皆でワイワイガヤガヤと食べる料理は意外なほどに美味しい。結局のところ俺が金を出すわけだが、別にそれ程金が無いということでもないし、何なら皆に何か買ってやっても良いのだが、流石にそれは断られた。
曰く、お世話にばかりなっているわけには行かない、さっさと一人前にならないと
ということだそうだ。中学生が何を言っているのか、俺にはとんと解らない。
見栄を張りたい歳なんだろう、俺も15の頃は万能感に酔いしれてブライトに食って掛かったり、ガンダムで無断出撃して独房に入れられたりしていたな。俺が一番ガンダムを上手く使えるんだと、そう言ってガンダムを上手く使えたところで、リュウさんやマチルダさん、スレッガー中尉を始め守りたい人達を守れなかった。
この時代では学生は学生のまま、大きく育つことが出来る。こんなに素晴らしいことがあるだろうか?
日曜日にはアイとショッピングをしたりした、同じ事務所の先輩と後輩やましいことは何一つ無い、パパラッチがいたとして果たしてそれに意味はあるのだろうか?実際奴等は俺達の後ろに陣どり、俺等が動くと付いてくる。連邦の監視の目と比べれば辛いものじゃない。
アイのファンたちがアイを殺そうとするか?そんな事は無いと思うが。宮崎から帰ったら、万が一に備え皆に防犯器具を支給し、さらに念には念を入れて護身術でも教えておくか?
体幹を鍛えるのにも丁度いいかもしれない、やるなら合気道だろうな。
もう夏真っ盛りの宮崎、非常に暑い。南に近いからか、日差しが東京よりも強いのが影響しているのだろう。
これで冬の撮影をするというのだから、たまったものではない。
必死に汗を堪える、堪えられるかと言われれば難しいが刑事ドラマだ。うまくやるよ。
監督がなんで宮崎の病院を選んだのか、それがやっとわかった。病院の理事長と親戚だそうだ、それでいて俺のファン。なるほどね、予算を出したくないから交換条件。セットよりも航空券と旅費の方が遥かに安く済む。
撮影期間は2週間、その間に病院をあちこち見回って頭に地図を入れ込んだ。色々な場所で撮影し、雨宮吾郎先生の家も見回った。正直プライベートにズカズカと入るのは、気が引けたがこっちも仕事だから仕方が無い。
彼とは院内の撮影時に知り合って、少し会話をするようになり良い撮影場所があると彼から聞いてここに来た。
「本当に申し訳ない、ズカズカと人の家に入ってそこで撮影するなんて非常識極まりない」
「いえ、良いんですよ。どうせ、今はもう俺しか暮らしてませんから。」
言っては悪いがボロ屋だ、築何年だろうか。
「どなたかと一緒に住んでいたんですか?確かに生活の痕跡が見えますが。」
「祖父母と住んでいました。そんなに気になりますか?」
気にならないと言えば嘘になるか。
「えぇ、生活の痕跡がありますが両者とも他界されたようで、ご両親はいらっしゃらない。」
「良くわかりましたね、俺を産んだときに母親は産科危機的出血で、父親は顔も見たことがありません。」
孤児か…悲しいものだな。豊かな時代になっても、大人になれない親はいるか。
「吾郎先生の秘密を知ったんです、俺の秘密を話しますよ。俺は、親父と母の顔を知っていますが、どちらも病と事故で亡くしました。祖父母共に折り合い悪く、施設に行くところを今の社長に引き取られました。
ということは、俺と先生は所謂、〘孤児仲間〙ですね。」
「嫌な仲間ですね。」
彼はクスッと笑った。笑えるのなら、大丈夫だな。
「そうだ、確か苺プロダクションでしたよね。自分、アイの大ファンなんです。そうだ、会わせたい人いるんですよ。時間は大丈夫ですか。」
「俺の撮影はとっくの前に終わってる、後は半分慰安旅行みたいなもんですから。だから、時間はあります。」
病院に戻って、時間を見ればもう夕方だ。吾郎先生の机の上の写真立てを見せてもらった。
「天童寺さりなちゃん、俺のアイ推しの師匠です。」
「随分と若く亡くなったんだな。」
解りますか、という雰囲気だ。
ニット帽を被った少女の写真、年齢は少なくとも10〜13か。
「生きてれば、ちょうどアイと同い年です…。」
「そうか、どうだろう。鎮魂のためにここでライブを開かせてもらっても良いだろうか?」
さぞ、無念だったろうに。こんなにも小さな命が、亡くなっていく、儚くも脆い。
「どうでしょうね、出来れば生きている間に見せてやりたかったんですけどね。」
「お忍びの慰安旅行も兼ねてね。」
暗いな無理に明るくしなくても良いとは思うが。
「その時は、お電話下さい。きっと、さりなちゃんも喜ぶと思うので。」
「あぁ、よろしく頼みますよ吾郎先生。」
斎藤と電話でもするか?だが、おかしなものだよな。無念の中死んだはずの魂が、こうやって何も残っていないなんて。まるで何かに拭い取られたような、そんな物を感じる。
〜sideアイ〜
「もしもし〜苺プロ所属B小町のアイで〜す。どちら様でしょうか。」
[アイか?斎藤はどうした。]
「佐藤さん?テレビ局のお偉い様と会議中、携帯を控え室にワスレてったから、私が出てるとこ。」
[そうか、B小町の12月の予定を聞きたかったんだが、伝えておいてくれるか?後、折返しの電話を頼むと。]
仕事の話かぁ~なんだろうね
[上手く行けば君等の慰安旅行が手に入るから、頑張ってくれよ?]
「嘘、やった!じゃあちゃんと伝えるから。ところで、いつ頃帰ってくる?」
気になって指で髪クルクルしちゃってるよ。
[そうだな、来週の金曜には帰ってくるよ。あとの撮影は都心だから、毎日家にいられる。]
おぉ、それは良いことを聞いた。じゃあしっかり私も仕事しないとね。
「じゃあ楽しみにしてるね!」
テレビ局での撮影はもう終わってるんだけど、次の番組までの時間がまだあるからって、佐藤さんは私達を控室に押し込めてる。
「ねぇ、俺等新規組さ気になってたんだけど。なに、アイってさ安室嶺のこと好きなの?電話口で女の顔になってんじゃん。」
ううん?何も、え?嘘、なに?
「いや〜何言ってるか解んないけど、私がアムロの事好きかって事でしょ?アイドルは恋愛ご法度じゃん?」
「でもさ、アイ。安室さんの家の鍵持ってるんだよね、ずっと気になってた、ありがとうサキ。」
「大晦日の日もさ、私達を安室さんが運んでくれたあと二人きりでナニやってたんだろうねぇ。」
うわぁ~、なんかやばい雰囲気。というか、テレビ局のど真ん中でそんなの聞いて良い理由無いよね!
「ちょっとそれは言えないかなぁ〜。ここじゃなくてさ、もっとこうそう!事務所、事務所で話そ?」
「じゃあ、事務所ならあの一夜の事話してくれるんだねぇ?」
アハハ、皆すごい顔。とてもアイドルには見えないよぉ、もうまるで恋話に群がる亡者みたいにさ。
ごめんねアムロ、アムロのこと皆ロリコンって思うかも。
この世界アムロのせいで、さりなちゃんが亡くなるときまでB小町四人グループだったなぁ。思わぬところで歴史改変。
要するに正史のB小町が如何に入れ替わりが激しかったかが解ると思う。