虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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百十一話

薄っすらとした夜空を望む彼の瞳には宇宙の光が輝いている。それでも何処か、遠いものを見ているようで、私は彼の見ているものが見てみたかった。その瞳に視線というものが無いのに気が付きながら。

 

「明日いなくなるってどういう事?死んじゃうの?」

 

単刀直入、実際そう聞く以外に問はあるだろうか?

 

「死ぬか…まあ、当たらずとも遠からず…といったところだよ。

俺は、囚われるのさ。永遠という牢獄の中に、英雄としての残影が残り続ける。あたかもここに来る前の俺が、様々な世界を渡り歩いているようにね。」

 

「ちょっと、何を言ってるのかよくわからないけれど、じゃあここには戻ってこれないの?」

 

彼は空を見上げながら、眉を潜ませ私の首を回して私の瞳を見る。

見上げる私と見下ろす彼の瞳の線は交差する。

 

「ねぇ、私さ怖いんだ。お母さんが死んだ時、何かが欠けたみたい思えて、その後また失うんじゃないかって。

それでこれでしょ、だからもしアナタがいなくなったら私壊れちゃうんじゃないかって。」

 

「君は、から元気だけは得意だからね。周りに合わせようとするのが君だよ。

だから本音を言い合える相手、昔からの友人がいるんじゃないかい?

俺の周りにそういう奴はあまりいなかった、そんな中の数少ない大切な友人達だったホワイトベース隊の皆とも監視を付けられてバラバラにさせられてね。

 

少しずつでいい、慣れなくても良い。アクア、ルビー、翡翠の君と俺の子供達とその血を継ぐ孫達を始め誰かが君を必ず支えてくれる。人の死は少しずつ受け入れるしかないものだから。ゴメンな、命の灯火これだけは変えられないんだ。だから……」

 

そういう彼の瞳は濁っている、たぶん私を見ているのは目を通してではない、彼はもう見えていないんだ。だけれど、私の顔を両の手で包み私の瞳にある雫を拭った。

 

「君も皆を…子供達を頼むよ、君がこの世界で一番僕を知っているのだからね。」

 

彼の言葉が虚空に引かれるように、彼の力は糸が切れるように途切れた。

 

 


 

 

 

〜sideあかね〜

 

グォングォンという音とともに、エレベーターが斜め下に降りていく。かれこれ2分くらいエレベーターにいると思うんだけれど、何処に向かってるんだろうか?

私の両隣には、サングラスとスーツの強面の人がいてここはヤクザの家だったの?と錯覚させる。

 

前来た時とはまるで別の場所、相談に乗ってくれるからと場所を指示されて、案内されているのに。何だろう、凄い恐怖を感じる。

 

チ〜ン

 

という音とともに、扉が開いた。

 

「おや、やっと来たみたいだね。件の話何だけれど……、ああ二人共下がって良いよ。彼女は安全だからね。」

 

仰々しい人達が去り、八洲さんと私だけが残る。

 

「こんなところで立ち話も何だし、歩きながら話でもしようか?」

 

真っ白な廊下を歩いていく、エレベーターは上昇のボタンを押していたけれど、浮遊感があったから下に行っていて、途中から横に動いていたからきっと地下の何処かなのかもしれない。

 

「あの、何処に向かっているんですか?」

 

「君の聞きたいこと、それに関係しているかもと思ってね。共有はしておくべきとね。」

 

暫く歩くと硝子窓が見えてきて、そこにあったのは巨大な人形の何かだ。

 

「これ1機造るのに幾らかかると思う?」

 

「え?」

 

「値段だよ、どれくらいかかると思う?」

 

工業製品、機械部品の塊。こんな精密なものなんで?

 

「1つ造るに、1000億円。凄いだろ?国家機密だよ、技術実証機」

 

「それが何を?なんで私に?」

 

「君に近付いた男が誰なのか、僕等にも解らない。

でも、大方の予想は付くよ。

これが原因の一端とも言えるしね。

二人の父親である嶺氏は、技術的特異点だからね。

 

僕等が産まれた直ぐの頃、君の物心付く前に偉業を成し遂げた。

現代社会で知っているだろ?彼が何をしたのか、そしてそれが世界のパワーバランスを崩したことも。まあ今はそこに僕と光生の中にいる彼も新たな技術的特異点として加わっているのだけど」

 

確かに八洲さんも遺伝子組み換えによる新種の麦と培養肉の開発でこの国を筆頭に世界の食糧事情を一変させていて、今年に入って深海底農法という深海で作物を育てる前代未聞の新機軸の農業を発表したことで世間を賑わせている。そして光生君…正確にはその中にいる人はこれまでアメリカが独占していたコンピューターOS市場を1年で塗り替えた新型OSの発明と水素エンジンの開発による水素自動車及び水素電車の実用化による世界の交通事情の変革、さらには従来の太陽光発電システムの大幅な改良で日本のエネルギー大国化をより促す貢献をしている。それを考えると安室さん、八洲さん、光生君の直接の知り合いである私が目を付けられたのも頷ける。つまり私は恐ろしい事に、また頭を突っ込む羽目になっているのか?嫌だなぁ…。

 

「じゃあ、私はどうすれば良いと思います?それに安室さんがそういう理由で狙わているのなら、貴方と光生君も危ないんじゃ……」

 

「君は何もしない事が重要だよ、誰にも話さない事が。余計なものをやれば、今度は君が狙われる。

君等の世界よりも、遥かに暗い世界が口を開けて君を飲み込もうとする。だから僕は、こうやって君を止めるしか出来ない。僕と光生についてもコレの開発に向けて協力を始め敵を迎え撃つ準備を進めているよ。特に光生……その中にいる彼にはコレの完成に絶対に必要不可欠なものを開発に全力を注いでもらっている所で今は施設の研究室に篭ってるよ」

 

彼は首を横に振りながら、扉の前に立って私をそこに送ろうとする。

 

「最後にいくつかよろしいですか?ここって、なんで作ったんですか?光生君には何を作らせているんです?そして……安室さんとはちゃんと話し合えましたか?あなた自身の事を」

 

「……一つずつ答えていこう。まずは最初の質問から…足下で何が起こってるかなんて、誰も気にも止めない。

ここは、彼が実験に使っていた場所を使っているから、君の家の近所でしょ?このまま帰って欲しいんだ、そうすれば君はまた日常に戻れるから。光生が何を作ってるかは詳しいことは言えないけど、僕たちは『グリモア』と呼んでいる。それが無いと例の敵を迎え撃つのはまず不可能なシロモノだよ。最後の質問だけど……とりあえず顔は合わせたんだけど、恥ずかしながら僕の正体を明かす勇気をまだ持てないでいる……どうしても後ろめたさや不甲斐なさが拭えなくてね。結局、第二次ネオ・ジオン抗争に参戦していた元連邦軍人の植物監査官としか言えなくて隠してしまった。僕は白い流星のような救星主にも赤い彗星のような革命家にも成り損なって、あの人が託した忘れ形見……もう一人の妹のような子を置き去りしてしまった無様な人間だからさ」

 

近所にある小さな丘は、私が知らない間に。私が生まれる前から、そうだったようだ。そして『グリモア』ってヨーロッパの魔術所の名前だよね…妙にオカルト染みた呼び名だけど、そんな名前の付いたモノをこの科学の塊とも言えるモノに搭載するなんて。もしかして、安室さんやマリンちゃんも持っているNTの力と関係があるモノなのかな?後で『哀の戦士』を外伝も含めてMS周りの描写を読み返してみようか、そしたら手掛かりは得られるかも。八洲さんもまだ心から安室さんと向き合うできないでいる、普段は飄々としている彼がこんな弱気な一面をみせるのはいつも安室さんと自分を比較している時だ。それだけ、安室さんは彼にとっては崇拝の対象なんだろう……過去の挫折に囚われている彼に私は何かしてあげられることはないのだろうか?彼も美鈴さんも私を巻き込みたくないから、日常に帰るようにと促されたけど……やっぱり私は部外者でいたくない。ここで見て見ぬふりして自分だけ日常に帰ったら私は一生後悔するだろう……だから、私は何も知らないまま蚊帳の外に置かれたくないよ!例えどんなに危険が伴っても関係ない!!私だっていつまでも守られたり助けられてばかりじゃない、これからもみんなの隣にいたいから!!!

 

 

 

〜sideアムロ〜

 

「それで?相手はやはり各国の合同諜報部隊という訳か?」

 

薄暗い部屋の中で、俺は椅子に腰掛けながらデスクワークをするヤツの言葉を聞いてそう言った。

 

「あぁ、そのとおりだ。神だとかを相手にするよりかは、格段に楽だろう?

君は覚悟をしていた筈だ、自分の配偶者を公表することの危険性を、子供達の事を公表しなかったのは正に今の事があるからだ。違うか?人は大切なものを懐いた時、恐怖を覚える。

そして、その恐怖を乗り越えようとするか、屈するかそれは人の選択だ。」

 

意味深な事を言うが、要するに怖くないかだとか、コイツなりに心配してくれているのだろう。

 

「それとだ、君の娘達が私の知り合いの店に来たらしくてね。加えて、私の娘の婚約者に依頼した内容についても私のところに、色々と報告が上がっているよ。どうするかね?」

 

「利用させてもらうよ、色々と手は尽くしてくれるんだろう?そうだよな?」

 

椅子に腰掛けながら彼は手を叩く、すると後の扉が開いてゾロゾロと手下が現れる。

見たことがある連中だ、子飼いの諜報部隊。皮肉だな、敵に首輪を付けるために、ロンド・ベルなんてそんな名を付けるなんてな。そして目の前の部隊の中心に立っているのが、この間の騒動でヤツの影武者を務めた彼がいる……ホント瓜二つだな。初めて会った最初は双子かそれとも整形を疑ったが、彼から話してもらったことによるとこの世界におけるアイツと従弟同士で、彼とヤツの父親が双子の兄弟だったことによる遺伝子の悪戯によるものだそうだ。俺とヤツの素性を始め全ての事情を話されているらしい。奥さん以外にそこまで話して大丈夫か?と俺は訝しんだが、ヤツによると彼も俺達と同じ身の上だということ明かされた。だとすれば、元は宇宙世紀の人間ということになる俺は彼が何者なのか改めて問いかけようとしたが、機会が訪れたら彼の方から明かすそうだ彼も元より俺に関心があるらしい……全てはシラトリとその手先を始めとする敵を迎え売ってからだということでこの話は纏まった。

 

「さて、この中から数人君に貸す事もできるが?正直、今は私の娘の婚約者とはいえ彼の中にいるあの男の手を借りるなど業腹だからな。あの男を宿してしまった光生君が不憫でならない」

 

「遠慮しておくよ、それよりももっといい方法があるからな。それにお前が彼を憎むのは理解できるが、この世界でアレを作り出せるのは彼しかいないんだ。頼むからそこは抑えてくれよ」

 

奴は「それはわかっている。だがな……」と言って目を細める、俺に期待するのは良いが俺は兵士でしか無いのだがな。光生君の中にいたヘルパーが俺達の前で遂に正体を明かしてきたあの日、滅多なことで感情を露にすることのないお前が激情に任せて銃を抜きかけたのを止めるのは久しぶりに冷や汗をかいたくらいホントに大変だったからな。下手をすれば長い戦いになる可能性がある以上、彼の作るサイコミュ……『グリモア』はシラトリに対抗するのに絶対に必要なのだから。

 

………

 

「どうだった?」

 

家に帰ればいつもの彼女がそこにいた。

 

「あぁ、問題ないよ。ハイジャック犯と同じ連中が街に紛れ込んでるだけさ、君の方こそつけられてないだろうね?

と言っても、近くにそれらしい奴等はいなかったけれど。」

 

「ふふ〜ん、昔教えてくれたでしょ?見てて、ほ〜らウィッグ一つでこれだけ変わる!」

 

黒髪の人間が何の違和感も無く金髪に変われば、それはもう完全に別人だ。そこに、顔にそばかすだとかそういうものを描いてしまえば、相手がNTでもない限りもう彼女とはまず解らない。

 

「架空のマネージャーか、そんなに上手くなったのかい?」

 

「嘘も方便ってね!追われてるのは私達だけだからね、私達が気をつけないと。」

 

「そうだな。これから更に大変になるぞ、早いところ二人共結婚して、家を出ていってもらいたいね。そうすれば、完全に安全だ。後は翡翠だけさ。」

 

お義母さんのこともあるが、それでも。この家の周囲に見張られる様な場所は無い、全て監視しているから異変が有れば直ぐにでも……

 

 

「あのさ、二人がさ。私にこんなパンフレットをくれたんだけど、ほら結婚式場の。」

 

「うん?これか、なるほどね。知っているよ、これを利用して色々とやるからね。」

 

へぇ〜、という声と共にかなが現れる。

 

「結婚式、盛大にやるんですか?」

 

「いや、厳かにやるよ。だから、色々と手配を…」

 

羨ましそうな視線がアイを貫いている、嫉妬というやつか。

 

「じゃあさ、私と一緒にかなちゃんも結婚式あげようよ、新郎1人に新婦二人なんて、結構おしゃれじゃない?」

 

「それは…世間的に俺は大丈夫なのか?」

 

「今更ですよ?ま、私は別に構いませんけれど。」

 

予定の変更を受け付けてくれるだろうか?

 

「やるなら身内だけで勘弁してくれよ?」

 

「わかってるよ。それと、新婚旅行なんだけどさ。海外とかそういうのはありきたりじゃん?だからさ〜、ね?」

 

そうだな。

 

「二人共、楽しみにしておいてくれよ?」

 

Xデーは、近づくものか。

 

 

 

 

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