[2029/12
「五反田、話を始めても良いか?」
「あん?なんだよ、俺のスタジオにいきなり来やがって今更あらたまんなよ、で?話ってのは。」
二人の男がテーブルを挟んで話を始めた。男の一人が徐ろに鞄から暑さ2cmはあるかと思われる、紙の束企画書を取り出した。
「おいおい、こりゃなんだよ。何かの間違いかなにかか?『仮戦国合戦』こいつぁ、映画の企画書か。俺に何を、いや俺ンとこ来たってことは監督をやれって事だろうが、唐突になんだ?」
「あぁ、実はね。とある金持ち達が、本物の合戦もの映画を見てみたいと言ってきてね。それで、こういう企画が進行中なんだが、俺に監督の選任を任されてね。色々な人物を探った結果お前にこの話を持ってきたんだ。どうだろうか、一度こういう大きな映画撮ってみたくはないか?」
五反田と呼ばれた男はその分厚い紙束を開くと、ペラペラと数ページ捲りもう一人に訪ねた。
「コイツは…凄いな160億……値段間違って無いだろうな?」
「あぁ、もしかするともう少し上がると思う。仮想してるのは一流のキャスト、小道具も出来るだけ精巧に作るために色々な企業と連携することになるから、そのくらいにはなる。」
五反田と呼ばれた男は、腕をブルブルと震わせ目を血走らせる。
「それで俺にこれを持ってきたってことは俺に監督をやれと、そういう事だな?」
「そうだ、一応仮の脚本はあるんだがお前なりにアレンジを着させても構わない。撮影期間は3年、現在の撮影技術の限界、演技等の限界に挑む作品だ、面白いとは思わないか?」
「ああ、面白いな。ハハ、まさかこんなものの監督に選ばれるとはな…面白い是非やらせてくれ。こんだけ金ありゃ色々と凝ったことが出来る、いや~腕がなるぜ。」
五反田は仮脚本を読み込む、自らの慣性その赴くままにそれを作り上げた。
後に現代の黒澤、世界の五反田と呼ばれる男の誕生した瞬間であった。]
〜sideかな〜
二人からの養子縁組話、そして私の告白から数日が経った。
まだ、決断は出来ていない。そして、まだ私の告白に対する答えを貰っていない。
あの日とうとう誰も起きてくることはなく、私達の会話は3人だけの秘密になった。
私が告白をした時、アイさんは笑っていた。それはもう、大胆不敵に笑い私の告白でまるで動揺することもなく、
「私は全然OKだよ!寧ろタッグを組んでアムロに夜の相手をしてもらおうかな?その方が引っ込みつかなくなるもんね!」
なんて言いだした時には、正直な話面食らった。
逆に嶺さんは、と言うと
「元はと言えば俺のせいでもあるわけだ、覚悟を決めたほうが良いのかな?」
なんて言っていた訳で、別に驚かれなかった。
だから二人に関して言えば、別に私は及び腰になることはないし決断も迷うこともない。
だけど一番の問題がある、それはあーちゃんとルビーの事だ。二人は勿論、アイさんの娘であるわけだ。だから私が養子になった場合、私が長女となりあーちゃんは次女ルビーは3女になる。
今まで家族のように接してきた二人に、私はその事実を話すことが出来るのだろうか?
きっとやり過ぎれば、私達の仲は破綻しかねない。だから慎重に慎重を重ねる必要がある。
特に私が嶺さんに身体を許したら…どうなることか考えたくもない。
「言っといてあれだけど、少し短慮だったかしらね?」
始まってしまった事は止められない、だから説明だけはきちんとしなくては、養子になる決断は出来ている。
1日じっくりと考えて、私は実印を押して養子となった。
……
あれから数日、私は今あーちゃんと一緒に劇団ララライに来ている。
まだ、私が養子になった事の説明が出来ていない、
「自分でしますから大丈夫です!」
なんて言った割には正直ビビっている。あーちゃんには勘づかれない様にしているつもりだけど、いつバレるか、戦々恐々だ。
出てくる時に
[もう君は家の娘なんだ、だから姉としてアクアの事を頼むよ?]
なんて言われちゃったんだから、張り切らざる負えないっていうか?
私の隣に立つあーちゃんはいつも以上に気合を入れて男装している。私はアイドルなだけあって、一応ウィッグで黒髪に見えるようにして、全くの別人デコボコカップルの様に振る舞いながらここまでやって来た。
「やっと到着ね。あーちゃん、アンタやっぱり凄いわね。周囲からの目線全く感じなかったわよ?皆、私とアンタがカップルにでも見えていたんじゃないかしら?」
「どうだろうか、人の視線は馬鹿には出来ない、もっと用心してもいいと思うよ。」
実に謙虚だ、今ガチ後のあの浮かれた姿が嘘のように、昔の姿に戻っている。ま、既に役作りが始まっているんだろうけど、男と女の両面を持ってるような役者は本当に希少なのだから、もっと自分に自信を持てばいいのに。
それに今は、やっと元のあーちゃんに戻ってくれたことが何より嬉しい。あーちゃんは良く思っていないけど、普段の下手な男より男らしく振る舞っている姿だってあーちゃんの一部なんだから、それと心の奥底に秘めてる素の乙女の心が合わさってる魅力こそ、私の親友の本来の姿なんだ。
「それで、ここが劇団ララライの事務所か?案外小さいんだな。」
うわぁお、皆思うことだけどそれだけは言っちゃ駄目よ?
「二人共、約束通り来てくれたんだ。いや~遠目からだと二人共解らなくて、マリンちゃんって本当に男装上手だね。全っ然、女の子に見えないよ。」
「ふふ、ありがとうあかね?」
スタスタと歩きあかねの直ぐ側に寄って行く。うわぁ、害悪男ムーブだ。あかねの髪を指で掬いながら、あかねに身体を密着させてる…コイツどっかのホストかなんかかよ。
「アハハ、マリンちゃん冗談は置いておいて。今日は私達の劇団でやる、あの東京ブレイドの話を聞きに来たんでしょ?
確か、二人にもオファー来てたんだよね、勿論受けたんでしょ?」
「ええそうね、受けたわよ?東京ブレイドの私はつるぎ役で、あーちゃんは刀鬼役…また男の役だけど良く受けるわよねぇ。」
「そりゃそうさ、これでも10年以上子役時代も含めて男役やって来たんだオファーくらい来るとも。でも、正直劇団での劇なんて私は1度しかやったことないんだ。そこは、覚えておいてくれよ?」
そういや昔言ってたわね、
[舞台劇はトラウマなんだよね↷、なんかジロジロ見られるのが性に合わないっていうかね?]
今となってはあれだけど、なるほどねぇって納得出来る。
翼単独であんなに錯乱したようになってたんなら、そりゃ色んなものに当てられたらトラウマになるわ。しかし、だったらなんで今回の舞台劇のオファーを受けたんだろうか?それだけのトラウマがあるんなら、いつものあーちゃんなら断るはずなのに。
「大丈夫、私は舞台がメインだから色々手取り足取り教えるよ?」
あかね、そういう事じゃないのよ。その子の力の本質はもっと脆いものなんだから、アンタはもっとこの娘の事を気にかけてあげなさいよ。
「ねぇ、あーちゃん。ちょっと耳貸してくれない?」
「え?良いけど。」
少ししゃがんでくれるのは、この娘の優しさなんだけど。
「あんた、対人関係苦手なのに良くそんなんで学校を纏めてたわね。」
「顔を知ってるなら別に難しい事ではないだろ?寧ろ、何も知らない奴等からの方が、オブラートに包まれていない分直接心に響くから苦手なんだ。」
そういうもんなのかしら?でもルビーはライブの時に、ケロッとしてたけど。
「あの子は友達作るの得意だから寧ろ、そういうのに慣れてるのかも。」
「ヒソヒソ喋ってないで、付いてきて?劇団の案内と二人を紹介するから。…かなちゃんはしなくても良いか、人は変わってないからたぶん皆覚えてると思うし。」
いやいや、フリーランスから苺プロになっておまけにアイドルやってんだから、紹介くらいさせなさいよ。
〜sideあかね〜
かなちゃんとマリンちゃんが一緒に来る、そう聞いた私は劇団員の皆さんに色々と聞き込みをした。
苺プロ、かなちゃんとマリンちゃんが所属している中堅プロダクション。
私達が産まれる前のことだけど、まだララライも苺プロも弱小と呼ばれていた時代に一人の役者と揉め事を起こしたことがある。
その役者の名前は〘安室 嶺〙、マリンちゃんとルビーちゃんのお父さんで、日本の有名な役者で5本指に入る人。
私が見た時の印象は非常に温厚で、何より人当たりの良い善良な人だった。
でも、昔は以外とそんな人でも無かったようだ。
ララライにとっての転機とも言われた出来事で、まるで悪魔のようだった。それが金田一さんからの感想だ。
経歴とかを色々と調べても、昔は荒れていたなんてことは全然出て来ない、だけれど家庭環境とかそういうのは良く無いどころか最悪で両親が幼い頃に他界している時点で、精神的な成長とかそういう部分で悪影響を受けていないはずがないんだ。特に、6歳ごろなんて精神的な成長著しい時期に。
友達の父親に悪評なんて考えたくはないんだけど、若気の至り?とかそういうものは誰だってあることだから、そういうものだと思うんだけど、それでもどうして対立なんてしたのか…金田一さんには
「過ぎたことだし、今はいい思い出だ」
とか言われているけど、どうも煮え切らない。
彼の演技は監督の意志を組んでのものから、派手なアクション。アドリブを始めとしたものもある。
オカマ?バイセクシャルなものの出演があるから、色々なものが出来る。
壇上演技もこなして、何でもこなすオールラウンダーの気質も持ってる。
特に周囲との同調は目を引く……まるでかなちゃんが目指しているような、そんな演技みたいに。
……
「本日よりお世話になります。株式会社苺プロダクションに所属する星野アクアと申します。
この度、舞台劇において二度目の出演となります。
貴重な経験ができることを心から光栄に思っております。
ご指導・ご鞭撻を賜りますよう、重ねてお願い申し上げます。」
まだ演技指導という段階じゃないんだけど、印象は大切にしないとね。特に、苺プロと家には確執あるみたいだし。
「苺プロか?苺プロ、いや〜懐かしいね。安室君のところだろ、昔を思い出すね彼と激論を交わしたあの日々を。
ところで君、〘女優〙なんだっけかうまい具合に男装してるね、誰に習った?」
「……安室さんに習いました。」
「にしては粗が目立つね、確かに普通の人が見れば男性だと思うけれど、目の肥えた人には解るかもね。
彼だったら女性の動きを完全に把握して挑むと思うんだけど、本当に彼に師事したのか?」
実際、彼女は父親から演技指導とか受けたんだろうか、天才とかそういう人達は教えるのが下手な人がいたりするから。
「……見て…覚えました。彼の教えは解りづらいので、見て覚えて欲しいと。」
「ハハ、彼らしいね。昔もそうして言っていたよ、ところで君は彼の娘さんかい?」
「………」
「いや、何か雰囲気が似ていたものでね。家庭の事情とか色々あるようだけど、詮索はあまり良くなかったね。
けれどこれから共にやっていく中だ、あまり秘密主義は歓迎したくはないけどね?
それと、有馬かなちゃん。久し振りだね、今回もよろしく頼むよ?君の実力は解っているから、思う存分やってくれ。」
辛辣な言葉に確執が関係してるんじゃないかって、そう思ってしまう私は考え過ぎなのだろうか?