[2025/11/4
その日男にとっては大切な日だった。この世界に生を受けた、その記念日。
一人では盛大に祝うこともなかったその日、家族とともにその日を謳歌する。
そんな日の中で変わった出来事が目の前で起きている。数日前はあまりの馬鹿らしさに言うのもおこがましい、そんな格好をしていた女がパソコンとにらめっこしている。
百面相をする彼女が何をやっているのか、彼は興味深そうに見た。細かな文字をびっしりと書き連ねている。
行間や台詞回しを見るに、〘小説〙を書いているようだ。
文章を読み勧めていくうちに、だんだんと内容を把握していく、あまりにも見たことのある情景文字を読み解く程に、それが思い出されていく。
「何を書いているんだ?」「これ?これね、アムロの半生」
彼のこの世界での半生ではない、産まれる以前の半生。
「どうしてそんなものを書くんだ?」「私が死んじゃったらさ、貴方の本当の事を知ってる人って、いなくなっちゃうじゃない?だから、物語としてでも貴方の真実をこうやって書きたいんだ。駄目かな?」
男に彼女を止める通りはない、しかしそれでも一つ言いたいことがあった。
「この部分だが科学考証が間違っている、だから。書き直すよ、君が解らない部分は俺が解説を入れておく。」
二人は暇な時、子供たちの相手をしていない合間作業を行う。
後年のアニメ・実写・小説・漫画といった多くのメディアにおけるロボットSFに多大な影響を与えた作品。
星野アイ 著:安室嶺 科学考証
誰もが最初はただのアイドルが書いた、興味本位の物だろうと思った。]
〜sideかな〜
「それでね?あかねちゃんの演技なんだけど、私を真似てくれたんだ⤴、それはもう似ててね影武者として傭いたいくらいでさ!今ならわかるよ、かなちゃんが私と初めての共演で泣いちゃった時の気持ちが」
「あ〜、煩いわね。アンタは二言目には、あかね、あかねってどんだけアイツのこと好きなのよ、ったく。皮肉にも程があるわね、あの時あんたに鼻っ柱をへし折られた私を真似て役者になったあの子がまさかあんたの鼻っ柱をへし折るなんてね……色々と複雑よ。
私は自分自身の演技であんたにリベンジしたかったってのに。
で?今日はあーちゃん家にそのあかねもいるのね。嫌だわ〜同業者、向こうは劇団では知らない人はいない天才。私は枯れた凡才、比較されたくないわ。」
「かなちゃんは凡才なんかじゃない!かなちゃんの演技を潰したのは大人達なんだよ?だから、かなちゃん。私にまた輝きを見せてよ!私だけじゃない、あかねちゃんだって昔のかなちゃんの演技をまた見たいって……」
『ほえー、なんか仲良さそうだし間に入り辛いな〜』
「みなみちゃんから見てもどう思う?かなちゃんは結構可愛いし、歌もダンスも出来るんだよ。それなのに、売れないなんておかしいと思わない?」
「私もそう思うけどな〜、せやかて役者の世界も色々ある言いますし、運も実力の内って良いはりますから…なんとも言えんです。」
あーちゃん、私を庇おうとしてるのか、貶そうとしてるのかどっちかにしてもらうと嬉しいのだけど。
それに、もうそろそろ付くのよね。まさか、この年になってパジャマパーティーなんてすることになろうとは、人生色々とあるわね。
「ちなみに母様達は、26くらいでパジャマパーティーをやった実績があるから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ?」
そういう話じゃないんだけどなぁ。そんな時、あーちゃんが膝に抱えていたハロが、「アクア、カナ、センサーニハンノウアリ、ルビータチガキタゾ」
あ〜あ付いちゃった。
「うん!もう皆いるみたいだね!」
「本当、人探すのは便利よねそれ。さらにそのハロが合わさればもう鬼に金棒状態じゃない」
「なんや意味わからんこと言うてはりますけど、どういう事何でしょ?」
あちゃー、この子まだ説明されてなかった?いやいや、それでも連れて来たってことは話そうとしてるってことでしょ、この子がどういう子かは解らないけど、信頼しているってことでもあるから…、大丈夫かしら?
「「「おじゃましま〜す(ただいま〜)」」」
「あ、お姉ちゃんおかえり。二人共来てくれたんだ、嬉しいよ!さぁ上がって、あかねさんとゆきさんももう来てるから。」
「ルビー相手をしてくれてありがとう。父様も用意してくれたみたいだね。」
相変わらず、会話のショートカットね。ルビーの方もだいぶ慣れたみたいだけど、ちょっと注意しとかないと。二人共会話が周囲にあまりにも不自然に聞こえるから。
「先輩ありがとう、気を付けるよ」
本当に理解しているのかしら。
部屋に入るとそこにはアクアの今ガチの共演者がいた、一人は私も良く知ってる舞台演劇の天才、黒川あかね。
鷲見ゆきの方はあまり知らないけれど、結構策略家の娘ね。
「こんにちは、アクアから聞いてると思うけど、彼女の同僚兼友達やってる有馬かな、よろしく。」
それぞれ自己紹介をして、いざ何か話そうとしたら黒川あかねが私に話しかけてきた。
「かなちゃん、ちょっと良いかな?色々と二人で話したいことがあるんだけど。ちょっと外行こっか。」
あかね、そんなに慌ててどうするの?だいたいそんなに焦ってると、心が駄々漏れになるわよ。あんたも天才と謳われる役者なんだからこういう時こそ表面上は取り繕うなりしなさいよね。
玄関外に出ると矢継ぎ早に質問してきた、曰くこの家の人は何処か普通じゃないんじゃないか、マリンちゃんは本当に大丈夫なのかとかだ。
「私、どうすれば良いと思う?長いことマリンちゃんと一緒に、色んな作品に出てた貴女だからこそ頼りにできるって!」
「そんなの別にどうでも良いんじゃない?それがあの娘にとっての日常だし、私達にとっては非日常なだけ。あんまり深入りすると戻って来れなくなるわよ?」
「じゃあ、かなちゃんは何か知ってるの?今はマリンちゃんの友達として聞きたい。」
曇天の空を少し眺める、別に意味はないけれど少し思案するだけだ。もう時間も時間ね、あの人が帰ってくる。
そろそろ雨が振り始めるわね。
「知っていたとして、貴女に教えるのは私じゃなくあーちゃんよ。だから、話せるくらいの間柄になってみせなさい。でないと貴女とあーちゃんの為にならないわ」
むくれても駄目よ、どうせ私達じゃ彼女達の感覚は解らないんだから。
「あれ?かなちゃんだ〜、どうしたの?あっそっか、今日は友だち皆でお泊りだったね〜。いや〜、ごめんごめん忘れてたよ〜。」
出たわね爆弾第一号、たぶんあーちゃんもルビーも話を通してない。寧ろ、ここ今日バラすつもりだ。秘密の共有程に、互いの親密度を上げる方法なんて無いのだから。
横にいるあかねを見ると、口を半開きにして件の人物を見ている。
なんか小声で「嘘…当たっちゃった」
なんて言ってるし、まったく。
「それじゃあ、ご飯作るから皆はここで待っててね〜」
と言って私達全員はリビングで待機することになると…
「ねぇルビーちゃん。あれが、よく言うママ?星野姓だからもしかしてなんて思ってはりましたけど、まさか本当に星野アイだったんなんて。びっくりしますわぁ。」
最初の印象なんて皆一緒よ一緒、安室嶺と星野アイが結婚してその子供が二人なんて、誰も知らない事だ。公表してないだけで、本人達は隠す気が全く無いようだけど。
2階の方から音が聞こえる、彼が降りてきたようだ。もっとも誰も伝えてないはずだけど。
……
「皆、今日は来てくれてありがとう。私こういうのやるの始めてで、少し緊張してる。改めて、私の友達になってください!」
彼女の友達には2つの意味がある。一つは遊び仲間という意味の友達、もう一つは家族を紹介できるような親友という意味の友達。
自分の出生の秘密を、言える相手がどれ程信頼されてるかってこと。
そして、たぶん3つ目の意味を持つ、〘能力〙のことを打ち明けられる相手。私はルビーから聞いたけど、それでも知ってるのと、知らないのとでは私の方がまだ信頼されているのね。
《友達は秘密を分け合うものだから》
小学5年生の時に始めて彼女から、家族のことを打ち明けられて、思ったことは。
《あぁ、やっぱりそうだったんだ。》
仕事になるといつも付いてくるマネージャーミヤコ。彼女の顔と双子の顔は似ても似つかない。それなのに、自分の子供と言っていた光景、確信があったのだ。アイさんと彼女達の輪郭はあまりにも似ていた、唯一の違いは髪色だけ。安室嶺の髪色が金髪だと判明したのもその時だった。あの時は、きっと不安だったに
「かなちゃん?おーい、話聞いてる?」
「え?えぇ、ごめんなさい。ちょっと耽ってた、で何だっけ?」
「明日の撮影、皆で見学してみませんか?言うてはるんです。なんでも、お二人のお父さんが取り次いで下さったとかで。ウチの事務所とも話し付いてるらしいんやん。」
なんか凄い話じゃない。ルビー、顔を売るチャンスよ。
「本当はママも同伴する予定だったんだけど、パパだけしか来れそうもないから、私達の監視として来てくれるみたい。」
あの人が一番目立つんじゃないかしら。
〜sideアムロ〜
ここが今ガチの現場…恋リアなんて縁のない人生だったからな、俺とアイの人生のほうがよっぽど作り物のようだよ。
向こうから迎えに来てくれるとは、鏑木。
「おーい安室君、こっちだ。集合時間ちょうどだね。それで後ろの子達が。」
「はい、苺プロ所属アイドル星野瑠美衣です。今日はよろしくお願いします。」
「同じく有馬かなです。お久しぶりです鏑木さん。」
「キャノンファイア所属の寿みなみです。よろしくお願いします。」
奴の目に光が宿る、なるほど琴線に触れたか。来年か再来年辺りに、予定を組もうと画策しているな。
「今日は見学という形で参加させていただきありがとうございます。皆様のお邪魔にならないよういたしますので、よろしくお願いします。」
「そんなに畏まらないでくれ、君とした契約があるんだ。私の推しのマンガ、それのドラマ化を成功させたいと。まぁ、有りもしない欲が疼いてしまってね。
では、気を取り直して現場を案内しよう。」
なるほどな、番組の収録とはいえ普通の学校か。確かにセットに要する金額よりもこちらの方が安上がりだな、私立の学校ならではの自らの宣伝も兼ねているな。
「今はちょうど収録中なのだが、ここからならカメラに映らない角度だから色々と見えるだろ。
休憩時間に皆を紹介しよう。と言っても、安室君なら何も言わずとも全員の素性を解っているだろうが。」
「買い被りすぎですよ、俺にも知らない事は山程あります。特に、彼等彼女等の内面に関して言えば、未だ話をしたことすら無いのですから。」
半分は真実だが、半分は嘘だ。MEM以外の女性陣とは昨日、接点があったばかりだ、数回話をしたが薄暗い裏を持っているような人物はいなかった。
後は、件の君塚翼。奴の正体が何なのかそれだけが気になるものだな。
おっ?アレは…
「ちょうどアクア君と翼君ペアか、いつまで経っても関係が深まる事もなく、微笑ましい光景だそうだよ。正直、恋愛とは程遠いな。」
そうだが、アレが翼か…この感覚はなんだ?既視感か、俺はどこかで奴を見たことがある?だと?だが、あんな子供俺の今世の記憶には…では、前世。アムロ・レイとして俺が経験した中でいたという事か?だとすれば、いったい。
あの後、急いでシャアにも奴から手渡された衛星携帯電話を通して連絡したが、案の定奴も驚きを隠せず
「すぐにスケジュールを調整して時間を作り次第こちらから君たちの所へ出向こう。
私達以外の転生者がこちらの世界に訪れる可能性については元より憂慮はしていたのだがな……まさか君の子供に直接その手をかけてくることについては思わなかった、これは私のミスでもある。
この際だ、同じニュータイプとして目覚めた君の子供達に私も自己紹介しておいた方がいいだろう。君は私がそちらに着くまで可能な限り、その君塚翼のことを探りつつ時間を稼いでくれ」
とそう言って、電話を切った。敵に回すと恐ろしく厄介だが、味方になると頼もしいからな。こういう時のアイツは今でも信用できる。普段もこうであってくれれば、俺も昔のわだかまりを解けるというのに。
まるで空白に取ってつけたような人格だ、何も無い。それどころか、自己を形成しているものが存在しない?アクアの言っていた違和感とはこれか……
強化人間…それに近しいが、この感覚はヤツに似ているという事か?だが、ヤツのような狂気そして劣情とも程遠い。
さしずめ〘ネモ〙とでも言おうか。
「それで、アクア君を毎回助けに来るのがケンゴ君、何も入れ知恵はしていないのだが、もしかすると本当にそういう関係を願っているのかも知れないね。どうした?」
出身はアイと同じ施設の子供だったらしい、それも乳幼児の。産まれたときから独り身であり、親はどういう経緯で彼を捨てたのか。アイとは違い、本当の意味で親の愛を知らない、名すら彼は付けられていなかったという。
翼…奴の目的は何だ。アクアの内側、彼女になる前の誰かを再形成させようとしているのか?だが、欠けてしまったものを元に戻すには、ピースが足りないのではないか?しかし、仮にピースを揃えてその誰かの人格をアクアの中で再形成させて何をしようというのか?
いずれにしろ、そんなことになれば良くてアクアは二重人格となり、最悪再形成されたその誰かに侵食されて、現在のアクアの人格が消滅しかねない。それだけは絶対に阻止しなければ。
「いや、少し思うところがあっただけだよ。」
ルビー、俺を覗いてくれるなよ。今覗かれたら、きっと君にとってトラウマになるような記憶が見えてしまうから。
「天才だなんだと言われているが、君も人の親なんだね。」
「茶化さないで欲しいですね。」
翼…一度、一対一で話してみる必要がありそうだな。奴の価値観、それを聞いてみたい。そして、神木。彼が何故彼をここに寄越したのかを。