虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第六十六話

[☓☓☓☓

 

何もない真っ白な世界、そこに不定形の何かが二ついた。瞼のようにシャッターが瞬くと、そこには赤髪パンチのアフロと青髪髭面オッサンのような人物が椅子に腰掛けていた。

どちらが言ったのか、口がまったく動いていないにも関わらず声が響いた。

 

「君ねぇ、勝手に人を送り込まないでくれよ。あくまでこれはね観測なんだよ、観測対象が増えると研究も難しくなるだろう?」

 

「うん?だけどな、今では変化の乏しい世界だろ?あの、イカレ頭が単独で彼らに勝てるとでも?揺さぶって不確定要素を入れなければ、アレには隙は出来ないぞ?」

 

少しの間沈黙が世界を包む、瞬くとRX78-2とMSN-02 が対面している

 

「そりゃそうだよ、ハッピーエンドだろ?それ以外に必要があるのか?君が多少のリスクを込みでも必要と判断すれば迷わず賭けに出るタイプなのは長い付き合いでよく知ってるけどさ、流石に今回送り込んだ人が齎す影響力は君の言うイカレ頭なんかの非じゃない…確かに君の賭けが当たれば私たちにとっても彼らにとっても良いこと尽くめの結果になるだろうけど、外れればあの世界は惑星規模で大変なことになる。それを心配してるんだよ」

 

「それでも賭ける価値あるさ、変化の乏しい世界を見てもそれから得られるデータは少ない。そうだろ?そのことは自分たちにとっても最近悩みの種だっただろ?

 

今からなら、子供の世代には間に合うさ。彼の子供達には苦労を掛けてしまうことについては、正直言って申し訳なく思うけどこのままだと適度な平穏に溺れて、歴史の陰に埋もれて行っちゃうからね。それにハッピーエンドって言ってもあくまで彼とその身内周りだけだろ?

人の世の根本的な問題とかはそのままだから、彼らの世代が死んだ後に歴史の修正力が世界に襲い掛かってきかねない。だからこそ、ハッピーエンドを超えるトゥルーエンドというものを目指したい」

 

「君の言うことも分かるよ、私だって最近のデータの採取量が乏しくなってきていることを問題視してなかったわけじゃない。でも、流石にそこまでのリスクを負ってまで大量のデータなんていらないよ、最低限楽しめば良いんだから。

私は君とは逆に多少の不満はあれど地道にやっていきたい堅実なタイプなんだよ。それに修正力のことだって、後はその世界に生きる人間たちの問題だろ?個々人単位ならいざ知らず、種族単位の運命に関わろうってのはちょっとやりすぎじゃない?

ならさ、やるならルールを敷こうか?UC112以降の人物はこちらに送れない、既にUCの規定は崩れ分岐した。少女が関わった世界と、そもそも産まれる下地のない世界に楔が無いからな。

それで良いかい?」

 

沈黙が世界を包む

 

「沈黙は回答と受け取るよ、それでは次に会うのは君が送り込んだ人が彼らを中心とした世界にどんな影響を齎すかを見定めてからにしよう。それまでさようならだ。」]

 

 

 


 

 

〜sideアクア〜

 

あの日から劇団での稽古は恙無く進んでいるけれど、心の中の暗雲は吹き飛ぶこともなく、モヤモヤと私の胸の中に滞留し続けている。私と彼との秘密を惜しげもなく、家族に暴露してしまった(口に出したわけじゃないのに)私は今も尚迷っている。

劇の稽古に身が入るわけもなく、駄目だしの連発だ。

 

ただ、周囲の声は非常に優しく

〘慣れないことをやっているのだから仕方がない〙

そんな事を思われつつも、私は本当に身が入らずにあかねちゃんからは心配されている。相談をしたいけれど、元はと言えば身から出た錆なわけで、これは人に話したくない絶対にだ。

 

それに、かなちゃんの事も気になっている。父様母様の話によれば星野家の養子になった、かなちゃん。かなちゃんは、もう暫くすると家に引っ越して正式にうちの家族の仲間入り、だけれど未だにかなちゃんから直接聞けていない。

 

そもそも、かなちゃんがどうして私に話さないのか…別に私は反対なんかしてないし、なによりかなちゃんがお姉ちゃんになったら、ずっと一緒に話せるしプライベートでも一緒にいられるのは、凄く嬉しい。けど…

 

どうして私に何も言ってくれないんだろう

 

 

私を動揺させたくないのか、それとも〘養子以外に理由がある〙か、恐らくは後者だ。そしてそれをルビーは知ってる、それどころか勘付いているけど、私に話す気はない。

 

「ねぇ…ちゃ……マリンちゃん?」

 

「え?あっ、すいません少し考え事してました。」

 

「おいおい大丈夫かよ、ぼ~っと考え事してるなら稽古しないほうが良いぞ?」

 

また迷惑をかけてる…かなちゃんこっち見てそんな心配そうな顔しないで、貴女のせいでこうなってるんだから少しは気付いて……、いや気付けるはずないよ。

だってかなちゃんは力を持ってないんだもん、そうだよねルビー言葉で聞かなきゃだよね?

 

「いえ、ちょっと家庭内でゴタゴタがあって寝不足気味なだけです。ですので、少し休めば戻ると思いますので。」

 

こう言うと大概詮索はしてこない、常識が有ればだが。

 

「にしては有馬の事気にしてたみたいだけど、なんかあったのか?」

 

姫川大輝…アンタには常識がないのか?なんかいけ好かないっていうか、そういう感じのパーツの顔をしている。実際なんか欠けてるっていうか、そんな人の感じがあったけど…人格的には良さそうなのに…残念な人だな。確かに彼の演技は正しく天才と言っていい、しかし得意とすることには他の追随を許さないがそれ以外は凡人か酷いとそれ以下というあかねちゃんと同じ特化タイプの天才か。

 

「いえ、有馬先輩に少し相談に乗ってもらいたいなぁと、ずっと視線を向けていたんですけど、気がついてもらえず…」

 

「ハァ?なに私のせいにしてんの、それならそうと早く言ってよ。こっちだって気になってたんだから、チラチラと。ほら、後で話しするんだから、今は集中する!」

 

「星野…あんまり無理すんなよ。」

 

金田一さんは、私の事を認知されていない娘みたいに考えてるみたいで、深層部で同情的感じになってる。認知されていない訳じゃないんだけど、公に公表してないって事はあってるから…なんだろう複雑。

 

現場の人達は意外と優しい、劇団員全員がなんか家族みたい?な感じなのかもしれない、勿論そこに問題もあるだろう。

 

けれどそれでも、外部の鴨志田お前は悪だ。お前、事ある事に誰かを食っているな?ここ数日で解ったよ、貴様の目は私の身体を舐めるように見て、下劣な思考をしていると。

あまり酷いようならハマーンさん仕込みの重圧でも叩きつけてやるか……この技はこれまで良くも悪くも実践する機会に恵まれてなかったしな、その時が来たら良い練習台になってもらうとしよう。だから、私を怒らせるようなことをしてくれるなよ。

 

 

……

 

本日の稽古ももうすぐ終わる、そんな時に金田一さんが参加者に一言言った。

 

「明日は脚本家のGOAと原作者のアビ子先生が来るから粗相無いように。特に原作者に変な事吹き込むなよ?へそ曲げられたら、今回の講演自体危うくなるからな。」

 

アビちゃん先生来るんだ、あの暗い人今どんな感じなんだろ。まだ父様の事想ってるのかな?

 

……

 

 

稽古も終わり帰宅する中私は、かなちゃんに一つの質問を投げかけた。ルビーも言ってた通り、言葉で言わなきゃ伝わらない事だってあるんだから。

 

「ねぇ、かなちゃん。私に隠してること無い?例えばさ、家を引き払って私の家に引っ越して来るとかさ…」

 

「はぁ?いやえっと……そうね。来月からお世話になろうと思っててね?悪かったわよ、秘密にしてて」養子になったって話も?」

 

流石に顔が険しくなってくる、ふ~んこういうところは臆病だよね、人の事言えないけどさ。

 

「それは…私から話す予定だったから言わなかっただけで…別に悪意とかそういうのがあったわけじゃないのよ?」

 

「それで?まだ隠してることあるでしょ、それもなんで言わないの?」

 

これは…父様達からも聞いてないからちょっと気が引けるけど…引き際が解らない。こういう時はズケズケ行った方が良いような、そんな気がするけど…

 

「そ…それはね…もう少し。そう、もう少し待って私の心の準備というか、法律の方が危ないから。その時になったら、私が満18になったら答えてあげるから。」  

 

せかせかと言うねぇ、待ってましたと用意してましたと。解ったよ。私も鬼じゃないからね、だから約束しよっか。

 

「へぇ…解った絶対だよ?ほら、小指出して。」

 

昔からこういう時のお約束だ

 

「指切りげんまん!」

 

「「指〜切〜りげんまん 嘘ついたら 針千本飲〜ます指切った!」きっとだよ!」

 

絶対に聞き出してやる。よしんば誂う材料にしてあげるよ。

 

 

 

〜sideあかね〜

 

駄目だってそんな、最近のマリンちゃんなんか吹っ切れたのか解らないけど、凄いズカズカ行き過ぎだって。

 

「と…父はたぶん貴方方とは違う意見を持つと思います。伝わりづらいのなら、それを演者に要求するはずです。」

 

「へぇ、言うねぇ。君名前なんだっけ?」

 

ちょっとまってちょっとまって!マリンちゃん、それは駄目だって、脚本に完全に文句言ってるようなものだから!

 

「星野愛久愛海、役者 安室嶺の娘です。」

 

〜30分前〜

 

私とマリンちゃんは今日も朝から稽古をしながら、お互いに愚痴を言っていた。

脚本が原作と乖離しているがために、二人の演技はお世辞にも完成度が高いと言い難く、やっぱりというか特に私の方は清姫があまりにも好戦的過ぎるから、馴染めなかった。

 

「ねぇ、本当に脚本家に直接聞くの駄目なの?今更分析するのなんて難しすぎるよ。特に今日なんてアビちゃん先生来るんだからさ、こういうの聞いて初めて解ることだってあるからさ。」

 

「だから駄目だって、私達がアドバイスし合ってるのだって結構駄目だし貰ってるのに、これ以上演出家の気を使わせちゃ。」

 

本音を言えば私だってマリンちゃんと同じ気持ちだよ、それでも演技の指導は演出家から受けるもの、そこの指揮系統を崩したら全体の演技に影響が波及しかねない。

マリンちゃんは、映画やドラマを始めカメラの前に出ることにはプロでも、舞台には出た事が殆ど無い素人。私達みたいに常識を知らないから、そんな事をやろうとするけどここは先輩である私が止めないと。

 

「ふぅ〜ん、そんなに演出家って凄いんだ。指揮系統とかってまるで軍隊みたいだね。トップダウン方式なんだ…やっぱり父様は異質なんだなって。」

 

「そうだよ。良い?貴女のお父さんである、安室さんは色んな脚本とか見て実際に脚本家と話をしたりして、構成をより良い方に持ってく事ができる。所謂ボトムアップとかヤレルらしいんだけど、普通そんな事出来ないからね?

演出家が演出を考えていてくれるから、出来るんであってね?」

 

この子の親は特殊過ぎる、マルチタレント星野アイの娘でありながら俳優?安室嶺の娘でもある、言うなればサラブレッド。

でも、そんな子が下積みを重ねて親の背中を追う、それはどんなに凄い事か。でもね、そこまで真似しちゃ駄目だよ。

 

「ハァ…あかねちゃんもういいよ。聞いてくる、すみませんちょっと私達(・・)脚本について質問があるんですが、演出の金田一さんの意見も交えて」ちょっとマリンちゃん!」

 

「二人で聞けばスジ通るでしょ?」

 

う…それはそうだけど。

 

私達が言った質問は、極々当たり前な返答によってバッサリと斬られていく。そう、当たり前なのだ。心想描写に長い時間を掛けていられないことも、劇の時間が限られていることも解り切っているのだ、それを私達はわがままで文句を言っていることも。

 

だからマリンちゃん、もうその質問は辞めて?それ以上やったとしても、それを曲げる事は出来ないと。

 

駄目だってそんな、最近のマリンちゃんなんか吹っ切れたのか解らないけど、凄いズカズカ行き過ぎだって。

 

「と…父はたぶん貴方方とは違う意見を持つと思います。伝わりづらいのなら、それを演者に要求するはずです。」

 

「へぇ、言うねぇ。君名前なんだっけ?」

 

ちょっとまってちょっとまって!マリンちゃん、それは駄目だって、脚本に完全に文句言ってるようなものだから!

 

「星野愛久愛海、役者 安室嶺の娘です。」

 

「なら尚更それが解らない君じゃないと思うよ、あくまでもトップダウン。それが劇だ。ボトムアップを許せる程君等に脚本家としての才能があるのかい?君のお父さんがそれを許されてるのはちゃんと実力でそれを示したからだよ、君の秘めてる素質は認めるが今この場でそれだけの実力を見せつけることができる?」

 

ギリッとそんな音が聞こえるかのように、彼女は歯を噛み締め二人を見据えている。

金田一さんにはどんな風に見えてるんだろう、金田一さんは彼女の家庭が順風満帆なことを知らない。

 

名字が違う俳優の娘なんてものは、認知されていないくらいなものでスキャンダルとかにもなりそうだ。それでもその勇気を振り絞って、それを言った彼女に同情してるのかもしれない。

 

〘大嫌いな父親の名前を持ち出す程に、脚本を良く思っていない〙と

 

そんな時だろうか、助け舟の如く現れたのは。

原作者のアビ子先生が現れたのは。

 

 

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