[2026/4/1
エイプリルフールというものは様々な説があり、いつ何処が発祥なのかと言われても、答えられる人はいない。
嘘をついて良い日ということは、TVやインターネット上でも適応されるのか?それは、公序良俗の範囲ではあるが大抵は許してもらえるものだろう。
さて、ここに夫婦がいる。この二人はどちらも共に世間を賑わすことに定評のあるので、非常に皆の注目の的となる。世間一般的には、夫婦で有ることを隠しているのだがそれはご愛嬌というものであろう。
エイプリルフール特番というものがこの年行われた。ドッキリ企画と似ている、嘘を生中継でお届けするこの番組、芸能人達は勿論仕掛け人が誰かを知らないまま、他の番組として収録しているのだ、生中継とも知らずに。
さて、ここに夫婦が投入された。ふたり共結婚し、子供がいることを公表している二人、もしも二人が夫婦で仲睦まじく裏の部屋で挨拶廻りをしていたら、どうなるだろう。
きっと二人にとっては真実なのだろうが、皆にとっては嘘になるに違いない。
仲睦まじげにペアルックの結婚指輪、苺プロ所属の10歳になる双子の子供を引き連れて、楽屋を廻る二人の姿、終いにはキスまでする始末、きっと印象に残るに違いない。
そんな収録は昨今では珍しくも20%を記録する。]
〜sideアクア〜
「皆さん!ご迷惑をお掛けしました!本日より星野アクア、復帰します!どうか、よろしくお願いします!」
周囲の声は様々だ、私の復帰を喜ぶ声が有れば心配する声もある。当たり前だ、私はカメラの前で何も無く倒れ込んだ。そんな女優を見て、周囲が疑問に思わないわけがない。
復帰があまりにも早過ぎる。精密検査の結果、脳等の各部位における重大な損傷や後遺症は見られない。そんな結果が出るには最低でも一週間は必要なはず、でも私は平日の収録へとたった3日後に戻ってきた。
確かな診断書、書簡は信頼に足る病院のもので疑う余地はないのに、その復帰に特にあかねは心底驚いているようだ。
彼女は私のいない間に、翼へと接触し彼の真意を問いただした。
それによると、彼は〘空っぽ〙だという。私は彼女と話はしていないけども。
父様からの評価は、単なる〘器〙。その精神的な構造から、父様曰く強化人間。人間を何かしらの目的で精神的肉体的に強化した存在だという。父様は彼の心を見て、そう判断した。
父様は既視感を覚えたと、あったことが無いのにそうなったと。
器である所以がそれなのだと、〘器〙は何者にも慣れなかった存在。
それ故に何者にもなることは出来る、誰かの記憶から誰かへとなることが出来る。理想の存在、例えば父様が相対すればきっと記憶の中のシャア・アズナブルという人格を作り出すのだろう。
それは声帯模写の範囲内でしか無いけれど、私とあったときはグレミーという人物を声で模した、ハマーンがそう言ったのだ。
そして二回目私が倒れた時、心を覗き込まれるのをハマーンが嫌がり、私の意思を遮断した。
結果的に私は倒れてしまったけど、ハマーンは私を守ろうとしたのだ。
それを私達は勘違いして、結果的には良かったけど。ナタリーの亡霊まで、私の内側に来てたし。
あかねが、私に近づいてきた。この子も結構過保護だなぁ、私の身体を気遣っているだけじゃない、もう1段上の事。私の倒れた原因を翼だと断定するのは、流石だね。
「マリンちゃん、無理してないよね?私結構心配したんだよ?」
「心配かけたみたいでごめんね?でももう大丈夫、色々と対策したから。でもね、あかねちゃん。貴女も無理しちゃだめだよ、そうやって身体と心を壊すことに繫がるんだから、翼君の事は気にしないで?」
やっぱり不思議そうな顔をする、なんとなく解ってるんでしょ?私が家に呼んだ時、この力だけは話さなかった。父様も母様もルビーも。本来ならば宇宙に進出した未来の人類が手にするはずのものをこの時代に生きる私たちが先んじて授かってしまったんのだから。
あかねちゃんは、一人で翼と対峙したそして何かを言われたのかもしれない。
「あかねちゃん、今は色々と話せないこともあるけど、これが済んだら話すよ?じゃないと、あかねちゃんは気になって仕方ないと思うから。」
あかねちゃん、結構無理してるのが解る。翼に何を言われたのか解らないけど、私に対して疑心暗鬼になってるのかな?
そう、今彼女の心には疑問で溢れてる。
私がどうして彼女の心を見透かせるのか、どうしてそれを教えてくれないのか。
今ここで話すにはあまりにもリスクが大き過ぎる。父様たちのいた世界ではこの力を巡って父様自身を始めとする多くの人間の人生が狂ってしまったというから。でも、聞いてきたら逃れられるかと言われれば、無理だと思う。だから、正直に言おう。
「ねぇ、マリン。私達にまだ隠してること、あるんじゃない?アナタの身の上で、あなた自身の本当の姿で教えて欲しいな。どうしても話せないのかも含めて。」
やっぱり来た、私が教えたくないことを知りたい。翼に言われたのはたぶん、私のこの力のこと。あかねちゃんは、上手く利用されてるのかもしれないし、もしかすると精神構造を弄られたかもしれない。そうなっていたら、荒療治になるかもしれないけど彼女に出て来てもらうしかない。
〜sideあかね〜
「あかねちゃんは気になって仕方ないと思うから。」
彼女の言葉は、私の内心を見透かすものだった。君塚と彼女には何らかの力がある、とても信じられない事だけれどオカルトな事を私は考えているけれども、私はその言葉に確信を得た。
君塚に言われたこと、マリンは人の心が読める。その家族も、全員がそういう存在で、私達で遊んでいる。
嘘だと思った思いたかった、だってそうでしょ?彼女の言葉を信じたい、彼女を傷つけたこの男の言葉を信じたくない、でもそれでも私はその言葉に耳を貸すしか出来ない。彼女の真意を聞きたい、彼女の本意を知りたい、君塚の言葉を否定したいでもそれが出来ない。
だから聞こう、私達に彼女が隠していることを私が聞いて、嘘だと解ればきっとこの蟠りも解けるから、だから。
「ねぇ、マリン。私達にまだ隠してること、あるんじゃない?アナタの身の上で、あなた自身の本当の姿で教えて欲しいな。どうしても話せないのかも含めて。」
聞いてしまって後悔した、だってこれでは私は彼女の事を信頼していないって、言葉にして言っているのと同じことなんだって、言って私は思わず吐き気を催した。私の聞いたこれは、私のことを友達と言ってくれた彼女への裏切りに違いない。なのに、私の心は満たされていく、彼女へこの質問をして満たされていく…。
私は知りたい、彼女の本性が彼女の思いが彼女の意識が。
こんなにも、誰かのことを気にかけたことがどれ程あっただろうか?私は彼女、愛久愛海の事が気になって気になって気になって仕方がないのだ。
彼女が私に何か隠し事をしていることを、私は私は許せない。だってそうでしょ?
〘友達は、隠し事をしない〙、私があなたをプロファイルした結果だよ?
「あかねちゃん、それが本心なら私は答える義務があると思うんだ。だけど、それは本当にあなたが思っていること?本当は後悔しているのに、自分の欲望を抑えきれない。そういうことじゃないの?
このまま行けば、必ず貴女は精神に異常を来す。貴女という存在が、別のものに変質してしまう。きっとそれは翼と似たようなものになってしまうかも知れない。私はそんなの嫌だよ?」
その私を心配しているって発言も嘘?それとも本当?解らないよ…そんな思わせ振りな発言で、私を惑わさないで!
どうせ、心の中であの翼と同じ様に私を弄んで、友達ごっこをやりたいんじゃないの?
「えぇい、まどろっこしい。小娘!身体を借りるぞ。
良いか、良く聞け一度しか言わんからな。
お前がこの娘を否定するのは勝手だ、だが貴様はあの翼とか言う俗物と同じレベルで、コイツを見ているということを知れ!
少しでも友であると思うのであれば、コヤツの言葉を信じてやってはくれぬか?
私が言うのもなんだが、この娘は寂しがり屋でなきっとお前が否定すると、過剰なまでに自分を攻めるだろうよ。とりあえず、今回の催しが終わればお前の知りたいことはこの娘と共に教えてやるからそれまでは我慢しろ。
互いの利益になるのだ、今はそれで良いだろ?」
誰だろう、面と向かって話をしていた筈なのに私は彼女が誰なのか解らなかった。二重人格、そういうのを私は始めて見ているのかも知れない、でも彼女は抑圧されたようなそんな環境で育っているわけでも、虐待を受けたわけでもないならどうして…倒れた時の後遺症…あの倒れた時のがこんなにも…。
「ごめん、マリンを信じてやれなくて、そんなにも追い詰められていたなんて、私…解った。一緒に君塚を倒そう?そうすれば、貴女のそれも治るよきっと。」
「いや…、あかねちゃん。ちょっと違うよ?私は別に二重人格じゃな……いや現時点じゃ他の人から見れば似たようなものか。でも、勘違いしないで!別に悪いものじゃないから!」
大丈夫貴女は私が守って見せるから!
〜side翼〜
僕は誰なんだろう?幼い頃、僕が施設にいたのは始めからだった。僕はいつも一人だった、ずっと一人だ。施設の子達は僕にこういう、
《お前は親もいない、僕ら以上に見捨てられた存在なんだ》
と。
そうだ、僕は誰でもない。この名前もただこの施設で育てる上で必要だったから付けられただけで、親が付けたものでもない。
僕は愛されていなかったんだ、名をつけることも育てることも放棄され、施設に置かれた。本当の意味で捨てられた。
悲しくはなかった悲しいって感情は解らないし、笑うことも出来なかった楽しいって感情も解らないし、怒ったりもしなかった怒りという感情も解らないし、愛したこともなかった愛って感情も解らないから。
だから僕はそれを知りたかった、きっと知れば僕は僕として形を手に入れられる。僕という存在が、その証明が出来る筈だって。
だから僕は声を真似た、最初は鳥の歌を蛙の合唱を隣の子を、次第にそれが〘楽しい〙ってことに気が付いた。
誰も話をしていないのに、その子の声をさせて場を混乱させることに〘喜び〙を感じた。その時知ったんだ、この世の全ては遊びで出来ている。次第にエスカレートするそれを、僕の内側の誰かが声を出して言う。『なんと矮小なものだろうか』って、そんなの僕には関係ないじゃないか、今が楽しければそれでいい。
僕は誰かになって物事を行うのが〘好き〙になった、僕はそれを通して僕になりたかった。
心の何処からか、声が聞こえるときもあるけれど、その声は無視した。〘器〙でいれば、こんなにも楽しいから。誰かになれるから。
神木社長にあったのは7歳の時、そんな僕を見て彼は僕に何かを見出した。
僕は彼を見た時、僕と同じ様な人だと思った。僕も彼も自分の命を知りたかった、彼は重みを僕は喜びを二人で目的を見つけた
彼に付いて色んな現場を見た、喜びから絶望へと転じる楽しみを。悲しみから怒りへ転ずる多幸感を、光から闇へと引きずり降ろされた人の叫びを。その全てに〘喜び〙があった、皆僕と同じ様になっていく、同類意識が。
そんな時、社長が僕に一人の俳優の事を話した。
曰く〘絶望しないもの〙、どんな困難があってもその人は前へと進んでいく、その命の重みはきっと誰よりも重く、誰よりも価値のあるものであるにも関わらず、社長はそれを〘諦めた〙
どうしてと問うと、社長の趣味嗜好に合うようなものではないと、そう愚痴愚痴と言い始める。良い訳なんだろう、昔彼とそのパートナーに刺客を送ったそうだけど、その全てを無力化されたって。
凄いなぁ、生身の人間なのに正直尊敬しちゃうよ、でも嬉しくはないよね?僕の恩人がこんなにも、悔しがっているのを見るのは。
そんな時、僕は見つけたんだ。星野愛久愛海、社長の敵の娘。コイツをどうにかすれば、きっと〘絶望しないもの〙が動き出してくれる。そうなれば社長も〘喜んで〙くれるんじゃないかなって。
彼女を最初に見た時、違和感を感じた。彼女は演技が得意だ、嘘を上手に纏っている。だから、まずはそれを剥ぐことにした。見事にそれは出来た。彼女は怖がりなんだね♡ 彼女の中には別の人がいる、その人が僕を見ていた。怖〜いそんな雰囲気の人、なんでかな?そんな〘恐怖〙なんて初めてなのに。
彼女が倒れた時、僕は嬉しかった。そんな僕を、アレが睨みつけてきた。彼の内には〘後悔〙があったのに、そんなもの意に介さず前に進もうとしている。あぁ、これがその人かと強すぎる人だ。だから、きっと彼女をどうにかしたら僕はどうなってしまうんだろう?それが〘恐怖〙の元だった。
それから、僕の内の声が聞こえる。〘器〙であるなら、誰かにならなければならないと、目的を探せと。誰にも指図されたくない…僕を指図出来るのは社長だけだ、僕の愛した社長だけ。
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