虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第五十九話

[2029/10

 

「演劇ってやっぱ大変ね、一発本番で間違えが効かないから、ドラマの撮影なんかよりも覚える事たくさんで…でも」

 

あの人の為なら、私は輝ける気がする。

 

「久しぶりだね、かなちゃん!」

 

青みの掛かった黒髪ワンレンボブの娘が話しかけてきた、何処かで見た覚えがある。そう、確かパンフレットの表紙に顔が乗っていたわね。

 

「初めまして黒川あかねさん、私は共演させて頂くことになりました有馬かな、と言います。」

 

「え?私の事覚えてないの?ホラッ!子役時代いつも色んなオーディションで顔合わせてたじゃない!覚えないの?」

 

あぁ、黒川あかね。私に仕事が無くなり始めた頃に劇団とかそういう方で有名になってきてた娘。私がマルチで仕事を受けている間に、一つの業界でのし上がった娘。

 

「ごめんなさい、小さい頃のことあまり…皆いなくなっちゃったの思い出したくなくてね…。だから何か悪い事をしたようなら謝るわ、ごめんなさい。

これから一緒の業界で過ごしていくんですもの、互いに手を取り合って行きましょ?」

 

じゃ……ない。」

 

え?

 

こんなの、こんなのかなちゃんじゃない!!

 

そんな事言われても、私はどうすりゃ良いって言うのよ。仲良く切磋琢磨したいだけなのに…。]

 

 


 

〜sideかな〜

 

シャワーと流れ出るお湯が、私の身体を少しずつ温めてくれる。湯船に浸かり、疲れを取る。

私は確かにあの時、神木の手を取ろうとした。どうしてだろうか、あの時の彼の纏う雰囲気に私は呑まれようとして、自らの意思で彼から目が話せなくなっていた。

きっと不思議な力とかそういうものではなく、私の心の中の欠けた部分が彼に引かれたのかもしれない。何かを埋めようとする代償行為として。

 

もし、私があそこで手を伸ばしていたら…、神木の手を取っていたら…、きっと私は彼に着いていっていたと思う。そうなったらきっと、私は身体を…私のそこを開いてアイツを受け入れていたかもしれない。そんな事になったら、私はきっとあの男の良いように姿を変えていたかもしれない。

そんな思考に、そんな思案に私は今震えている。

 

私がシャワールームから出て、服を着て部屋へと戻るとそこには野菜のカップスープが置かれていた…私を家まで付き添ってくれた人…安室嶺。私の師匠…愛しい人。

 

ありがとう…ございます。」

 

我ながらか細い声だ、そう自覚できる位には私の声に覇気はなかった。

この家に誰かを招き入れるなんて、あーちゃん以外特に異性は私は初めてだ。どういう顔をすれば良いんだろぅ。

すぅっ、アレ?意外と美味しい?

 

「お料理、得意じゃないって言ってましたけど、充分美味しいもの作れるじゃないですか…、どうして嘘をついていたんですか?」

 

「そうだな、俺の性格上あまり身体に良いものを作れないから、かな?解るだろ?」

 

確かに栄養素とかそういうのに括りそうな、そんな性格じゃないと思うけど。そういうことだったかぁ……。一生懸命、練習して作れるようになったんだけどな…、私より味は良いかもしれない。やっぱり、師匠って凄いじゃないの。ルビー、想像よりもこれは課題をクリア出来ないかもしれないわ。

だって…こんな人忘れたくなんて無いんだもの…

 

「大分悩んでいるようだな、そんなにも課題が難しいのかい?」

 

「難しいですよ…、私達の憧れ。それを捨てろって内容ですから、私はそれ以外の課題は無いと自分でも理解しています。だけれど、私は捨てたくない。

だって、それを捨てたら私が役者をする意味すら無くしてしまうような、そんな気がしてならないんですから。」

 

こんな私を見て、彼は失望しないだろうか?いつものハキハキとした私を見ている彼を、演技をしている時の私を褒めてくれる彼を、失望させていないだろうか。

 

「時に質問がある、君はなんで役者を始めたんだ?」

 

私が?そう言えば、どうして役者を始めたんだろう? 

そうだ、私は物心付く前からこの業界にいたお母さんが自分の夢を子供に託して、私をこの業界に引き入れた。

私は、私の足でこの業界に入って来た訳じゃないんだ、私は敷かれたレールから始めた。私が役者を始めた経緯と家庭の事情を知っているのはあーちゃんだけだ。

 

「俺も同じだった、随分前に話たろ?この世界の親父と母はそれぞれ別の業界に生きていたけれど、この業界に俺を入れた。気まぐれか、どちらかの夢か。今ではもう覚えていないけれど、自分の足でこの世界に入ったわけじゃない。

子役からやってるなら、そう珍しいことでもないよね。特に、かなや、俺のように赤子の頃からやってる奴は。」

 

「そう…ですね。正直考えたくなかったですね、私はずっと誰かの為に演技してきたようなものってことを。」

 

そう、私の始まりはあーちゃんとは違う。

〘押し付けられた憧れ〙が、私の役者としての人生。私を通して出てくるものは、私を置いていった母親と同じもの。仕事が来なくなって家庭が崩壊したあの時、この人とあーちゃんの二人がいなかったら私は人間不信に陥ってしまっていたに違いない。

 

「安室さんはどうなんですか?私みたいに、誰かの願いで続けているんですか?」

 

「そうだな…俺は親が死んで最初の六年間はそうだったと思う。少しでも、二人の生きた証を残そうと俺なりの償いをとそう思ってやっていた。

だが、そんな時に一人の少女にであった。アイ、彼女だ。

 

知ってると思うが、当時のアイは母親から虐待を受けていた。今となっては信じられない話だがね。あの時、俺は彼女の名前を聞かなかった。話してくれなかった、と言った方が良いかな?

そんな彼女を、少しでも勇気づけたいと思って必死に学んだよ。有名になれば、彼女が俺を見つけてくれて彼女の道標になれるんじゃないのか、とね。

 

今は学者との二足の草鞋、少しでも子供達の道標になろうとね?君を含めた。」

 

今の話を聞いただけでこの人は凄い人だって解った、だってこの人は道標になるために続けているんだ。ただ誰かの為と、誰かの憧れや夢のためではないこれじゃあ、もっと憧れが大きくなるよ。

 

「そんなに俺は凄いだろうか?俺はな、償いをしているだけだよ。」

 

「なんの償いなんですか?だって犯罪なんて…」

 

その償いって、前世の話だろうか?あの地獄から生きて来た中で、そんなものを抱える決しておかしい事じゃない。でも、そんな事思わないで欲しい。そんな事、思う必要なんて無いのに。

 

「あの娘達にも話したことがない事だが、聞くかい?」

 

私は頷く、その言葉に意味があると思いながら。

 

「一年戦争から13年後くらいかな、その間も多くの戦争や動乱があった。俺が死んだ戦争での話だ。これは、アイとシャアしか知らない。

 

俺はその戦争で、一人の少女と出合った。クェス・パラヤと言う子で当時まだ13歳だったと思う。

彼女は連邦の高官の娘で、家庭に色々と問題を抱えていたみたいでね、父親のことを親と思えていなかった。

そんな彼女は、理想の父親を求めて俺を頼ろうとしたんだ。だけどね、きっと俺は子供の影を見たんだろうと思う。

俺は彼女の父親代わりなどと、そう思って彼女に冷たくした。

 

そこから悲劇が起こった、彼女はとあるコロニーでシャアと共にネオ・ジオンに参加して、強化処理。一種の洗脳みたいな事をされて、俺の敵として現れた。悔いたよ、あの時俺が突き放さなければ、子供の影を持っていても手を取ってあげていればと。シャアも現在では彼女を拒絶して兵器として扱ってしまったことを後悔している。

 

だから俺は、今のこの世で君達を助けているんじゃないかって、そう思う時があるんだ。」

 

罪滅ぼし、人の命を救えなかったという後悔それこそ、自然災害の中でしか現れない、私達の時代ではもう珍しい物となったそれを彼は語った。

 

「そんな訳無い、だってアムロさんはいつも私達を見てくれている。誰が否定しようとも、アナタは決してそんなやましい事を思いながら、手を伸ばしていないって解る!」

 

「アイにもそう謂われたよ。だけどね、一度そう自分の中でできた疑念は意外に頑固なものでね、今でも俺に付き纏ってくる。

こんな感情、ララァを手に掛けた時以来だよ。」

 

強いと思った人の弱い一面、認めたくない。憧れの中に一滴の憂いが溶け落ち、この人の本当の姿を見る。

目の前の人は確かに強い人だけれど、決して神様なんかじゃないってそう解らせてくれる。

あぁ、だからアイさんは彼の傍らにいるのかもしれない、彼の弱い部分を知ってそれでもなお、彼に寄り添おうと常にいるのかもしれない。それを解っているから。

 

なら、私にそれが出来るのか?こんな、高々初恋と憧れ程度に一喜一憂してるような小娘に、でも私の中の心は言っている。負けたくなんか無いって。

 

「悪いね、変な話を聞かせてしまって。」

 

「変なんかじゃありません。誰だって悩み悔やむ事はあります、だからこうして話をするんです。

だから…JIFが終わったらもう一度聞かせて下さい、あなたの悩みをアイさんと一緒に。だって私達は、秘密を共有する仲ですから。」

 

告白しよう、JIFが終わったらアイさんを交えて安室さんに、それが憧れからの脱却になるはずだから。だから、今は憧れを封印してこの人を見よう。

 

 

 

〜sideアクア〜

 

「そうそう、うん。解ったありがとう、うん。父様も気を付けて。」

 

ハァ〜、かなちゃん見つかって良かった〜。家に行ったらいないんだもんフリルに感謝しか無いね。アイツがいなかったらあの子の家に行かなかったもん。

 

『だから言っただろう。お前はもう少し私とあの娘以外の人間にも頼れる者を作っておけと』

 

『仰る通りで。反省してます…』

 

「お姉ちゃん、どうだった?」

 

「かなちゃん見つかったって、もう皆に心配かけて。電話繋がらないしLINEも見ないし、メッセージも使ったのに全然見ないし、もう。今家にいるって、父様が連絡くれたから私達も戻ろうか。」

 

それにしてもルビーの勘は冴えてるとかそういうレベルじゃないな。だって、公園にいるかもねって言ってたけど、本当に公園にいるなんて思わないじゃん。父様も父様で、それを信じて行ってくれて助かったよ。

 

「フリルちゃんにもお礼言っとかないとね☆。フリルちゃん、お姉ちゃんのことを推しって言ってたから、お姉ちゃんが渡してあげなよ?」

 

くっそう、人の記憶を覗いて。使いこなしている、この私よりも。ちょっと適応力高すぎだよ。

 

『正直見事なものだ。アムロ・レイとシャアが評していたように力の出力では私とお前の上を行っている』

 

『だよね。この前教えてもらった相手に重圧を与えたり、魅了したりといった応用力では私とハマーンの方が勝ってるけど、認識力や直感力といったNTの真骨頂と言える感知能力ではルビーの方が上手だ』

 

「ふっふ〜ん、これでお姉ちゃんと対等に戦えるよ!技のお姉ちゃんに力の私か…いいね!だから、はいコレ。」

 

何がだからなのか、手渡されたのは

 

「か、〘かわいい小鳥さんシリーズ・シマエナガ(冬期)〙なんでルビー持ってるの!」

 

「う〜ん、それね貰い物。フリルちゃん喜ぶと思うよ〜?推しからこんなプレゼント貰ったら、きっと。」

 

まさかお礼に渡せと!この私に!クッ!ほ、欲しい…絶対に手に入れたいのに〜!

 

「私の〘手作り雀ちゃん〙じゃ駄目かな、あれなら羊毛フェルトで6匹親子ワンセットで直ぐにでも作れるから!」

 

「手作りの方が喜ばれるかもしれないから、それでも良いんじゃない?知らないけど。」

 

よっし、じゃあ早速帰って作りましょ!

 

 

……

 

「遅れました」

 

という声が隣の教室から聞こえてくる今日。昼休みの中庭で、またまた不知火が、私の隣にやってきた。

そして、久しぶりにかなちゃんも登場だ。

 

「かなちゃん……なんか雰囲気変わった?」

 

なんだろう、この前よりも何処か雰囲気綺麗になった?化粧は変わってないみたいだし、どちらかと言うと清楚に?

 

「あーちゃん、昨日はごめんなさいね。探させてしまったみたいで、でももう大丈夫。心配事も綺麗サッパリ片付いて、今や心も身体も軽くてまるで羽が生えたみたいだから…。あ、不知火さんお久しぶり。」

 

「先輩、お久しぶりです。なんだか雰囲気変わりましたね、恋でもしましたか?」

 

ど直球!ど直球すぎるよこの娘、そんな〘冗談ですよ?〙って顔しながら言っても、質問内容はそんなのじゃないから!

 

「フフ、解る?でも残念ながらその質問はNG、なんせ私はアイドルだから。察して?」

 

「解ったわ。ところで、ルビーに貴女が私に渡したいものがあるからと、聞いていたのだけれど何かしら?」

 

私が望んであげたいみたいになってるけど…周囲の女子供目を輝かせるな!〘私は断じて女に恋心など懐きはしない!〙って言えない状況に自分に自分でしたんだった、どうしよっ!

 

「えっとコレ、プレゼント。〘家族スズメの羊毛フェルト〙昨日はありがとう、かなちゃんの事気にかけてくれて。だから、そのお礼、それ以外に意味はないから…。」

 

「コレ、私に?ありがとう、大事にするわ。でも、どうしてくれるの?貴女に彼女の話をしただけなのだけれど。」

 

そりゃあ、かなちゃんがヤバいことになってたかも知れないって、勘で思いました。なんて言えるわけ無い。

 

「ともかく!ありがとうございました!黙って受け取ってよ、恥ずかしいんだから。」

 

私が横を向いていると、正面から

 

カシャリ

 

という音が響いた。

 

「その顔良いね、もっと撮らせて。」

 

あ"ーも"ーほんっとうに、力をONしても読めない!行動と心が同じ過ぎなんだって!

 

「あらあら、あーちゃんが翻弄されてるわ。クールな貴女もいいけど、困らせられてる貴女も良いものね。これも面白いから良いけどね!テヘペロ」

 

あーちゃん、見てないで助けてよ〜『……今回ばかりは同情するぞ…アクアマリン』

 

 

 

〜sideルビー〜

 

「う〜ん、人の感情を読み取る練習…感じは掴めてきたけど、もうちょっと深く潜ってみても良いかな?

いや、でも待てよあんまり行きすぎると心に直接ダメージがありそうだし、そうだなぁ。どうしようか?」

 

パパがいれば相談乗ってくれて良いんだけど、JIFとか来年からのドラマの撮影の準備とかで忙しいみたいだし、学会とかにも顔ださなきゃならないし大変だなぁ。となると、またお姉ちゃんを通してハマーンさんに相談してみるか。

 

ママはママで、最近いつもよりも帰ってくるの遅いから、たぶんJIFの持ち歌の練習とかしてるのかな?ママ、アイドルとして私達と戦おうとしてるんだよね?憧れは無い訳じゃないけど、そっちが勝ち負けに括るなら、私達だってこれに拘るよ!

 

「な〜に、言ってるのかしら。アンタはさっさとボイトレする!時間無いんだから、それ終わったらMEMちょアンタも一緒にリハ始めるわよ。

アイさん達は忙しいから今週は来れないの、ここで努力して本番頑張るのがベスト。

だから怠けたり、余計な頭使ったりする前に、はい、動く〜。」

 

先輩、前より元気になってる。私達を引っ張るんじゃなくて、引き離してでも前に進もうとするなんていい度胸だね。

 

「MEMちょ、体力大丈夫?大丈夫なら、もっと精度上げてここのままだと先輩においていかれる。そうならないようにね!」

 

「お、お〜。と言いたいところだけど、今日はもう限界かも〜。」

 

無理のさせすぎは良くないよね?だから適度な休憩を入れよ〜っと。

 

 

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