[2029/5/6
「えー、なんで駄目なの!ママだって中学の頃にはアイドルだったじゃん!どうして!お姉ちゃんは女優やらせてるのに、私だけ仲間はずれは嫌!」
「正直今のルビーにはやらせたくないんだよね〜、小学生の時もテストの点数良くなかったよね?そんなんじゃ高校も行けなくなっちゃうよ?」
中学入学後の学力調査というだけの目的でされたテスト。それは、お世辞にも良い点数ではなかった。
学力は中の中、低くは無いのだが高いとも言えないその成績、父親と姉のような学校と芸能活動を両立できる程の頭脳明晰であればよかったのだが、残念ながらそうではないこの娘がもしもアイドルをやればその多忙から点数が落ちるのは必至。
自分の過去を思い出しながら私は、娘へとその言葉を言ったのだ。
そう、私は高校受験を諦めた。アイドルを続けるために、愛する人と添い遂げる為に。自らの他の可能性を捨てたのだ。無論、私はその選択には一片の後悔も無いが。
未成年者、特に中学生くらいは保護者の許可なく芸能活動はできない。私か、夫の許可なくやる事は出来ないのだ。
「ママの解らずや!もう知らない!」
そう言って去っていく背中、親の心子知らずとは良く言ったものだ。心を、鬼にしてでも、自分と同じ道を歩ませるべきではない。
『売れなければそれ以外に道がない』
嫌われても良い、だからせめて幅広い選択を娘にはしてほしかった。
きっと父親に話に行ったのだろう、彼はたぶん私と同じ様に言うに違いない。私よりも上手く、丸め込んでくれるだろうとそう思いながら。]
〜sideルビー〜
苺プロ特設ステージ、またの名を〘小町の舞台〙。その昔、B小町のメンバー増員の時に、B小町のさらなる飛躍を願って当時零細だった苺プロが地下ステージを丸々買い取ったという、そんな伝説の残るここは、今かつての姿を取り戻している。収容人数320人前後。
苺プロに多く在籍しているYouTuber達、彼等にとってもここは非常に大切な場所で、大きな企画をやる時大体ここを使っているくらいには、需要がある。
だから、私達がここを独占して使えるなんて正直思わなかった。
一度も下積みを詰まずにJIFへと私達は駒を進めるのではないか、そんな疑問を持ちながらも毎日練習していた私達。
チャンスは唐突に…いや、必然だったのかもしれない。
B小町、その名前を私は甘く見ていたのだ。
そう、こんなに
「こんなに人が来てくれるなんて…正直舐めてたよ。」
地下ステージは、その全体をその集客数限界まで収容し、熱気によって空調は全力駆動でも多少暑いと感じるくらいには、あった。そして、それは同時に人の意志が集中するということでもあり、
「うぇぇ、気持ち悪い」
私へダイレクトに人の意志が来るということでもある。
ママ達のドームライブの時、5万人以上も詰めかけたところでケロッとしていた姉を知っているから、そんなもの余裕だと思っていた。だけど、現実は非情だ。きっとあの時既に、姉は色々なものを自動的に遮断していたんだ。今の私には出来ないそれを。
「ふぅ〜、いや〜人がいっぱいいるわね。私もこの人数はピーマン体操以来よ…どうしたのそんな青い顔して。」
先輩がパイプ椅子に持たれかかるように座る私の顔を見てそう言った。
そんなに今の私の顔青いのかな、血の気が引いた顔なんてパパのハイジャック事件の時のママの顔以来見たこと無いけど。
「ありゃりゃ、ルビーちゃんちょっとその顔は不味いんじゃないの?大丈夫じゃなさそうだけど…今日辞めとく?」
「ううん、折角の機会だし私達の実力を見てもらう絶好のチャンスなんだよ?それに、ここで辞めたら私達にファンなんて絶対に出来ないから…。」
色んな思想だらけだ、私達を下心で見る人、興味無いけど来た人、You Tubeのファンの人それに…ママ達のファンの人?なんで…そうかアレっていうのがコレなんだ。どうして気が付かなかったんだろ。古参の人達はママ達が集めたんだ、私達のステージに空きが無くなるように、でも。
「私達のファンは多くて60人か…」
「ルビーアンタなんか言った?青い顔して、何に当てられてるのよ?もしかして、嫌な事考えてるような奴がいるとか?だったら、そいつ等の鼻を明かしてやりましょう?
そして、私達のファンにすれば良いのよ。」
そんな事できるのかな…私は音痴だしMEMちょにも最近点数で負けちゃったし、歌の才能皆無だし。
ダンスも歌もトークも出来る(毒舌だけど)、そんな先輩に言われても余計自信が無くなってくんだけど。
「はぁ、シャキッとしなさい!アンタ、色んな事が頭の中に入ってきてるみたいだから混乱してると思うけど、師匠がこういう時アンタに言えって言われた事あるから言うわ。
〘夢中になれ!〙よ。一つの物事に集中しなさい、歌が下手でも構わない。私達3人の中で一番ダンスが上手いのはアンタなんだから、自信を持ちなさい!」
〘夢中〙になれば何かが変わるのかな?変わるとしたら何だろう、う〜ん解んないな〜。もっとお姉ちゃんみたいに…
「う〜ん、ルビーちゃんがどういう事になってるのか解らないけど、夢中になるってことはダンスだけしてれば良いって事だよ。余計な事考えずに済むと思うよ?」
そっか…ママ達との練習と同じだ。ママ達に負けないように、やれば良いんだよね?
「解ったよ、やってみる。もし駄目でも」
「大丈夫よ、私がフォローしてみせるから。それにダンスも歌も中途半端なMEMちょもいる事だし、」む?他人事だと思って、結構傷つくんだよ?」冗談よ。さっ、行きましょ?」
ルビー、上手くやれよぉ
〜sideアイ〜
お、始まった始まった。いや〜懐かしいねぇ、私達が初めて立ったステージで娘が同じく立つって言うのは、なんだかむず痒い気分だよ。でも、私達が最初に立った時よりも人数はいるね。
私達のホームページ、まだ残ってて良かったよ。あれ、まだ見てる人達いたんだね、ゲリラ的に告知やったにしては100人くらい来てるみたいだし、私達もまだまだ捨てたもんじゃないね。
あれ〜?なんだか見たことある背中があるなぁ、赤い背広を着てるけどたぶん…声かけてみよっと
「こんにちは~、奇遇ですねこんな所で出会えるなんて、お仕事どうされたんですか?まさか、秘書に投げ捨てたとかそういうの無いですよねぇ?」
「あぁ、久し振りですね。いえ、仕事は昨日全て片付けました。推しの箱が、再始動するということを聞きましてね、いても経っていられずに、こうして参戦しているのですよ。」
やっぱり隙が無いねぇ、嫌味な人。この人のせいでアムロは苦しんでるのに、全く自分はこうしてのんびりですか〜っと。この人にも家族がいるはずなのに……
「ハハハ、今回は娘達も誘ってこの会場の最前列のチケットを融通してもらって渡しておきましたよ。私だって家族サービスは怠るつもりはございませんし、これからは私も貴方のご主人も未来を変えるべくますます忙しくなってくるでしょうから家族ぐるみの付き合いが増えるでしょう。
何よりあなた方と我々の娘達は私とご主人のいた時代では成し得なかった人類の革新を齎す希望となる。だからこそ娘達には互いに交流する機会を少しでも作っておきたいのです。それにしても、お宅のステージに立つルビー君はどうやら緊張している様子、励ましに行ってやらないのですか?」
「今行っても、あの娘達は甘えるだけになっちゃうから、それだけはやらないって皆で決めたの。
私達のファンを生贄に捧げて、どれくらい彼女達がそれを喰らって成長するかそれを見に来たんだから。
それで潰れちゃうんなら、あの娘達の実力は言っちゃ悪いけどその程度って事だし、アイドルなんて夢のまた夢。
ファンに一時でも現実を忘れさせるのが、アイドルの仕事だから。
それに、そうすればJIFのステージで今の私達とあの娘達で戦えるしね。」
今の私達は、もう燃え滓みたいなものだけどそんな残照に負けるような娘達なら、とてもこれから先アイドルを続けられないと思うんだよね。
今の私達には、もうあの頃の魔法のような神秘性は無い。現実と虚像の戦いになると思うんだけど、それにルビーは気が付けるかな?
「君も中々一筋縄ではいかない人だな、もう少し手心を加えてやっても良いのではないか?別名義を持って同じ時間帯でフェスティバルに参加するとは、どういう手を使ったのかな?」
「ふふーん、私達は一応業界のトップに近い存在だからね、ちょっとコネを使ったんだよ?
それに、私は〘白い悪魔〙のお嫁さんだよ?巨星や一等星には負けないし、ましてはイカロスなんか寄せ付けない。私達は一際輝く一番星だからね。
だから、妥協なんて出来ないよ。それと、これまではアムロを通して会った印象からあなた手厳しくて冷たそうな人だと思ってたのに意外と子供達には甘いんだね。普段からそういうところを見せてくれれば他の人からの誤解だって少ないと思うのに」
「耳が痛いですね。妻や盟友を始め、周りの皆からも同じことを度々言われるのですが…お恥ずかしながらこうした隙を見せられる相手は前世の頃から少なかったもので。
だからこそ、この平和の日々を守っていきたい……こういう催しが未来でも続けさせられるように。今は貴女のお子さんの初ライブを楽しみましょう」
「……そうだね。」
アムロ……貴方がこの人に協力する理由が少しだけ分かった気がするよ。じゃあ、気持ちを切り替えて。今から楽しみだよ〜、私と一緒にアイドルやりたかったんだよね?ルビーが勝つか私が勝つか、一緒に歌って踊って確かめよ?
〜sideアクア〜
わぁ、凄い人の意思。中学3年生の文化祭でルビーとデュエットした時とはわけが違うね。しかもそれが一点にステージ上に集約されて、あんな所に行ったら
「気が狂っちゃうかもね…」
ルビー、そこに立つ勇気はある?私がずっと父様の影を見て育ってきたように、貴女はずっと母様の影を見て育ってきた。
私達のそれは憧れで、トップアイドルとトップ俳優が見てきた光景なんて私達は知らない。
きっと凄い茨の道なんだろうけど、私達は本当にそこにたどり着けるのかな?
「なんでこんな所にデートで誘うのかって思ったけど、なあマリン。あのステージの金髪の子、あれが?」
「そう、私の妹。前、今ガチの時に見に来てた子。ルビーって言うんだけどね?どう、今の見て。」
「不完全っていうか、歌がそんなに良くわないけど、ダンスに関して言えば一流に届くか届かないかくらいかな?」
そうだろうね、元々音痴が頑張って人並みレベルに上げたとしても、一流になることは出来ない。ましてや、かなちゃんが引っ張ってるけど重りが大きすぎる。中3の文化祭のステージでデュエットした時も私がカバーしてたから分かるよ。
ルビー、その感覚辛いでしょ?周囲の視線はB小町だから、とか偶々暇だったからとかそういう人たちばかりで、貴女のファンは何割いるの?
「だけど、光るものはあると思うんだ。ああいう奴等は磨いてやれば光る、原石みたいなところがあるから。俺自身がそうだったようにな…」
「そう?まあ、それならそれで良いけどそれならコレ」
私はサイリウムを彼に手渡した。
「一緒に応援してくれない?私だけでやると、ちょっと恥ずかしいし。それに、声が届かなくっても声援は届くと思うんだ。」
「俺もステージに立つことがあるから、そういう奴がいると嬉しいからな。やってやるよ。」
頑張れルビー!貴女の夢はここから始まるんだ、だから今成功しなくても良いから、この空気を感じて成長に繋げて!
『あ〜あ、ルビー全然駄目だよ〜。ほら、歌なんて貴女が歌うんじゃなくて
母様?裏方をやるって言ってたのに、全然んな素振り見せてないじゃん。なんで観客側で見てるの…
ざわざわと胸騒ぎがする、会場の一体感が増している?かなちゃんが私を見てる、何かが吹っ切れたのかな?羨望の眼差し…やだ!
「どうしたんだ?」
彼の腕に腕を巻きつける。そりゃ私たちの関係ってちょっと歪かもしれないけどさ、それでも絶対に離さないから、別れたりなんてするもんか!かなちゃんのオーラが増してきてる。それに当てられてるのか解らないけど、サイリウムを振る量が多くなってる気がする。
『うわぁ、かなちゃん凄いね嫉妬の力だ。アムロの見てた景色ってこんな感じなんだなぁ、なんか日常生活に支障きたしそうだし、あんまり意識しないでおこっと。』
「かなちゃ〜ん、頑張れ〜。」
あれ?この声、目深に帽子を被った黒髪の女の子…あかねちゃんだ。白色のサイリウムを大袈裟に振って、かなちゃんの気を引こうとしてる。
『かな先輩…なんだか解らないけどありがとう。なんか、なんとなくわかった気がする。』
ルビー、凄いね!見えるよ、ルビーの姿が。