いいですね?
第三十三話
二人の人がいる。
一方は日本人的に長身であり少々髭を蓄えているラフなジャケット姿。
もう一方は中性的な身体のラインとセミロングを一つ結びに纒めた髪をしており、こちらはノーカラーデニムジャケットに、黒いズボンだ。
二人はどうやら喧嘩の真っ最中のようだ。
「ですから、何度も言ってるでしょ?私の考えていることを、勝手に読まないで!」
「済まないな、どうもナチュラルに読むきらいがある。気をつけているのだが、君のことが心配なばかりに。
最近、女優として自信がないのを隠してるだろ?自分の演技に何処か不満でもあるのか?
俺は、俳優だからさ。少しでも悩みを聞けたらなと思ってね。」
どうやら女優と俳優らしい。良く見れば、同じような雰囲気の目元をしている。もっとも、男の方は宇宙を見上げているが如く、女の方は星のようだ。
「だいたい、父様は私に対して色々と干渉しすぎ!やれ、これをやるな。やれ、ここをこうしたら良いだのと、私が自分で選択してるのに、どうしてそれを横から否定するの!」
「だから!アクア、君が心配だからだよ!君が女の子の服が好きなのは知っている、ならその服装は自分を偽る事じゃないのか?それにいずれ限界が訪れることぐらいわかってるだろ。君の心は本当は女性らしくて、体の方も女として著しく成長していく…近いうちに精神的にも肉体的にもこれまでのようには誤魔化しきれなくなるぞ」
意見は平行線のまま
「私だって、本当は普通の女の子の格好したいよ。それに髪だってルビーや母様みたいに長く伸ばしたい。中学に入ったあたりから体もどんどん女の子らしくなってるのに、未だに男の子の恰好しなきゃならないのは正直に言ってもうきついよ!だけど、私はこういう格好を求められてる。
評価されてるの!女の子としての私は世間は求めてくれてない!そんな事も一々言わなきゃ駄目!?だいたい、父様だって自分を偽ってるじゃない!
何よその髪色、金に戻したら?」
「金髪に戻したらか…ますます俺に似てきたな、人の事を言えないぞ?何を言っても言い訳にしかならないな。
だけどね、俺は君にはもっと正直に生きて欲しい。例え仕事のためとはいえ、役作りで体を壊す役者を散々見てきた。だからだよ、まだ中学生なのに。」
女の方はそれを聞いて、ますます苛立ち踵を返した。そして
「私の心配よりさ、ルビーのこと心配してよ。せめて今進行中のプロジェクトのこと、教えてやって?アイツいろんなとこのオーディション受けてるみたいだから、みんな拒否してやってるけど。」
そう言って女は歩いていった。
〜sideルビー〜
私は中学三年生で、やっとアイドルのオーディションを受けられるようになった。
昨今の世の中、あまり若い子供にそういう事をさせたくないって風潮のせいで、ママ達の頃みたいな12歳からのアイドルデビューは少なくなっている。
現在では低年齢から出す場合はまず子役からスタートさせることで実績を積ませてからの転向、あるいは大手から推薦を受けたスカウトか、かつての苺プロみたく設立したてで縛りの少ない新規事務所のオーディションまたはスカウトを受けるかだ。
私はママみたいなアイドルになりたいから、だから何件もオーディションを受けた…。
何度も最終審査に入って、良いところまで行くけど落選ばかりだ。
ダンスだって練習して、どこのアイドルよりも上手くなってる自負はある。
歌だって、音痴だから人の何倍も努力して、人並みには出来るようになったはず。
それなのに、どうしてだろう。合否通知も返って来たけど、全部不合格私はアイドルに向いてないのかなぁ。
家のソファーに座って、それを気にしてる。正直凹んでるけど、次も頑張れば良いかな?
「ただいま〜、収録大変だったよ〜。久しぶりにテレビの中で歌を歌ったけど、いや〜音域昔と変わってなくてよかった良かった。
ってルビー、どうしたの?そんな顔して。」
「ママ、私。また、オーディション落ちちゃった、私ってアイドル向いてないのかな。」
不思議と涙が溢れてくる。あんなにも、アイドルになりたいのに成れなくて、ママとの約束も守れないかもしれない…。
「ヨイショッと、フフ。ギュ〜ッ」
「うん、ママ痛いよ。」
ママが私を抱きしめてくれる、ああ良い匂い。ママはもうアイドルじゃないけど、ママはママだ。
「ルビーも大変だねー、時代ってやつなんだけどね悪いのはさ〜。私達がルビーよりも低い年齢でアイドルやれてたのって、そういうことなんだな〜って。」
「どういう事なの?」
「そのまんまの意味。最近はさ、ジュニアアイドルでも過激すぎるものもないしさ、売れるためには色んなものが必要になってきてるって意味。
だから、大手のプロダクションだと、結構最初から決まっちゃってる事もある。でも、私達が活躍してた頃は売れてるうちは一切休むことがまず許されなかったから、それで酷い時は心が壊れて廃人になるか、自殺に追い込まれるまでに使い潰されちゃう人たちがホントたくさんいてね。
遂には子役やジュニアアイドルをやってる幼い子達からもそうした犠牲者が続出するまで一時期エスカレートしちゃったから…その反省から今では売れてる時期でもちゃんと休業を取れたり、人気タレントの結婚や出産を認めてくれるようになったし、芸能人の人権が当時と比べて考慮されるようになってきたりと、悪いことばかりじゃないから何とも言えないだけどね。
業界に長くいると、色んな事を見ちゃうんだ〜。」
なるほどね。今の風潮も一長一短ってわけか。それを考えると昔の基準で言えば売れ始めた頃でもママ達を使い倒すようなことをせず、ちゃんと休みを与えてりしてくれてた苺プロって良心的だったんだな。でも、私の場合はどうなんだろう。実際問題、どうして落ちちゃうのかな。
「そうだな〜、ルビーは実力はあるし贔屓目で見てるかもだけど、私よりも可愛いよ?でも、嘘が下手なのが玉に瑕なのかな?まあまずは進学決めてから考えよっか!」
「うっ。ねぇ、ママは高校行かなかったよね?私もアイドルになるなら」
「正確には行く気がなかった。それに、アイドルとしてステージの上で歌って踊るだけの内はいいけど、私やパパみたいにバラエティや映画といった活躍の幅を広げたいなら今の時代教養がないとそうしたマルチタレントにはなれないぞ〜?
後々私も苦労したから、パパから色々教わりながら本当に苦労したよ…。
だから、ルビーには苦労してほしくなくてね☆。」
私は頭があまり良くない、実際姉である愛久愛海がテストで毎回高得点を取るのに対して、私はいつもの真ん中くらい。
勉強も運動も女優も出来る姉、コンプレックスになるのは目に見えてる。双子なのに、この差は何なのか。
でも、その分私はママやパパから愛されていると思う。私があまり出来が良くないからか、それとも姉があまり甘えてこないのかも。
「ただいま〜。」
噂をすればなんとやら、私の姉が帰ってきた。ボーイッシュな格好しているにも関わらず同性をも意識させる程の抜群のプロポーションの良さを際立たせる仕事帰りのその私服。バッグにはきっと制服が入ってるんだよな。
お姉ちゃん、ホントは女の子らしい恰好が好きなことは家族みんなが周知の事実だ、だから学校に登校している時は堂々と制服姿でスカートを履いていられるから予定にない急な仕事は余程大きな仕事でもない限り断ることがあるくらい学校を優先するし、一日中家にいられる休日の時は外では絶対に見せない可愛らしい私服で過ごしたりしてストレスを発散してるのを私達家族は知っている。
「アクアおかえり〜、どうしたのそんな機嫌悪くして。」
「お姉ちゃんおかえり、今日は監督のとこ寄ってこなかったんだ。」
「は?機嫌悪い?母さんには関係ないでしょ?ほっといて。
それとルビーさ、そんな事気にするんなら勉強でもやってれば?どうせまたオーディション落ちたんでしょ?
今のままじゃアイドルになんてなれないよ。」
この感じ本当に腹立つ、幾ら勉強出来るからってママの悪口とか散々言ってくるし。でも、私は知っている。ママには本音を言わないけど、私には本音を言ってくれる。天邪鬼なのだ。つまりは、後半は真実…余計に腹立つなぁ。
「アクア!そんな口の聞き方無いと思うなぁ!そんな口の聞き方、教えてないよ!」
「教わんなくても、覚えてくるの。役作りなんだからさ、だからほっといてってこと。」
ママは姉のことも心配してる、姉は頭が良いけどやり過ぎるところがあるから。
姉は自室に入っていった。
「どうしてあぁなっちゃったのかな↷」
しょんぼりしてるママも可愛いい。でも、笑顔のほうがもっと可愛いいから
「あんまりパパとも仲良くないみたいだしね、特に今は将来のことを巡ってパパとよく喧嘩してるみたいだから気が立ってるもん。パパに似て頭良いから、たぶん色んな所で不満があるんだよ。だから、見守ってよ?」
ママを心配させてること、教育してあげなくちゃね!
〜sideかな〜
「ふ〜ん、それで私とこんな時間に二人でWeb会議?」
[そうなんだよ〜。ルビーにも強く当たっちゃったしさ、父様にもきつくなっちゃうし、母様にもそうなっちゃうしさ。どうして、こうしちゃうんだろ↷]
まったくこの子は、自分の言動と本当の思いを掛け間違えちゃって、誰に似たのかしら。
「アンタね演技に入れ込むの程々にしときなさいよ?本当の自分を見失って、自殺しちゃう奴もいるんだから。」
[父様にもそれ言われたよ。いつもの的を射た的確な事を言われるけどさぁ、それでも触れて欲しくない話だったり、わかっていてもどうしようもないことも多いからね、だからつい反発しちゃう、カナちゃんだけだよこう言えるの。]
この威圧感のある重厚な声で、私に乙女チックな部屋の映像を見せながら言われるのは、なんか違和感あるのよね?
一度、あーちゃんの部屋に行ったけど、マイメ○ディのぬいぐるみとか、クッションとかで飾られてあったのを見て、とんでもないショックを受けたわ。
そんな可愛らしいもので溢れた部屋に不釣り合いとまでは言わないが、明らかに浮いている青い球形ロボットをあーちゃんが胸に大事そうに抱えている姿を見て苦笑を禁じ得ない。
父親が中学の入学祝いにプレゼントしてくれたっていうハロという市販のされていない超高性能のペットロボットで、私以外に友達と呼べるものが無いあーちゃんにとってはかけがえのないものだったという。
すれ違うことの多く、お世辞にも仲の良いとはいえない父親との関係だがこのプレゼントの件はホントにあーちゃんも父親に心から感謝していて、悪化しがちな父親との関係をギリギリの所でいつも繋ぎとめてくれるロボットだけど大切な友達なのだという。
「こうやって画面越しに私に言うくらいなら、勇気を出して一歩踏み出しなさいよ。はぁ、まったく世話を焼くわぁ〜」
[ごめんね、迷惑かけて…。]
あんまり言いすぎてもアレだし、話題でも変えてあげようかしら?
「ところで、話は変わるようだけど、アンタ今年受験みたいだけど、どこの高校受けるつもり?あんたの成績と家柄ならあの不知火ころもが通っていたっていう秀知院学園を始めどこの名門校にでも入れるわよ」
[う〜ん、秀知院は進路指導でも先生によく進められたりしたけどさ、あそこは家から少し遠いから自転車通学になるのと政財界の名家の子がたくさん通うから上下関係に気を使わなきゃいけないこと、後は勉強も役者活動と同じくらい力を注がないといけないのを考えると、合わないなと思ってね。
だから、偏差値のレベルは落ちるけど卒業できる単位を簡単に取りつくせて仕事の時とかに休んでも授業日程に融通を利かせてくれるといった私達のような芸能活動をやっている子たちの為の学科があって、通学も家から割と近いところにしようって絞っていった結果、陽東高校にしたよ。そこの芸能科に行くつもり。]
つまりは私の後輩になるわけか…なるほどなるほど、良し。そこで、度胸でもつけさせるか?
「私の後輩になるわけだから、何かあったらどーんと頼んなさい?私とアンタの仲だからね?」
[ありがとう、そろそろ寝なくちゃだから。父様が感づくし、それじゃあおやすみなさ〜い。]
そう言って、会話が途切れた。
まったく、あんなに立派な父親と母親に恵まれておいて、反抗期なんてわがままね〜。
家の家族を見てみなさいよ、お母さんは芸能人を目指したけど挫折してその夢を私に押し付けたあげく、私が旬を過ぎて売れなくなったら掌返すように私とお父さんに当たり散らす始末だった。
お父さんはそんなお母さんの姿にもう自分の愛した妻はどこにもいないって失望して、出て行っちゃったし…そして遂にはお母さんもお爺ちゃんが体を壊したのを口実に実質私を捨てていった。あーちゃんが鼻っ柱を折ってくれてなかったら私もお母さんみたいに腐ってたかもしれないと思うとホントに良かったわ。
ただ、
「いい加減、フリーの女優は辞めたほうが良いかもな〜。収入はこっちに入るけど、それでも薄給なのは否めないし、何より便利な道具扱いは癪に障るわ。」
それも、今日あまの撮影によるか…。いい加減あの大根達にもイライラしてきたところだし。
あーちゃんを引き入れるチャンスかな?受験期間だから、仕事入れてないって言ってたし。