着信音が響き、携帯を取る。
「あっやっとでた。お久しぶりですね、少し相談したいことがあるんですけど今度の土曜日、お会いできますか?」
久しぶりに聞いた彼女の声は変声期特有の少女から女性へと変わる過渡期のもの。三年の間の成長を感じさせるものだった。
「こちらこそ、土曜日なら今はちょうどスケジュールに余裕があるから行けるよ。場所どこなの?」
金髪のウィッグを被り、肌の色を少し暗く化粧を施す。アクセサリー付のズボンに、耳にフェイクピアスを付け変装をする。
指定された場所へと赴く、なんともまあ防音も何もないファストフードバーガーチェーン店。
時間は指定よりも20分ほど早いが、あの電話番号は公衆電話からのものだったから何処にいるのか、探しようが無いのが普通なのだが。
何となくふと体を後ろへと向けると、野球帽を目深に被り男物のダボダボとした服を着た、彼女がいた。
あの時の面影がある、しかしその目に浮かぶ星の輝きは以前よりも輝きを強くしている。
「お久しぶりですね。安室嶺さん!」
『なんか別人だと思ったけど、雰囲気で話しかけちゃったよ。あっててよかった。』
「良くわかったね。だけどあまり大きい声を出さないでもらいたいな、有名税でコソコソしなきゃならないんだから。それに、今の僕は安室透だよ。まずは、ランチでも食べながら話を聞こうか?」
成長しているんだろうが、栄養が足りてないのか身長はそれほど高くはない。一体何を相談したいのか。
「随分と変わったね。見違えたよ、この2年間でなにかあったのかい?」
「それ聞いちゃうんだ。そうだなぁ、あの後半年くらい経った頃かな、お母さん窃盗罪で捕まっちゃったんだ。元々前科があったらしくて執行猶予取り消し。それで、一年位で出てきたらしいんだけど。私を置いて何処か行っちゃったんだ。今は施設で暮らしてるんだよ?」
妙にテンションが高いな、無理している訳でもないか。だとすれば、何かに対する期待?か、この揺らめきは。
「ゴメンな。辛いものを思い出させてしまって。」
「全然辛くないよ。だって、お母さんは私を端から愛してなかったんだから。
それよりも、気になることがあるんだよねぇ。ずっと気になってたこと、ねぇなんだと思う?」
正直に答えるべきか否か。
「例えば?君のズボンの右ポケットの中に入っているトランプを使って、今私の持っているカードは何でしょうか?なんて、実験でもしたいのか?」
「スッゴい、本当に解っちゃうんだ。」
本心からでた言葉なのは解るが、だからといってそこまで感心することか?
「気持ち悪いとか、そんな事思わないのか?普通はづかづか勝手に人の心を覗かれると嫌な顔をするとおもうが。」
「でもさ、TVとかのはマジックとかでしょ?そんな力持ってる人、普通はいないよ?第一さ、私ずっっっっっっっと気になってたんだ、どうしてこの人は私が名前を言ってないのに私の名前を知ってるんだろうって。」
盲点だったな、この時代にNTなんてものどころか宇宙移民もいないんだからそういう思想があるわけも無いな。心を読まれたことある奴も、いるわけがない。
「なんか、相談する内容と違う話題になっちゃったけど、そろそろ本題に入りたいんだけど良いかな。」
「ああ、別に良いが。」
「私ね、アイドルにスカウトされたんだけどさ、どう思う?」
『正直、私にアイドルなんて出来るのか不安なんだよね。だって、怖いから。』
彼女の瞳を覗いてみる、心の声よりも瞳を見たほうが彼女の決意を見ることが出来る。美しい瞳をしている、まるで星のようだ。だが、何処か影があるようにみえる。
「俺がどう思うかか。例えばどんな相手に、どうスカウトされたかによるんじゃないかな。それで、今まで君はそのスカウトを断り続けてきたんじゃないのか?つまり、まだ本心でやってみようとは思っていない。違うかい?」
「でも、それってアムロの感想じゃなくて私の心理何でしょ?だから、アムロの答を」
はぁ、と息を吐く。
「じゃあ、例えばだ。ここで俺が無理やり君を、こちら側の世界に招き入れたとしてだ。君はそこそこ、やろうとはするだろうが、それが君の為になるのかと言われれば、俺はならないと思う。
なら、君の本心つまりまだ別にやりたい訳じゃないってことを、前面に出せば良いさ。やりたくないならそれで良いのさ。だから、自分に正直にね。」
「そう言うので…本当に良いのかな。」
俺は無言で首肯する。
「ところで、話は変わるんだが。俺も君に相談事があるんだ、事務所の連中だと妙に気を使って来るから、こっちが疲れるから相談出来なくてね。良いかな?」
「別に良いけどさ。芸能人が、こんな2回しかあったこと無い相手に、そんな事聞いてもいいの?週刊誌に載せちゃうかもよ?」
それを聞いた瞬間、笑いが込み上げてきた。可笑しいな。本気の疑問だな。
「今更それを言うのかい?君はたった一度きり、しかも数年前あったような相手に、こうやって相談を持ち掛けている。それってつまり、僕はそれなりに信頼されているって事じゃないのかい?
だから、もう僕も君も共犯者さ。」
「そう…かな。共犯者か、なんかムズムズする響きだね。
それで、相談事って何?」
俺は、高校に進学すべきか。それとも、しないほうが良いのかを彼女に聞いた。中3が小5に相談するという珍事が発生している。
「へぇー。アムロでもそんな悩みあるの。じゃあ、私からの返答だけど。自分の胸に手を当てて見れば良いんじゃない?そうすれば、答えは出てくると思うよ?」
「困ったな。そう返されちゃ僕も決断せざるを得ないじゃないか。そうだね、じゃあ高校までは進学してみるよ。大学は行かない、行かなくてもやりようはあるからね。」
それからは些細な事で話が弾んだ。食べてみたいもの、行ってみたい場所。彼女が本心からそんな話をできる人は、今までいなかったのだろう。注文をしつつずっと話をして
いつの間にか日がくれていた。
「もうこんな時間か、君の話からするとここから施設までそれなりにあるんじゃないか?どうだろう、送っていくが。」
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします。」
彼女との交友関係がこの日から始まった。
家に到着したら深夜2時を過ぎていた。
「よお、遅かったじゃねぇか。なんだ?女でも出来たのか?おい。」
「まあ、そんなところだよ。それよりもだ、何か封筒来ていなかったか?今日到着していると思うのだが。」
呆れて物も言えないのだろう。俺とはそういうやつだからな。
「で、これなんか凄いな。機械学会ってとこから来てたが。」
「やっと来たのか。ありがとう、スケジュールの組み換えがあるから貰っていくよ。」
家に入って、勝手に部屋へと戻る。後ろから、不機嫌なオーラを感じるが、今はそれを気にしているところではない。
「せめて、シャワー位浴びてから寝ろ。夢中になるのは解るが、お前は俳優だってこといつも言ってるだろ。」
「ありがとう、そうするよ。」
シャワーを浴びてから読むとするか。