[2023/5/7
非常に大きな建物の中、多くの綺羅びやかな装飾が目に入る。そこは、会食会場、日本中の財界人達が一同に介する場所。
そこにスーツを着こなした、一人の男がいる。
男は独り言ちた
「明日は誕生日だからな、今日中にケリを付けないと」
と、それを周囲に聞こえるように言ったか知らずか、周囲の幾人かは彼から離れて行く。
一人の少女が彼に近づく、彼女の声かけは意識の外から行われるもの、普通の人ならばきっと驚くだろう。
しかし、彼はそれを知っているかのように、彼女の方に向け振り向いた。男にとってその娘は自分の子よりも幾年か歳上である事が解った。
逆に少女は驚いた、社交界に縁のない男という触れ込みに、彼女の打算は淡く潰えた。
彼女は切り替える
「初めまして、私は四宮かぐやです。安室嶺さんでしょうか?」
「こちらこそ、安室嶺です。四宮というと、この会場を取り仕切っている、あの四宮財閥の四宮雁庵さんのご息女ですか。」
芸能人とは、プライドを持ち、上の者へは態度を図るもの。しかし、この男はそれをしようともしない。
彼女は会話のペースを握ることが出来ない、計画的に事を進めることも出来ない。父に言われた事すらも、まるで心を覗き込んで来るかのように、全てを対応してくる。
結果は彼女の戦略的、戦術的な敗北の筈だ。だが、引き分けにされた彼女は悔しがった、同時に父以外にも様々な世界に、化け物じみた奴がいることを知った。]
〜sideアクア〜
次々に現場へと入っていく参加者たち、皆高校生かと思ったが一人だけ成人もいる。色々と事情があるのだろう、深く詮索する必要は無いな。私の後に控えるのは、名前も聞いたことのないものだ。次に私の番か。
髪はこんなもので良いのだろうか、セミロングの髪をサイドバレッタで止めるだけだが、これだけで印象は変わるだろうか?
今回は胸潰し用に作った特注品のインナーもサラシもしていないし、ブラジャーをまともに付けるのはまだ服装の工夫だけで胸の膨らみをどうにか誤魔化せていた中2以来だな…。
中3に進級するのとほぼ同時にサイズがEカップに達してからはそれも通用しなくなってサラシをせざるを得なくなってしまったからな。しかし、ブラというのはこんなにも違和感があるものだったのか?インナーやサラシのように窮屈でない分、これはこれで楽だが…。
合図があった、そろそろ私の番かガラガラと戸を開け教室の中へと入っていく。
「星野アクアです!一応女優やってます!皆さん今日からよろしくお願いします。」
深々とお辞儀をする。どこまでも礼儀正しく、そう父様は言っていた。
私を作っているものをさらけ出す、今までの私は男役を作っていたのだから、本当の私を見てほしい!
「あかねちゃんと同じだね〜、女優さんなんだ〜。あかねちゃんとは面識あるかんじぃ?」
「いえ、あかねさんは舞台女優。私は区分としては映画女優となりますので、今日始めてお会いしました。ですので、皆さんと一緒に仲良くなれたら良いなぁって思ってます!」
〘明るくハキハキ〙と自己紹介をしよう、母様がそう言っていたから。長らくこの〘私〙を他人に見せたことがなかった、かなちゃんとフリルちゃん、みなみちゃん以外には、皆はこの私を受け入れてくれるだろうか?
私の後にもう一人いたはずだ、見たこともない人物だったが
「
小柄で少し声も高い、中学一年位に見えるが…だがこれで高2とは?
所属は確か、〘カミキプロダクション〙だったか?聞いたことのないプロダクションだ。きっと出来たのも最近で、芸能事務所としては日が浅いのだろう。
彼は純粋な人だ、ただ周囲に馴染もうとしている心に私は、少し好意を抱く。
男3人に女が4人、バランスとしては良くはないがこれは三角関係を狙ってのことだろう。だがしかし、一人だけ場違いな存在がいる。〘MEMちょ〙彼女に恋愛願望は皆無だ、この時点で3対3は確定している。
メディア用の〘自己紹介〙の撮影が一段落するが、このまま撮影は続行される。これはそういうものなのだ、だから皆が皆演技を続行する。偏に、ここでキャラ作りというところなのだろうが、私はそういう事をするために来たのではない。真の目的は二つ…一つはあのミヤコさんの中に見た恐怖の根源の手掛かりをつかむべく私の知らない父様と母様の秘密の関係を鏑木から聞き出すこと。もう一つは学校ではもはや望めない、友人を作る為に来たのだ!
……
メディア用の自己紹介だけでは、私達は互いに理解し合えない。そこで調整役を買って出たのが、恐らく最年長、サバを読んでいるMEMちょだ。一人一人、仕事の事や互いの趣味等を話していく。
暫くすると私の番が来る。
「先程言いましたけれど、私の職業は映画女優。もっとも、マルチに手を伸ばしていまして、テレビ女優や舞台でも何度か経験があります。
勿論、黒川さん程の腕はないでですし、私は専ら男性役ばかりやってましたので…でもね?本当は女性役をやりたいですけどね。」
「男役ばっかりって、大変だね。僕も声優として女の子役やったことあるけど、別性って大変だよね。」
あぁ、解ってくれるか。そう、大変なんだ。小学生時代は男役としての役作りの一環から初対面ではまず確実に男と間違われるくらい今以上にボーイッシュな風貌と恰好をしていたが、5年生になった頃から成長期の男子に負けない勢いで急激に背が伸び始めるのと同時に胸が微かに膨らみ始め、そこから身長と共に次第に大きくなっていたそれは6年生に進級した時にはルビーを始めとする他の女の子よりも一足先にブラジャーを付けることを余儀なくされるくらいのサイズになってしまった。
しかし、それも服装を少し工夫するだけで何の問題もない範囲でこの時は胸よりも身長の方に意識が向いていた私は、内心男子に負けない体格を手にしたことの方が嬉しくて、当時のルビーとかなちゃんにも自分の体格を少し自慢してしまったくらい高を括ってた。
が、すぐにどれほど自分の考えが甘く浅はかだったのかを本格的に思春期の真っただ中に突入する中学入学位から思い知ることになる。身体の成長が第二次性徴期に入ったことにより大人へと向けていよいよ真の発育が始まって急速に身体も女性になっていくから、小学生の時とは比べ物にならない勢いで胸も大きくなってホントに色々とここからが大変だったんだよ。
中学1年になった直後には母様よりは背は低かったが、胸の方はCカップと一般の成人女性並になっていて、そこで初めて一抹の不安を僅かに覚えたものの気に留めなかったが、やがてその不安は的中する形で急速に背丈が伸びるのに合わせて胸がその勢いに合わせてサイズアップしていき、それまで男役で売ってきた私にとっては死活問題だったので、頼むからもう十分だこれ以上大きくならないでくれとそれまで祈ったことのなかった天に初めて祈った。
にも関わらず、中学3年生に進級してからおよそ半年を過ぎる頃にはFカップに成長してしまい、もはやサラシを巻くだけではジャケットどころかコートでも纏わない限りこの大きな膨らみを隠し切れなくなったことでこの世に神はいないと悟った。
仮にいたとしてもその神の性格はろくな者じゃないことを痛感した私は悩み抜いた末に母様とミヤコさんに恥を忍んで頼み込んで、なるべく体に負担を掛けずに胸を潰せる私の為だけの最新かつ特別なインナーをオーダーメイドしてもらった。
市販のものを含めそれまでのインナーでは、試してみた所サラシと併用すると胸の圧迫感が凄まじく呼吸もままならず、とても演技をするどころではないからだった。
正直インナーに関する専門知識のない私でもかなり無理難題なオーダーであることは分かってはいたが、それでも他に縋れるものがもう無かった以上そう注文せざるを得ず、案の定大手を含めた大半の下着メーカーから無理だと断られたが、その無理なオーダーをある新興企業グループに属する下着メーカーだけが引き受けてくれた。
もはや絶望の淵にあった私にとって藁にも縋る思いでそのメーカーを信じるしかなかった。しかし、そのメーカーは無理な要望だったにも関わらず見事に応えて見せてくれ、その私の為だけに作られたインナーとサラシと併用することで体のラインが出ないゆったりとした服装でさえあればFカップの胸をも潰し隠すことが出来たことで、それを初めて付けた時の嬉しさのあまり少し涙が出てしまったほどだ。
が、とにかくそのインナーの御蔭でどうにかこの間の思い出すのも忌々しい出来の今日あまのドラマまで無事乗り切ったがそこには一つの誤算があった。
それはそんな都合が良い超高性能のインナーをオーダーメイドするのに必要不可欠だった最近開発されたばかりという新素材の入手もそれを上手く扱ってそのインナーを制作してくれた例の企業グループに属する下着メーカーの紹介も父様の伝手の御蔭で実現したものだったせいで、私の悩みが母様経由で父様にバレてしまい、それでこの間の大喧嘩に繋がってしまったのだが。
しかし、それよりも深刻で辛いのは生理だ。一番辛い時は立って歩くのもキツイ程にしんどく、胸の方は先に述べたように苦労こそあれど創意工夫で何とか対策できるものであったが、生理現象は流石に手の打ちようがなくどうしようもない。
それでも男役はしっかりとした足取りで歩かなければならないから、対策はやせ我慢しかなく、初体験の生理の時はよりにもよって五反田監督が久々にかなりの予算を掛けた映画の撮影と運悪く重なり、今後の役者のキャリアを考えると、絶対に逃がしたくなかった私は生理痛のことを押し隠して出演を決意した。
もう泣きたくなるのを必死で堪えながら演技をやりきったもののその日の撮影終了直後に精魂尽きて倒れてしまい、救急車が呼ばれる程の騒動になり、意識を取り戻した病室で待っていた五反田監督とそれぞれ仕事と学校を早退してまで病院に駆けつけてきてくれた父様、母様、ルビーに
「なんて無茶をするんだ!!」
としこたま怒られたなぁ…あの時は本当にもう地獄だった。まぁその地獄を乗り切ったかいもあって痛みに耐えつつ行ったからこそできた迫真の演技による例のシーンが一部の映画評論家等の目に留まって高く評価され、それまで絶無であった役者としての知名度というものをそこそこだが手にいれることができた。
それ以降は出る作品こそマイナーな域は出られずにいるが、これまでのような端役ではなく脇役を任せてもらえるようになったことで役者としての私のキャリアアップに繋がり、それがあのシャイ○ングもどきの映画でトップタレントのフリルちゃんとの共演にまで繋がったのだから心配をかけたみんなには悪いが後悔は全くしていない。
なので、今回のバラエティの初挑戦もちゃんと目的を達成した上で私の芸能人としてのキャリアアップにも繋げて見せる。アイドルとしての幸せ、女としての幸せ、母親としての幸せを有言実行の末に手に入れてみせた母様のように、その娘の私も欲張りなんだよ。
でも、私はずっと男役をやってきただから…女役には正直言って自信がない。今更だがこんなことなら、恥と外聞に拘らず女役の演技指導も受けておけばよかったかな。
「ねぇ、どんな趣味あるかMEM、聞きたいな〜。」
「そうだな〜、よっと。このバッグについてる、兎の毛糸のリアルストラップあるでしょ?これ、何処かで見たことある?
皆、無いでしょ?これね、私の自信作なんだ〜。」
一同驚いてくれた、非売品だもん。
「私さぁ、小さい頃からこういうの好きでさ〜、お婆ちゃんに裁縫教わったんだ!それでね、えっとこの画面のさこれとかさ全部手作りなんだ〜♪」
「へぇ、女子力?高いんだねぇ、もしかして料理とか洗濯とか掃除も?」
「あたり前だよ!健全な心は、清らかな部屋から始まるんだよ!母様がそう言ってたんだ!」
一同が唖然とした顔になる、何かおかしな事を言っただろうか?
「自分の母親を母様っていう人、始めて見た。ねぇ、アクアマリンっていうのが本名なんだよね?じゃあ、アクアじゃなくてマリンちゃんって今日から呼ぼうよ!その方が可愛いよ!」
マリンちゃんか〜、良いなぁその響き。皆私の事、アクア、アクア言うからすっごく新鮮。
「いいねぇ~それ、じゃあこれからはマリン!って呼ぼう!」
私は今日からこの場では、マリンでいよう。その方が、気を抜けるから。
撮影も少しずつ進んでいくと、皆各々素が現れてくる。私は最初から全力で演技を放棄したから、そんなもの関係ないけど。
一人だけ、まだまだなりたい自分を探せない、そんな人がいた。〘黒川あかね〙劇団ララライの天才女優。若手のホープ。そんな肩書を持つ彼女、どうやらこういう場は苦手のようだ。
これまでの様子を見るに素の彼女は良くも悪くも人間関係においては受け身のタイプなんだろうな、しかし今回みたいに積極的に自己主張することが大事な場ではそれは仇となる。
台本、もしくはなりきれるキャラクターがいて、始めて輝けるタイプか…。ここは1つ助け舟を出そうかな?
「ねぇ、あかねさん?少しお話しない?」
迷っている時に道を示すのは悪い事じゃないでしょ?父様。
〜sideアムロ〜
「君塚翼…カミキプロダクションね。何か、アクションをすると思っていたけど、こんなやり方か。非合法でもなければ、外道でもない。正道で真っ直ぐな少年を出してきて、奴は何を考えているのか。アイはどう思う?」
「そうだね〜。多分だけど、アクアは目立ちすぎちゃったのかも知れない、悪い意味で。
あの生理騒動の時の映画の演技が評価されたのが切っ掛けでそれまでの端役から脇役に格上げされて、メディアへの露出はそれなりに多くなったけど、それでも知る人ぞ知るってレベルでコアな映画ファンの人たちの間では人気だけど、一般的には広く知られてない。
でも、そのポテンシャルはあるから、それを引き出したあとに…なんて事も考えているのかも。」
アイにしては鋭いな、俺たちはこの12年間ただ眠りについていたわけじゃない。シラトリの置き土産、いや本来の脅威である神木ヒカル。奴の出方をずっと観察してきたが、こういうやり方もあるか。
「批判のしようがないな、彼はただ仕事を斡旋しているに過ぎないし、恋愛に発展すれば親も口に出すのが難しくなる。だとしてもこんなにも見え透いたやり方をしてくるとはな。」
「うん、昔よりもずっと賢くなってるね。やっぱり経営者になると、何処かで効率化を図ろうとするのかもね、私が変わったみたいに、向こうはもっと、表面は綺麗にやろうとしてるのかも。」
神木ヒカル、嫌な相手になったな。君塚翼がハニートラップで無い確証はない。
一度直接あって話をすれば解るか?だが、流石に俺が現場に行けば色々と不味いかも知れないな。
どうしたものか。
そう言えば、このMEMという子何処かで見たことがあるような…確か数年前、家のプロダクションに応募写真が来ていたような。その時は既にアイドル部門はなかったから、確かお詫びの通知をしたな。だとすれば、彼女は25くらいか。
「なんか、悪い事考えてない?」
「いや、もしもの時の打開策をね。一人に託してみたいと思ってね、もっとも杞憂ならそれでいい。」
〜かな〜
後に重圧を感じながら、アクアの恋愛をこの目に焼き付ける。皆さん、大恋愛を超えて結婚してらっしゃるから!こんな演技の塊見たいな番組なんか目じゃないはずでは?
「かなちゃん、そうじゃないんだよね〜。アイの娘だよ?私達はさ、昔からこの子達のことを見ているわけよ。解る?半分はお母さんみたいなものだからこそ、こういう物に出ているのは不安になるものなの。」
「そうそう、私達にとっては娘も同然なんだからっと。はい、ルビーちゃん用の衣装の出来上がり〜、早く着てみて!昔、壱護の馬鹿社長に言われて着れなかった衣装を、今風にアレンジしてみたんだけど、どうかな!?」
衣装を着たルビーの姿は正しくアイドルのそれ、この華やかさにもう少し音程があればな〜。
ゴテゴテしたフリフリも少なく、アイドルのそれとしてはそれなりに質素な衣装に見える。でも、一人ひとりに特徴をもたせたそれは確かなセンスを感じる。でも、
「どうして、3着なんですか?」
「例外もいるけど、基本的にアイドルユニットは奇数がもっとも輝く、二人よりも3人デュオよりもトリオなのよ。」
ダンスの見栄え的な?振り付けも確かに3人のほうが綺麗には見えるかもしれないけれど。
「ですけど、一人増やすのは難しいんですよ。学校の子達は、基本何処かの事務所に所属してるし、普通科の子達は垢抜けてないし、そんな子何処にいるんですか?」
「うん?いるじゃない、画面の中に。インパクトがあって、アイドルに憧れもってそうなそんな子。」
誰よ、いや一人だけフリーの子がいる!MEMちょだ!