが困難になったというものだ。
炎上なんてものも無かったけれど、最後はドームで迎える。舞台が終わって夢を叶えるとアイドルを引退して、直ぐにルビーは出ていって、アクアはそんな妹を快く見送り、それからアクアがデキ婚したのと同タイミングでルビーも吾郎先生との間にデキ婚したとの連絡をしてきたのだからあの時はもうテンヤワンヤだったよ。
アムロはそんな二人に対して、何を言うでもなく。
『君の子供らしく、自由奔放だ。将来、いや孫達の顔が楽しみだよ。』
なんて笑っていたのだ。
しかし先に述べた私とアムロの娘達の引き起こしたデキ婚騒動ですらまだ序の口にすぎず……私の孫娘ことアクアの長女がなんとアクアとルビーを産んだ時の私よりも若い13歳という中学生の身で妊娠し、そして同時に孫息子であるアクアの長男も年上とはいえまだ16歳の高校生である彼女を妊娠させるという大騒動が起こった。
それもよりにもよって可愛い私の孫達と関係を持った相手は忌々しいにも程がある四宮…旧姓大君美鈴の息子と娘だったのだから四宮家と大君家という日本の絶大な影響力を持つ名家を揺るがす前代未聞のお家騒動になってしまった。
腹ただしいことにこれまで私の大切な夫を今に至るまで振り回し続けているあのシャアという男と私達星野家は名実共に親戚関係になってしまったのだ。
その時の私はショックのあまり気を失ったよ……この事件を切っ掛けにそれまでこの家に残ってくれていたアクアとその夫のケンゴ君、そして孫達はあちらの家に移らざるを得なくなってしまい、これには私も子供達を奪られる気がして、大泣きして周囲に当たり散らしちゃってアムロを始め家族みんなから必死で宥められたものの収まらなかった。
互いの家族がいつでも会いに行きやすいよう四宮家本邸でも大君家本家ではなく港区内ある四宮家の別邸にアクア達が引っ越す形に妥協することでようやくこの騒ぎは収まったのだった。
母はそんな私達の事を見守りながら、70の若さで他界した。就寝中の心臓発作、気が付くことすら出来なかった。幸いなのは苦しそうな顔をしていなかったこと…。
私は初めて母を完全に失ったことに涙を流し、アムロはそんな私を優しく抱きしめてくれた。その後のお葬式はアクアとルビーがそれぞれの家族と共に参列して、孫と多くの幼い曾孫達にも見送られながらお母さんは旅立っていったのだからせめて来世で生まれ変わってもお母さんが幸せであれるように私達家族は祈りを捧げた。
かなちゃんだけが、家に残って私達と暮らしてくれた。勿論、アクアとルビーと孫達も定期的に会いに来てくれるし、特に年末年始はそれぞれの家族で皆で一緒に集まってくれるから寂しくはないけどね。
強いて不満点を挙げるのなら流石にアクア側の家族が多すぎるのでこの家でお正月を過ごすには流石に狭いから、この時ばかりは私達が向こう側の家に出向かざるを得ないことだけど。
私と彼の仕事は、歳を経るごとに減っていった。主役の座から引き立て役、主人公の親だとかそういう演技をさせられる。
そんな、役回り大御所とかそういう人達に私達は切り替わったのだろう。それでも、私達は主演の仕事もあったりする。故にアムロの方は公式に引退こそしていないものの既に芸能活動には殆ど区切りを付けて学者あるい技術者としての活動を重きに置く形にライフスタイルをシフトさせている。
世代の壁、かなちゃんは大女優として世界を駆ける。
たぶん、国内的にはアクアとルビーの方がやや勝る形で有名だけど、世界的に見ればアクアやルビーよりも有名なのだろうと。
閑散とした家の中、かなちゃんもあまり家にいない。
子供たちが自立し、ここから先は二人だけの静かだけどささやかな幸せな日々が続く、永遠に続くんじゃないかってそう思っていた。
でも、そうじゃなかった。
彼は、私達とは少し違う。
だからだろう、彼が倒れた時医者は何が原因なのか説明できなかった。
正常に動く心臓、脳波も何もかもが正常であるにも関わらずそれでも意識はない。何かが起こっていた。
〜sideアクア〜
「お〜い、起きろ。朝だぞ、おい……。ぐーすかピーピー寝息を発ておってからに。
おい、ウェディングドレス試着して先生に自慢するんじゃなかったっけ?」
「んゆ…、そうだった。今何時?」
私は机の上においてある時計に目線を合わせて、顎を使ってそれを、示した。
「えええぇ?どうして起こしてくれなかったの!出発まで後20分しか無いじゃん!」
そう言うと慌ててバタバタ支度をし始めた。化粧をして少しでも顔を隠しつつ、公共の乗り物をなるべく使わないようにしなければならない。
「そんな慌てて化粧厚くしなくても、少しで良いよ。どうせ私のバイクの後ろに乗るんだからさ、だからその分そう云うフリフリの着いた物とかは着られないぞ?」
そう聞くと、目を丸くさせてこちらを見た。
どうやらやっと気がついたらしい、私の格好はレーシングスーツであったことに。
「ほらさっさとこれに着替える、向こうで試着とかするらしいから、私服はいらないよ。」
私はそう言ってルビーに、レーシングスーツを着せた。
「ねぇ…あのさ、この服ってお姉ちゃんのお下がり?なんか…胸がブカブカ何だけど。」
「そうだけど、胸がねどうしても入らないからそれ上げるよ。一応二年前のやつなんだけれど、ルビーにはちょうどいいかな?」
おぉおぉ、何故だろうか黒いオーラのようなものが、見える気がする。これは嫉妬、かな?はは〜、私の胸がほしいわけかな?私が高校3年生に進級するのと同時にIカップに到達し、遂にバストサイズが100㎝台に突入した際もその黒いオーラを纏ったまま私を押し倒したと思いきやドス黒い闇に覆われた眼で私の胸をこれでもかというぐらいに鷲掴みにして弄り倒したよね。妹相手に心底から恐怖を感じたのはあれが初めてだったよ……あの時はそんな恐怖のあまり私も抵抗できず姉妹喧嘩で初めての黒星を付けられた忘れられない日となった。しかし、二度も気圧される姉ではないよ我が妹よ…もうあのような不覚はとらないぞ!
「その牛乳どうやって作ったの、しかもそれでいてまだまだ育ち続けてるって…一体どこまで大きくなるの?私はママの遺伝?が強いけれど、もしかしてそれパパの遺伝?だったらどうして…、私はこんなにも比べてしまうのか。神様…なぜ双子なのにお姉ちゃんと同じ爆裂スタイル与えてくれなかったの、とほほ。私にもこの身長とおっぱいがあればせんせだって今頃……」
「大きくても良いことそんなに無いよ、走る時にはキチンと保持しないと揺れて痛いし、重いから肩が凝るし、何より周囲から如何わしい目でガン見されるし……良いことはモデルの仕事をする時には大きな武器になること、他には好きな人にアピールできることや翡翠のような赤ちゃんの相手をする時に懐いて貰えたりとかって、そうじゃなくて着替えたら行くよ。」
青を基調にしたカラーリングが目を引く愛用のバイクに股をかけ、ヘルメットを装着。スペアのヘルメットを手渡したルビーもそれを被って、私の徐ろに座るのと同時に手を腰に回した。
「良い?絶対に運転中は変なことしないこと、もしそういう事したら事故るからね?間違っても私の胸を鷲掴みにしたりしないでよ」
「え?ああ、お姉ちゃんは胸が性感帯だったからね、ウンウンわかってる、絶対にしないよ?それじゃあ、出発進行!」
クイーンとモーターの回転が始まる、タイヤへとその回転が伝わると緩やかに加速を始めた。
〜sideルビー〜
うぉ〜、こんなにも沢山種類があるんだ。ネットとかと比べてもやっぱり実物の方が綺麗だよね、どんなに頑張ってもこんな手触りとかそういうのは解らないもんね。
それにしても、どうしてだろうか?それこそ新郎新婦の出てくる教会での結婚式とは違う、着物?が置いてある。
「あら、お嬢さんお決まりになった?良ければ試着とかも出来るわよ?」
そういうのは、たぶん還暦を超えている女性。お店の人達は、皆して、女将さんって呼んでた。
今時珍しい、完全オーダーの服を着せてもらっても良いのかな?というか、着てもたぶん私の体型にあったものって無いんじゃないかな?それこそ、オーダーメイド何でしょ?
「貴女達は、あの有馬ちゃんのお友達なのよね?なら、心配いらないは、これは私の趣味みたいなものだから。
フフ、ウェディングドレスは無理でも、この白無垢なら簡単に着られるわ。
最近ではめっきり減っちゃったけれど、このお店の看板商品はこっちの白無垢なのよ?」
「白無垢って言うと、神前式での結婚式で使われるあれですか?もしかして、ここって江戸時代とかは友禅染とか取り扱ってた、呉服屋だったんですか?」
「呉服屋って何?」
呉服屋って何?服屋ってことはよく解るけど、う〜ん。あ、そう言えば水戸黄門とかでも、服屋とかで呉服屋って出てきたっけ。あ〜ぁ、アレか!
「お嬢さん方の世代の方は、そういう歴史モノは大河ドラマが主流で時代劇とかはあまり見ないだろうから、私もあまり見ないけれど呉服屋なんて名前良く覚えていましたね。
そうです、ここは創業年数だけが取り柄の江戸で一番古い呉服屋なのよ?
皆、京友禅染とかの方に行っちゃうからあまり知られていないのだけれど。」
そうなんだ、それが売りになるんじゃないのかな?でも、内装とか全然今風だし、何なら置いてある服だって着物より洋服のタキシードとか売ってるけれど。
「生き残りを掛けた戦いは今も昔もあるからね。
さてと、お二人共取り敢えず奥に来ませんか?お茶をお出ししますよ、京都の人じゃないから大丈夫よ?」
どうして京都なんだろう?
そう思いながら、店の奥へと誘われるように入った。
通されたところは、なんだろう茶室?みたいな小部屋で、真ん中にこれ…茶器?
「さてと、それでは本題に入りましょうか。そちらの瞳の蒼い方がアクアマリンさん、紅い方がルビーさんで間違いありませんか?
そうですか、それで今日はどのような要件で?」
お姉ちゃんが、私の瞳を見てアイコンタクトしてくる。というか、私達本名言ってないんだけれど?
「いつから解っていらしたんですか?」
「長年こういう仕事をしていますから、何となくですよ。お二人のお顔に何処から見覚えがあったのよ。
変装なんてしても、私にはわかりました。」
「え〜、結構自信あったんだけど凄いんですね。
えっと、それでなんですけど。実は私達の両親に結婚式を挙げさせたく思ってるんですけど、その時に着てもらう服を下見に来たといいますか…。」
「あら、そうなのね。てっきり、お二人の内のどちらかがお仕事で使いたいとばかり。
それで、ご両親はどなたなの?お母様は、アイちゃんかい?」
その言葉を聞いた私の顔はたぶん、目が普段の倍くらい大きくなってたかもしれない。だって、ママのこと一度だって外に漏らしたこと無いんだよ?現にお姉ちゃんも同じだったようで目を見開いている。
「ルビーちゃんのそのお顔の輪郭、そっくりだもの。
髪の色は、お父様の方ね?そっちは、あまりわからないわ。
アイちゃんのデザインなら、昔考えたものが有るわ。
十二単衣をモデルにしたものが、これなら黒髪のあの子に一番映える筈よ。
あとは、お父様の方を教えてくれれば良いのだけれど…。やっぱり心配かしら?」
「体型の数字だけじゃ駄目ですか?」
「大丈夫よ、この感じだと。たぶん私が知っている人だと思うから、家は時代劇の着物も扱っているのよ?貴女達の髪色の方から、相手がだいたい誰か解るわ。答えは聞かないでおくわ。」
色んな世界にプロフェッショナルとかいう、そんな人がいると言うけどこの人もきっとそういう人なんだろう。
じゃあ、私のウェディングドレスもお願いしちゃおっかな?と思った矢先に顔を見合わせたお姉ちゃんと目が合う、どうやら私と同じことを考えてたらしいね。私とお姉ちゃんはお互いに笑い合うと同時に女将さんに向き合う。それじゃついでに私達のウェディングドレスもお揃いにできないかどうか尋ねてみようかな♪