葬式というものは、死者との別れの儀式である。
宗教の有り無し、無神論者であろうがそうでなかろうが必ず、最後は通ろうとするものだろう。
それが無駄であると理解していようとも、心の何処かでけじめを付ける、と言う理由で執り行われる。
父の死は、予見されたものだった。
あの日父が倒れる数日前、俺は何かしら夢見が悪かった。それは祖母が死んだ時と同じだった……あの時もその数日前に眠るように息を引き取った祖母の亡骸を前に母が泣いている姿を夢で見てしまっていて、それは現実のものとなってしまったのだから。そんな夢見が悪さ故に、寝ることも出来ず。ただただ、研究に没頭する他なかった。
その夢がどんなものであった、漠然と思い出していたのは父の死の瞬間であろう。
俺が物心付いた当初、父という存在がどういうものであったのか、想像してみると良い。
あまりにも世間に名が知られていた、と同時に多大な影響力を持つ人物、ノンフィクションであるにも関わらずフィクションであるかのように、まるで現実味が無い。母も姉達もフィクション染みてる所があるが、それでも父と比べればまだ常識の範囲に収まってる。ただまぁ、アクア姉さんは流石に父には及ばないとはいえ人の範疇を十分超えてるレベルの規格外だが、俺が30代に入った今やアクア姉さんはもう40代に入ってるのに外見は20代半ばの頃から変わってない、それでいてもう十何人以上もの子持ちだ……現代日本芸能界のマリア・テレジアだよ。しかし、そんな姉すら霞ませてしまうのが父で…あの超人に対抗できるのは俺の知る限りでは大君家の当主の清一郎、四宮家の当主、四宮光生、八洲産業CEOの八洲 望の3人くらいだろう。
俺は、生後数ヶ月程で言語を覚えていたらしく、両親と姉達をある意味驚かせていた。
最も、何かを訝しんでいたのかもしれないが、悪魔憑きでも無しそんな都合良く、他人の霊魂というものが肉体に定着するものか?
言っておくが俺は、幽霊というものに関しては信じはするが、いてもいなくても同じだと言うスタンスの持ち主だ。
世の中に起きる奇跡的な事象があるのなら、神だってきっといるのだろうというな。
それに、思念は空間を飛び反響するものだ、物心つく頃には、言葉が聞こえたしな。俺の研究者としての師匠である光生さんは俺達の力の源を『全体』と呼称している。俺達の能力の正体は、ニュートリノに似た粒子、スウェッセムが感知能力を高めているものだが、体液の中にスウェッセム・セルといった酵素が存在する。それを介することで『全体』とリンクして俺達は感知能力を使用することができ、『全体』との繋がりをより深めることで様々な知識を引き出すこともできるという、これを俺達は『既知』と呼んでいる。現在の俺はあの人の下でその『全体』関する研究を行っている。俺が両親や姉達のように芸能界の道筋を辿らなかったのは、仮に芸能界で成功したとしても両親や姉達の二番煎じにしかならないだろうということや祖母の死を予知していながら何もできなかった悔しさ、そして誰にも解明できていない未知の事象への探求心といった様々な想いが俺を突き動かしたからだ。
話を戻そう、普通に寿命を迎えていた祖母の時とは違い、フィクションに出てくるような超人の父が倒れるようなそんな夢を見るのは、俺が単に父という存在に対してコンプレックスを抱いていたのかもしれないと、思っていたのだ。夢というものは人の心理にある願望を見せるものだ、故にそうに違いないと俺は目を逸らしてしまったんだ。
だが現実は違った、俺が見た夢のとおりに父は倒れ母は顔面蒼白となっていた。
偶々俺が胸騒ぎに家に帰るのが速かったから良いものを、母は完全に取り乱していた。因みに、俺は確かに30を超えて尚、子供部屋に住んでいるが、子供部屋おじさんと言うなよ?言っておくが、これでもやろうと思えば都内の一等地に実家に負けない規模の一軒家を建てられるくらいの金は稼いでいるからな。けど、実家に娯楽も研究に必要な設備も何でも揃ってるから、無理に家を建てるよりも実家を必要に応じてリフォームしたりする方が金銭的に安上がりなんだよ。出張でよく訪れるギガフロート『ミライ』や宇宙ステーション『ラプラス』にも父と今や親戚関係となった大君家と四宮家の威光の御蔭で、別邸に等しい規模の宿泊施設を用意してもらってるから、合理的に考えて家を出ることは俺にとって無駄金でしかない。それに、なんだかんだ言って色んな思い出も詰まってるから、両親が死んだ後に他の誰かに取られたりしたくないってのもあるのさ。
薄情な齢が離れた二人の姉、家から出てここ数年正月や彼岸、お盆、両親の誕生日くらいにしか帰ってきていない。まぁルビー姉さんは今は宮崎に住んでるから実家から遠いし、アクア姉さんも産んだ甥っ子と姪っ子を数多く抱えている上に今年も既に新たな子供を身籠っているからそう頻繁に行き来できない事情があるのはわかるけどさ。甥や姪達は毎年、ゴールデン及びシルバーウィーク、春休みや夏休みや冬休みといったいずれかの大型連休の時に泊まりに来てくれたりしてくれるっていうのに。アクア姉さん達がこの家にいた頃は、たくさんの甥と姪たちが家中でワイワイガヤガヤとやっていて毎日が騒がしかったのが今となっては懐かしいよ。かなさんは、そんな二人をよく庇う。本当にいい女だよ、彼女は。年が離れてるとはいえルビー姉さんはあの性格の御蔭もあって姉として見れるけど、アクア姉さんとかなさんの二人は姉を通り越してもう一人の母親って感じだから、そのせいで俺はこの二人には昔から頭が上がんない。
おっといけない…また脱線したな、病院に着いて。原因不明ときて更にはその夜には意識が戻って、屋上に母と共に消えた。セキュリティを破るのは簡単だったが、そしてそこで何かを話したのだろう。
俺が行った時には、息絶えていた。母は、静かに涙を流していた。
〜sideあかね〜
どんなに私が考えても、どんなに私が藻掻こうとしても。私というちっぽけな砂粒は、大河の流れに逆らう事は出来ないのかも知れない。
調べれば調べるほどに、巨大な何かしら後からの存在を私は受け入れるしか無い。
国という巨大な力は、政治など欠片も興味を持たなかった私にとって、それを見ることもしなかった私にとってその強大なものを、今まざまざと見せつけてくる。
山脈のように巨大な思惑は、あらゆるところに潜んでいる。
陰謀論だ、不可思議だ等とそういうものに傾倒する人の気持ち、解らないでも無い。
仕事の合間を縫いつつ、そんな事ばかりしていると心が荒れてくる、というものを私は知らない。
そうなってくると、台本を覚えたりするのも億劫になってくるのかもしれない、リハーサルでそれを注意されたりする。
グルグルという悪循環が私を襲う、そんな時だろうか私達若手はパーティに誘われた。
……
「なぁ、黒川さん。これって、所謂政治資金パーティーってやつ?」
「えっと……たぶんそうじゃ無いですかね?」
私だってこんなものに呼ばれたことが無いというのに、そんな事をいちいち聞かないで欲しいと、内心思いながら周囲にいる人達を見る。
政権与党の主催するこのパーティ、四大財閥を筆頭に日本を代表する富豪、オリンピックにも出場経験のあるスポーツマン、そして大御所クラスの俳優やタレント等の芸能人。そういう人達が、多くいる。
こんなところに私達等がいても良いのだろうか、そう思っていると、何やら見知った人達がいることが解った。
そんなこの国のVIP達の中心にいる人物――スーツを身に纏った、TVやネットでよく見る過激な論調をする政治家であり、戦後日本の最大のカリスマとして歴代最年少就任および在職記録を打ち立てた元内閣総理大臣、引退後もその影響力は衰えず令和日本のフィクサーと称されている美鈴さんのお父さん……大君清一郎外相の直ぐ前に、私の寝不足であり不安の種である、安室さんがいた。
場違いな私達は、いったい誰に招待されたのか。
原則非公開とされる、このパーティにこんな口が軽そうな若者である私達を呼ぶという事が、どれ程ここの人達のお眼鏡に叶う事なのか?
そもそも利益とか、そういうものは無いんじゃないか?
「ねぇ、あの人安室さんじゃない?えぇー、こんなところにいるなんて、やっぱり黒い噂とかも本当なのかな〜、幻滅しちゃうなぁ。」
等と言ってはならない、そんな事ここで言ったらどうなる事かと戦々恐々としながら私達は、彼を見ていると。
件の彼がその言葉を聞いていたのだろうか、こちらに向かって歩いてくる。言った本人は顔が、恐怖に彩られていて、子供じゃないんだから発言には気を付けなさいよと私はそう思った。他人事である。
「やあ、よく来たね。どうだい?壮観なものだろう、こうやって資金を集めなければ、政治運動することすらままならないというね。」
周囲の視線が私達に集まる、そんなに注目されたくは無いのに、後輩なんて萎縮しちゃってるし。
「俺なんかが近くにいると、目立つかな?それとも、皆して不安なのかい?」
逆に不安にならない人がいるだろうか、いやいない。いきなりこんな所に呼ばれても、正直戸惑いしかないはずだ。
「何処に行ったかと思えば、可愛らしいお嬢さん方の所とは、罪なものだな。妻帯者のくせに、もう目移りか?」
「面白くもない冗談だな。紹介するよ、こちら……」
総理大臣とかやった人が目の前にいる、一流政治家ってやつなのかスーツもビシッとしていて、尚且つ威厳がある。生きている世界が違うっていうのが、はっきりと解る。何だろう、オーラ?この人が美鈴さんのお父さんか……娘の美鈴さんは真っ暗な夜に相手を丸ごと飲み込んじゃうような印象だったけど、この人は光の無い闇夜でも逆に太陽光の輝く蒼天の中でさえ、その世界ごと切り裂くような光のような存在感……そうまるで彗星のような人だ。間違いない八洲さんが私に教えてくれていたことが本当ならこの人が安室さん……白い流星アムロ・レイの宿敵だったていう赤い彗星シャア・アズナブルだ。
一通り、紹介が終わると何事もなく去っていく。何だったんだ、いったい。
「ふぅ……やれやれ。驚かせてすまなかったね。これは、君達へのちょっとしたお勉強の時間だよ。社会見学さ、芸能人でも政治資金パーティーなんて直接見たことある奴は滅多にいない。
変な陰謀論だとかそういうのに染まるよりも、こうやって実物を見たほうが、君等の演技のためでもある。
それに、アイツが主催だからな、皆腹に一物を抱えているが犯罪は犯していない。グレーゾーンでもあるがっと、喋りすぎたな。
こんなところで固まってないで、各々食べたいものを食べて、話してみたい人がいれば話しかけてみると良い。
少しは話しをしてくれるだろうさ。上手くいけば良い繋がりを築けるかもしれないぞ。
それと、黒川さん少し良いかな?」
何だろう、どうして私を指名するのか?
「君が探っていることは君に良いことは何一つ無い、アレは俺達の仕事だからね。
だから、君は手を引くんだ。巻き込まれて家族が…なんてこともあるんだ、だから手を引くんだ。今思えば、アイツが人目を憚らずに君に頭を下げて見せたのも周囲への牽制もあったんだろう。娘の友人である君に手を出すことは自分への宣戦布告と見做すというね。」
「でも、二人のことが心配で……」
「二人はそんなに軟じゃないさ、二人が結婚する迄は隠し通せるさ。
それに、バレたところでそれほど心配するようなことでもないし、色々と既に手は打ってあるからね。
それと、これを君にあげるよ。」
そう言って手渡されたのは、白い封筒だ。なんだろうか、古風にも蝋付けされている。
「もし、気になれば来てくれ。一応の招待状さ、それじゃあ今夜は楽しんでくれよ。」
そう言って、彼は去っていく。今更そんなこと言われたって安室さん、私だってもう部外者じゃないんですよ。ここまで来たからには私には最後まで見届ける権利がある。それが出来ないと、私は胸を張ってマリンちゃんの親友を名乗れなくなるもの。
「ねぇねぇ、それ何?」
解らないと返答する私は、たぶんこれの中身を知っている。
きっと、悪い事じゃないということを。
〜side????〜
二つの目標がそれぞれ動き出す、どれ程多くの仲間が煙に巻かれたのだろうか?目標は、二人とも唯一人の人間であるにも関わらず、戦場に出るような人間でもないにも関わらず、一人は我々を嘲笑うが如く足取りを消す。もう一人はパーティーの参加者に周囲に囲まれている……その中の何人かは明らかに参加者を装った奴の護衛だろう。
協力者と共にこの席を立ち、まずは護衛に囲まれている者よりも一人でその場を離れている奴に狙いを定めて直ぐ眼前にまで行くように己を鼓舞する。
右手にペンを構え、芯を出す指先に力がはいる。
嘗て、赤い風と呼ばれた特殊工作員のような、その場のものを武器へと転換する術を持たない我々に、唯一張り合えるものがあるとすれば、これだけだろう。モスクワでの計画は失敗に終わったばかりか、それから間もない内に奴らの反撃を受けて組織は大打撃を受けて、辛うじて生き残った我々の人数も心許ない状態だ。もう失敗は許されない。
たった一滴、奴らに吹きかける。突き立てるだけで良い、それだけで出来るのだ。
これ以上、我が祖国そして同胞達のため、この国との明確なる技術的溝を少しでも埋める為に、我々は奴を殺らねばならぬのだ。
だが、そうして行く内に見られていることに気が付く。今は無理だろう、相討ちを狙うことも出来ない。口惜しいが、このパーティーが終わるまでは大人しくしておくしかないか。
それならば、次の機会を狙えば良いだろう。最も隙の出来るその時まで。