〜sideアムロ〜
「本当にヤク中だとはな、アッパー系の市販薬をキメているとは、なんともおかしな話だった。」
こういう市販薬の連中は、警察よりも救急車。もしくは病院に送ったほうが良いな。
倒れるヤツが出るのは毎年の事だし、こういうのもあってもおかしくはないか…。
スタッフの一人に彼を任せ、救急搬送させていく。もうヤク中になって返ってくるなよ?
「もうそろそろ始まる、アイの方に行くべきかな?」
コツコツと足音を立て、アイの立つステージの最後方へと陣取り今か今かと待ち構える。
物見遊山とでも言うべきか、そういう人物達もチラチラとおり元々固定で陣取っている客層も合わせればまずまずの集客だろう。
そうこうしながら時計を眺め、時間の経過を今か今かと待ちながらそれを見つめている。
スタッフ達が、ステージの上に何やらシートのようなものを敷き始め、きっと小道具のようなものであろうが、俺にはとんとそういう知識がない……いや、アレは見たことがあるな。2003年くらいの座頭市のラストで、ああいう板があった。ステージ全体を覆うそれが。
「短期間で尚且つ、テクニカルなもの。そして、なにより古くから行われているダンスか…アイドルには似つかわしくないんじゃないか?」
七人が足裏をキュウキュウ鳴らしながらステージに姿を表す。ステージ照明は未だ暗いままだ、彼女等が足裏から何かを外し、足をそっと床へと付ける。
全員が足をクロスさせ、左手を頭上の帽子に添える。重心はステッキか…本格的な奴だな。
一斉にステージの証明が点灯すると、全員が光沢を暗い色であるが、時折明るく輝く光沢のあった燕尾服を身に纏い、Δ体系で待機している。
センターは勿論アイだ。
彼女が右足を少しだけ動かすと、甲高い床の音が響き渡る。なるほど、あの板はマイクも兼ねているか。仕込みは任せて欲しいと言われていたが、そうなると三次元屋外スピーカーを用意して欲しいといった理由がよく解るな。
足音の数が次第に増えていく、歌声は一切しない。いや、第一曲目に歌は無いのか、自分達が如何に異色な存在であるかアピールするかのように、彼女たちのパフォーマンスは幕を上げた。
歌のないアイドル、それはアイドルと言えるのか?
いや、寧ろ声がないからこそ注目を集めているとは、なんとも皮肉なものだな。周囲に気を配ると、人の数が初めより増えていた。神秘性の為せる技か、それとも彼女たちの演出が上手いのか。元々、歌も技もあった彼女達だからこそ為せる技か。
だが、この演出で彼女たちの色をしたサイリウムが振られる事はない、そう皆魅入っている。
タップを刻み、ステッキを巧みに動かすそれは時代錯誤も甚だしい、大正時代の技術。されど、今の世ではあまり出回っていない物珍しいもの。
英国風のトレードに黒人奴隷の足並みが如何にも皮肉めいている。何を考えてそれをしているのだろうな?
音源を良くよく聞くと、どうやら一人一人の肉声で作ってある。ボイスパーカッションの一種だが、なるほどそれが歌の代わりとでも言うのか?
そうしているうちに、一曲目が終わる。
声援ではなく、拍手が巻き起こりそれに対して全員が遂にハットを頭から外してお辞儀をする。そして、ゆっくりと顔を客層に見せる。するとどうだろうか、客からザワザワと困惑の声とともに疑問が浮かぶ。
『何故、
客の半分くらいは20代後半からアイドルとかに興味を持った連中も多い、中には10代なんて奴等もいる。
彼女達がアイドルをしていたことなど、知らない。そんな人達が大半を占めているのだ。
そして、それを眺めた後彼女等はピンマイクのスイッチを入れた。
「皆〜来てくれてありがとう〜。こんなオバさん達のパフォーマンスに、魅了されてしまった君達!残念がることはありません。元々、私達はアイドルとして活動していました。」
「アイドルの私達を知ってる連中もいると思うけど、」
「一応、新ユニットとしてここに来ています。」
「私達の経歴がどうとか、学歴がどうとか今は関係ありません。」
「てめぇ等が今見たのが私等の実力の本の一欠片だ。」
「だから、今からは声を出して歌を歌いながらパフォーマンスをします。」
「さあ、私達傾城フラクタルの最初で最後の1stライブ、2曲目は、『〜Landing〜その先へ』です!」
最後の輝きが始まった。
〜sideルビー〜
ステージ裏で順番を待つ私達、ちょうど時間があったからママ達のブースのライブ映像を見ていた。
「ねぇ、コレ見て。ママ達のパフォーマンス始まったみたい。」
「ふぅ〜んどれどれ?……ちょっと異質ね、アイドルというよりもマルチタレントって感じのパフォーマンス。まさか、タップダンスをアイドルユニットがやるなんて思いもしないでしょうから、これは意表を付いてるわね。」
「なんかB小町って言うよりかは、お母さん達っていう感じの曲だよね。なんていうかさ、静寂の中から現れて最後は燃え尽きてく、物に例えるとマッチ棒みたいな?」
?????マッチ棒ってなに?まあ、それは置いておいて。
「ママ達も頑張ってるんだし、私達も頑張らないと。」
「えぇ、そうね。さっ、前の人達が終わったみたいね。次は私達の番よ。」
『観客妙に少なくなかった?しょうがないのかな、なんか向こう側が盛り上がってるみたいだし、悔しいなぁ。』
前の人達の声が聞こえる、向こう側…ママ達だ。
私達はカーテンの向こう側へと躍りだした。
〜sideあかね〜
まだかな〜まだかな〜!早くかなちゃんの番にならないかな、別にB小町の他のメンバー…まあ気になるには気になるけど、私は別にかなちゃんが見られればそれでいいし。
でも、メッさんとルビーちゃんの応援もちゃんとしなくちゃ。でもでもやっぱりかなちゃんが、いやいや。
「あかねちゃん、そんなに心の中で反復横跳びするくらいなら、誰を応援するかきちんと決めてから来たほうが、良かったんじゃないの?」
「そんな事出来ないよ〜、だって三人とも私が応援してあげなくちゃだし!私は箱推しする義務があるんだから!」
「でもあかねの格好、諸に有馬さん推しだよね?そのTシャツだって、自分でプリントして作ったんじゃないの?即販とかにも無かったみたいだし、凄い熱狂的なファンだね。」
「ハッハハ、あかねちゃん凄いね気合の入れようが半端じゃない。でもよー、そういうマリンだってルビーちゃんTシャツ着てるじゃないかよ。」
私に文句を言ってきたマリンちゃんが、その事実を突きつけられて顔を真っ赤にしてる。
男装してるみたいだけど、直ぐにわかったよ。だって、ルビーちゃん推しを隠す気が無いみたいなそんな格好してるし、なにより赤いサイリウムしか持ってないんだもん。
「そっ、それは心外だな!この格好が一番動きやすいんだ!!それにゆきちゃんだってMEMちょTシャツじゃん。」
「私のは、別に市販品だし。なにより、背中のロゴは〘恒久永久B小町推し!〙だから、箱推しってことが直ぐにわかると思うけど?」
ぐぬぬぬ、って声が聞こえてきそうな顔して。たぶん私も同じ顔してるけど…ケンゴ君だけサイリウムだけなんだ。それと、バンドメンバーの皆様もいて、結構大所帯だ。
「そろそろ始まるな。あかねちゃん、あんまり目立つようなことは……」
そんな事どうでも良いじゃん、かなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃん!
あー↑かわいい〜〜、ライブハウスの時と違ってでてきた瞬間輝いてるよ〜!あれが、あれこそが私が追い求め目標にしてきたかなちゃんの本当の姿だ!!
パフォーマンスが始まると、その美麗な歌声が私の鼓膜を震わせて海馬から電気信号が送られて、私の記憶にかなちゃんの姿が刻みつけられていく!あぁ~良いよ〜。こう、こうでなくっニャ。
ふぁ〜。
〜sideアクア〜
これは駄目だな。私はあかねちゃんの状態を見てすぐさまそう判断した。これは完全に、かなちゃんに魅了されている。もう、私達の声なんて聞こえてなさそうな、そんな感じだ。
「なあマリン。本当にアレやるのか?」
「勿論、私も覚悟を決めてきたからね。」
私はケンゴ君にお願いして、(勿論チョメチョメした後にね?)バンドメンバーの皆さんにも協力してもらって、有ることをする。古より伝わりし、オタクと呼ばれた人々の動きを!
そう、ヲタ芸を。
本来ヲタ芸というものは、各々がサイリウムを持ち無意識の内に、その動きが揃うことによって芸術的な統率を取れた景色となるもの。だから、こうやって人を集めてやることじゃないのは、良く解ってる。
だけど、今こうして居るのだから周囲にそれを波及させずにいても良いのだろうか?いいや良くない!
「いくよー!」
私は一心不乱にサイリウムを振る、その音楽に合わせて。歌に合わせて、私達は舞う!絶対に母様達を勝たせてなるもんか!!
〜sideケンゴ〜
『なぁ、ケンゴ…お前の彼女と今ステージで歌ってるその妹って……やっぱり』
『ああ、俺達と“同じ”さ』
“あの人”仕込みの訓練で鍛え上げられた周囲に…特に傍にいる彼女に気取られないように心の中で会話しながら、俺達はサイリウムを振り続ける。
『それだけじゃない……さっき会った星野アイも弱いが俺達と同じ力を持ってる。この時代産の天然ものは初発見だ』
『他にもお前達と合流する前にさっき見かけた際に感じ取ったんだが……前の席の方にいる3人の女子達なんだがよ…あの子も俺達と同じ力を持ってる……急いで“あの人”に連絡して情報を照らし合わせてみたら大君元総理の娘さん達だっけ?今の所見つかったのは全員女子だぜ。それもお前の彼女を始めみんな飛び切りの美人ばっかだ。リアルラノベかよ……いや、お前の例から言ってリアルギャルゲーって言うべきか?』
『気を緩めるな。こんな場じゃ気が大きくなりがちになるのはよく分かるが、考えてることが彼女に読まれたらおしまいだ』
小学校時代からの腐れ縁であるドラムスのコイツの軽口にボーカルとベースを兼任するウチのリーダーが注意する。
『“あの人”には僕の方から言っておくから、今はライブに集中してよ。これ以上は会話を誤魔化しきれる自信が無い…』
男装している俺の彼女とは対照的に女子と見間違いかねない中性的な風貌とそれに相応しいお人よしの性格をしたウチのキーボード担当の切実な訴えに俺達は意識を切り替える。
『っと、そうだな。悪かった……じゃあケンゴ、お前の彼女に倣って俺らのテクを披露してやるぞ』
『あまり派手にやって俺達の方に注目集まったらライブをぶち壊すことになるからな。気を付けろよ。そうなったら、俺は彼女に怒られるばかりか下手をすれば怪しまれる切っ掛けになりかねない』
『わかってる。派手過ぎず、それでいて埋もれないように…そんなとこでいいな』
『うん、異議ないよ』
『なら、話はここで終わりだ。じゃあ、お前達行くぞ!』
『了解!』
っとリーダーの号令に心中で全員頷くと会話を終えた俺達は自分たちの前で芸術的と言わしめるようなサイリウムを巧みに操ってヲタ芸テクニックを披露する俺の彼女に倣う形でステージに向けて赤のサイリウムを振りかざした。
〜sideかな〜
うわぁ、あたり一面MEMちょ色ね。黄色ばかり、流石のフォロワー人数だこと。
あっちの会場もクライマックスみたいだし、わたし達の方に来るかしら?ま、解らないわねルビーみたいな力があるわけでもないし。
フフ、後ろの方に白いサイリウムを持って思いっきり振ってる奴が馬鹿がいる。アレはきっとあかねね。
二人は付いてこれているかしら?私のそれに歯を食いしばって、追い縋っているかしら?
私が歌えばその都度私の色が、一つ増える。私がステップを踏めばその都度白色が増える。
人が一人また一人と私達の前に立ち止まり、私達のそれに魅了されていくのが解る。あぁ、なんて清々しい気分なのだろうか。こんなにも多くの人が私を見てくれる見てくれている。
女優として一時は失う寸前だった私、劇団とか壇上に引き篭もりたく無かった私が、舞台の上に公にその姿を下している。
なんとも不思議なものね、役者として売れたいと思っていた私が、今はアイドルやってこうして一番嫌いだった歌でファンを湧かせる仕事をしてる。これも心境の変化の為せる技ってやつなのかしら?
ふふ、ルビーアンタの輝きも充分凄いと思うわ。メムちょ、アンタだって相当輝いていると思う。最期の数日の追い込み、3人の中で誰よりも力を入れてた、足で纏いにならないようにもう全然足で纏いなんて思えない。アンタの実力は本物よ!
だから、私だけが走ってるなんて錯覚させないで頂戴?私達はB小町、1つのアイドルユニットよ。私達は一人がかけても駄目なのよ、だから並び立ちなさい。
それが、私達B小町よ!
〜sideアイ〜
〘Go★All★Line〙
意味は私達の終着地点、全ての道へと進む。それぞれの道へと進んだ私達、そういう意味の歌だ。
だから、その内容は〘STAR☆T☆RAIN〙とは正反対。向こうが恋や愛を求めるなら。こっちは家族、それぞれの幸せを歌う。
これで最後、これで終わり。これで、私達はそれぞれの道へと戻るの。
「は〜い、これでおしまいで〜す。今日は皆来てくれてありがと〜。」
何事もなく、無事に終わったわね。はぁ〜、これで私達の最期。もう、この場所に立つことはない。だからせめて、ルビー達と一緒にやりたいな!
アムロ、準備は出来ているかな?
『勿論、急いでくれよ?向こうも後2曲だ、急げば最期の曲に間に合うさ。』
壇上から下がる。全員やる気満々だ。
「皆良い?走るよ!!」
タップシューズを脱ぎ捨て、直ぐにブーツに履き替える。その後ダッシュして、ルビー達の方のステージに入る!誰も中にいない、態々アムロがこの時間を作ってくれたんだ!
きっと最期の曲は〘STAR☆T☆RAIN〙だから、私達は彼女達を支えるの。テントを抜けて、ルビー達の壇上へと私達の姿を表す!
ルビーもMEMちょもかなちゃんも皆もビックリした顔して、サプライズはこうして取っておかないとね!
私達のダンスには歌のパートはない、だけど三人に合わせて寄り添うように。私達は今日まで一緒に練習してきた。
地味な色の服も、この為なんだから。
ルビー?貴女の夢がこれで叶ったかな?小さい頃に言ってた、ママと一緒にアイドルをやりたいって願い、これで叶えられたね?
貴方たちのスタートライン、私達の別々の道へと向かう道。それが私達の振り付けの意味だ!
終わってみればなんてことはない、彼女達のそれらは確かに他者へ夢を届けたろう。そして、それはまた新しい一歩へと繫がるのだろう。B小町は新たな一歩を踏み出した、JIFそれにある意味永遠に語られるだろう功績を残し、〘傾城フラクタル〙というアイドルグループの永久参加禁止を保って、JIFの一騒動は幕を閉じた。
次回閑話休題 アムロ、マンションに立つ!
君は生き残ることが出来るか。