また、あの夢か…。真っ白い空間誰もいない。
気配がしたので後ろに振り向くと、見知らぬものが二人いる。いや、一人は烏か。
『アンタさ、自分でコイツ呼んどいて、コイツのご褒美自分で用意してないってどういう事?説明しなさい説明。』
『いや〜、ほらさ?シラトリ君が、世界を元に戻せ戻せ煩くてさ、色々可能性は有るわけよ。それを説明するのに時間がかかるわかかるわ、おまけに自分で介入ギリギリまでやるんだもん、こっちも疲れちゃってね、だから用意してないんだよ。』
『アイツ、こっち見てるじゃん。どうして世界を超えて見れるのか解らないけど、ちゃんと責任取りなさいよ!』
烏が知らないやつを罵倒しているのを静観している。笑えない漫才だな。
瞬きをするとそこには、ブライトがいた。いや、ブライトを模倣した何かだ。
『おめでとう。
どうかな、この姿。私のお気に入りの人物なんだ、この人物の生涯、実に実に不運に満ち溢れている!
そして、君の生涯もまた不運に満ち溢れていた。
別の世界に渡った感想はどうかな?実に興味深かっただろう?まだまだ叡智もそれほど無い時代の、ほんの一握りの人生を。』
話が長い、早く要件を言え。
『そうか、では言おう。まずはおめでとう、死ぬ筈の身の運命を変えた君に。
私が君をあの世界に入れた、そしてその代わりに君に報酬を与えなければならない。
前借りか後払いだったのだが、君はそれなりに修羅場を潜り抜けているからね、後払いとしたよ。
何か願いを言ってくれ、今生の範囲内、現実的な範囲内でなら叶えてあげよう。金か名誉か?それともハーレムとか?』
そんな物、既に手に入れた。
ハーレムになんぞ興味はない、その提案以外には駄目なのか?
『別に?何が良いんだい?』
俺の夢に良くでてくる少女、彼女を父親と合わせてやってくれないか?
『お人好しだね〜。ま、だから君をあっちにやったんだけどね。おっと、早くしないと烏が来るな、また文句言われちゃたまったもんじゃない。』
パチンと奴が指を鳴らし
『さあ、叶ったよ。では、引き続き君の幸運を祈っているよ。
ちなみに私は〘観測者〙、色んな可能性を見るのが好きな、ただの変人さ。』
辺が光に包まれ、
女性が現れた。歳の頃は、今の俺と同じくらいか。
『お久しぶりですね?覚えておいでですか?叔父様。』
この気配は見知ったものだ、あの泣いていた彼女とそっくりだ。
茶髪をセミロングでまとめた、連邦士官服を着た階級は中尉か。軍人になったんだな、それも26で中尉は平時ならまずまず優秀だ。しかし、デザインが変わったようだが、気にすることもないか。
『今日も一人なのか?』
『えぇ、今日は父の墓参りに行った後ですかね?折角の休日でしたから。』
『それでも士官服か、他に着るべき服はなかったのか?』
『面白いことを言いますね。父も軍人だったのです、私が私服では面目ないじゃないですか。』
『そうかな、寧ろ私服の方を見てみたいと思うだろうな。』
『どうしてですか?』
『君の産まれた年は確かUC0093だったかな?
だとすると、父親はきっと一年戦争の生き残りだろうからね。戦争を想起させる軍服なんて、心休まるものじゃないからさ。』
『そうなんですね、私達の時代での争いなんて、私がまだ小学6年生だったUC0105年に起きたマフティー動乱くらいなんですけど。
父達の世代が経験した1年戦争やグリプス戦役、ネオ・ジオン抗争と比べると動乱の規模自体はそれ程大きいものではなかったんですが、マフティーの起こした動乱は失敗に終わったものの魅せ付けた生き様とそれに伴うカリスマはあのシャア・アズナブルに匹敵するものがあったって。
だからそれを経験した私たちの以降の世代の間では一年戦争を生きぬいた父達の世代を霞ませる勢いで彼を悲劇の英雄視してるんですよ、でも私は彼は別に英雄に祀り上げられたかったわけじゃなかったんだろうなって気がして……なんとも言えませんね。』
『ところで、話は変わるがどうしてここへ?父親に会いに来たんじゃないのか?』
『はい、そうですね。良く夢に見るここで、父親に会えると褐色の女性に言われまして。』
『彼女か…いや彼女の形をしているものか。それで、父親には会えたのか?』
『ええ、勿論。良く話をしてくれます。私のことを励ましてもくれました。』
『そうなのか…それは良かった。俺の願いが叶ったようで。』
『どういう願いなんですか?』
『君が父親に会えるようにという願いさ、恥ずかしい話だがそれくらいしか、俺には欲がなくてね。』
『そう…なんですね。そうだ!私実はサナリィの新型機F90のテストパイロットに選ばれたんですよ!軍機なので誰にも言えませんが、ここでなら耳も目もありませんし。喜びを分かち合えます!』
『F90。どういう機体なのかな?俺にはとんと解らない、きっと巨大で高性能なMSなんだろ?実験機っていうのは、得てしてそうなってしまうから。第一次ネオ・ジオン抗争で活躍したっていう第4世代のZZガンダムが良い例だったな。』
『残念ですが、F90はRx78ガンダムを基本コンセプトに、機体の高出力化とコンパクト化を実現した機体なんですよ!
従来のMSはあなたが仰ったように世代毎に大型化・多機能化を繰り返してきて、その都度付属設備や兵站まで含めた軍事費は雪ダルマ式に高騰してきたのを問題視されていまして、特にマフティー動乱で投入された第5世代MSであるΞガンダムとペーネロペーは小型化されたミノフスキー・クラフトを搭載することで、Ζガンダムに代表される第3世代とは違い、非変形での単独飛行を可能とし、そこに加わるパイロットの技量次第ではかつての1年戦争時においてアムロ・レイが搭乗したRx78ガンダムのように単騎で戦局を引っ繰り返してしまう程の超高性能機なるに至ったのですが、代償に30m近くに達してしまう程の機体の著しい大型化とそれに伴う破格の高コストの運用費が祟ってその2機しか第5世代MSは開発されなかったんです。
マフティー動乱を最後に長らく大規模な軍事衝突やテロが発生していないことから、連邦政府はそれまでのジオン及びティターンズ絡みの戦乱によって軍事費に大きくリソースを割いていた予算配分をそれらの戦乱で損耗した地球上の都市及び環境や宇宙コロニーの復旧に向けて大きく振り分けることが議会で可決されたことで、遂に軍縮に向けて舵を切ることになったんですよ。
そこで連邦政府はこれまで培ってきたMSの性能を落とすことなく維持または向上しつつ、小型軽量・調達容易なMSを要求されまして、そんな難題に見事応え、一時は約30mにまで達していたガンダムタイプのMSをその高性能を維持・向上しつつ15mにまでダウンジングに成功したのがF90なんですよ。凄いですよね!』
『そうなのか。俺もMSの過度な大型化・多機能化は問題視していたが、だからこその原点回帰の発想というわけか。しかし、その発想を実現するのは容易ではなかったはず、なにせそれほどまでにMSを取り巻く環境が複雑怪奇になっていたわけだから、アナハイムも凄い下請けを持ったものだな。』
『違います。サナリィです。STRATEGIC NAVAL RESEAERCH INSTITUTE(海軍戦略研究所)。通称サナリィです。元々のルーツは宇宙島建設企業連合体の一員としてサイド1建設に携わったある一企業で地球連邦軍設立に伴いその諮問機関として地球連邦政府に自社株の大半を買収された後、公社として半官半民の企業となり戦略戦術研究所へと発展的解消がなされ、その後『第二次ネオ・ジオン抗争』を経て半年後の同年9月に戦略戦術研究所から、『海軍戦略研究所』こと『サナリィ』へと再編されたんです。本来は連邦軍への軍事支出、戦略、兵器の将来的展開等の助言と軍需技術・機器の民間へのスピンオフ業務やコロニー再建計画、新型コロニーの研究及び開発費用の捻出が主な仕事です。アナハイムなんていう武器商人とは違います!
あの連中、先程も言ったこれからは地球圏の復興に予算を回したいから、開発費を抑えつつMSを小型化してくれっていう顧客の要求に対してジェガンを縮小しただけのRGM-109ヘビーガンを押し付けたんですよ。コロニー再建と地球環境回復費用に予算を充てたかったのにそれを台無しにされるような仕打ちを受けて、業を煮やしたサナリィと連邦政府と軍部の上層部はアナハイムに見切りをつけてこれまで戦略及び兵器の研究と助言に止めていたサナリィが自らの手で新時代に相応しいMSの開発を決意し、本格的に軍事用MS事業への参入しジョブさん…じゃなかった元ホワイトベースクルーのジョブ・ジョン主任を中心とした小型MS開発計画こと通称『フォーミュラ計画』を始動したんです。F90はそのフォーミュラ計画によって生み出された新時代のガンダムタイプなんです。
ホントにアナハイムの人たちは自分達だけが甘い汁を吸い続けようとする思惑が丸見えで自分たちの天下が未来永劫に続くと疑っていないんですから、正直この話を聞かされた時は呆れましたよ。』
『そうか、それなら方向性の違いに納得だな。いつの世も時代の変化に対応できない者に待ち受けているのは、凋落の末の滅びだ。』
『そうなんですよ〜それでですねF90がどうやって要求コンセプトに応えて見せたかというと素体となるMSの機能を最小限に絞ることで、かつてのZZガンダムやΞガンダムのような内蔵式ではなく各種装備の換装によりあらゆる状況・用途に対応させることによる外付け式に変更することによる設計思想を構築することによって、従来のガンダムタイプに匹敵あるいは凌駕する戦闘力を発揮できる高性能機に』
これは話が長くなりそうだな。それにしてもあのジョブが……懐かしいな、まさか彼が新たなガンダムを手掛けるとはな。そういう開発計画なら是非俺も一緒に新たな時代のガンダムを作りたかったよ……しかし先程の話題で出た、マフティーについては妙に気になって仕方ないが、どうも嫌な予感がしてならない。何故ならマフティーの話をしていた時の彼女の心に深い哀しみの念を一瞬感じたのだから、その哀しみはすぐに心の中に覆い隠されてしまったがそのマフティー絡みで何か辛いことがあったのだろう。詳しく聞くことでこの娘に辛い過去を思い出させてしまうかもしれないとなると俺の死後の争いについては別の機会でこの世界と繋がった際に聞くべきか、それに今は久々のMSの話が出来て、それも自分の娘を相手にそれができる折角の機会なんだ。今回はそれをとことん楽しむとしよう。
………………
『ア…ロ、お……。ご…んが、出……から、朝…はんだよ〜。』
そろそろ起こしに来たか。
『そろそろ起きる時間なんですね!?今回も色々とお話して楽しかったです。ボッシュさんにも、こんな夢を見たって自慢できそうですので。』
『ボッシュ、生きてたか…アイツも無茶をしていたのだがな。
そうだ、アイツに伝言を頼むよ。』
『なんてですか?』
『人の心はそう簡単には変らない、急ぎすぎるなよと。』
『解りました。それでは、またいつか』
最後の言葉はかき消えたが、口の動きでそれが解った。
彼女は〘おとうさん〙と言っていた。やはりか…
…………
「アムロ〜ご飯だよ〜。たまの休みだからって、だらけてると襲っちゃうぞ〜。」
「アイ、起きてるよ。襲うなら襲えば良いさ、返り討ちにしてあげるけどね?さあ、皆でご飯にするか?」
俺の愛する人がいる、彼女のモーニングコールは激しくないのがいいことだ。
「アクアは一緒に食べたく無いって言ってるけど?」
わがままな娘だな、どこで教育を間違えたのか。
「家族は一緒にご飯を食べるもの、愛久愛海が言った言葉なんだけどな、本人に自覚なしか?」
「難しい年頃だからな〜、自分達の境遇があまりにも特殊過ぎて、参考にならないな!なんて、考えてない?」
「そのとおりだ、さて。無理にでも部屋から出てきてもらうか!」