〜sideアムロ〜
5万5千この数字はドームライブ会場の最大収容人数。そして、これにスタッフ等を入れた場合、その人数は更に増える事は考える間でもない。
この人数は、俺の感覚的にはそれ程大規模な人数だとは言えない。多くの戦場を駆けたが、これよりも大規模な事なんて珍しくもない。
だが、密度という点においてこの数は非常に厄介なものだろう。
殺気のない空間だ、殺気を帯びた意志ならば見つけるのは容易に思っていたが、現実はそうではない。
多くの民衆の精神は高ぶり、歌も踊りも何もかもがヒートアップしていく。
それに合わせて、感情がまるで波のように押し寄せ、俺の脳を焼いていく。
『吐き気を催すな、戦場の阿鼻叫喚の方が一方通行の感情の分、まだ良いな。
正直に言ってかなりつらい作業だ、続けすぎると後遺症が出そうだな。
裏方の方からは何も無いか…なら襲撃者は観客席にいるのか?
最も遠い座席から、アイに対するアイに纏わりつく感情の糸を手繰る、数人からのものなら兎も角、この数は並大抵ではないな。
無数に絡まりまるで、繭のようだ。
歓喜、高揚、好意的な感情ばかりか。下心まで見え隠れする
非常に厳しいな、アイがステージ上で囮をやっていてくれるのだ、いつ殺られるかも解らない状況で急がねばならないのに…。
暗い色、そう。嫉妬、後悔、愛情?ファンのものなら何故嫉妬だ?
もっと深く、捉えるようにそうあの時のように。見える、まるでアイが歳をとったかのような風貌。少し目が鋭いが、言霊とはよく言うものだ。まさか本当に用意してくるとは。』
脳裏に電撃が走った。この感覚は知っている、そう身体が勝手に動き、真後ろからくるナイフの軌道から身体をずらし、脇腹と腕の間を通過させそして、ナイフを叩き落とす。
『手の感覚から、女か?なるほど、アイにもファンがいるように、俺にもファンがいるから。それを誰かが焚き付けたか。
しかし、ピンポイント過ぎる。
だとすれば、体よく誘導されたのか?俺が。相手の方が一枚上手か。
歓声のせいで、俺たちのことにまるで見向きもしない周囲の人々、なるほど襲撃にはうってつけか。』
脇で固めている肘に対して、逆に力を入れると相手は横に吹き飛ぶ。上手く当身をやれば、気絶する。
『この女性どうするべきか、しょうが無い。少し座らせておくか。目が冷めたら、びっくりだろうな、真後ろから刺しに行ったのに、気が付いたら気絶させられていると。夢でも見ていたと思ってくれればいいが。
しかし、俺の居場所は筒抜けか?だとしたら向こうから来てもらうと、非常に助かるのだが…。』
気がつけばスケジュール上、凡そ半分の所まで来ていた。後少し、だが向こうから手出しされない限り、俺からはどうしようもないのが現状だ。
「サイコフレームが有ればな…」
無い物ねだりしたところで始まらない。もう一人は意外と簡単に見つかった、ステージより遠からず近からずちょうど中央通路か。実行に移すか迷っているな、なら移す前に潰す。
〜sideアクア〜
「ねぇ、アクアマリン。お父さんの居場所知ってる?」
さっきから、ううん。今朝からミヤコ伯母さんの様子がおかしい。最初は機嫌が悪いだけだと思ってたけど、これ何かが身体を乗っ取ってる!?
「し、知らない。父様は、裏方で作業があるからって。だから、場所解んない。」
「ふ〜ん、そう。なら別に良い、そうだ。ねぇお婆ちゃんにあってみたいって思ったことない?」
何?何で私達のお婆ちゃんの事知ってるの?だって、母様と離別してそれ以降連絡も取ってないって、コソコソ父様と喋ってるの聞いてたけど。
「そう、そうなんだ。じゃァ、合わせてあげるよ。お家をお婆ちゃんに教えてあげるね?」
そう言うと、ミヤコさんがグッタリとした。その後、意識を覚醒させて、辺をキョロキョロと見ている。
「あれ?ソファーで仮眠を取ってたんだけど、私いつの間に会場にいるのかしら。夢遊病?運転して?」
ミヤコさんの気配が元に戻った、これはミヤコさんだ。
「ねぇ、ミヤコさん。」
「え?アクアちゃん、どうしたの?何で泣いてるの〜、ほら泣かないで、ね。」
元に戻って良かったよ〜。アレは一体何?父様は、何であんなのに知られてるの?父様は、何かと戦ってるの?
「ううん、手握ってて。ギュってして。」
ギューッと強く握りしめられる手、それは温かいものだった。
〜sideアイ〜
皆との息はバッチリ、歌い出しからロケットスタートをかました気分だった。ニノちゃんも、不安な足が嘘のように、綺麗に動き正しく今私達の全盛期。
私がこうやってステージに立っている間、アムロはシラトリのし掛けた、私を殺す奴等を虱潰しに探しているはずだ。
今、もし殺られるのだとしたら、きっと他のメンバーにも実害があるのは想像に難しくない。
「皆〜今日は私達、B小町のドームライブに来てくれて、ありがとう〜。」
「私達の事をずっと推してくれた皆、そして今日始めて来てくれた皆も、私達のライブを見て、聞いて、そして一緒に歌って、今日のライブを大いに盛り上げて行こー。」
「次の曲は、私達B小町のファーストソング、〘サインはB〙です。皆、合いの手よろしくね〜。」
私達の楽曲は、全部合わせて30曲。それに、コラボしてくれた方々の曲を入れて合わせて50曲。
ずっと歌ってるわけじゃないけど、私達も疲れてくるから段々と乱れてくる。でも、それでもキレを失わないように、少しでも皆に笑顔を届ける。愛を届ける。
曲も残り少なくなってきた時、私から見て北?側かな?のちょうど真ん中辺りで、少しざわめきが起きたけど。直ぐ歓声に掻き消された。たぶん、アムロが何かやったんだろう。いったい何人いるのかな。正直、恐怖にかられる自分がいる。
メンバーには何一つ言っていないのに、どうしてかそれを察する娘達だ。それは、シラトリのせい?それとも私達の信頼関係のせい?解らなくなってくる、頭の中がグチャグチャになりそうだ。
「アイ、大丈夫?辛そうだけど、どうかした?」
マイクを切って私を心配して(ふりをしている?)くれているニノちゃん。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと緊張が解れてきただけだから。」
「そう?もし何かあったら教えてね?その時は、ライブを中止にしてでも貴女を助けるから。」
信じたいけど、信じられない。皆が私に励ましの言葉を投げかけてくるけど、全てが嘘に聞こえる。
ううん、気をしっかり持てアイ。これは今日だけ、今日までだ。今日が終わればきっと、真実の明日が来る。
だから、今だけは皆を信じよう。
〜sideアムロ〜
あと一人、あの女か。まるで動きを見せない、このライブに魅せられているのか?まるで本当に観客になったような、そんな感情の起伏だ。
これじゃあ、応援に来ている母親じゃないか…。
『やあ、アムロ・レイ。いや〜、やっぱり君は凄いよ。うん、正直驚いている。用意した奴ら、皆無力化するなんてさ。
君さ、本当に人間?ロボットかなにかなんじゃないの?』
うるさい奴が来たな、余計な手間をかけさせて。
『煩いってそりゃないよ、君と僕の仲だろ?本当にさ、君色々と、規格外過ぎるね。ねぇ、君達の世界はさ君みたいのばっかなのかい?』
そんな事解るわけ無いだろ?第一、そんな事気にする奴なんて…いや、ニュータイプ研究所の連中がいたな。嫌なことを思い出してしまった。
『ふ〜ん、それじゃあさ。本題に入ろっか。もうこの戦いは僕の負けだよ?完敗さ、でもね最後に傷跡を残そうと思ってさ、ちょっとしたサプライズをアイちゃんに用意したんだ。どう?僕って結構うつわ大きいでしょ。』
コイツは一体何を言い出すかと思ったらどんな事をするつもりだ?
『僕、暴力が嫌いなんだよね、だからさ暴力じゃなくて、今度は話し合いで決着をつけようとするよ。
そう、例えばアイちゃんと母親の再会とかね。』
どこまでも悪辣な…いつ仕掛けるつもりだ。
『いつでしょうか?と言っても答えは出来てるんでしょ。そうそう、君達が家に帰ったら始まるよ。楽しみだなぁ、ちなみに今日で最後だからさ、最後にサプライズをするわけだよ、』