〜sideアムロ〜
宮崎の高千穂の近くにある病院、そこは以前B小町が旅行と称して鎮魂ライブをやった地。
俺は、そこに一番に到着した。
「といっても朝早くだからな、誰もいないだろう。あれは、雨宮吾郎?」
見知った顔が歩いていた。彼はサボっているのか、はたまた巡回かまさか、真っ先に合うとは。話が早いな。
どうやら俺を見つけたようだ。
「あれ?安室さんじゃないですか?お久しぶりです!」
「こちらこそお久しぶりです。」
あれ以来あっていなかったが、多少草臥れているだけで元気そうだ。
「どうしてこんなところに、まさかまたライブを開いてくれるんですか?院長の許可が必要ですので、ゲリラは出来ませんよ?
そういえば、ノーベル物理学賞受賞おめでとうございます。」
「それはどうも、ありがとう。
それは置いておいて、今日は別件でこちらに来まして。実は内密な話です。」
真剣な顔になるなよ内密な話なんだから。
「それじゃあ、院内に行きましょう。パパラッチとかは?ま、いつもそういう噂聞かないですから、たぶん上手く撒いてそうですね。まだ寒いですし、話は中で。」
久々に見た内装はそれ程変わっていないようだ。暫くすると、診療室に入った、〘産婦人科〙だ。
「さて、内密な話と言いますと。もしかして、お子さんができてしまった。とか、そういう話ですよね?俳優さんならそういう話あると思うんですけど。」
「えぇ、そうですね。先生の予想通り、内縁の妻が身籠ったかもしれないので、診察をお願いしたいのです。まだ、こちらには到着していないんですが、今日辺り診察に来るはずなんです。ですから、あまり驚かれないようお願いします。」
椅子から腰を上げ深々とお辞儀をする、礼儀は正しく行えば相手は真摯につけとってくれるはず。
「そんな深々とお辞儀をしなくても、妊婦さんなら誰でも診察するのが、産婦人科医ですよ。偏見なんてとんでもない産まれてくる子に、愛を注げる貴方は立派な親になれると思いますよ。」
「ありがとうございます。あの、実はですね宿泊施設を自分の分だけ取得していないのですが、少しの間。妻が来る間だけでもここに、いさせていただいても。」
怪訝そうな顔をしているな。そりゃそうだ、バッグも何も持っていない奴だホテルに置いてきたと思ってるのだろう。
「1つ質問よろしいですか?どうやってここまで?」
「航空機に乗って、マスコミを撒くために国外線と偽って、国内線へ乗りました。お陰で荷物は何も持っていません。サイフくらいですかね?」
「まあ、今日の診察の予定はそんなに多いわけじゃないですから、別棟の休憩室を使ってください。
そう言えば、奥様のお名前もしくは名字は?」
そりゃあ気になるよな。
「星野です。マネージャーと一緒に来ると思いますので、よろしくお願いします。」
……
休憩室にいると看護師の方々が入ってくる、俺のファンだったりする人もいればサインを強請ってくる人もいる。
俳優のファンなんてものは、アイドルのそれと違って非常にあっさりとしている。
俳優は役に徹するという常識からか、狂信的なファンは少ない。少なくとも、看護師にそんな夢を見る人はいないし、他人のプライベートを売ったらどうなるか解ったものではないから、皆静かだ。
だいたい、俳優の顔と名前が一致するのなんて少数派だ、役作りのせいで本心なんて解らないからな。
「来たか…」
無事に来たようだ、周囲に悪意は無い。追跡もないな。迎えに行こう。
〜sideアイ〜
「ねぇ、佐藤さんまだつかないの?」
「俺は斎藤だ!だいたいお前等が火遊びするからこんな事になってるんだろうが!アイツもアイツだ、もう立派な大人だっていうのに、こんな大事な時期に何てことしやがる。」
まあ、怒るの当然か。何歳は子供産んじゃ駄目!なんて法律無いみたいだけど、アイドルやってる奴がファンの夢ぶち壊しちゃったら駄目だよねって話なんだけど。
「おお、やっと見えてきたぞ。特徴的なトレンチコート、アイツだな。」
「あ、アムロだ。待っててくれたんだ、お~い!」
あっ、手を振り返してくれた。いや〜先に行って先生にお願いしておくって言ってたけど、たぶん自分が時の人だから私達に迷惑掛けないようにっていう、アムロなりの配慮なんだろうな。
「おう、予約ちゃんと取れてんだろうな。」
「勿論抜かり無く、自分の事ですからね自分でやらないと。さ、一人で転ぶと大変だからね。」
フフ、手を繋いで一緒に行っくれるだけで、嬉しい。この子も、きっと大切に育ってくよね。
……
『星野さんー星野アイさーん、3番の医務室へ入って下さい。』
うんしょと、お腹が重いなぁ。
「はい、おまたせしましたっと。えっと、彼から聞いては、いるのですが星野さんは始めてですね?」
ほお、これがあのヲタ芸やってた先生の仕事の姿か〜なんかさまになってるなぁ。
「マネージャー、というか社長さんが親御さんなんですね。」
「ええ、まあ戸籍上は…彼女は施設育ちですし実質の後見人というか。実質上の戸籍は家の安室の家に住んでいますので。」
「なるほど」
なんか先生の顔が少しずつ強張って来てる気がする。ああ、そっかついこの間までと違って今では私の事確かwikiとかに乗ってたりするし、それでバレちゃったのかな?
じゃあ、帽子取っちゃってもいいよね〜
「先生、どうなんでしょう物凄い便秘という可能性は…」
「それだと死んでますね。」
「そっちは順調!今日も問題なかったよ!」
「取り敢えず検査してみましょう」
うわぁ、アムロに聞かなくても解るくらい露骨に暗くなってる。
「ねぇ、アムロ。先生の今の心境は?」
「推しにあった喜びと、推しが妊娠しているという絶望。そして、俺への怒りじゃないかな?ちょうど、社長と同じね。」
やっぱり、アムロは矛先を自分に向けて私に向かないようにしてくれてるんだね。
「お前らさぁ、せめて避妊しろって何度言ったと思う。」
「3回だな。もっとも、この時期でこのお腹なら一回戦目で出来たんだろうけど。」
「流石はアムロだよね、百発百中撃墜王!これで、安室嶺全盛期伝説また作られるね!」
いやぁ、これでやっと私とアムロの子供の姿が見れるんだぁ。楽しみ。
「その伝説、嫌いなんだがなぁ。何せその伝説に纏わる出来事には良い思い出が無いからな」
「え?そうなの?軍人と徒手格闘して倒しちゃうとかさ、ポーカー世界王者に勝ったなんてやつとか。私は凄いと思うけど。」
あっ、先生帰ってきた。
「さて、検査しますのでこちらに来てください。」
「はあ~い。」
ワクワクするなぁ。
〜sideアムロ〜
酷い動揺だな、医者だからって無理に納得して。推しっていうのはそんなに凄いものなのか、俺にはアイという人物しか見えないから、偶像という概念的な意味でのアイドルというものがわからない。
それに、ジオン・ズム・ダイクンの提唱したジオニズムとニュータイプ論を悪用する形でスペースノイド及びニュータイプという概念を偶像化することで選民思想へと変質させ、コロニー落としを始めとする大虐殺を正当化したザビ家やその遺児であるミネバ・ラオ・ザビを祀り上げて偶像化することでジオン残党軍を纏め上げて第一次ネオ・ジオン抗争を引き起こしたハマーン・カーン。
そしてダイクンの遺児にしてジオン公国軍の撃墜王〘赤い彗星〙というネームバリューを用いることで自らを偶像化させることで大多数のスペースノイドの支持を集め、アクシズを地球に落として寒冷化させることによる人類全てをニュータイプに引き上げようと第二次ネオジオン抗争を引き起こしたシャア・アズナブルといった偶像崇拝という推し元に行われてきた凶行を見てきた身としては、そうした事柄や類に関わる人間にはどうしても警戒心を抱いてしまう。
「双子か、名前二人分考えないとな。だけど、俺にはセンスが無いから、きっと機械的な名前にすると思う。俺の名前だって数字の0から来てるから。」
「う〜んじゃあ、私が考えておくね!そうすれば自然な名前になって良いと思う。」
先生の精神が大分摩耗してるな。そんなにも大ダメージになるのか。フォローにでも行くか?逆に煽っていると思われるかだ。
「アイ、屋上に上がってみないか?今日はきっと綺麗な星が見える。」
「うん、そうだね。行ってみようか。」
階段を上がっていくと、そこには1人の先生の姿があった。
「また、さりなちゃんのことを考えているのか?それとも、推しが妊婦になったことに対して、思うことがあるのか?」
「安室さんにアイさんですか。妊婦の身体に夜風が障りますよ?」
「厚着してるから大丈夫だよ、それにねアムロがいるからお腹の子達のことも、どんな状態か解るから。」
言ったな。俺は彼にそんな説明したこと無いんだが。
「え?いったいどういう。」
「俺は、人間レントゲンみたいなやつだとでも思っておいてくれ。それにしても、ここはいつ来ても星が綺麗だ。
アイの気分転換にもなるだろう。
「どうして家の病院に?やっぱり都内だと、人目に付くからか?」
「それもあるが、信頼できる人間が都内にはB小町のメンバーと、社長とその夫人くらいしかいないものでね。それに、ここの空気は彼女の身体に良いと思った。それと、明日からストックホルムに向かわなくちゃならなくてね、本当は一緒にいたいけど。コネ作り、しとかないとね政府と。」
「ねぇ、見てみてアレが冬の大三角形かな?」
そうか、彼女は星座の見分けも付けられなかったか?天文航法なんて、宇宙や航空機、船舶くらいなものだものな。
「そうだ、シリウスとプロキオンとベテルギウス、この3つの一等星からなる物が冬の大三角形だ。詳しく言うと時間がかかるけど聞くかい?先生もどうです?」
「遠慮しときます。それこそ彼女の身体に障りますよ。
それはそうと、あの社長を良く説得しましたね。」
「勿論、こっ酷く怒られたさ。なんせ、お腹が大きくなるまで隠してたからね。堕ろすのが難しくなるくらいまでね、それでようやく折れてくれたってわけさ。」
俺は、ハヤトやブライトのような良い父親になれるだろうか?流石にアイの母親よりはマシだったとはいえ、俺の親父とお袋は前世でも今世でも保護者としてはともかく教育者や指導者としては失格だったから親というものにあまり良い印象は持っていないからな。
「先生、俺は良い父親になれるだろうか…彼女を放って海外に行くような奴が。」
「父親は出産を経験しない分、親の実感がわかないと言いますからね、そこは貴方の努力と覚悟次第では?」
そうかな。
「アイ、そろそろ戻ろう。社長も心配してるだろうから。
先生、よろしくお願いします。」
挨拶は大事だ。シャアの奴も外交上は礼儀正しかったからな。
俺の頭の中のシラトリが囁く、バッドエンドにしろと。
俺は戦わなくちゃ、俺がアムロをこの世界に入れたんだから