虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第五十七話

[2029/8/6

茹だるような暑さ、例年通りその気温は平均よりも高めで全国的に熱帯のような気候となっている。

 

「センセ、久し振りー」

 

「ルビーちゃん久し振り、元気そうで良かったよ。皆はどうしたのかな?」

 

「もうちょっと後で来るよ!私センセに合いたくて、1日早く来たんだ!」

 

「そ、それは、凄い行動力だね。俺も昨日から休暇が取れてるって前から言ってたけど、それを見越してきたんだね。一人で来れたのは凄いことだけど、わがまま言っちゃだめだよ?」

 

「良いの!それよりもさ、川に行こ!早く泳ぎに行きたいんだ!」

 

事案である。彼と彼女に血縁関係はない。家族ぐるみ(彼は独り身)ではあるが、付き合いのある人達。その娘さんが一人で家にいることでさえ、何を言われるか解らないのに、そんな事やったら見つかったら確実に干される。

彼はそれを解っている。解っているんだけれども、

 

『この娘を見てると彼女を思い出しちゃって、どうしても拒否したくなくなるんだよ…』

 

彼には断るという選択肢がはなっからなかった。]

 

 

 


 

〜sideルビー〜

 

「ふい〜、やりきったーって感じだね。最後の方なんてアンコールまで起こっちゃって、ついつい張り切って3曲やっちゃったよ!いや〜、やっぱりアイドルって最高だね!」

 

「アンタ本番に強いタイプなのね。こういうとこあんまり見たことなかったけど、案外姉と同様女優にも向いてるんじゃない?」

 

「最後、なんかルビーちゃんに励まされた気がしたんだけど、それにしても会場の熱気凄かったと思うよ!

確かこれYou Tubeの方でも同時投稿してたんだよね?きっと、凄い再生回数稼げると思うよ。」

 

私達の初ライブは、大成功って言えるくらいの大盛況で幕を閉じた。ママ達が呼んだB小町の古参ファンの人達とか、暇だったから来た人達。皆の思いを私達の方向に向けることが出来て、私は満足だ!

 

「皆お疲れ様、初めてのライブにしては良かったんじゃないかしら?」

 

カツカツという足音を立ててミヤコさんが現れる。

 

「それってママ達よりも?」

 

その言葉に、全く別の声が返答した。

 

「ミヤコさんにそれ聞いても、多分返答に困ると思うよぉ〜だって初ライブのとき、遅刻してきたから。私達の初ライブの事知ってるの、社長と私達くらいだからね?」

 

ママ、なんかいつもよりもドスが効いてる。私達のライブ、駄目だったのかな?でも、絶対に掴みは上手く行ってると思うんだ!あの人達も〘B小町の新しいメンバー〙としてではなく

〘新生B小町〙として、私達を見てくれていたもん。

 

「いやー驚いちゃったよ、まさか私達が呼んで上げたファンの人達も虜にしちゃってさ〜、本当にアイドルやってるんだなぁ〜って。

でもさ、パフォーマンスに関して言えばまだまだ粗はあるし、言っちゃ悪いけど音程が外れてるのは駄目だと思うんだよねぇ。だから、評価としては及第点じゃないかな?だからさ、調子に乗るなよ?

 

底冷えするようなママの声に、気迫を感じる。本心で言ってるんだってことは充分に解ってるよ。ママの優しさ、私達が天狗にならないように、怒ってくれてるってこと私は解るから。

だからMEMちょ、ガタガタしないで?畏れ多い事をしてしまった、なんて思わなくていいから。

ママの瞳の星が〘女優 星野アイ〙を演出してるって事くらい解ってる。

 

「ママ、ありがとう見に来てくれて。パパは仕事で来れなかったみたいだけど、ママだけでも見に来てくれて私嬉しいよ。

今度、私達JIFに出ることになったんだけど、その時も見に来てくれてくれるよね?」

 

勿論、ママ達が来れないのは解ってるよ。ママ、私がどれだけドルオタをやっていたか解る?

昨今のオリコンチャートや、地下アイドル。地方アイドルも含めた全部を把握してると言って過言じゃないんだよ?

 

そんな私が、私達と同じ時間にあった

〘傾城フラクタル〙

っていう、名前も知らないアイドルグループが突然現れたんだ。

勿論ネットサーフィンもしたし、どんな活動をしていたかも調べ上げたけど、そんなグループどこにもなかった。

 

「う〜ん、ゴメンねルビー。その日はちょっと仕事が入ってて行けないんだ。だから今日来たんだけど、これで許して?

後、それぞれに宿題を出します。JIF迄にその答えを導き出して、本番に備えて下さい!私達は当分力を貸せないから。

 

じゃあミヤコさん、そろそろ行かないと打ち合わせの時間に間に合わないと思うから、私は行くね!

皆も、帰るの遅くならないように、反省会も適当にして帰ってねー。」

 

バタン、という音共にママは控室からいなくなった。うん、気配も少しずつ遠ざかってるし、本当に仕事に行ったみたいだね。

テーブルの上には一枚のA4サイズのプリントが置かれていた。

これ、綺麗にプリンターみたいな字で書かれてるけど、サキさんの文字だ。ママのと違って、文字が綺麗だもん。

 

 

 

 

 

 

 

新生B小町の皆さんへ

 

 

以下の記す通り課題を出します。

JIF迄に、各々その問題をどんな手を使ってでも克服してきて下さい。

 

かな様 貴女は全体的に非常に優れた成績をしております。しかし残念ながら、貴女にはもっと自分を主張するという欲が他の二人と比べて欠けております。よって、自分本位なパフォーマンスを心がけて下さい。

 

メム様 貴女はその有名を活かし短時間ながら新生B小町の宣伝を行い、有名としました。しかしながら、3人の中で最も体力が少ないと言っても良いでしょう。そこで、如何にして体力の消耗を減らすか、そこを心がけて下さい。

 

ルビー様 貴女はその体幹やステップ等の振付けの中に輝くものがありました。しかしながら、その歌はお世辞にも聞けるものではありません。もっと歌を練習して下さい。

 

 

全員へ 憧れを捨ててきて下さい、貴女達は私達ではありません。

 

 

 

 

憧れを捨てる…でも憧れを捨てたら何が残るの?

 

 

 

〜sideかな〜

 

「憧れを捨てるねぇ〜。別に私はB小町に対して憧れを持ってるわけじゃないから、私は関係ないと思うけど。

ルビーもMEMちょも、B小町に憧れてアイドルやってるんでしょ?そこんところ、どうなのよ。」

 

「う〜ん、イマイチ憧れを捨てるっていうのが解らないんだよね、だって私達はB小町って名前だから振り付けとか、歌も皆同じでしょ?でもって、ずっとやってきた練習だってママ達を真似してたから、正直解んないんだよね。」

 

「う〜ん、ヒントになればいいんだけど、私はちょっとアドバイス貰ってるんだよ。私達の振り付けって基本同じ構成のものが多いんだけど、それだとたぶん目立ち方がバラバラになってるんじゃないかなって。」

 

はは〜んそういう事か、なるほどね。

 

「アンタ達、それぞれ身長言ってみなさい?」

 

「えええ~何で?今更体重とか競っても、先輩がセンターなのは変わらないんだから良いじゃん。」

 

この子はほんっとうに頭が悪いわね、直ぐに察し衝くでしょうが!

 

「私は、身長!って言ったわよね?因みに私は150cm、ルビーアンタは?」

 

「う〜ンと、確か158cmだったような…あっでもでも体重は教えられないかな…」

 

その発言、もしかして太ったのかしら?まあ良いわ

 

「私はこの前の健康診断のときに測ったら155cmだったけど…まさか、かなちゃんもう自分の課題の答えを導きだしたんじゃ。」

 

「正解よ、私の身長は貴女達よりも5cmも小さい。これはつまり、私にはもっと大きく振り付けをやれって事よ、当たり前って言えば当たり前よね。

だって、そんだけ差があるってことは、存在感だってそれによって変わるわけだからね。」

 

だから、私の振り付けで一番参考になる人物は、星野アイ…B小町の元センターで一番身長が低かった彼女のそれ。

でも、私には彼女のような華々しさが無いから、後はそれをどうアレンジしていくかね…。

 

「ねぇ先輩。その思考待った方が良いと思うんだけど。」

 

ナチュラルに思考を盗聴するんじゃありません、ほらMEMちょの頭にハテナマークが出てるから!

 

「アイのやり方を真似ちゃ行けないって事かしら?今から一週間しか無いのよ?今更、作り替えられるわけ無いじゃない!確かに本来なら自分たちのオリジナルを作り出した方が良いけど、今からじゃとても時間が足りないわ!それに、どこにも真似しちゃ駄目とは書いてないし、どんな手を使ってでもって書いてあるじゃない。」

 

「いや、そうじゃなくてね。ほら、〘憧れを捨てる〙って事なんだけどね、もしかして私とMEMちょはもう、克服出来てるんじゃないかなって。

私とMEMちょの憧れは、〘B小町みたいなアイドル〙になる事私は、ママみたいなアイドルになりたかったけど、今はどっちかと言うと、パパみたいなアイドル目指したほうが良いのかなって。」

 

はあ?アンタが、あの人を目指す?

 

「アンタがあの人みたいに成れるわけ無いじゃない、良い?安室嶺っていうのは、この世で一番凄い俳優なの。どんな演技でもこなして、舞台演技畑の人で無いにも関わらずそっちでも、その光は衰える事無い。

更に、頭も良くてスタイルも良いし運動神経なんて、私達が足元にも及ばないし、そもそも」ほら、先輩憧れを捨てられてないじゃん。」

 

は?私はただあの人と貴女のそれを比較してあげてるだけであって、別にあの人の事を

 

「でも、先輩。パパの事好きなんだよね?」

 

顔が、カァーっと熱くなるのを感じる。は?私が、ソソソそんな

 

「そんな事あるわけ無いじゃない、そもそも彼は貴女の父親なわけで、私の演技の師匠なわけだけど、敬愛っていうかそもそもLOVEって意味じゃないんだから!」

 

「はえ〜、かなちゃんわっかりやす〜い。動揺し過ぎだよ、息荒いし顔は真っ赤だし、目も泳いでるし本当はどうなんだよーホレホレ!」

 

心臓がバクバクする、巫山戯るのもいい加減にしなさい、本当に怒るわよ…

 

「ごめんごめん、でも先輩。その気持ちどう考えたって憧れだよね、先輩は私のパパに恋してパパみたいになりたいって、そう思ってるんだよね?だから、私達を支えようとしてくれてるの?」

 

「別に、真似してる訳じゃないわよ。ただ、あの人はきっとこうするだろうな…とか。あの人ならこうやって導くんだろうな…とかそうやってるだけ。」

 

何がそんなにおかしいの?私が身近な大人を真似しちゃいけないってわけ?

 

「しょうがないじゃない、あの人だけは私を〘有馬かな〙として見てくれる。私がやっちゃいけないことをやった時は怒ってくれたし、悩んでる時は一緒に考えてくれた。苦しい時も悲しい時もいつも、私を助けてくれた。 そんな人に憧れちゃ駄目だってこと!?

 

「じゃあやっぱりそうなんだ、先輩はパパみたいに私達を助けようとしてくれてた。でもそれで、先輩の輝きが本来のものより落ちちゃったら意味ないじゃん?

本当は私達が先輩に追いつかなきゃ駄目なのに、ブリ大根になるからってそんな理由で、手を抜かれてたの?」

 

「手なんか抜いてない、ただ私は純粋にアンタ達のことを思って…」

 

「そんな事解ってるよー。私達が足を引っ張ってることくらい。だから、かなちゃんが調整しなくちゃならなくなってる事くらい。そうならないために、私達は練習するんだからねー。」

 

それで簡単に変われば私だってこんなに苦労しないのよ。

 

「じゃあ、JIFのときはアンタ等に合わせないから、良いわね!!」

 

私は椅子に座ってふんぞり返る、でも心の中では情けない心でいっぱいだ。憧れは、理解に最も遠いと言うけれど、私は貴方のことを理解してるつもりでいます。

ごめんなさい、安室さん。貴方みたいになれなくて。

 

「かなちゃん…そうじゃないんだって。」

 

その声とともに顔を上げた、そこには森本ケンゴと連れそうあーちゃんがいた。

 

 

 

〜sideアクア〜

 

「ねぇかなちゃん。私の目を見て話をしようか?」

 

「はぁ?元のアンタならともかく、男にうつつを抜かして、演技が未だに抜けない今のアンタに言われたくないわよ!だいたい、ここは」

 

「控室だろ?ならば話は早いな、関係者がここに入ってはいけないという事道理ではない。そうであろう?」

 

やるならこれくらいかな?ハマーンさんの演技、尋問するならこれが一番。それに、別に演技が抜けないわけじゃなくて、あれが私の素なの!男が好きなのはしょうがないじゃん!!

 

(後で覚えていろよ、貴様)

 

(ごめんなさい!でも今は……)

 

「それで?どこから話を聞いていたの?」

 

「最初から最後までだ、母様と途中ですれ違ってな。お前等にえらく期待をしていたよ。それがなんだ、このザマは。天才子役が聞いて呆れるな。いや、元天才子役だったか?」

 

煽ってあげればこの子は、本性を出す。昔はそうだった、でも

 

「そうよ、元天才子役。今はアイドルと役者の掛け持ちだけどね、私は役者を主力にアイドルをやるのよ。なんか文句ある?」

 

「二足の草鞋とは、どちらも中途半端になるに決まっていよう。それが理解出来ない馬鹿でもあるまい?」

 

「お姉ちゃん、流石に煽りすぎだって!」

 

「そ、そうだよ。いくら本当の事を言われたからって、そんな喧嘩腰じゃ」

 

解っていない、本当に皆解ってないな。有馬かなっていうこの面倒くさい娘のことを。

 

「黙れ、貴様等に口を挟む権利は無い。同じB小町であるのならば、黙って外野の声を聞いておけ。」

 

「ネチネチネチネチ、何?この前の当てつけにでも来たわけ?アンタのお礼参りに付き合っている暇なんて、私には無いんですけど〜、それとも何?私のあり方に不満なわけ?」

 

不満なんて無いわけ無いでしょかなちゃん。かなちゃんの憧れは、もうそれはそれは父様の事を理解したい、一緒になりたいって奴でしょ?

〘一生一緒〙になれないなら〘同一〙になりたいっていう願望の。

 

「正直言って気持ちが悪い。父様の生き方を真似ようとして居るとは、かなちゃんには到底不可能だ。解ってるであろう?私には自分を見失うなと言うが、かなちゃんは自らを自らの意思で捨てようとしているな。とな。」

 

「それはちょっと聞き捨てならない事ね、大人としてそれだけは許したくないわ。有馬さん、本当なのかしら?」

 

「……」

 

父様がかなちゃんを変えた、だからどうって事はないけど。まだ私生活にまで影響出てないってだけで、今後もそれが続くようなら〘有馬かな〙は本当に別の人になってしまう。それも自分の意思で。

それに、もしそれを父様が指摘したら今度は反対に舵を切るかもしれない、そうなったら気圧の変化のし過ぎでどうなるか…

 

(……それでも程度で言えば現在のお前と比べればその娘はまだマシだぞ。とはいえ、確かにこのままでは過程は違えど、この娘も今のお前のように本来の自分を見失いかねんな。

加えてお前の思うようにアムロ・レイの口からそれを言った所で、一昨日の奴が話に割って入る前のお前達と同様逆効果になる可能性が高い)

 

(今は黙っててくれる!)

 

「その口調のアンタに言われるとは思わなかったわ…でも、まだ完全じゃないけどちょっとは元のアンタらしさが戻ってきてくれたようね、いつ直せたの?」

 

「初めから知っているであろう?私が素を見せるのは、かなちゃんの様な、親友認定した人だけだと。流石に一昨日の家でのことは悪かったし、今日のデートもやり過ぎだったと反省している。何よりここにはミヤコさんもいるからな。素は出せんよ。」

 

私はミヤコさんをそれほど信用していない、あの化け物の様な気配が、今でも脳裏に小縁付いて離れないからな。

 

 

 

 

 

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