[2026/1/1
正月というものは厳かに過ごすもの、神社へ初詣に行ったり家の炬燵で丸くなったり。正月太りをする。
そんな日々を満喫するのが普通だろうが、ある一家は違った。まず家の内装、飾ったのは縁起物ではあるもののそれは、正月飾りではなく、誕生会のリボンである。
そこにはデカデカと太筆で初詣替わりなのか、
〘お誕生日おめでとう〙
と書かれている。
そう、星野アイの誕生日は正月なのだ。目出度い日に生まれたその身、彼女を祝うのは最愛の夫、最愛の娘たち。そして、最愛の母だ。
毎度の事のよう母親は涙を流し、娘達はスノードロップを束で渡し、夫は今どき珍しいシンプルなアナログ時計を、左腕へとつけた。
そして一言言った。
「皆ありがとう、これでまた1年頑張れるよ!」
と言い放った。そして続けていった。
「お母さん、そろそろ私達と一緒に暮らさない?もう、歳も若くないんだし」
母親は否定する。自分のけじめは自分で付ける、娘の世話になって後悔したくないと、自分の事は自分で精算すると。
それを聞いて彼女は、頷くしか出来なかった。]
〜sideアクア〜
「ケンゴ君、この前の音楽…ありがとう。素敵な音だったよ、心に少しずつ安らぎを与えたくれるような、そんな楽曲。
私、貴方の創った別の曲も聞いてみたんだけど、その中にそんな曲なかった。だから、きっと私の為に創ってくれたんだよね?
嬉しいよ///だから、お礼にコレ。」
「何?宝石?」
私は大きく頷いて、彼に宝石のネックレスを上げた。もっとも飾りっ気のない、地味な黒色の宝石。オブシディアン。
彼は気にいるだろうか?私にはこのくらいしか、返せるものがない。昔、父様にねだって買った宝石。黒く光沢のある勾玉、それがどうしても美しく、暗く輝いていたから。
「オブシディアン、黒曜石。意味は今は教えられないけど、私の大切なものだから。大切にしてね?」
……
「は〜いOKです。いや〜良いね、2つ目のカップルが出来上がってきてるって感じで。」
「そうなんでしょうか?私は恋愛なんてしたこと無いので、こう、いまいち実感が湧かないんです。勿論、楽曲に関しての感想は真実ですし、ケンゴ君に関して感謝の気持ち嘘偽りはありません。
ただ、それが恋愛感情かと言われれば…正直自信がありません。」
『恋愛など…反吐が出る。』
『始めは私に期待を抱かせて、最後の最後に私を裏切る…!』
『嫌いだね、そういうベタベタしたのは…! 続きは天国とかでやるんだな!!』
誰だろう…私にこんな感情を寄越すのは。周囲の人の視線を辿っても、その感情の持ち主が見当たらない。私にしか聞こえていない以上、必ずいるはずなのに誰が私に語りかけているのかな?
「俺は実際にお前が良いと思っているけど、そんなお前を振り向けさせるのは難しいな。
なあ、なんで恋愛をしたことがないって断言できるんだ?」
「それは、別に断言してるつもりは無いけれど…何故か男が怖いんだ。特にそういう恋愛とかそういうのに絡むと、途端に普通に話してたことも出来なくなる。
トラウマか何かだと思うんだけど、でもそんな記憶ないし」なら、俺がそのトラウマを克服させて見せる。」
頼もしい事を言ってくれるし、それが本心だって解ってる。頼もしい人だって、私を守ってくれようとしているんだって、私も解ってるんだよ。でも、どうしても怖いんだ。いつか、そんな人が私の前が姿を消し、別人となって現れるんじゃないかって。
『やはり裏切りかい?●●●』
『●●●、私と来てくれれば…』
そうなったら、私はどうなるのか。私の中が変質してしまうかもしれない、そしたら皆とも疎遠になるかもしれない。私はそれが、限りなく怖いんだ。
『…私はいつも一人だ…』
「ケホッケホッ!ハーハーハー」
『人は生きる限り1人だよ。人類そのものもそうだ。お前が見せてくれたように人類全てがニュータイプになれるものか!その前に人類は地球を食いつくすよ』
なんでだろう、そう思うと息が苦しくなる。あれ?おかしいな、目の前がチカチカして、今までこんな事無かったのに…地面がグニャグニャに感じる。なんで、あ…これ倒れるな意識が……とん………
『ナタリー…ごめんね』
「おい!しっかりしろ!おい、アクアマリン!」
………
気が付くと私は白い世界にいた、こんな世界は初めてだ。あの父様が苛立ちを覚えていた時間の止まった世界とは違う、これはなんだろうか。夢?なのかな。
私の正面には私が出会ったことのない、淡く黄金色に光る髪を靡かせ、その女性が私を見つめている。
誰?貴女は私の何を知っているの?私は、貴女にとっての何なの?私は…誰だったの?ねぇ、ナタリー。私は…私は誰なの?
彼女は音も立てず、私に近付いてくる。私はそれに一歩後ずさる、そして彼女は私を抱きしめる。まるで、久し振りにあった家族のように、親友のように。ナタリー…貴女はナタリー。では、私はいったい誰なのか、もしもその事を思い出しても私は変わったりしないのだろうか…。
『も・・・・・・す。だから、・・・・・・・・・・さい。
ハマーン。わ・・・、あ・・・うら・・・・ま・・・ら。』
………
「アクア、愛久愛海!!」
目を開くと優しげな父様が、血相を書いて私を見下ろしていた。どうやら私は倒れて、ベッドまで運ばれたらしい。幸いなことに、ここは学校。保健室があって良かった。
そう思っていると、父様が私を抱きしめた。凄く力強い、私を離すまいとまるでそう念じるように。
「父様…痛いです。」
「すまないね、心配になってさ。だが、もう大丈夫そうだね。」
そう、私は撮影の後…あっ!慌てて周囲を見回すと、皆だけでなく、スタッフの人達まで私の近くにいた。そうだ、今日撮影!
「す、すみません。撮影続けないと、ごめんなさい。突然倒れてしまって、本当に…」
「謝る必要は無い、俺の方から色々と言っておいたから。それよりも、何処も怪我無くて良かったよ。もしもの時があったら、彼女になんと言えば良いのか、解らなかった。今日のところは帰ろう。」
そう話していると、ゆきが突然現れた。
「大丈夫!!本当に、なんで私達に言わないの?体の調子が悪いなら言ってくれれば良いのに!私達、もう貴女の友達なんだよ!少しぐらい、相談してくれても良いのに!」
打算無しに本心でここまで言ってくれる、本当に優しい子なんだなってそう思う。
「ごめんね、なんか突然発作が起きて。なんでだろう、私別に身体の何処も悪くないんだけどね、今から病院に行って来るけど。大丈夫、撮影も続ける。心配させてごめんなさい。」
「愛久愛海、コレ。聞いてくれ、少しでも心が落ち着くなら。」
ケンゴ君…そうだね。自分のせいじゃないかって、思わせちゃったかな。
『二人っきりで話したかったのだ…少年』
『●●●●か、なるほど…お前と私は互いに引き合うものがあるようだな』
え、何なの?今の光景……前に出てきた赤い人とは違う……大佐じゃない。ましてやナタリーでもない。私よりも年下の男の子……?
「ありがとう、病院行くまで聞いてみるよ。ケンゴ君のせいじゃないからね?」
『ニュータイプならば私に従うべきだ。そうだろ…?●●●●●●●●●…』
『我々が敵対する理由など何もない…我々は同じニュータイプなのだから…さあ、私と共に来るのだ』
何だろ?大佐とも歳の差があったけどあの赤い人はいい歳をした大人だったのに、目の前の子はまだようやく思春期を迎えたばかりと良いって言い年頃の子供だ。
でも目の前の子供のことを想うと胸が暖かくなってくる。お父様も…お姉様も…ゼナ様も…大佐も…ナタリーもいなくなって心にあいた穴があの子の存在で埋められていく……
「おい、ホントに大丈夫か!?愛久愛海!!」
ハッとなって現実に引き戻された私は周りを見渡す。ケンゴ君を始めみんなが改めて私を心配して見下ろす中で父様は翼君を見ていた、その翼君は私を見て一瞬笑った。まるで無邪気な子供のように。
………
気だるい身体、アレは夢だけど。あの人は夢じゃない、その答えを知ってる人がいる。
父様の車に揺られ、病院への道中そう考えた。
「ねぇ、父様の知り合いの人に会わせて欲しいんだ。そしたら、私のこの記憶の欠片の意味。少しでも解る気がするから。」
きっと父様の知っているの、赤い人?……大佐なら前の私を知っている気がする。そうすれば、夢の人の事も、その人が抱いていた深い哀しみの理由も。少しは解る気がするから。
「嫌だと言ったらどうする?俺は、君がいなくなるのが怖い。」
「私なら大丈夫だよ→。私は俳優、安室嶺の娘。星野愛久愛海それ以上でもそれ以下でもないんだから!だからね、お願いします、それが私が乗り越える唯一の方法だと思うんだ。」
私は私、絶対にハマーン・カーンにはならない!
〜sideアイ〜
愛久愛海が倒れた。私はそう聞いた瞬間から、焦燥感に駆られた。仕事もそこそこに、私はスタジオを飛び出しアクアのいる病院へと一目散に駆けていった。
そこで目にしたものは、意外にも元気そうに見えて実はかなり無理してそうな、そんなアクアの姿だった。
診断結果は心労、精神的な負荷が原因だって事になったけど、アムロはこの結果に直ぐに目を細めていた。
そして、帰り道。家族であの男と合うと私に言ってきた。本当は、私とアムロとで会うはずだったのに、アクアがそれを望んだからって本当にいいの?
次の日、月曜日にも関わらずアクアとルビーに学校を休ませてまで、私達はあの男。B小町命名〘レッドマン〙と合うために、都内の展望レストラン。の予定だったが、アクアとルビーもあの男に会わせることになったので場所の変更をして、私達はその男の家に来ていた。大きな家だ由緒正しい、古い武家屋敷
「アクア…大丈夫?顔色が優れないけど、無理なら」平気…今なんとかしないと、きっと取り返しのつかないことになると思うから。」そう、でも無理しないでね?いつでも、お母さんを頼ってね?」
「うん」
あの日からアクアの顔色は優れない、こんな顔になっているこの子を見るのは、インフルエンザで高熱を出した時以来だ。こんなになるまで気が付かないなんて、私は親失格だ。
「ねぇ、本当にあの人に合わせるの?あの、疫病神みたいな人に。私あの人苦手なんだよね〜掴みどころが無いと言うかヌタウナギ?みたいになんか、アムロに対して粘着質だし。アクアの体調も良くないの。」
「そう言ってやるなよ、アイツはアイツで色々なことをやっている。それに、今回の件は俺から奴に相談した事でもあるんだ、奴の好意を不意にしたくない。それに、アクアの体調の原因は、今から会う男が一番大きく関係しているはずだ。」
それなら余計に会わせないほうが良いじゃん!12年前だって家族崩壊の危機に、アイツの契約のせいでなってたんだよ?許せるはず無いよね、始めて会った時から胡散臭い人だって思ってたけど、実際胡散臭いし政治家ってきっとああいう人ばかりなんだ。
「ママ、誰もいないけど本当にこんなところに住んでるのかな?」
「う〜ん、私も解んないんだよねぇ。アムロは結構信頼しているみたいなんだけど、いまいち私は実感わかないし。嘘で塗り固められてるみたいな?アイドルを始めて最初の頃の私よりも酷いと思うよ。」
「母様、でもまだ3回しか会ってないのでしょ?なら、解らないじゃないですか。第一印象で決めつけるのは良くないですよ」
そうだと良いんだけどな〜。でも、確かにアクアの言う通り、私だって夢を通して見たアムロの幼馴染を断片的な情報だけでアムロを見捨てた悪い子だって一方的に決めつけちゃってたしな。
「本当に護衛無しでいるとは、自分の立場を知っているだろうに。」
「それはお互い様だと思うが?家族を危険晒したいのかね?そちらの奥様もそう思っておられると、私は思うのだが。」
うっ!どうして意見が合っちゃうのかな!正直苛つくんですケド!
「まあ、立ち話も何だし座ったらどうだ?」
まるで時代劇のみたいな謁見の間、彼はそこの一段高い場所に座り私達はその下に座る。彼が手を叩くと、目の前にお茶と茶菓子が出される、和菓子だ。
「だが、そう悠長にしている時間もない。先日、アクアが発作を起こした。恐らくだが、彼女の内に以前の彼女が形成され始めているのかも知れない。」
私…そんなの聞いてないんだけど。アムロ…私その力ないんだから、もっと話して欲しいな。さっきまで反対してた私が馬鹿みたいじゃん。
「元々空っぽの人間に魂が宿り定着した俺達は、前世の人格を持ったまま成長を続けた。肉体に引っ張られるものは変異し、強固な精神を持った俺やお前は、依然意識を強く持って自我を認識している。
だが、アクアは違う。前世については断片的な記憶と、知識の記録を持っているだけでアクアは俺たちのように人格まで強く引き継いでいたわけじゃない。瑠美衣と愛久愛海のそれは、当に前者の良い例だろう。
そこに、以前の強烈な人格が現れた場合どうなると思う?」
「再形成された強烈な人格により、元の弱い人格。つまりはこの場合アクア君の人格が塗り潰される可能性は充分にある、と考えているな?君は。同意見だと言っておこう。我々の時代のような、戦争や殺し合いばかりをやっていた時期と、この今のような時代。
どちらの人間の自我が強いか、考えるまでもない。」
「そんな事無いと思う。お姉ちゃんは強い子だから!絶対に負けたりなんか」お嬢ちゃん、良く考えることだ。君や君の姉、そして君のお母上は、この時代というぬるま湯に良くも悪くも浸かってきた。
君達の心は、我々という人類史に見ない大量殺戮の時代を生きざるを得なかった人間の心と戦うには、あまりにも心の力が弱すぎる。」
頭にくる言い方だなぁ、人を見下して。私が力を持ってないからって、巫山戯るのもいい加減にしてほしいな!
「それは、どうだろ?寧ろ今の時代の方が、違う意味で貴男やアムロの生きた時代より厳しいと思うんだ。
だってそうでしょ?
確かに人生や命を守る守らないかでいえば、そっちの時代の方が過酷なのは私にもわかるけど、貴男達の時代の芸能は戦争で衰退していて、今が全盛期。光が強いならそれだけ闇があるんでしょ?心の豊かさを守る守らないかという意味で見ると話は変わると思う。
だからアクアは絶対に負けない!私達の娘だもん、それに一人で戦う訳じゃない、家族で戦うの!貴方みたいな誰かを利用して、そして使えなくなったら捨てるような、そんな人には解らない!」
様々な感情が流れていく、私を通して眼の前のこの男に向けて、気圧されてはいけない。
『子供を護るためなら、私は何だってやる覚悟は出来てるから!』
「凄いな…しかし、どうやって。」
「お前がララァに近づきそうなったように、人は誰しもNTになる素養は持っているものだろ?人類全てをNTにすると誓ったのはお前だ。
彼女が何年俺と一緒にいたと思う?本人に自覚はないかもしれないが、時を見たんだ。その時点で彼女にはそれがある。実際、家族と過ごす時は、会話を無意識に口に出していない時が有るくらいには。」
「……私としたことが恥ずかしい限りだな、ララァやカミーユとの出会いで見出していたはずの人の可能性というものを失念していようとは」
〜sideルビー〜
パパとママがあの人と話をしている間、私とお姉ちゃんはずっと話を聞いていた。
パパに聞かされた話と同じ、未来の戦争の話。家族意外には誰もそれを知らない、パパの本当の秘密。
今のお姉ちゃんの体調と何の関係があるのか、最初は解らなかった。私達のこの心を読めてしまう、その力はNT(ニュータイプ)と呼ばれる、次の段階の人類の形だって。聞いたことがあったけど、パパとその人は確信を持ってお姉ちゃんの中にいる人がそれだって言っている。
正直、怖い。だってそうでしょ?お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃない誰かに成ってしまうなんて、普通は考えたくもない。
だけど、パパとママはそれを止めるためにこの人に会いに来たのに、未だに言い争っている。
「ねぇ!いい加減にしてよ!三人だけで話して、それで解決できるの!」
「そうだな…熱くなってしまった。ルビー、ありがとう。
シャア単刀直入に聞く、お前はアクアの中にいるのが誰か知ってるんだろ?」
パパがそう質問すると、この人は、俯いて考える素振りを見せた。その時のこの人の影を落としたかのような表情はまるで懺悔する罪人のようで…できることなら、その人の名前を口に出したくないかのような……それでも意を決したように口を開いて、静かにその名前を一言で口にした。
「恐らく、「ハマーン・カーン」!」
「お姉ちゃん!その人の名前知ってたの?」
姉は首を横に振った。だけれど、その顔は苦しみに悶えている。
「そうか、なるほどな。だとすれば厄介極まりないな、彼女が生まれ変わった姿が、アクア君なのか。ある意味で、幸運だったな。」
「なんでそんな事言うの!お姉ちゃんは現実苦しんでるのに!どうしてそんな事言えるの!」
この人はNTだなんだと言いながら本当の事を言ってないんじゃないか?だって、そんなにも苦しそうな顔をしてるじゃない。
「だとすれば、私にも原因がある。アクア君の中いる彼女と話をする必要がある。すまないが、アクア君、少しの間で良い私と手を握ってはくれまいか?」
「どうして…?そんな事必要ないんじゃ?」
「私に君ら程の力はない……というよりは私はその力を人と分かり合う為ではなく、人間同士の争いの中を勝ち抜いて生き延びる方向に育ててしまったんだ。
こうしてなまじ、なり損なってしまったことを自覚出来ているから、君等のように他人の夢を簡単に覗き込めるものじゃないのだよ。」
だからって、それじゃセクハラじゃん!
「今はそうも言ってられない、アクアの中にいるのがハマーン・カーンだというのなら、これは彼女と深い関わりのあるシャアにしかできない役目だ。なら俺がシャアの手を握るから、反対の俺の手をアクアが握れば良い。そうすれば彼女と会えるはずだ。」
対話が始まった。お姉ちゃんの過去の人、それと私達の話し合いが。