[「ねぇ、来てくれないの?私…やっと舞台に立てるようになったんだよ、あの苦手だった舞台に。ねぇ、本当に来てくれないの?」
父様は私の演技を見てくれないのだろうか…私は少し悲しくなった。
「その日と前日、ちょうど仕事が入っていてね。先方としてはどうしても外して欲しくない、そう言われているんだ。特に、相手は見知った常連でね無下にも出来ないんだ。」
そうなんだ…仕事の邪魔しちゃ駄目だよね…。
「俺の代わりと言って良いのか解らないけど、お母さんは見に行くらしいよ。劇中に探してみると良いさ、きっと喜ぶだろう?」
本当は父様に見てもらいたい……昔から色々教えてくれた。勉強だって、身体の動かし方だって。
色んな部分が駄目な娘だけど、それでも父様は私にとってたった一人の父様なんだから本当に来て欲しいんだけど…
「解った、ごめんなさい。無理を言っちゃって。」
「いや、こっちこそゴメンな。だけど、アクア…愛久愛海。
大きくなったな、駄目な部分も含めて君は俺の大切な娘だ、だから全力で役に成り切るんだ。それが、君の演技なんだろう?」
身長差は縮まったけど、それでも父様は私の頭を撫でてくれる。私はそれが好きだ、正直に慣れなかった中学時代それが鬱陶しく感じてたけど。]
〜sideアクア〜
物凄く疲れた…父様との演技は非常に疲れる。私の動き、一挙手一投足を完全に読み解いて動いてくれるのだから、一見すると楽なのだけれど…少しでもミスをすればそれをカバーしに動いてくれる。そういう感覚が解ってしまう自分が恨めしい。
嬉しい反面、親に尻拭いされる子供というのがなんとも言えない屈辱を感じるのは、私がまだまだ子供で反抗期をやっと脱したくらいだからだろうか?
それでも、そんな父様は私の心を知っていても、全力で演技をしてくれた。
あかねちゃんにはこの姿で憔悴してると思われていて、父様にあらぬ疑いをかけてしまっている事に、心からお詫びしたい。
劇も終盤に差し掛かり、あかねちゃんの演技のキレも、かなちゃんに匹敵して来ている。
演技をしながらふと、昔の事を思い出した。母様の1stドームライブの日、父様がいなかった日嫌な感覚を覚えたあの日。
私はもしかすると、アレのせいで舞台に立てなかったのでは無いだろうか?会場にはそれらしいものがいない、心は晴れやかだ。
父様も緊張などせずに、裏方から私達の演技を微笑ましそうに見ている。
父様、私はこんなにも大きくなりました。皆と共に舞台に立てるようになりました、一杯迷惑をかけました。これからもルビー共々迷惑をかけると思います。だけれど、見ていてください必ず父様に並び追い抜けるような、そんな女優になってみせますから。
最後の一太刀私を庇って血に沈む、あかねちゃん扮する鞘姫私は泣き叫ぶ、己の力が足りないばかりに彼女の命を狩らせてしまったことを。
あんなにも縋った力など、失った後にはなんの役にも立たない。
それを知った時、彼は絶望しそして全てを諦めようとした。だけれど敵であった者達が彼女を救う。その姿に、私は感情を入れる。嬉しいというものを感謝を、敵は友となり共に歩む同士となる。大団円の終わり。
そして、カーテンコールが始まった。手拍子と共に出ていくキャストたち。
一人ひとりの演者が幕の裏から現れる、私の番は最後から二番目。主演は最後の方なのだ、だけれどどうしたことだろうか?私の横には父様がいる。
「もう順番過ぎてるんじゃないの?」
「取りは最後なんだとさ、何をやらされるのやら。スピーチなんて考えてないぞ?ファーストカーテンコールなんだ、2つ3つ言わされるのかな?ほら、順番だぞ?」
私は刀鬼役として舞台に歩き出し、まずは刀鬼の声で剣を振るった後、声を女のそれに戻した。
ざわざわとする会場に、私は満足だ。あっ、アレは母様にルビー達もケンゴ君もいる嬉しい、精一杯の笑顔で片手を肩に添えてお辞儀をする。
次は姫川さん、堂々とブレイドとしてブレない歩き方。演者として最大限作品への感謝なのだろう、それが彼の流儀なんだ。だからあんなにも自分に自信を持って、演技できるんだろうか?
そして、最後に裏刀鬼姿の父様が現れる。パンフの段階では誰も紹介されなかった人物が姿を露にする。
その歩み一歩一歩に、キャラクタを纏わせてまるで音などしない歩き方、どうやってるんだろうか?
姫川さんが言葉を紡ぐ、観客への感謝キャストへの労いをそして最後にインタビューが始まった。
「さて、最後となりました。こちらにいる人は裏刀鬼役の安室嶺さんです。急遽決まった役でしたが舞台いかがでしたか?」
「突然だね、そうだな。まだまだ荒削りな部分も有ったけれど、俺としてはまあいい出来だと思うよ。皆今日は緊張していたみたいだし、次はもっと良いパフォーマンスが出来るはずだよ。特に、若者の成長は著しいから俺なんかよりも、上手くやってくれると思う。それくらいかな?」
その言葉の後、姫川さんが締めの一言を言った。
音楽が鳴り響き全員揃ってお辞儀をする。満場の拍手が会場を包んだ。
〜sideあかね〜
控室に戻るとユキ達が私を出迎えた、私の演技を見て凄い凄いとまるで別人みたいだったって私のことを褒めてくれた。
そんな言葉に私はもっと上手く、もっと上手な演技をしたいって言って泣いてしまった。今回の公演は皆が皆全力を出し切った演技が出来たと自負できる。
そんな事を思いながら、ユキ達と一緒にマリンちゃんの事も見に行こうという話になり、そちらへと足を向けた。
ちょうど休憩室に入るところを見つけると、私はそ〜っと隙間からそれを覗いた。
「忙しい中、今回の仕事受けてくれてありがとう…」
「なんのことかな?俺はただ俺に指名の仕事があったからやっただけだよ。それに、公演はまだまだ続くんだこれだけで満足してちゃだめだぞ?」
マリンちゃんはお父さんと話をしていた、声は別に押し殺したものでもないしごくごく普通の会話だった。普通に向かい合って、ああ。こう見ると確かに似てるかもしれない。
「本当は断るつもりだったんでしょ?台本も何もない状態で、数日を過ごしあのリハーサルの日に、初めて台本を渡されたって。金田一さんに聞いたよ。」
3日前に渡されてその日にOKが出る演技をした、それも求められているものを…やはりこの人は凄い人なのだろう。やり方は気に食わないけど。
「受け取れる状態じゃなかったからね、しょうがないさ。ただ、どうしても君と共演したかった。やっと自分の娘が、こうしてトラウマを克服したんだ。一緒にやってみたいって思うのも親ってものだものな。」
そう言うと彼女の頭に手を乗せてゆっくりと髪を梳く、彼女は目を瞑って少し口角が上がってる。嬉しいんだ。普段は大人びているマリンちゃんのこういう一面を見れたのは新たな発見な気がする。
「今はそっとしておこっか、家族の団欒邪魔しちゃあれだし。」
私は足を反対に向けて戻っていく、モヤモヤとしたものを感じながら。
……
何公演か終えた頃、私達は飲み会に行くことになった。ララライ内では結構行くことはあったけれど外部の、特に苺プロ組はあまり積極的に来ることもなく、今回も来ないのだろうと思っていた。
そんな空気を察してか、マリンちゃんがお父さんに声をかけてくれて今打ち上げをしている。
「ったく、良い?役者も一人の作家であるべきで……」
ジンジャエールで酔ってるかなちゃんを尻目に私は肉を網に投入していく、こういう事は案外好きなのだ。
マリンちゃんはあいも変わらずベッタリと、お父さんの近くに腰を掛けているんだ。意外な側面なのかもしれない、甘えたがりな娘。私の思ってた印象と少し違う、ずっとニコニコしてるし。妬いちゃうな。
それに対する安室さんは、なんというか少々複雑そうな顔をしながら、寄せられた肉を箸で突いていた。あまり食べてない。
「あの、お肉嫌いでしたか?」
「いや、少し仕事の事でね」
かなちゃんや私達若手の方をぐるりと見回すと、一息ついて言い出した。
「俺も歳を取ったなとそう思ったよ。昔はこんなにも演劇界はこんなにもキラキラしていなかった、もっと今よりも暗かった。
君等のような子達が出て来て、嬉しく思う反面。若さに対する嫉妬もある。コイツも、昔はこんなに胃に来るものじゃ無かったのにってね。
来年の春頃から海外で仕事だ、しばらくの間この娘達とも満足に会えなくなる。妻だって妊娠しているのに、ちょうど出産から一月後くらいから仕事になるから、育児も手伝えない。
これじゃあ、昔と同じだよってね。
少し酔っているのかな、ベラベラと済まない。」
「父様…母様達の事は任せてください。育児なら社長家の空君の面倒見たことあるから大丈夫だよ。」
私も育児の経験ないからフォロー出来るか不安だけど、マリンちゃんの為に人肌脱ぐかな?
そうすればマリンちゃんの負担も減るだろうし。
「私もお手伝い出来る限り、手伝いますよ?」
「済まないね…嬉しくて涙が出てくるよ。」
なんだろう、意外と家族思いなお父さんなだけなのだろうか…公私混同避けるために、演技してただけなのかな?
「おい、嶺もう一軒付き合えよ。積もる話もあるだろう?」
「金さん、俺は二次会遠慮させてもらいますよ。妻が家でカンカンで待ってると思うので。」
「あの嶺さん…今日泊まってもいいでしょうか…。」
口に出たのはその言葉だった。
「お母さんには電話で泊まるかもしれない事は言ってあるので…。マリンちゃんのことは良く知っていますし。」
「そうなのか…アクアも良いのかい?」
「私は別に構わないし、母様を説得できれば。」
「そこの心配はしなくてもいいよ、俺がなんとかするさ。
ということでだ、ここまでは俺が払う。良いかな?」
そういう感じで、マリンちゃんの家に行くんだけど…
「何でかなちゃんも一緒に来るの?」
「今一緒に住んでるからよ。そういう事だからよろしくね。」
?????どういう事?衝撃の事実に困惑する。
〜sideアイ〜
「は〜いお帰り〜。アクアと、かなちゃんと、あかねちゃんは部屋に行ってて良いよ?私は安室と話があるから。」
「母様…それは私が我儘を」アクアは良いんだよ、子供は我儘を言うものだから。だけど、アムロ。貴方まで付いていくことはないじゃないかな?」
私は今怒っています٩(๑òωó๑)۶
アクアが打ち上げに行きたいと、その日の朝の内に連絡をくれたから、私はアクアの分のご飯を作りませんでした。
でも、アムロは帰ってくると言っていたのに急に打ち上げに行くと、そう言われたのです。
せっかく作ったハンバーグもタネのままです、勿体無いので冷凍庫の中にあります。
「おかしいよねぇ、打ち上げに行くなら行くで朝から言わなきゃ駄目じゃん。それともなに?アクアのせいにする?予測くらいついたでしょ、私はもしもの事考えて作っているのに何ですか?」
「面目次第もない、何か埋め合わせをしたいんだが。」
「ふっふ〜ん、じゃあね?」
私はお腹を擦る、まだまだ大きくなってくれるこの子を撫でる。
「一月に1回必ず帰ってきて、この子の顔を見に来るために。良い?どんな事があってもだよ?」
ルビーとアクアだって最低限の頻度で会っていたんだから、それくらいやってくれないと、この子が可哀想だもん。
「そこは大丈夫だよ。言われなくても帰ってくるつもりさ…今回の仕事先にもそれが絶対条件だとして提示しておいたしね……ほら。」
「口吻は当分駄目だよ?お酒はこの子に悪いから、やるならおでこかな?」
そう言うと、アムロはおでこにキスをした。ふふ
「良し!許す!さ、シャワー浴びてきて、一緒に寝よ!」