虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第六十七話

[2028

 

「あ、あのえっと…こ、ここの部ぶゆんの動きなんですが…人ってこんな感じに動けるとお、思いますか?」

 

「この動きか…出来なくはないと思うが少々力が入りづらくなる、だから寧ろ。角度をもう少し浅くしたほうが、リアリティとインパクトが出るはずだ。」

 

なるほどぉ、と言ってメモと簡単な絵を描きながらウンウン唸っている少女、どうやら人の動きその特徴を何かに取り入れたいと、そう思っているようだ。

 

「日本刀は簡単な類別としては太刀と打刀に分類される。

打刀は主に戦国以降主流になっていくから、君の漫画〘東京ブレイド〙に出したいものは、どちらかといえば太刀のようにすべきだろうね。

そうすれば、周囲から変な突っ込みとかも少なくできるだろうし、勿論人が出来ないような動きだって有るわけだからそこは創造主である君の力だろうね。」

 

彼女にとってこの出会いは運命だった、元々引っ込み事案で人見知り、絵が上手い事しか取り柄のなかった自分が漫画家へとなる。吉祥寺先生のような漫画家に、夢のようなものが叶いそうだといったところで、編集から待ったがかかった。 

 

曰く、もう少し絵面にリアリティを加えられないかというところだった。

リアリティ、現代日本を舞台に行われる戦いに必ず必要となってくる要素。キャラクタの動きを現実に近付けると地味になる、考え込み助け舟を先生に出すと、一人の俳優を紹介された。

 

リアリティを出すのならファンタジーに片足突っ込んでる人をモデルにしたほうが良い。彼女にとっての彼は正に、題材にピッタリだった。なにより、どれだけ口下手な自分が説明しても全てを理解してくれる彼に、〘こういう編集さんなら良いのに〙と心を開いていた。]

 

 

 


 

〜sideアクア〜

眼の前で公開処刑が繰り広げられている、どこからか

〘ざまぁないぜ〙

という声が聞こえてくるが、きっとそれは私の心ではない。絶対にだ。

 

(貴様の心の声だが?まさか、そう考えていないとでも思っているのかな?)

 

(認めたくない、そんな卑屈な人間なのか私は。)

 

兎も角GOAさんがアビちゃんに文句をまるで機関銃の様に浴びせられているところを見ると、ちょっと同情的にはなる。

どんな媒体でも作品を少し弄ることはまま、あることだ。

 

私とあかねちゃんが言った質問も、そういうところで納得行かない部分、キャラクターの組成があまりにも変わってしまったところに、違和感を感じていてその変更点を脚本家に聞きたかっただけなんだ。

私自身、やり過ぎだって思うところもあった、たぶん私はそういうところが発達障害なんだろう。ルビーも時間の事が絡むと強迫観念に囚われたような切羽詰まった様子を見せる所があるし、母様も時折見せる愛情や絆への病的なまでの執着心といった振り返ってみれば私たち星野家の女は心に歪のようなものを抱えている。

 

それでもアビちゃんみたいに、完全に全てを否定している訳じゃない。脚本家は、私達がどんな場所で演技するのかを知っている。その性質を取り入れた苦渋の決断をしていると、そこは納得は出来た。でも、アビちゃんにはそれが解らない。

 

私達の演技を見て、素晴らしいと行ってくれる。素晴らしい感受性を持った、漫画家故に自らの解釈を捻じ曲げたくないんだろう。特にキャラクターへの思い入れは、人一倍強い。だからだろうね、

 

「脚本、全部直して下さい。」

 

私が危惧したのはこう言う事でもあるから。

 

 

……

 

私とアビちゃんは初対面ではない、まだ売り出したばかりの新人漫画家だった当時、アビちゃんが度々苺プロを訪れていた。漫画の資料集めの一環だって事で、父様を取材していた。

何でも人の出来る範囲がどの程度なのか、見極めるためにそれを漫画に落とし込むって事で。

そんな時に偶々あったりする程度の顔見知り、ルビーと一緒にアビちゃんアビちゃん言って誂ってた。

 

だけどそんな彼女の仕事風景は、やっぱり週刊雑誌業界の選ばれたプロなだけあって、そのプライドは人一倍に高かった。

人見知りなところとかは共感出来た。それに父様に対して、乙女な心が見え隠れしててそれが面白かった。ルビーは私達にビビる姿に、面白さを見出してたみたいだけど。

 

『役者の人達には本当に迷惑かけて申し訳ないけど、ここで言わなきゃ、先輩みたいに舐められて最悪この前の今日あまの実写の二の舞になっちゃう。ここで私が折れたら、業界全体に悪い影響が残るかもしれないんだ。漫画業界は私が護らなきゃ。』

 

これは…アビちゃん折れないかも

 

ぎゃ~ぎゃ~言いながら、脚本に文句をたらたら言いつつその最大の原因を言われたとき、私は動揺した。そもそも私がやりすぎを承知の上で納得行かない原作のストーリーの改変部分やキャラクターの組成に口出ししたのも今日あまの実写版の二の舞になるのだけは嫌だったからというアビちゃんと同じ気持ちに端を発したものだから。

 

「性格もそうですが、この刀鬼の剣術。どうして出来ないんですか、私は東京ブレイドを書き上げる時、充分取材して色々な剣術を知りました。現実にも出来るそうですが、表現できないんですか?」

 

一体誰がそんな事言い出したのか、ハリウッドのアクション映画や日本の特撮を始めとする映像作品でならいざしらず、現実と地続きの舞台で人間離れした動きを普通の人間が出来るわけ無い。表現の限界ってものを知らないのか?

 

「安室さんは、言っていました〘ここまではやって出来ない事はない〙って。」

 

あのー失礼を承知で言いますが、あの人を同じ人間だと思わないで下さい、私も血は引いてるけど流石にあそこまで化け物じゃありません。比較対象がおかしいです、あれを求められても脚本だって人間がやることに前提に作ってるので、人間基準で考えてもらえますか?

そんなの採用されちゃ敵わないから、GOAさんゴメン今は応援してるから!

 

「ちゃぶ台返しね…これは。あーちゃん、あかね帰るわよ」

 

え?帰っちゃって良いの?

 

「そうだね。マリンちゃん、帰ろっか。」

 

まさか本当に原作のあの動きやらされるの?人の限界の表現と、それを超える盟刀の力の対比を描くそれを…。

脚本のことを気にしてもしょうがないから、私は私の課題をなんとかしよう。

 

 

〜sideルビー〜

 

 

「で…どうしてアクアがアイドル衣装を身に纏ってライブ会場にいるのかしら?」

 

「お姉ちゃんがどうしても皆とアイドルやりたいなぁって言ってたから、連れてきました。」

 

JIFから週一で地下アイドルやってる私達、苺プロとしてもここをライブ会場として使って、他の人達にもう少し広い場所で出来るようにって、ここを私達専用のルームにしてもらった。そんな場所でお姉ちゃんがアイドルとして初めてライブを行う…良いね!

 

「べ…別にやりたい訳じゃないけど…ちょうど台本が出来るまで劇の稽古出来ないしトラウマ克服したいなって…相談したら、いつの間にかこうなってた。」

 

「うひょ〜、マリリンの胸デッカ。ねぇ、窮屈じゃない?」

 

顔赤らめちゃって、モジモジしてるでも非処女、恥ずかしがるところは普通なのに貞操観念は普通じゃないんだよねぇ。

 

「アンタもしかしてルビーに相談したの?」

 

「違う!父様に相談したら

[トラウマはそれに似た状況を打破することによって克服出来る。つまりだ、俺よりもルビーを頼った方が早いぞ?]

って言われたから、ルビーに相談したらこうなってた。」

 

「ふふん!ナイスアイディアでしょ、謎の第4覆面メンバーで集客率アップ!おまけにお姉ちゃんのトラウマも治せて、更にB小町も有名になれる!いい事尽くめだよ!」

 

それに、臨時メンバーって事にすれば先輩が忙しい時はお姉ちゃんに、お姉ちゃんが忙しい時は先輩に誰かが忙しい時に、ピンチヒッターとしていられるのは良いことだと思うんだよ!

 

『ルビーやっぱり怖いよ、だってあんなに〘知らない人〙がいるんだよ?そんなの向けられたら…』

 

『別に向こうが壇上に登ってきて危害を加えに来たりはしないよ?それに、私からのアドバイスを思い出してよ。』

 

力を手に入れてから、姉がどうして誰かを従わせていたのかが解ったよ。怖いから、従わせていたって。

私とお姉ちゃんの見る世界は違う、私には虹色の蜘蛛の糸のように意思が見えるのに、彼女は淀んだ渦のように見えていること。

 

いつかその渦に呑み込まれてしまうんじゃないか、取り込まれてしまうんじゃないかという恐怖。そういうのが有ったから、虚勢を張って自分を大きく見せるために努力をつづけた。私とパパとママが性質は違えど光で人を惹きつけるなら、お姉ちゃんは重力で人を惹きつけているんだ。

その結果出来上がったのは、〘人見知りで依存体質な臆病者〙。

 

「ホラホラ行くよ?大丈夫、その衣装だってママ達のそれを元に作ってあるから、スカートじゃないでしょ?」

 

黒いタキシードにマント、白い仮面にハット胸元にバラを添えて。カッコいい姿(タキシード仮面)だよ?

凄く目を引くと思うけど、仮面を付けてるからきっとお姉ちゃんを護ってくれると思うよ?

 

「それじゃあ時間だから、皆ステージに行くよ!」

 

「あーちゃん、無理しなくて良いわよ?私達が1番目を引いてあげるから、だからリラックスしてなさい?」

 

「はっは、そうだぞマリリン。お姉さんに待っかせなさい、私が1番歳上だからね!」

 

MEMちょの手を取ってステージに上がるお姉ちゃん、恐怖の色は有るけれど演じる気は有るみたいだね。

だから、今日も盛大にステージを舞っていこう!

 

「皆〜今日も元気にライブをやっていきます!B小町の星野ルビーです!今日は、サプライズ新メンバー。正規じゃないんですけど、私達の四人目のメンバーです。

マリちゃん!上がってきて〜」

 

カツカツという革靴の音が響き渡る演出、暗めにした声が響き渡りステージが始まった。

 

 

〜sideアムロ〜

 

「礼を言うよ。あぁ、こちらでも色々と調べてはいるんだが、粗が無さすぎてね。俺も捜査や諜報といったものは門外漢だから、どうしても一人じゃ限界があった…おかげで助かったよ。それじゃあ続報を待っているよ。」

 

たった数日だが良い腕だな。

 

森本ケンゴ、彼の身辺に不自然な点は無い。普通に一般家庭の中で育ち、周囲からの評価は至って良好。学業も上から数えた方がいい特に、理工学系ではかなりの成績を誇っている。

 

彼の所属するバンド名〘ユピテル〙ローマ神話の主神、ギリシア神話のゼウスの別名豪勢な名だが。珍しいことじゃない。

 

彼らの経歴も短時間ながら揃えられた。

 

松本宏一

一般家庭の出、元アイドルの息子。二世タレントだが、母親とは死別、父親は不明か…施設で育った。ケンゴとは幼馴染と。

 

 

四谷光生

一般家庭の出、メンバーの中では最年少の15歳の女顔の少年。両親共に何の変哲もない一般企業の社員。内容は悉く普通だ、特徴らしいものは、他のメンバーが高校生なのに対して、ただ一人の中学生であることで、風貌と振る舞いが女性の母性本能をくすぐるらしく、他のメンバーが同年代以下の少女たちのファンが多いのに対し、この子は年上の女性のファンが多いといった所だが……どうにも違和感が拭えない。

 

 

 

八洲望 八洲産業の次男で若干17であるが既に米国で大学を卒業してそこで植物学を先行していた。現在はバイオ部門の部長を務め趣味でバンドをやっているという。

 

彼はまるで……機械関連とアオリスト粒子ことミノフスキー物理学を始めとした未来のマシン・テクノロジーを広めた俺のように先行していた植物学を筆頭に遺伝子工学、農業学といった未来のバイオテクノロジーを世界に広めようとしている。間違いなくコイツは俺たちと同じだ、だが誰かは解らない。

八洲産業の次男でバイオ部門の部長でもある、趣味でバンドをやっている。

 

アクア達が、今ガチに出演していた頃に彼の開発したとされる遺伝子組み換えによる新種の麦は俺達の世界では、コロニーの食糧体制を支えるのになくてはならないものだった。既存のものとは桁違いの収穫効率を持つこの麦を用いた合成加工食品が無ければ、俺達スペースノイドの生活は成り立たなかったからな。

 

一度彼に会ってみたいが、俺の方から直接アポイントメントがすぐに取れるかどうかか…。良くもまぁ見つけられなかったな、情けない話だが、ここ最近は今ガチでのアクアの危機やかなの養子縁組のことを始め公私両面でイザコザが続いてニュースの確認とかを怠りがちだったからな。

 

……そういえば、シャアがこの国の食料自給率の改善に頭を悩ませていたな。こちらの問題は専門外の俺にはお手上げだったから、これまでのような技術の前倒しによるやり方も使えず、地道にやらざるを得なかった。

 

奴がこの麦のことに飛びついていないはずがない…また借りを作ることになってしまうが、あいつに今すぐアポイントメントを取れるかどうか融通してもらって、無理だった場合でもシャアを通してどんな人間かの情報くらいは得られるだろう。

まぁ何にせよ、俺の家族に手を出そうものなら

 

「どんな手を使ってでも引きずり出して、正体を暴いてやるさ。」

 

四谷が要注意人物だな、隠蔽が上手すぎて逆に不自然感が拭えないよ。

 

 

 

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