[2022/6/7
一人の男が半円をした議会の中央に立ち、周囲を見回している。衆議院臨時会〘エネルギー問題に対する条約〙をこの国会において、審議しなければならない。
石炭・石油等の火力発電、原子力、再生可能エネルギーそれらの国内での比率と、それによる各地方自治体に対するメリットデメリットを話す場において、その男は異質であった。
その男は、特定秘密の保護に関する法律に抵触する恐れのある、ある物の公表と其れ等の増産及び施設の建設を、今国会に提出していた。
男の瞳にはこの場にいる誰も彼も、軽蔑の眼差しがあった。
「我々は、この
昨今では再生可能エネルギー等が、注目を集めているがあれ等はまやかし以外の何物でもない。」
男の話は現状の社会に対する皮肉が込められていた。そして、男はそれらを解決する手段として、核融合炉の事を暴露した。
内閣における最大の秘密、国会における最高の秘密。一切のマスメディアもこれを知るすべもなく、誰も彼も知らぬものだった。
男は世界中へ向け宣言する。世界のバランスが崩れるであろうこの事実を、現状維持を決め込んだ哀れな今を、いかに変えていくか。
このまま行けば、人類は干からびて行くのを待つしかない。今しかないのだと、感情に理性に効率に響くそれらは、それを見ていたもの等にも深く深く刺さる。
いつの間にか、国会内に彼を批判するものはなく固唾を呑む音がする。その日、その国は少し変わった。外面からは解らないだろう、だがしっかりとその心臓は変わったのだ。]
〜sideルビー〜
「ねぇママ、お姉ちゃんが出るドラマ見てみたくない?」
暇な一日、家でゴロゴロしているママに、私は提案を持ちかけてみた。私の好きな姉、愛久愛海の出演する作品を、勇気を出して見てみたくなるものだよね?
「う〜ん、そうだねぇ。でもね、ちょっといい噂聞かないんだよね、それ。」
「うん、レビューでも酷評されてたから解るけど…」
そう、〘今日あま〙は、あまりの完成度の低さによって、酷評の嵐。そして、原作とは違うような物がちらほら見えるし、言ってしまえば、鮫の出ないサメ映画みたいなものだ。アレは、まだネタに出来るから良い方だけど。
……視聴中……
「うわぁ~、酷いドラマだったね。序盤、中盤、終盤何処をとっても大根役者だらけで、かなちゃん可哀想。」
「でも、かな先輩もあんなに演技下手だったっけ?」
動画で見る先輩の演技は、昔子役やってた頃よりもランクが下がってるみたいに見えた。
「あれ以上やると、かなちゃん浮いちゃうからね…。確か、ぶ、ぶ、ブリ大根?だったかな?食べると美味しいけど、役者がやっちゃ駄目なやつ。
このドラマ、かなちゃんで保ってる所あるね。アクアは今日、これの撮影なんでしょ?帰るの遅くなりそうだね。」
「ねぇママ。こんな事言っちゃうとあれだけど、お姉ちゃんこの主演の俳優の人に手出したりしないかな。」
一抹の不安、最近の姉は荒れている。小学生の頃は理不尽なものを除いて校則に素直に従っていて特になんとも無かったけど、中学に上がると夏休みを境に服装が乱れてたり、お世辞にも優等生じゃ無かった。
最初の頃は進路指導の先生から渋い顔で時折注意されることもあったけど前世から引き継いだ教養知識とパパ譲りの頭が良さから校則の範囲を外しているつもりはないとさらり躱して、常に成績は学年トップを維持することでその優秀さを見せつけることで次第にその先生も口を閉ざしていった。
しかし、何度言い躱しても口うるさく注意してくる一部の頑迷な先生たちを黙らせる目的で受けた全国模試で何十万人の中学生達の中から30位圏内に入って見せたのを皮切りに遂にそういう先生達も文句を言えなくなったらしいけど、役者仕事しながらでこれなんだからもう脱帽だよ。
役者をせず勉強に全部力を注いでいれば模試の成績で10位…いや、5位圏内を争えていたんじゃないだろうか。それに加えてクラスで起こっていた虐めを解決に導いたり、生徒達に対して横暴な振る舞いをした先生に対して面と向かって理路整然と意見して最終的には黙らせたりとクラスの子達や下の学年の後輩の子達にはとても面倒見が良かったからホントに慕われてた。
小学校でも中学校でも高学年になる頃には学内の生徒…特に女子たちのリーダー的存在に収まってて学内での影響力大きさが校長先生や教頭先生でさえ迂闊に口出せなくなるほどカリスマが凄かったから。
「流石に暴力は振らないと思うけどなぁ、前にルビーの言ってた虐めっ子を懲らしめた時の事を別とすれば、あの子は自分の方から手を出したりするような喧嘩とかしたこと無いから、ファッションみたいなものだし。
それに、アクアはパパ似で責任感が強いだけだから。」
う〜ん凄い信頼、でもこういう役者の人が相手だと、多分凄い口悪くなるよね?昔、かな先輩となんか口喧嘩したとき物凄い口調だったもん。
「でも、お姉ちゃんなら大丈夫だよね?うん!」
私が納得しなくちゃね、双子なんだからさ私が一番信頼しないと。でも、なんか企んでたんだよねぇ。
〜sideアクア〜
ツンっとした油の臭いが籠もる現場、久しく嗅ぐことのなかった機械油の匂い。髪に油が付くと嫌だな、纒めて置くとするか。後ろで結び、ショートポニーとする。
現場に行くときの送迎車も、ガソリン車なんてレトロな物を使っている。きっと買い替える余裕がなかったのだろう。
「ここが今回の撮影現場、今日一日しか確保できなかったらしいから、ドライからランスルーは全部一纏めで、リハーサルも一回限りよ!」
なんと雑な現場なのだ、これでは良い作品も期待できようがない。金が無いのだろうな。
ふと、こちらへ向けた視線に気が付いた。
コイツが例の酷い大根役者、鳴嶋メルト…とりあえず挨拶くらいはしてやるか。
「紹介するわね、こっちの人は今日の…ストーカー役の」
「星野アクアです。よろしく」よろー」
は?コイツ、挨拶もまともに出来んのか?初めて会った頃のかなちゃんを思い出す、トントン拍子に売れているからと、調子に載っているな?私の後ろに奴が行く。ならば、
「おい貴様!挨拶くらいまともに出来んのか?3歳の子供でも出来るものを、その歳で出来ないとはな…」
「あ?なんだと?もう一回言って」それ以上は辞めてくれないかな?」
ほう、コイツが鏑木勝也か…父様と母様との交友関係がある。
「来てそうそう不祥事は嫌なんだ、どちらが悪いにせよ互いに謝っておいてくれ?」
そう言うと奴は我々から離れていった。
「済まなかったな鳴嶋、少し最近イライラしたことが続いたものでな。」
「チッ、俺の方こそ惡かったな。」
かな。済まないことをしたな。だが、これで良い意味でも悪い意味でも印象に残るはずだ。鳴嶋が私達から離れて行く。
「アンタ、目立つためにわざとやったわね?」
「さあ、何のことだ?私はイライラしたからやったに過ぎない。それに、こう言ってしまっては悪いが、初めて出会った時の君に口汚く罵られた時の事を思い出してしまってな」
「ああ~、あの時はホント悪かったわね。そうか、確かにあの頃の自分を振り返ると私もあまりあいつの事をとやかく言えないわ。それよりあの人、顔面至上主義だからアンタを使ってもらえるけど、今ので完璧に覚えられたわよ。」
フンッ、所詮は見かけだけを観る俗物か。
「リハ始めまーす」
なんにせよだ、これであの日、父様と母様がやっていた事に近づけるかもしれない、あのミヤコの中に見た恐怖の根源に。
……
リハーサルが始まって周囲の人間の観察をしていると、鳴嶋のヤツの心がなんとなく透けて見えた。
傲慢と自信か、良いご身分だな。主役である貴様が現場で最も輝かねばならぬのに、こんなにも暗いとは行灯のようだな。
なるほど、周囲には油となるものがあるか…少し遊べば大火となるか…。
「何か悪い顔してるけど、何を企んでいるのかしら?」
「そうだな、如何にして太陽を輝かせるか。そういう行動を取ろうかとね?」
「ふ〜ん、そう。じゃあそのお手並み拝見と行こうじゃありませんか。」
後悔などさせるものか、良い機会だからヤツの自尊心も虚栄心も全て叩き折り、更生させてみせよう。
「お前も頑張っているからな、私も頑張らねば無作法というものだろ?」
「主役級なんて、本当に久しぶりだから私は張り切ってるだけよ。それよりも、今更だけど本当にストーカー役で良かったのかなって心配してるくらいよ。」
今更だな、役者だろうに。
「私が今出来ることをする。お前が気負う必要はない、私が決めたことだ。」
「解ったわ、後悔しないようお互い頑張りましょ!?」
バシッと背中に痛みが走る。
やってくれたな、後でお返しとしよう。
そして、撮影が始まった。
鳴嶋のクソのような演技、それに合わせて態と下手に見せるかなちゃん。
失敗作をなんとか食い止めているその技量、私は手本となるものだと思う。私は所詮は、〘安室嶺〙の劣化品だが、それでもこの舞台を盛り上げるには全力でやらせてもらおう。
「ヒトリニサセネーヨ」
呆れて物が言えん。まだ、幼稚園のお遊戯会のほうが良い演技をするだろう、此奴はもはや大根ですらない。それ以下だ。
足元の水溜まりより足音を立て、私が来たことを周囲に解らせる。
「この女はお前が思っているような女じゃない。」
使えるものは全て使え、そうすれば舞台は整う。
話しながら奴へと近づいていく、
「お前と俺たちとは違う…」
そうだ、貴様など有馬かなの腰巾着に過ぎぬ。
❨貴様、そばで見るとブスだな。豚にも劣る、俗物風情が!❩
「なんつったオメェ!」
そうだ、感情を出せ。今の貴様に演技など無理だ、だからこそ演技ではなく、本心で話せ!私も本心で話してやろう!
……
カットという声とともに撮影が終わる。
かなちゃん、良い泣き演技だったな。これで、最終話は見られるものになるのではないか?
「わりぃ、最後本気で殴りに行っちまった。」
ほう、存外本心から言えるではないか。
「良い、気にしないでくれ、当たらなかったのだからな。と言いたいところだが、少々焦ったぞ?」
髪留めを下ろし、セミロングの髪を手櫛で整えていく。どうした
何故私をジロジロと見ている、周囲の奴等もだ。
「え?イヤ、女の子?」
「なんだ?私が女に見えなかったか?ならば、私の勝ちだな!」
男役をやる女はあまりいない、当たり前だ。作品の根幹に関わるのだから、そうでなくては困る。
だから、私は珍しい女優なのだ。
私をじっとりと見る視線がある、鏑木か…奴め変質者の素養があるか。
「お前、最後の方いい演技だった。次もし共演することがあれば、期待して待っているよ。」
最後に見た奴の顔は、何故か赤らんで見えた。