二人の男がバーカウンターに座り、互いにカクテルを飲んでいる。一方は赤いスーツを着込み、もう一方は私服であろうか、少し渋めのジャケット・パンツだ。
「派手なスーツだな。国会議員がそんな格好して良いのか?」
「公私混同は良くないな。今の私は、セクス・アグノス。B小町の単なるファンの一人さ。君の方こそ、今日は家にいなくていいのかな?恐らくだが、ドームの打ち上げをやっていると思うのだが。」
赤い男は鋭く言った、ジャケットの男はそれを聞いて眉をひそめて言った。
「今日は子供達を含めて、B小町のメンバー全員でパジャマパーティだそうだ。俺も誘われたが、流石に断ったよ。あんな人数の女の子がいたら、何か手違いがあったら困るからね。」
「一途なものだな。」
「茶化すなよ。」
二人並び立ち、苦労を分かち合う姿は親友に見えなくもない。
「今回の件、感謝するよ。」
「何をかな?とんと覚えがないのだが。」
「あのドームの時、幾人かの敵意が霧散していった。俺以外に事を起こしそうなのは、お前くらいなものだよ。」
二人は不穏な話をしながらカクテルを仰ぐ
「アレか、私にとっても目障りだったのだ。君たちの運命に対する介入を終えたら、今度は私たちの運命に介入してくるだろうことが目に見えていた。だから、やらせてもらったに過ぎない、それに。神木ヒカル、彼にも感謝しておくことだ。」
「どういう事だ?」
「君等を互いに最初に狙ったのは、神木の手のものだ。だが、私にシラトリの情報を流していたのも、彼だ。」
「まさかな、計画犯が裏切りか?」
「彼の趣向に合わないからと言っていたよ、君達の輝きは求めるものが違うらしい。何はともあれ、無事生還した事をここに祝福するよ。こちらの仕事で振り回してしまったお詫びも兼ねて今日は私の奢りだ、浴びるほど飲むが良い。
シラトリの件が片付いたとはいえ、未来を変えるためにやらねばならないことがまだいくつもある以上、それを解決するのに互いの協力が必要不可欠となる。今世においては前世以上に長い付き合いとなるんだ、今は宿敵よりも戦友として君と飲みたい」
「酒の匂いをあまり漂わせたくないから程々にしておくよ。確かにお前の言う通り、今の俺は連邦の白い流星アムロ・レイではないし、そして今のお前もジオンの赤い彗星シャア・アズナブルでもエゥーゴのクワトロ・バジーナでも、ジオン・ズム・ダイクンの遺児、キャスバル・レム・ダイクンでもないしな……互いにまだ全部のわだかまりを清算するには時間が必要だが、この場はお前の行為に甘えるとしようか。」
二人は夜の闇を互いの家に向かい歩き出す、俺たちの間にある前世からの柵はこの世界に来たぐらいで簡単に払拭できないくらいにまで強い。だから、きっと互いに柵を乗り越えて個人として向き合えるのは随分先となるだろう。
〜sideアムロ〜
最後の曲が終わり、ファンサービスが始まる。握手会なんてものは無く、ただただファンへの感謝の言葉と、これからのB小町の目標をもってドームライブは無事に幕を閉じた。
アイ達がいる控え室に急ぎ足で向かい、ドアをノックする。
「安室嶺だ。中に入っても良いだろうか?」
「アムロ良いよ〜、皆着替え終わったからさ〜。」
控え室に入ると、俺は彼女達に睨まれていた。
「安室さん。アンタさ、子供達置いて何処ほっつき歩いてたの。見てよ、アクアちゃん今にも泣きそうなんだから。」
どうやら愛久愛海と瑠美衣もいたようだ。ルビーはニコニコと満足そうな顔をしているが対象的にアクアは、とてもじゃ無いが嬉しそうな顔ではないな。
「まぁまぁ、ここは奥さんである私の顔に免じてさ〜。ね?皆。」
アイが、自体の収集を図り俺を庇った。
「ところでよぉ、これからどうする?皆でどっか行くかぁ?」
いの一番にアイが、その言葉へ反論した。
「悪いんだけどさ〜、もうこの子達も御眠だし私達も疲れてるでしょ?だから、ごめんなさい。公開の打ち上げには参加できないんだ。
みんなとはさ、また来週くらいでもいいから家でやりたいと思ってたけど、それでも良いかな?」
「まあ良いけどさ。アイなんか今日さ、焦ってるよな。ステージでもそうだったから、何を隠してるんだ?」
訝しんでいる。
「ちょっと言えないかもな〜、また今度話すよ。それじゃあ、また明後日ね〜。」
連れ添って俺達は歩く。芸能関係者にジロジロと見られるが、この際気にしたら負けだ。書かれても疚しいことなど、何一つない。堂々と歩いていけば良いだけだ。
車へと到着し、一路家へと帰る。
「そう言えばリョースケ君どうしたの?」
「そのまま帰ったよ。あの姿のまま帰るとは思わなかったが、後日事務所へと来ると言ってた。」
ふ〜んと、軽く返事が帰ってきた。
帰宅すると玄関が今朝のままになっていたから、少し掃除をしアクアとルビーをお風呂へと入れる。
何気ない日常の風景に見えなくもないが、これがドームライブ後。
つまりまだ、日付を跨いでいないということを忘れてはならない。
ピンポーン
とチャイムの音が鳴り響く、来たか…
「アイ、もし出るのなら先ずはチェーンを掛けろ、何があるか解らないから。」
「え?出て良いの!?てっきり、今朝みたいにやるんだと思ってたんだけど。」
「今回は事情が異なるからな。相手が相手だ。」
アイが玄関へと歩いていく。
「は~い。ちょっと待っていて下さいね〜。はい、どちら様で?」
「アイ…久しぶりね。いつ以来かしら、かれこれ10年以上は経ってると思うけど、元気にしてた?」
「お…母さん?」
俺も玄関へと歩いていく、アイの心情は戸惑いと緊張、そして憎悪と〘愛〙
彼女はドアから後ずさると、心臓に手を添える。かなりの心労だろう。捨てられた娘と捨てた母親の出会い、それは用意されたレールの上での出来事なのか?
「なんで、お母さんが私達の家に来るの?」
「アイ…大きくなったんだね。こんなにも立派になってさ、お母さん嬉しいの。でも、お母さん悲しいなぁ、こんなに可愛い娘がお母さんを家から締め出してるなんて。」
本当にこれが、母親の思う感情なのだろうか…あまりにも無機質で機械的で、尚且つ自己中心的だ。この女の愛は誰に向いている愛なのか…。
「ねぇ、アイ?アイはさ、〘偉い子〙なんだよね?だったらさ、このドアを開けて?そうしたら、〘褒めて〙あげるから。」
アイの息が荒くなっている、これは洗脳の一種か?幼い頃の刷り込みか、強烈な暗示だな。流石にまずいか。
「アイ、もう離れたほうが良いかもしれないな。これ以上は君の心に大きな負担が…」
「お…母さん。お母さん、ねぇ私を褒めてくれるの?偉い偉いって、わたしのことほめてくれる?」
「ええ、アイ?そこの人を刺し殺してくれたら、いっぱいいっぱい褒めてあげるわ。」
幼少期の頃のトラウマ、一生懸命にしたら褒めてくれる。その時は凄く嬉しい、だから一生懸命〘母の願いを聞き入れる良い子〙でありたい…。
深く心に刻まれた、杭。
年月をかけそれが再び、外へと顔をもたげる。
「おかあさん…………でも……それって…良いことなの?」
だが、時と環境は人を変える。
「わたし……私は…この人を…愛しているから…。」
杭は風化し、いつかそれは腐り
「この人のことを、アムロの事を愛しているから。この人との子達を、愛しているから!」
いつかそれは土へと還り
「だから、ごめんなさい。お母さん、その願いも、ドアを開けることも出来ないよ。」
彼女の確かな基礎となる。
扉がバンという音とともに閉まり
「巫山戯んなよ!私から散々奪っておいて!自分だけ幸せになろってか?」
「それは違うよ、私はお母さんも幸せになって欲しい。
私、お母さんの事を誤解してた。
愛ってなんなのかって。
私は私の子供達を害そうとした、お母さんみたいに。それは、私の愛してた人を悪く言うように思えたから。
でも、私はあの子達と話すらしなかった、どうして父親を悪く思うのか。
お母さんは誰かから愛されたかった、そして愛されて裏切られて私にそれを押し付けた。
でも、確かに私はお母さんから愛されてた。いっぱい愛していた。
私のこの名前だって、そうでしょ?
誰かを愛する〘愛〙という名前。だからね?」
彼女は目に見えて強くなっている。
「私はもう一度お母さんを、愛したい。だから、私の方からお母さんのところに行くから、連絡先を教えて。お母さん、もう孫もいるからお婆ちゃんなんだよ?」
母と娘、本来は似た者同士となるもの。しかし、母は娘を拒絶する道を選び、娘は母を愛する道を選ぶ。
俺は、そっと後ろからそれを見ていた。時計の針は0時を過ぎ、日が変わったことを示していた。
カランと外から音がする、靴の音が遠のいていく。そして、去っていく彼女は後悔の念が籠もっていた。
アイが扉を開く、前へと一歩踏み出していく。
「追わなくていいのか?」
「行ってもいいの?正直な話、追いかけて家に入れたいよ。まだ、あの子達に紹介すらしてないから。」
「なら、追いかければ良い、今ならきっと答えてくれる。」
彼女は駆ける自らを捨てた母の元へ、彼女は抱き締める自らを捨てた母の事を、彼女は受け入れる。母が嫉妬したその意味を。
〜sideアイ〜
「ねぇ、ルビー早くしないと入学式遅れるよ?」
「待ってよお姉ちゃん。このリボン可愛いけど、調整するの大変なんだから。」
「ルビー、ママが直してあげる。」
3人で迎える娘達の高校の入学式、まだまだ甘えたいざかりの天邪鬼な子供達。
私とアムロの大事な宝物。
「ねぇ、ママ今日来れる?」
「勿論行くよ?パパもこっちに向かってきてるってさ〜。」
「は?あの親父がか?俳優命のあの野郎が?」
「アクア!そんな事、言っちゃだめ!父様、父様言ってたのに反抗期ってやつなんだね〜。」
最近のアクアは、ちょっとグレちゃったけどそれでも元気にスクスクと育ってくれた。
「お婆ちゃんは?来るって?」
「お弁当持ってくるって、今日午前中だけなのにね〜。そんなに食べさせたいのかな?」
あの日、私達の運命の日、乗り越えた先にあったのは普通の家族。でも、それで良い。だって、それが私の夢だったから…。
「ほら、早くしないと遅刻しちゃうぞ〜?」
家から駆けていく子供たちの背中に、いつも光が寄り添っている。希望に満ちたその先に向かって、優しい輝きが包んでいる。
トゥルーエンド
魔法は午前零時に、解けるもの
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第一部完
次回
閑話休題 ご褒美
第二部執筆中