虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第五話

何度計算式を当てはめても、その答えが導き出されることはなく。何度、修正しようともそのランダムな動きを予測することは出来ない。

やはり、この時代。この世界も、俺の前世と同じ物理方式で世界が確立されている。99%確定だろう。

 

俺が何でこんな事をしているのか、それはこの世界でもかの素粒子があるのでは無いかと、確認したかったからだ。

ことの発端は今年の3月に起きた巨大地震、それと連動して起きた原子炉の暴走放射性物質の飛散だ。

 

もしあれを、俺がこの世界に少しでも早く伝えていれば大規模な放射性物質の飛散は防げていたはずだ。あれにはそういう性質がある。

解るよ、一人の人間に出来ることなんて手の届く範囲しか救えないことを、あの戦争で身を以って体験したからウッディ大尉。

 

ピピッピピッとアラームが鳴り響いた。

 

「もうそんな時間か。」

 

このアラームは俺の就寝時間を教えてくれる。前世からのショートスリーパーである俺としては、3時間寝る以外は計算や機械いじり。後はランニングや台本を読んでいたい。

人よりも活動時間が長いと色々なことをやれる。

 

 

ピピッピピッと再びアラームが鳴り響く。

さあ、今日から撮影が始まる。

 

恐らく、撮影現場の中でも個人的に難しいと思っていた。

時代劇だ。それも、長らく続いていた〘必殺シリーズ〙と呼ばれるそんな異色の時代劇。

4月から始まる一年間という長いスパンを、これ一個にリソースを割く。TV局も本気を出しているようだ。

 

俺の役柄は、中村という同心の息子。という立ち位置だ。

それも、当時の元服の年齢と俳優としての実績で選ばれた、有り難い役職だ。

御年75歳を過ぎた大ベテラン、その指導の下。俺は中村家の息子を演じることになる。

 

裏稼業を受け継ぎ、母も祖母も同僚も欺き果ては御上の目すらも盗み、復讐を代行する。

初日はまず、ラジオ体操から始まった。体を良く動かし、激しい動きを良くする現場。古の殺陣師、そして俳優たち。

 

カメラに収まる一瞬、まるで殴られたかのように仰け反るがそれは全く当たっていない。そういう動き。時代劇の動きは、並のアクション映画を凌駕している。

模造刀を使用する為、非常に重い刀。頭に当たれば事故では済まない非常に危険に満ちた現場。

昔ながらの撮影方法、CGを使うよりも遥かに現実味に溢れる。

 

 

「これはこれは田中様、おはようございます。」

 

深々とお辞儀をする

 

「あぁ、中村さんそして後ろにいるのは」

 

「こちらは、せがれの秋水でございます。今日から南町奉行で奉公をさせていただきます。」

 

体を後頭部から尻の坂まで艶めかしく見つめる。

 

「お噂に聞く、中村さんの優秀なお子さんですか。私も、若い頃は中村さんのお世話になりましたから、私も張り切ってお教えしましょう。」

 

「ありがとうございます。田中様」

 

という部分から物語が始まっていく。

 

このドラマ撮影初日、中村主水役の藤澤さんは俺に抜刀術を見せてくれた。孫に接する好々爺のような人であったが、いざ役になると非常に威圧感のある場面と、平身低頭の同心という一人で2つのキャラを使い分けていた。

 

だけれど藤澤さんは俺への演技指導中、ずっと心のなかで自分が長くないことを悟っているようであった。

この少年ならここからここまでの動きができる。や、この俳優にはこれは難しい、だからこの少年にこういう演技の補佐をしてやると良い等の完全に善意の心が見えた。

 

だから俺もそれの期待に応えようとした。

そういうやり取りをしていると、必ず嫉妬が溜まってくる。何故あいつばかりなのか、どうして自分ではないのか等当たり障りのないものだが、それ程気持ちのいいものではない。

 

NTの力っていうのは、正に演劇には持って来いの能力だ。相手、この場合の相手は様々な意味を持つ。例えばだ、監督本意の芝居をやれと言われれば監督の真意そのものを反映して、演劇をやれば良い。

 

場の空気が乱れていたら、周囲のそれと同化・同調しその意見の食い違いの橋渡しをすれば良い。

そして、俺が他者から嫉妬の眼差しを向けられているのだとしたら、コイツにはまだ追い付ける。という、錯覚を起こさせるように演技すれば良い苦手な分野を見せるとかして。

 

自己中心的な演技、というものが俺は苦手だ。逆に言えばこの現場は正にそういうカットを要求される。有り難いことに、藤澤さんはそういう相手が苦手なものを、見分け教えてくれる。

そう、俺にとって自己中心的なものは。MS戦闘時の大隊を無視した、単身突撃。俺が敵を撹乱し、後続がそれに続くことで戦場に大きなスポットを作り上げて、戦場を支配する。

 

俺の演技は、この時完成したと言っていい。

 

 

 

 

初回SPのクランクアップと共に第二話の撮影が続行される。一年という大河ドラマ並の、昨今では珍しくなったそんな撮影現場。自ずと休みが少なくなっていく。

そうなると、アイちゃんが俺に電話を掛けてあって欲しいと言われても、中々合いに行けないことがある。

 

たまの相談は、回数を減少させたがそれでも彼女は、俺には本音で話してくれる。泣きそうになることも、笑顔で楽しい事を話すのも、相談の数が減ったことへの怒りも。

 

年を越し、現場も終盤に入る。時代劇でも異例の16%という視聴率を出した番組も、これで撮影は終わりだ。

ちょうどその頃一本の電話とともに、アイちゃんに相談を受けた。

 

「私ね、アイドルなってみようと思うんだ。」

 

心変わりの季節、星野アイは俺にそう打ち明けた。

 

 

 




誤字等ありましたら、連絡、修正の程よろしくお願いします。




ツイッターです。お恥ずかしい事ながら絵が上手くないのです、支援絵等頂けたら非常に嬉しいです。

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