虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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派手さは期待なさらぬように、所詮は学生。化け物どうしの戦いとは比べてはならない


第五十話

[人は誰しも選択を間違える、12年前のあの日。僕は赤い服を着た男に、情報を与えた。僕の趣味嗜好に反する、そういう存在がいつ何処で仕掛けてくるのか…たかだかこの程度、僕はそう思いながらそれを眺めた。

 

全てが終わった時、あの男達は人という殻からはみ出した存在だと確信し僕はそれを追うのを辞めた。それからというもの、僕は誰かを見出すことに快楽を感じ、そしてその最後に奪うことで価値を感じた。

 

気の迷いだった、たった一人の子供を育てることを僕は何故か暇潰しに始めた。男の子は僕のことを尊敬し、僕のやることに狂喜した。ある時、このままでいいのかと自問した。彼に価値を見出したにも関わらず、僕は彼を手放すことが出来ない。これは、どういう感情なのか解らないままに。

 

ふと思った、彼の価値が完成したら僕は、彼を殺すのだろうか?と。]

 

 

 

 


 

 

〜side愛久愛海〜

 

もう撮影も佳境に差し掛かり台風を挟んだ撮影が始まる。殆どのカップリングはもう、ゆきとノブが決まりそれが中心となって動いていて、その他の恋愛事情はまるで進展が無いように見える。

 

あかねは、私にベッタリと寄り添って翼が近づいてくると、まるで犬の威嚇のようにお冠を立てている。

これではまるで、私を取り合う二人の構図で〘百合〙だという噂が立つほどである。

 

良い加減二人に対する関係性をはっきりとさせて置かなければならない、特に翼には恐らくだが恫喝が、もっとも効率良く働くはずだ。奴は私の中にヅカヅカと踏み込んでハマーンを目覚めさせた後、何かに警戒するかのように心を読んでくることを辞めた。

 

奴に対抗する手段、そんなにも器になりたいのなら、中身を与えてやれば良い。奴は他人のトラウマを覗き込み、そのトラウマから人格を作り出す。なら、私の中の記録それを覗かせよう父様の仮説が正しければ、奴はある情景に発作を起こすだろう。

 

本当にそんな事をしなければならないのか?私は願わくば彼を救いたいとすら思っているのだが、対話は出来ないのだろうか?

強化人間という人種は、とても不安定で不定形。歪な人格だという、もしその器に奴のトラウマになるであろう情景を流したら、それは割れるのではないか?

器が割れたら人はどうなる?答えは見つからない、誰よそれを知らない。

 

いや、カミーユなる人物の末路、それが一番的を射たものだろうか?だとすれば…、私はどうすれば良いだろうか?ハマーンならば躊躇なくやると思う、だけど私はそんな事をしてまで彼を殺したくはない。

 

彼は救いようのない域に落ちている悪人なら、私もハマーン同様に容赦しなかったであろう。しかし、彼はまだ善にも悪にもなり得る不安定な存在……可能性がまだあるにも関わらずあっさりと切り捨てるような事をしていいのだろうか。

 

なら、どうすれば良い?指を加えていれば良いのか?いや、それもまた違う……ここで何もしなければそれこそ彼は人として超えてはいけない一線を越えかねない。

 

決断を出来ない私、だけど私は一つのことを見落としていた。今ガチは所詮はドラマと同じ、番組でしか無い。父様と母様が陥っていた12年前とはあまりにも状況がかけ離れている。

なら、番組の趣旨を汲み取って、私は翼に私を惚れさせれば良い。

 

 

……

 

いつものように翼は私に対して、軽率な行動をとる。私はいつもならば鬱陶しく払い除けるが、今日は違う。

 

「良い加減、話をしようか?翼君、単刀直入に聞くけどどうして私に対して、そういう反応をするのかな?」

 

「え?だって、そうすれば君は僕を見てくれると思って…逆に聞くけど、どうしていつも払い除けるの?」

 

そんなの当たり前だろ、人が普通にしたいのにあっちこっち付いてきて、私がやりたかったことが阻害されたら嫌だからな。

 

「貴方の行動があまりにも幼稚すぎるからだよ⇀!まったく、親からの教育が行き届いてないね。親の顔が見てみたいくらいだよ。」

 

「何言ってるの?僕に親はいないよ?僕はね物心付く前から施設にいたから…だからかな?僕は楽しい事がしたいんだ。」

 

それが他者をあざ笑い、傷付け陥れる事か…どうやったらこういう存在になるのか?

 

「君にとっての楽しい事は、私にとっては楽しくないんだけどね⤴?じゃあこうしようか、二人で楽しい事をしてみよう?勿論打算とか抜きでさ。」

 

「う〜ん?じゃあさ、僕ね声真似が好きなんだ!例えばさ、こんな感じの声なんかどうだろう?(cvカシ○クラツトム)君の記憶?の中から抜き出してみたんだ、結構な美声でしょ?でも、僕は彼にはなれないんだ、僕はいつも中途半端に終わってしまうんだ、何が足りないんだと思う?(もとに戻る)

 

改めて驚かされる。声だけならば、私やかなちゃんはおろか、たぶんあかねちゃんよりも遥かに才能があるんだろう。だけれど、それに彼は満足していない、だってそうだろ?

 

自己が無いってことは、注いだものが溜まっていくこともない、既にそれは穴だらけなんだ。

だから、満足させるにはまずは穴を修復させる必要があるけど、そうだな…よし!

 

「う〜ん、何が足りないって言っても気のそれは凄く上手だし、かと言って君は満足出来ないでいる?君さ、〘器〙ってもの信じる?私はね、その〘器〙が満たされた時こそ人は満足するんだと思うんだ⇀。だから、翼のそれは〘器〙があまりにも大きいのかそれとも」〘器〙に穴が空いている?と?」

 

そう、だからそれに自覚させるしか無い。そうすれば、自ずと修復箇所も見えて来るはず。この会話がテレビ映えするかは解らないけど、哲学的な事になるからきっとそっちの層に受けは良いはず。この思考もきっと読まれているんだから、隠し事はなしだ。

 

「そう、でしょ?まずは人の演技を見て、それを参考にしてみてはどうだろうか?貴公のその演技はなかなかに冴えたものだろう、遜ってコツを掴めば自ずと修復箇所は解るはずだ。」

 

「それも昔からやってるって、例えば抑揚とかさ(cv堀○賢雄)声の張り具合とか、君がさっと思いついた事なんて昔から…なんででしょうか?イヤにしっくり来ます。この声が…何故?」

 

やはりか…この男、本能としては尽くすタイプか。私の記録の中のあのマシュマー・セロが、こうも仕事をしてくれるとは本当に惜しい事をした。

 

ハマーンが誤って私の人格を侵食したりしないよう直接私に前世の記憶として思い出させる形をとらず、ハマーンが歩んできた人生を映像記録という形で心象世界で見せてくれたものだが…一度見たら忘れられなくなるほどの彼の濃いキャラ、こんな形で役に立つなんて…。

 

それを思うと前世のこととはいえ彼にしてしまった仕打ちに私も申し訳なさが湧いてきたなぁ……ハマーンはお前がやってことではないし、奴の顛末は元を辿れば半ば自業自得だから気にしなくていいと言ってくれたけど。

 

それでも強化措置はやりすぎだったと内心思っているくらい気にしていることを現世である私にだけは流石の彼女も隠せていなかったが。

 

「その声だけではない、その男の言動を真似てみれば、貴様のそれは自ずと見えてくるのではないか?」

 

彼との話し合いはそうして始まった。

 

 

〜sideあかね〜

 

私は驚いている、あの、他人の事を遊び道具としか思っていなかった、そんな君塚が彼女、マリンに良いようにあしらわれている。今までの収録では、彼は彼女に対して嫌がらせのように付き纏ってきた。最近では私は彼女を守る為に、矢面に立って彼を近づけさせないようにしていたのだけれど、その日だけは私は前に立てなかった。

 

そのたった1日、たった1日で彼は見違える様に変わっていった。最初は声の抑揚だけだった、昼頃には彼の纏う雰囲気が、夕方には歩く動作まで。何故か紳士的な、そういう歩き方と何処かナルシストのようなそんな存在になっていた。

映像的には劇薬みたいなもので、物凄く目立っていた。

 

「マリン、彼に何をしたの?あれじゃあまるで、」

 

「別人とでも言うか?そうだな、あの者はそれを望んでいたのだよ。私はそれを否定しまい、あかね貴様はどう思う?今の奴はとても生き生きとしているとは思わんか?」

 

マリン……本当に人が変わっちゃったんだろうか?前まではあんなにも明るく喋っていたのに、暗いそんな喋り方の自分が嫌でこれに参加したって言ってたのに、変わっちゃったのは貴女もだったの?私は貴女を守りたいのに、そんな事にも気づけ無いなんて…

 

「あかね、良くわからないがその思考は間違いだ。これは私の素ではない、奴がこの姿が気に入っているから演じている、ということを知れ。」

 

「解ってるよマリン、だから私は貴女を支えなきゃ。じゃないと、貴女が貴女で無くなっちゃうもんね?いつものマリンに戻れるように、私も頑張らないと。」

 

マリンは、こんなにも無理をしてる。私にも何か出来ないかな?例えば、そう。マリンの出演時間を延ばしてあげられるように、私がアドリブで演出を変えるとか…なら、本気で行くしか無いよね。

 

そう、現在の私はマリンのことが大好きな百合女子。一生懸命に頑張る彼女、彼女は2つの人格を持っていて今なお、それに囚われている。

私はそんな彼女の境遇を見て、寄り添う事を決めた。私は彼女みたいに完璧主義ではなく、自由奔放で彼女とある意味で対極の存在。

 

だから、彼女に少し迷惑を掛けてしまう天然なところもある。こんなところかな?始めてやるよ?、架空の人物を自分で創り出すなんて。

 

「ねぇ、マリン。本当の事を教えてよ、貴女は誰が好きなの?私はねぇ、マリンの事が大好き♡男の人も興味はあるんだけど、私貴女のことが気になってしょうがないんだ!だから、この男のことなんて放っといてよ。」

 

私はやるときはやるんだから、何をしたって彼女を守るの!

 

 

 

 

〜sideMEM〜

 

う〜ん?なんでかなぁ、いつもの3人がいつもの事をやっているんだけど、なんかいつの間にか三角関係に見えなくもない…これってもしかして修羅場っているのでは?

 

「ねぇねぇ、あの3人なんか雰囲気変わった気がしない?」

 

「うん、特にあかねはなんか、大好きオーラかな?それが出てるのかもしれない、翼君も人が変わったみたいに演技して、お芝居の中にあるみたいだけど、ギャップが逆にいい塩梅になってる。」

 

3人とも終盤に入って、キャラの固定化に躍起になってるのかな?にしても、

 

「マリリンなんか、宝塚歌○団みたいな男装女優みたいになってるね。スッゴイ気が強そう、ああいうのが好みの子とか絶対に好きになるって。」

 

「マリンちゃんは元々ああいう役が仕事でよくやってたって、この前のお泊りの時に言ってたよ?やっぱり、来たほうが良かったんじゃないの?親睦を深めるって意味では一番だと思ったんだけど。」

 

「ニャハハ…私も生きたかったんだけど仕事がねぇ…1日でも欠かすと収入に響いてくるっていうか…。」

 

言えない、年齢詐欺してるから着てるパジャマとか乙女トークとか、そういう世代間のギャップが有ることに対して、ある種の恐怖があるって言えない。皆の好きなアイドルと私の最推しが世代的に5,6年以上の開きがあるのは確実だし、きっと話について行けないかもなんて。

 

「ふ〜ん、それにしてもあかね積極的なだよね。かなり身体を擦り付けるみたいにしてるし、もしかするとあれが本性の可能があるのかも…百合って言うのかな?そういう情景が今目の前に、ある…ちょっと複雑だなぁ。」

 

「翼君のもなかなかどうして、跪いてマリリンの元にいたりするから、なんかイケナイ動画見てる気分になってくるよ。」

 

本当に3人ともどうしちゃったんだろうねぇ…私の知らないところで女の子3人は仲良くなっちゃったし、仕方ないよね。私だけ、世代が少し前なんだもん。

 

 

……

 

元々恋リアって客層が女性よりだった。恋愛事は女の子の大好物、自然と視聴者も女性が多くなる、動画を作っている私が言うのだからだいたい合ってるんだろう。

でも、昨今はそのマンネリだとかがあったとか。そこに起爆剤のように投げ込まれたのが、今回の〘二輪の百合と騎士〙の構図。

 

百合物も視聴者が限られてくるんだけど、ここで棲み分けが発生した。

百合を求める層って男性が多いんだとか、清楚なものと清楚なものが見れて目の保養になるっていうのが感想の大半だ。しかし女性も腐女子を始めBLを求める人が多いからそこはお互い様なのだが。

 

私のチャンネルでも今回の今ガチの放送で、見始めたって言う人達が多くなったのも見るに、やっぱりそうなんだなって。

私は、恋愛するつもりも何も無いから、だからどう?って話だけど、やっぱり若い子どうし波長が合うんだねって。にしても

 

「ケンゴ君からの提案には少々驚いたなぁ…」

 

ケンゴ君は最近マリリンへの接近を最小限に、私へと乗り換えをし始めるという、少し尻軽なところを見せるという、大胆な一面がある、マジで恋してるのかも知れない。

 

最終日に私に告白するって話なんだけど、裏ではマリリンに告白して恋人になってもらうんだ!なんてさ、テクニシャンというか、マリリンも愛されてるねぇ、私も結構可愛い筈なんだけどやっぱり皆には解るよね?メッさんとか言われてるし。

 

ただ、ケンゴ君……マリリンはそういった回りくどいことは好まないタイプだから後々にすれ違う原因にならなきゃ良いけど……あとで忠告くらいしておいた方がいいかな?

 

「ハァ〜、駄目だな〜私。現役にはやっぱり敵わないよね、年増は潔く断れば良かったかも、なんてさ。久し振りにビールでも飲むかなぁ」

 

こうやってお酒の力を借りようとする時点で、年寄臭いねって。

 

もし、アイドルになってたら、こんな感じで過ごしてなかったのかなぁ。

 

 

 


 

3人の男女がいる、そこは学校の屋上でありシチュエーションとしては、学生の告白の1幕として映るだろう。一人の小柄な男が紳士的な振る舞いで、一輪の薔薇を長身の女へと手渡す。

長身の女はそれを一度は受け取るも、一度受け取ったそれを逆さまにして返す。男は悔しそうに〘見せる〙が直ぐに気を持ち直し、〘騎士として臣下として〙彼女を見守るという決意を〘見せて〙言った。

 

黒髪の女が長身の女へと歩み寄る、手元には白百合それを受け取って欲しいと言う。長身の女はそれを少し戸惑うも受け取った。二人は夕日の中で顔を近付ける、それを男が跪き俯きながら待つ、その景色は長身の女の金髪に反射する事で、より輝きを増した。

 

恋愛リアリティショー始まって以来の珍事、レズカップルの誕生である。

 

 

……

 

 

撮影一日前、そこには金髪の女が木に背をもたれていた。暗い、街頭も少ない人影のないその公園で女は一人待っていた。

少しすると、灰色の髪の男が現れ彼女と対面する。

男は不器用ながらも言葉を紡ぎ、女に思いの丈をぶつけた。

女はそれを少し考え込んだ、男は目を瞑り俯いた。

女はそれを見て小さく微笑むと、彼の顔を掴み熱く厚くキスをする。それは数分続き、無限とも言える時間が二人を包む。

二人はそのまま暗がりへと消えていった。

 

 




アクアの恋愛感情は母親似です特に積極的なところとか
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