背景も何もない薄暗い壇上に相対するその2人は、互いに同じ色の服を身に着け、片や勾玉の装飾を施された首飾りを首に掛け、緩く身体に和服を纏い、腕をサポーターでぐるぐると巻いている歳若い青年。
もう一人顔に影がある男の方が背が高く、髪も〘下げ
2人は対峙する、先に盟刀を抜いたのは青年。その抜き筋は、良く言えば勢いのある、悪く言えばガサツだ。
壮年の男はそれを見てただただ口をへの字へ曲げ、その口だけしか見えない顔には何処か不満が滲み出ていた。
「俺に力を貸せ、そうすれば鞘の願い。争いを止めるという夢を叶えてやることが出来るんだ。」
刀を上段に構え、いつでも振り被ろうとする。
それは心からの言葉か、それとも上っ面だけの言葉かそれを聞いた壮年は、曲げていた口角を少しだけ上げて答えた。
「下らないな、一人の力で全体を変えることなどできるわけがないだろうに。せめて俺に勝ったのなら、力を貸してやらんでもない。」
そういう男の手の中には抜身の一刀がある、何時彼はそれを抜いたのか。まるで最初からそうであったかのように錯覚する。
周囲の熱気は冷め、底冷えする程の圧が周囲を包む。固唾を呑む音が当たりに拡がり、静寂が包み込む。
ツーツーと、背に汗が流れる感覚が伝わり、瞳孔が開く。恐怖にも似た感覚に襲われる。
静寂は声と共に破かれた
「……うわぁぁぁあああ!」
全身全霊全力の一撃、食らわば一刀の下に身体を2つに割かれるものであろうが、壮年はそれを半歩後ろに下がるだけで避け、あろう事か、振り下ろされる手を抑える為に刀の峰で、それも左手一本の力のみで青年の腕を抑えつけた。
大凡一瞬で大勢が顕になる、青年と壮年の間には隔絶した力量があると誰もがそれを心に思う。
青年はその抑えつけた力を跳ね除けようと、目一杯に力を入れるがまるで岩のようにビクともしない。
それを見て余裕綽々といった様子で壮年が語る。
「その程度では夢を叶えることも、想い人を護ることすら出来ないな。大凡貴様の遣える者など単なる下賎な輩であろう?」
青年はそれを聞いて怒りに任せ刀を押し返そうとする、ビクともしないそれだったが、いきなり力を抜かれて体勢が崩れ腕が間延びする。それでも青年は刀を振るう、主を彼女を馬鹿にされたその怒りに身を任せ全力で刀を振り続ける。
しかし、どの様に振ろうとも壮年に傷をつけることは愚か、当たることすら叶わない。矛先は近くを通るのに、それは全て最低限の挙動でそらされた証。
そして、遂に壮年は自らの意思で青年へと近づく、瞬間青年の刀を持つ腕を捕まれ進行方向に宙返り、背中を大きく打ち付け
ダンッ!
と、とても嫌な音を響かせて倒れる。
「今の貴様には我を使うには程遠い、力が欲しいならばもっと精進せよ。」
暗転……声が聞こえる
「刀鬼、刀鬼。起きなさい、刀鬼いつまでそうしているのですか?」
気がつくと青年は柱に背を向け、膝を片方立たせて座り眠りに落ちていた。彼の主はそんな彼の事が心配だったのだろう、彼に声を掛けに来てくれたのだ。
「あ……鞘姫様…申し訳ございません。」
「どうしたのですか、その様に額を擦りつけて。頭を上げてください、ソナタにそのようなことをさせとうない!」
青年は深く深く、謝った。彼女には話せない、夢の中でまた負けてしまったことを。
彼は誓った、必ずやアレを打倒し鞘姫の夢を叶えると。
「必ずや貴女の夢を叶えます!」
「フフ、そうだな。共に叶えよう刀鬼…。」
〜sideMEM〜
お〜、これがかの有名な
「ステージアラウンドか〜、私こういう劇場来るの初めてだよ。皆もそうでしょ。」
私は引率者……じゃなかった、今ガチメンバーの皆+ルビーちゃん達と一緒に東京ブレイドの2.5次元舞台を見に来ていまーす。
なんということでしょう、既に会場には多くの客が押し寄せてるではあ〜りませんか!
「ひぇ〜私達のライブよりも来てるね。こんなに観客って来るものなんだね。正直、劇場ってもっとこじんまりしたものだと思ってたのに。」
「いやいや、仮にも俳優女優の娘なんだからそれくらい知ってなきゃ駄目なんじゃないの?」
ルビーちゃんは相も変わらずそんな事を言って…マリリンになんか言われちゃうぞ!
「ま、そのお姉ちゃんのを見に来てるんだけどね。」
そうなのだ、東京ブレイドのチケットをこの人数分用意してくれたのは他でもない、マリリンその人なんだよ。しかもステージに程近く、もっとも見やすい位置でもある。
「いや〜皆がいるからママもこうして安心して着いて行けるよ〜アッハッハー!」
そして私の目の前にはお腹が少し張ってきている、星野アイさんが……?
「あの〜付かぬことをお聞きしますが、妊婦がこんなにも大勢の人がいる所に来て大丈夫なのでしょうか?」
「そうです!私は妊娠しているのです。だから皆も気を使ってくれると嬉しいなぁって、それにこの程度のことなら大丈夫だって、この子も言ってるよ。」
そう言うとお腹を擦る、まだよく目を凝らして見ないと気づけない程度の大きさに過ぎないものの、妊婦がこんな所に来て大丈夫なのか?私のママはこういう時どうしていたんだろうか?聞いときゃ良かったと、今更後悔してる。弟たちが産まれた時の事、しっかり観察していれば…
「はいはい、アイの事は私に任せておいて頂戴。家の子の面倒見るよりも楽だから、今日は息抜きで二人で来てるのよ。ほらアイ行きましょ。」
ありがとうございますミヤコ大明神、私には妊婦の対応等出来ません。
「さ〜て、では気を取り直して皆で撮影しよ〜!」
皆一緒にこうやって何かを見に行く……学生の頃を思い出すなぁ。ママ私の青春、やっと帰ってきたかも。
そうして足並み揃えて会場に入った。
……
演劇が始まるとまず始まったのはシルエット演技、解りやすい男と女の共演言葉を紡ぐ男女は契をして互いに約束をした。
いや〜これ解る人には解るかもだけど、刀の刃を掴んで血を流す。
そして言うのだ
[「ソナタには帰るトコロがあるのです、頼みますよ?ソナタの使命、この國より戦を無くす。我との契りを忘れぬように…」]
ってつまりこれって、
セ○クス
の事だよね。いや、私が考えていることがあってるか解らないけど、これ絶対に暗喩だって血を流すのに契りらしい素振りも見せないのに、絶対にそうだって!なんてものを入れているのか、あるいは私がアレなのか?
ふぅ、落ち着け〜。
それが終わると本編が開始する。お〜、私の中の止まっていた思い出の中にある舞台とは一味違う。こんなにも近くに感じるなんて、なるほど体感型ってあかねちゃんが言ってたのはそういう事か〜。
あ、アレがかなちゃんか。おお、動く動くこんなにも激しい演技しても凄いね。やっぱり役者だからか凄く楽しそうにしている、ひぇ〜目立ってるね〜。それに、私はこんな役でこんな感情を抱いているんだぞ!っていうのが伝わってくるよ。
ブレイドの旅が、戦いの日々が始まって次々に襲い来る相手、それでもブレイドはそれ等を退けてそして戦いは中盤へと差し掛かる。
ブレイドと刀鬼の初の戦闘、2人は互角の戦いをするけどそこに邪魔が入ってその戦いは直ぐに終わりを迎える。
[「くそが、あの程度の相手に俺は何て無様なんだもっと力が無ければ、鞘を護ることも夢を叶えることも出来ないというのに。」]
そうやって口に出しながら、今度は刀鬼が一人歩みだす。すると席が回転し始めた凄い。右回りに歩いていくと薄暗い場所に壮年の男が立っていた、服の色は同じでパッと見違うのに刀鬼と同じ様な感覚がある、全然違うのに。
刀鬼が刀をいきなり抜刀する
なんだか不気味な人だ、目元が一切解らない。スポットライトが目元を照らしていない。
最初は失敗したのかと思ったけれど違う……その不気味な場違いな感覚が、私達に恐怖を教えてくる。
力が欲しい刀鬼が、男との戦いを始めるけれどまるで手も足も出ない。あまりにも一方的で、刀鬼は遂に立てなくなった。そんな刀鬼を見る男は、刀鬼に興味すら抱いていないようだった。
そして鞘姫の声で目を覚ます刀鬼、アレは夢だったんだ。
〜sideアムロ〜
なかなか上出来ではないだろうか、少しブランクがあるものの現状出来るものの最大限を引き出せたと確信がある。
舞台裏に引っ込むと俺は裏方に混じりながら、皆の演技をその目に焼き付ける。
若いとは良いな、色んな可能性を見せてくれる。全員が全員完成された演技をしているわけでもない、粗さもある。だがそれが良い、特に鳴嶋君。彼はこの舞台において恐らく一番成長した人物だろう。
〘今日あま〙の頃の演技とは比べ物にならない程に洗練され、それでいて重厚感のある感情演技だ。
本当に悔しいという想いも入っているから、今感じている感情を爆発させているのだろう。彼はそういうタイプだ。
そして、この舞台においてもっとも強い輝きを発しているのは、有馬かなだろう。主役の2人すらもその光に当てられて、全力でそれを迎え撃つ。
天性の才能というものはこういう事を言うのだろう、輝きを持たない我が子は引力めいた物で、目を引こうとする。
どうやらアクアは遂に自分のスタイルを確立できたようだな、そうだ…確かに君という星はアイとルビー、かなのように自分から光を発することはできないが、その3人には無い人を有無言わさず引き寄せる重力がある。
それに気づいた今の君になら、いずれ親の俺達を超える成長を遂げてくれることだろう……あとは、君が役者を始めタレントを続けていく中で何を欲して求めているのかを見出してくれれば、完全に一人前だ。
姫川君には、それを見て笑いを堪えながらも楽しそうに自由演技に没頭する。良いね、若い役者はこうでなくては。
そして、もっとも忠実な演技をするのがあかね君。完全に役になりきっている、特に押し殺していた感情を爆発させるそれは非常に魅力的だ。
かなの光にも存在をかき消されず、アクアの重力にも囚われることなく、立ち回ることのできる君は衛星……そう月のようだ。闇の中では、太陽の光を己が物として夜を照らす星となり、時には日が統べる明るい空の中でも朝月や夕月のようにその姿を現わし、恒星や惑星を以てしてもその存在を覆い隠しきれない存在感を放つその星は正に君の在り方そのものだ。
若者達が輝いてくれている
俺がこの作品に呼ばれた理由がこれだろう。俺の役回りである、裏刀鬼。実際はそんなキャラクタではないが、あえてそんな名前にしたんだろう。
この舞台においてもっとも異質な存在として、俺を入れることにより、負けず嫌いなこの子達はより一層力を出すことが出来る。
纏め役がいない?纏りがない?そんなもの君達は考える必要は無い。全員が輝けば光度はあがり、全員のことがより良く見えるだろ?
裏方に徹するのは俺達大人の特権だ、俺が暗く気持ちの悪い違和感の残る演技をする。
そうするとバランスが取れる、観客の脳裏には無意識に俺が見えるはずだ。
あんな奴が敵として出てきたらとか、争っている場合じゃないぞ。とかそういう葛藤を覚えてくれる。
そして、作品にのめり込んで行ってくれるのが俺の成功だろう。
もっと伸びてくれよ?子供とは、若さとはそういう武器なんだから。
〜sideあかね〜
納得いかない、危険過ぎる行いがあんなの演技じゃない。
赦せない、マリンちゃんの恐怖に歪むその顔が苦悶に満ちたその顔が。
認めたくない、それを演技と言い張ることが出来る絶対の信頼が。
彼の演技は…異質だった。まるで私達のそれを全て塗りつぶすかのように、一切の無駄を省いた武人の境地のようなその動き。
〘お前たちはまだまだ餓鬼だ〙
そんな風に言われているみたいに錯覚する。そんな自分も嫌だけれど、そんな感想が出てくるあたり本質はそうなのかもしれない。
だけれど、こんなやり方嫌だ。だから私は彼に負けないように、鞘姫に成り切らなければならない、だってそうしないといつか、マリンちゃんが壊れてしまうかもしれない、この演技の最中に壊れてしまうかもしれない。そんな事嫌だ、私は彼女を護らなければ大切なものが手から零れ落ちるのなんて見たくない。
「マリンちゃん大丈夫?」
彼女の姿は儚げだ、舞台に立っている時の姿とは打って変わって惨憺たる有様だ。
あからさまに肩で息をして、恐怖にこわばるその顔は見るに堪えない。
「平気…期待に答えたいな。父様が一緒の舞台に立ってくれて嬉しい反面、実力の違いにちょっと落ち込んでるだけだから。」
「無理しなくても大丈夫だよ?私達は渋谷クラスタのチーム、だから皆で納得させればいいんだよ。」
家だとどういう家族なんだろうか、そこまで気を張って生きているのだろうか?それとも只々緊張のせいなんだろうか?
やっぱり〘安室嶺〙彼の姿勢とは相容れないかもしれない。