虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第五十四話

[2029/3/23

 

壇上に立つ子供たち、皆それぞれに可愛らしいブレザータイプで合わせて、左胸に華をつけている。

 

ピアノの伴奏が始まり、それを保護者達は今か今かと見つめている。

そこには一般的には長身の男と、小柄な女性の夫婦もいた。女性の方はハンカチを握りしめ、スンスンと鼻をすすっている。

 

{白い光の中に 山並みは萌えて

はるかな空の果てまでも 君は飛び立つ}

 

女性の涙腺は崩壊したかのように、とめどなく涙が溢れ出しもう曲を聞いているのかわからないくらい、ヒックヒックとしている。男はそんな彼女の背に手を回し、二人で肩を寄せ合う。

 

歌声の中には決して上手ではない、そんな女の子の声も入り交じるが、それがかえって自分の子供の声だと認識できるのか、更に涙に拍車をかける。

 

{今 別れの時 飛び立とう 未来信じて

はずむ 若い力 信じて

この広い この広い 大空に}

 

歌い終わりに、盛大な拍手とともに涙を大いに流した女性は鼻を赤くして、目を赤く潤ませて自分の子ども達を見る。

 

あぁ、二人共大きくなったなぁ

 

「そうだな、あの子達は立派になった。」

 

その声にはきっと愛があるのだろう。

メンバーの皆くらいにしか話せなかった妊娠。

遅れまいと必死になった出産予定日。

忙しなかった育児と仕事、皆を護ろうと自らが壊れそうなくらいに我慢した仕事。

二人で乗り越えた、約束の日。

母との和解、一緒に取った入学写真、やっと入れた授業参観、皆でお昼を食べた運動会。

必死に教えた夏休みの宿題、送り出すのが怖かった修学旅行。

 

様々な記憶が、まるで走馬灯のように駆け巡る。

だけれど自分は地に足を付け、二人を見ることが出来る。こんなに、嬉しいことがあっただろうか?いや、無い。

彼女の母親は、二階から保護者席の二人を眺める。その姿には同じく涙を流す。

 

家族は一緒、いつまでも仲良く暮らしたい。

そんな、ささやかな〘普通な生活〙小さな願いは叶ったのだ。]

 

 

 


 

 

〜MEM〜

 

タンタンタンタンという音ともに、振り子が右に左に動いてリズムを刻む。その音共に、私は足を腕を身体を動かして、音楽のない振り付けを身体に刻み込む。

 

「one two three four five six seven eight 」

 

そんな掛け声とともに、私の耳に入ってくるのは、共に同じ様に振り付けをする自分よりも歳上の女性。30代前半の彼女の動きは、20代中盤に入った自分の動きよりも、遥かにキレがあり洗練された無駄のない動き。

そして、それにはあり得ないはずの歌詞を歌い、他者を魅了する輝きすら感じる。

その艷やかな、少し紫がかった濡羽色の髪は息一つ上がることはなく、自らを圧倒する。

 

「は〜い、終了!ふふーん、どうMEMちゃん?私の動き参考になった?後二週間しか無いけど、歌もダンスもマスターしてもらわないと困るから、ビシバシ行くよ〜。」

 

あぁ、伝説とはかく言うものなのか。自らの肉体には現在進行系で筋肉痛が襲っている。

身体を動かし、腹式呼吸をしながら歌を歌いながらダンスをするという、アイドルというものは夢を見せるためならば、白鳥のようにいなければならないのだと悟った。

良い事は筋肉痛が、まだ翌日に来るような健康的な肉体年齢であることか。

 

「ふい〜ん、疲れたな〜。皆さん、私よりも歳上なのにどうしてダンスも歌もそんなに長く出来るんですか?」

 

「お?そうだな、そりゃ私達がこれをやってきたってのが有るけど、一番なのは楽しいって心だよな?」

 

「そうそう、MEMちゃんは憧れで私達のそれをやってるけど、私達は私達としてやってるから、元々私達ように作られたダンスだし、少し合ってない所もあると思うんだよ。」

 

そう言えば、そうだけどさ〜。身長、大きくても160cmしか無いのに、私よりも少し大きく見えるくらいなダンスだよ?どう参考にすれば。ライブ映像とか、ダンスのみを切り取った物とか色々見てるんだけど、イマイチ何が駄目なのか全然。

 

「お〜い、MEMちょ。私のダンスが一番わかり易いと思うんだけど、私のダンスの特徴は足を庇う為に上半身に意識を集中させるテクニック、とでも言おうかな。」

 

えっ?ニノさんって足が悪かったの?昔見たプロフィールとかには、乗ってなかったけど引退後何処か怪我をして…

 

「そんな怪訝そうな顔しないでよ、私は小さい頃やってたバレーで左足脱臼してるせいで、脱臼グセがあるのよ。私生活には支障ないけど、あんまり激しい踊りやると直ぐに、スポーンと抜けちゃうのよ。

そこで、編み出したのがこれ。」

 

さっきのダンスを録画したやつと、ニノさんのダンスを録画したやつが表示されて、同じ部分で止められた。

 

「今の時代は便利だよね〜、私達がアイドルになった当初はこんなのなかったんだから、サキちゃん達が入ってきたくらいでも、活躍したのはそれこそ私達が18になったくらいだし。

それよりもここ、この部分私の方が足の開きが少ない分、腕の動作を少し大げさにしてるでしょ?他のメンバーのも見ると解るんだけど。」

 

そう言われればそうだ、全然気が付かなったな。単に振り付けが少し違うんだと…待って、そう言えばB小町のメンバー全員、振り付けの角度が少し違う?

 

「気が付いたみたいだね?そう、私達は一見すると全員同じ振り付けをやっているみたいに見えるけど、実際は細部が違うんだよ。

 

サキちゃんは、元々の運動神経が良いからどちらかと言うと、振り付け通りに型にハマったような、そんなのが得意。

 

ミネちゃんは、歌を中心に据えてるから呼吸を深めに取る分、身体の芯がブレ辛いように。

 

ナベちゃんはミネちゃんと同じに見えるけど、より高音域が出るから、その分足の開きを大きく。

 

メイちゃんは、得意分野が無いからサキちゃんのそれを少しコンパクトに嵌めたように。

 

キシちゃんは、ウォーキングやステップが得意だからその動きを取り入れてる。

 

そして、アイは全てを高レベルで行えるから、全てをやってる。その分、身長が一番低いから人一倍努力しないと目立たなくなっちゃうけど。

 

こんなふうに、貴女もなにか得意な部分を欠点を塗りつぶすようなものをやらないと、潰れちゃうからね。B小町は完璧じゃないからこそ、完璧で無敵な振り付けをしなくちゃならないんだ。」

 

私の欠点か〜、やっぱり歌かな?それもダンスしながら歌を歌う、ルビーちゃんは出来てるけど音痴なのがなぁ。それと同じようにする?そうか、まずは音程を考えないでやれば良いのか、そうすれば少し余裕が出るから、少しずつ慣らせばいいのかな?

 

「よ〜し、もう一度お願いします!」

 

「は〜い、じゃあ次も星野アイが、全力を持ってお相手してしんぜよ〜。」

 

ストリートバトルみたいに、こんなにもダンスさせられるなんて、誰が予想できるだろうか?でも、

 

「楽しい…」

 

夢を追うってこんなにも楽しい事なんだって、やっと思い出せた気がする。

 

 

 

 

〜sideルビー〜

 

一曲、また音楽が流れ私はマイクを手に取り歌い出す。歌い出しはなんとか揃えられるし、意識してればなんとかなるけど、それは普通に立って歌うときくらいで、振り付けを一緒にやる時はそっちに意識を持っていかれる。

 

ジャカジャカジャーンという音と共に画面に採点が表示される。

 

「81点…81点!?やった、やったよ。ナベさんミネさん、新記録!ダンスしながら80点超えたよ!」

 

私はお世辞に行っても歌が下手だ、音痴だ。どうしてそこまで音痴なのかは解らない、パパだってミュージカル公演をしてるの見た事有るけど、きちんと音程取れてたしママとお姉ちゃんに至ってはもう言うことなしなのに…私の遺伝は何処に行ってしまったのか。

 

「まぁまぁね。これでやっとステージに立てるくらいになったって事よ?正直これでもまだまだだと思うけど、JIFに間に合うならこれくらいが及第点。

後はそれを何曲まで維持できるか、お客さんの前で緊張した中でどれだけ力を出せるかだよ?」

 

「う〜ん、じゃあちょっと向こうの皆にも協力してもらうとか?やってみる?前話してたアレ、私達のホームページまだ閲覧者1万人くらいはいたよね?」

 

『今でも応援してくれるの嬉しいけど、もう後一回しかしないから。世代交代しなきゃね。』

 

アレってなんだろう、そんな話聞いたこと無いけど。何かイベントを企画してくれてるのかな?それに、後一回ステージに上がってくれるの?もしかして、私達と一緒にステージに立ってくれるってことかな?

 

私達B小町やってるけど、昔前世の〘さりな〙だった時に思ってたのと今のアイドルって結構違くて、全然集客のためにティッシュとか配らないし、仮設ステージに立った事すらない。

だってこんなにも練習してるの、私達一度もステージに上がってそれをファンに見せたことないもん。

地下アイドルだってそういう事やってるのに、一度も無いなんて

ちょっと不思議な感じがする。

 

「ルビーちゃん、かなちゃんのスケジュールって解る?」

 

ミネさん、すっとカレンダーの日付を指さして

 

「この日の予定は?」

 

って聞いてきた。

 

「え?はい、えっとその日は確か私達全員予定なかったと思いますけど、どうしてその日なんですか?」

 

「ふふ、ちょっと昔のアイドルらしい事してみたくない?」

 

え?まさか、ティッシュ配りとかやるって事?でも、それって色々と大変じゃない?ティッシュ用意するのとか

 

 

……

 

そう思っていた時期が私にもありました。

 

「B小町のルビーです。明後日の○日に、ここ苺ステージでプチフェスをやりますので、皆さんどうかきて下さい〜。よろしくお願いします><〜。」

 

おねがいしま〜す

 

向こうでは、先輩もMEMちょも頑張ってる。MEMちょに至っては素性を隠してやってるのに、私も負けていられない!

 

『はぁ?B小町?また、地下アイドルかよ見に行く気なんて無いけど、ティッシュ貰えるから貰っとくか。』

 

『今どきティッシュ配りしか出来ないようなアイドルなんて、見る価値なくね?どうせ三流四流の歌もダンスもなんにも出来ないような連中だろ?』

 

クッ、言わせておけば。私達だって、きちんと練習して本番に向けて一生懸命頑張ってるのに!あ〜もう、ムカつく〜。そうやって私達の事馬鹿にして、一言文句言ってやろうかな?

 

また一人にティッシュが渡っていった。

 

『B小町…苺プロのあの?昔は良く見に行ってたっけな〜、この子達の同じ名前だけどユニット復活させたんだ。この日なら空いてるから、仲間を誘って行ってみるか。』

 

そういう人もいるんだ…でも結局はママ達の事を気に入ってくれてた人達…私達の事なんて眼中にないのかな?

 

『ムム?地下アイドルですか…この子達のパフォーマンス見に行ってみても良さそうですね、原石ならば推す価値アリ。』

 

中にはあまり関わりたくないような変な人も偶に混ざってるけど、そういう人がどれだけ私達の心を癒やしてくれるのか、本当に千差万別なんだな。

 

昔は私と一緒にママ達のステージで目を輝かせていたお姉ちゃんがアイドルじゃなくて女優を目指した理由が、なんとなく解った気がする。

お姉ちゃんの性格なら、きっと一つ一つに一喜一憂して心を壊しちゃうかも知れないから……事実小さい頃に始めて立った舞台演劇でお姉ちゃんは危うくそうなりかけた。

文化祭の時みたいなお祭り的なイベント、もしくはゲスト参加とかでの限定的、あるいはPVやVtuberといったネット配信で間接的にステージに立つのなら話は別だろうけど、昔のママ達みたいに毎日のように直接ステージに立つとなると……あの舞台での始めての挫折さえなきゃ違ったかもしれないなぁ……

 

でも私もちょっと怖いなぁ…

 

 

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