[2029/9/
「ありがとうございます。まさか、舞台の準主役級の娘に選んで貰えるなんて、最近やってなかったですけど、折角頂いたんです。絶対に頑張って安室さんにお見せしたいです!」
「いや、俺は君の演技力に相応しい舞台を用意しただけだよ、本当は主役級をと思ってたんだけどね。
その劇団の人達とは昔からの付き合いでね。人手が足りないからと、急遽頼まれたんだ。君の実力ならばと、キャスティングしてくれたんだ。だから、お礼を言うならララライの団長に言ってもらった方が良いと思うよ。」
「はい!」
彼女は笑う、それは丘に咲く向日葵のように煌々と。
憧れの役者は誰か、そう聞かれれば真っ先に彼と答える彼女は、彼から貰った役を全力で演じる。
その演技は彼女が嘗て行った独善的な演技ではなく、周囲に合わせたもの、特徴が無いところが特徴と言えるもの、彼女は期待に答えるために、役という型に自らを整形していった。]
〜sideアイ〜
「アムロ〜私、ルビーに意地悪しちゃったよ。隠し事なんてして、嘘もついちゃって、おまけにちょっとキツめの言葉も言っちゃったし、ルビー傷ついてないか心配だよ〜。(;_;)」
[いや、大丈夫だろ。一応彼女達もプロになったんだから、それくらい言わなきゃ。駄目なところは駄目、良いところは褒めてこそ先達としてそれは正しいことだと思うんだが。]
そうは言うけどさ、自分の娘だよ?割り切れないよこんな事、私も素直じゃないけどさ〜、皆も皆だよ。
《母親のアイが言った方が、インパクトあるからその方が良いんじゃない?》
なんて言うから、あんなこと言っちゃったけど。3人とも大丈夫かなぁ、流石に折れてるなんてことは無いと思うけど、喧嘩なんかしてたら嫌だな…。
「アムロはフェス見に行くの?もし行くなら、私とルビーのどっちを見に来る?」
[そうだな、たぶんアイの方を見に行くと思うよ。君の1stステージ昔見に行けなかったからね、だから今回だけは見に行くよ。これは絶対だ。]
とかなんとか言っちゃって、実は遅刻したりするかもしれないよね。あの時、最後に見に来てくれた時は感動したな〜。
〘ああ、やっぱり来てくれないんだ。あの言葉は嘘だったんだ〜〙って思ってたら最後の最後で肩で息をしながら、私達を見に来てくれた。嬉しかったな…
「ねぇ、私達のライブ見に来てくれるのは嬉しいけど、ちょっとお願いがあるんだ。実はね……」
とっておきのサプライズを用意してあげるよ。ルビーには先生がいるけど、かなちゃんには特別に。
……
私達は今、サキちゃんのダンススタジオに来ています。いや~内装綺麗だなー、清楚な感じがする。そりゃスタジオだから、足元とか掃除しないとまずいだろうけど、それでも今まで見た中で一番掃除が行き届いてる。家の3階に設けてあるレッスンスタジオでも掃除は怠ってないけど、普段はロボット掃除機任せだから流石にここまでピカピカにはしてないもんな。
「はい、ということでJIFまで残り2週間。皆も解っている通り、私達は私達の持ち歌を歌うことは出来ません。ということで、今日は3曲歌を発表します。振り付け練習も始めます。13日でものにしないとなりません。」
「はいは〜い、これが私達の衣装になります。現在のウエストと、体型に合わせて調整してありますので、問題は無いかと思いますが、一応今日着て、一度一通り踊ってもらいます!」
燕尾服、飾りっ気の少ない衣装だ。肌の露出を最小限に、執事が着てるような感じ、それぞれのイメージカラー。
私の色は朱殷色、非常に暗めだ。全員が全員、そんな感じで昔のステージ衣装の派手な色からは想像出来ない。中のワイシャツくらいかな?真っ白だ。
「私達の衣装の色って歳取る事に暗くしてったんだっけ?微々たるものだったけど、そこからいきなりこれか〜。大丈夫?地味すぎない?」
「ふっふ〜ん。そこは大丈夫、ワンポイント蝶ネクタイにご注目、ここのど真ん中にはウチのマスコットの〘ハロ〙。コイツは昔の色のまんま、それなりに目立つよ〜。絶対に曲げないように、それと光の屈折で服に光沢が出るようにしてるので、角度によっては元々の色に見えるよ!それとほいっ!」
投げられたのは漆黒のステッキ、まさかと思うけど。
「これ小道具です。振り付けの際、多用するので今日から身体になじませてね!」
古風なもんだね、私達にはピッタリってことか。古い装いに、古いアイドル。
ラストライブ以来の本当のステージ。
「現在の私達の、私達なりのパフォーマンス。後輩達と競うなら、これくらいのハンデは必要。
今の私達にはもう若い時のような神秘性は作り出せない。けれど、私達には経験っていうアドバンテージがある。客が集まらないならそれなりにやろう、私達なんて、最初は数人しかいなかったんだから!
私達の二度目の1stライブ、成功させよう!」
「「「「「「「エイエイオー」」」」」」」
ルビー、私達も一緒だよ。
〜sideアクア〜
うざいな、周囲の男子の目線が私の身体に突き刺さってくる。今ガチが終わった頃、なんか窮屈に思ってサイズを調べたら、みなみちゃんと同じGカップに成長してしまっていた。
あのインナーとサラシを以てしても窮屈になってしまったのと全国ネットで自分の本来のスタイルを晒してしまったのでもう体形を隠すことが出来なくなり、やむなく学校で制服でいる時はもうブラジャーに切り替えるようにしてからというも胸と尻にこっそりとだが、目を向けられない日は無い。
これでは中学時代での水泳の授業の再来だ。あの頃もどうしても体形を晒さざるを得ない水着に着替えてプールに立った時は、男子達の視線が思いっきり私の胸と尻に突き刺さってきて…その中でも特に嫌だったのは当時のあの体育教師の私に向ける視線ときたら……ああ駄目だ、これ以上思い出したくない。
こうして今ガチが終わってからというもの、私に向けてくる視線が少し変わった。いや、少しどころではない今迄見向きもしてこなかった、そんな奴が話しかけてくるようになったんだ。
芸能科だけじゃなく、普通科の連中まで人の休憩時間に割り込んできて、人を疲弊させるのが好きな連中だ。
正直言って、最初は悪い気はしなかったが今は単にうざいんだなこれが。
そして何より
「どうして私の横でお弁当を食べているのかな、不知火フリルさん?」
「どうして?自分の推しが学校にいるのに、近付かない馬鹿はいる?いや、いない。」
普段あまり話さなかったから、どうでも良かったけどこの人。どこかおかしいんじゃないか、撮影現場で一緒に仕事したことあるけど、こんな事を言う奴じゃなかったのに。
うざくなったから、役を辞めて元通り男っぽく行こうとしてるけど、なんか抜け辛いんだよあれ。
かなちゃんの言う通り、もっと気をつけておくべきだったなぁ。今でも油断するとアレになりそうだから、プライベート。特に人目が無い所とか、デートで二人きりの時とか、親友たちの前くらいなら良いと思う。
「そう言えばアナタ、有馬さんどうしたの?最近一緒にいないけど、仲違いでもした?」
「フリル、貴女には関係ない。どうしてもと言うなら教えてやっても構わないが、条件がある。」
頭に?マークを付けて首を傾げてる、確かに可愛いけど何処か不思議ちゃんっぽいところもあって不気味だ。
『どんな条件なんだろう?ワクワク・ワクワク』
なんでそんな事でワクワクしてるんですか?やっぱりコイツは苦手だ。コイツを前にしている時は常に力をONにしておかないとコミュニケーションに失敗して余計な誤解やすれ違い等を生みかねないな。
父様達の言っていた、この力は人と人との間に誤解のない相互理解を促すことで無用な争いや諍いを解消する為にある希望の力と言っていたが、結果的にコイツのキャラがこの力の正しい用い方をさせてくれる良い練習台にして手本になっていることを思うと…なるほどと思うのと同時にいささか複雑な気分となる。現にハマーンからも
『こういう相手は色々な意味で希少だから無暗に切り捨てるな』
と説かれたし、悪い子じゃないのは分かっていることや今ガチでの成功を機にマルチタレントへのキャリアのステップアップに私は足を掛けた以上、その先輩としてもフリルは貴重なコネになる。ここは実を取るべきだろう。
「焼きそばパン買ってきてくれたら教えてあげる。」
「そんなんで良いの?解った、買ってくるね。」
本当に買ってくるのか…行動と心の動きが全く同じでブレがない。天然の要塞だよ。それにしても、かなちゃん大丈夫かな?
放課後も一緒に帰らなくなっちゃったし、遠目から見てずっと沈んでるし、初ライブからずっとそうだ。
「はい、買ってきたから教えて」
「解ったよ…一つだけだけどな!」
『うん、それでも良い。早く聞かせて。』
もしかして、コイツならなんとかできるんじゃないか?いや、無いな。
『そうすぐ決めつけるな。試すぐらいのことはしてみろ。どのみち我々に損はあるまい』
『……それもそうだね。それじゃ…とりあえず当たって砕けてみるか』
〜sideかな〜
私は一人、家で布団に包まっている。暗い部屋で一人ぼっち、家族はいない。私を置いて帰っていった、私を利用するだけ利用していなくなった。
あの人みたいな人は、いない。
{正直言って気持ちが悪い。父様の生き方を真似ようとして居るとは、かなちゃんには到底不可能だ。}
解ってるわよそれくらい、私に彼を真似る事なんて出来ないって。
自分を彼に近付けるために、色々な役をやってきた。私に無くて彼にあるものを探し続けてきた。
私をこの道に引き止めてくれた、憧れの人。今でも考えると、胸が熱くなる。隣に立てないのなら、同じになりたいってそう思った人。
私が私のままじゃ、到底叶えられない。隣に立つなんて出来ない、だって彼の隣には既に〘アイ〙っていう絶対的な人がいる。
{かなちゃんは自らを自らの意思で捨てようとしている}
わかってるわよ……だから、私だって今のあーちゃんのことを笑えない。それでも、せめて彼と同じになりたかったの。
親友の父親、彼への理解は親友が一番近い。でも、彼女を利用するなんて出来ない。だって、あの子には友達がいなかったんだもん。私がいなくちゃ、私が親友であり続けなくちゃ、だって彼女はあんなにも脆く儚い。
あの後…ルビーに言われた。
{パパに幻想を抱くのもいいけど、パパはそんな完璧な人じゃないよ?私達だって、パパの過去を全部知ってるわけじゃないけど、それならいっそパパに聞いてみれば良いじゃん。}
聞けるわけ無いじゃない何よりなんて聞くのよ、《貴方のことを理解したいから色々と教えてください》って?それって告白みたいなものじゃない。絶対嫌われる、もう私の名前だって、呼んでくれなくなるかもしれないじゃん。
「はぁ、憂鬱だわ…今更憧れを捨てるなんて出来るわけ無いじゃない。その憧れが無かったら今の私は無いんだもの。叶えることの出来ない夢なんて、叶えられるわけ無いんだから。」
私なんて…背中を見つめることしか出来ないのよ…
……
学校が辛い、練習が辛い。憧れ、それを自分で捨てなきゃならない。解ってる、それが強制じゃない事くらい、だけど一度意識してしまったものを、それを忘れるなんてそんな事出来るのかしら。
一人ぼっちで帰るその道を街灯が照らしている、何を思ったのか私は家とは違う道を行った。
誰もいない公園、私はいつの間にかそこに一人で座っていた。この公園はまだまだ古い設備が残っている。ブランコなんてものもまだあるなんて、整備が進んでいないのだ。
私はブランコに座りながら、ただ一人悩む。憧れをそれを乗り越える、その方法を。
「こんなところでこんな時間に、一人なんて危ないですよ?」
どのくらいそこにいたのだろうか?10分なのか一時間なのかそれも解らない。けど、周囲はまだまだ暗いままだ。座り続けていた私に一人の男が話しかけてきた。
「ありがとうございます。えっと、」
「有馬かなさん、ですよね?新生B小町の!いや~、こんなところでアイドルの方に出会えるなんて、思ってもいませんでした。良くYou Tubeで見てます。この前のライブには行けませんでしたが、次は是非行きますよ。」
金髪の男がそう言った、彼はいったい何者なんだろうか?私のことを知っているのか?
「どうしました?何か思い詰めるような事があるんでしたら、相談に乗りましょうか?」
「悪いんですが、迷惑ですから。それに、見知らぬ人に声をかけられたら、まずは警戒しますし。」
男は少し考えた後、徐ろに姿勢を正して言葉を紡いだ。
「それでは改めまして神崎光と言います。良ければですが、少しでもお話を聞かせていただけませんか?
何か、お力になれるかもしれませんので。」
そう言って男は徐ろに手を私の方へ渡す、掴めという意味なんだろうけど、どうすれば良いんだろうか?
神崎光、名前だけの不気味な男。ルックスも身長も悪くはない、芸能人にいても良いような男だ。
その服装も、一流のそれでまるで……彼のような佇まい。
私はその手に手を伸ばし……神崎の瞳を覗く、そこには星が黒い星が煌々と輝いているように見えた。
この顔、どこかで見たことがある。そう、それは確かララライのOBその集合写真に、確かにいた。
私は伸ばしていた手を一度止めた、だけども神崎が伸ばした手が私のその躊躇した手を掴みに来る。私が引くのが先か、神崎が届くのが先かそれはたぶん一瞬だったと思う。
その一瞬の差で私の手は私の元へ戻り、神崎の手は空を斬った。
「名前、神崎じゃありませんよね。神木ヒカルさん。」
「あぁ、もう少しでヘッドハンティングできると思ったんですけど、中々上手く行かないようですね。輝きだけではない、貴女の周りには虹が流れている。」
どういう意味だろう、虹。それは雨の上がる時に起きる現象、それと私とどういう関係が。
「こんなところで何をしてるんだ、かな。」
その声を聞いて、私は喜んでしまった。誰も心配してくれなかった私を、この人は探してくれた、と。
「おや、そういう事ですか。そうですよね、同じプロダクションにいるのですから、貴方が出てこないわけがない。アムロ・レイ。」
「久し振りだな、神木」
神木ヒカル、君塚翼の所属しているカミキプロダクションの代表取締役、それでいて〘アイさんを狙っていた人。〙でも、どうして捕まっていないんだろうって、考えたことがある。
「いつ以来でしょうか、こうやって対面するのは。
そうですね…、貴方のドキュメンタリー以来ですかね。僕が貴方の少年期を担当させていただいた。」
「そうだな、それ以来互いに仕事で共演することは無かったな。お前がララライを抜けた時、何を始めようとしているのか解らなかったが、まさか紛いなりにも経営者か。
それにしても大胆不敵だな。俺達のエースを引き抜こうなんて、悪い事を考えているな。」
引き抜き…本当にそうなのだろうか。安室さんは、私に何か隠してるんじゃないだろうか?この人が隠し事をするなんて、きっとよほどの事だろう。
「いえいえ、彼女が切羽詰まったようにしていたので、
そう言うと、神木は何処かへと消えていった。