虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第七十三話

 

〜sideかな〜

 

 

「ねぇ、かなちゃん貴方に説明を要求します。」

 

あーちゃんの部屋に三人で入ると直ぐ様にあかねが、私に現状の私の状態、即ちこの星野家に住み込んでいる私に対して説明を要求してきた。

 

「あかねちゃん…怒ってる?かなちゃんには別に否はないし、何より私としては姉が出来たみたいで」マリンちゃんは黙っていて、私はかなちゃんに聞いてるの。」

 

そんなに私の現状に付いて知りたいのか…困ったファンもいたものね。あかねが役者の道を志したのは、私の影響が大きいと本人がインタビューに答えていたけれど、ここまでの追っかけがいるなんて正直嬉しいのやら、悲しいのやらどちらが正しいのかしら?

 

「はあ…いいかしら?まず第一にお金の問題。今まで住んでいたマンションの家賃が高いから節約の一環。

第二に演技を学ぶのにこれ以上ない環境だということ、特殊な家庭環境から来る、インスピレーションとかそういうのを取り入れたいの。

第三に養子になったから…以上よ。」

 

「本当かなぁ…かなちゃんは私と違うタイプの役者でしょ?私達みたいにその人の事を調べないと演技するのが難しいのとは違って、状況に応じて自分で演技を簡単に切り替えてくるよね。

でも、考えてみればそれってこういう日常生活でも使えるよね?あと、最後の養子っていうの詳しく聞いてもいいかな?」

 

怖いわね……厄介オタクに絡まれるっていう最悪のパターンじゃないかしら?別に嘘は言っていないのだけれど、こうも言われるとムキにならざる負えない。

 

「私が何処に住もうが私の勝手でしょうに、それにここの住人であるあーちゃんやルビー、そしてご両親には許可を取ってるのだしアンタには関係ないことよ。

 

後、養子になったていうのはそのままの意味よ。姓はいずれは安室にしようと思っているけれど。」

 

そこまで言って、あかねの目が虚空を写していることに気が付いた……

 

「お〜い、どうしたのよ?」

 

手を目の前に翳しても何の反応もなし、何より目が虚ろというか、えっなに。まさか、私が養子になっていることにショック受けて意識飛ばした?

いやいや、流石にそこまで私に入れ込むなんて想像以上の女ねこの娘は。

 

「あーちゃん、そっちの足を持って。」

 

「えっ?でも、」良いから。この際夢だと思わせとけば良いのよ、いずれ勝手に気付くでしょ。あーちゃんと同様にあかねは頭だけは良いから。」

 

大丈夫人の恋路を邪魔する奴には、こうやってやっといても良いのよ。

 

「ちょっと騒がしいんだけど、もう直ぐ深夜なのに眠れないじゃんってえぇ…2人して何してるの?」

 

タイミング悪いわね、これじゃあ私達があかねをどうにかして布団に連れて行こうとしている様に見えるじゃない。

 

「先輩…とうとうお姉ちゃんと一緒に足を踏み外しちゃったの?そんな…先輩だけは清純だと思ったのに。」

 

「おいルビーなんだ!それじゃあ私が清純じゃないみたいじゃないか!」

 

「だって実際初体験してるんだから、もう純潔じゃないじゃん。」

 

「グフッ!」

 

じゃあ、ドムとゲルググもいるのかしら?っとそんな事は置いておいて。

 

「私が養子になったっていうことを聞いたら、目を開けたまま気を失ったのよ。」

 

「あ〜、あかねさん純愛過激派だったんだね。つまり唐突なNTR により脳が破壊されちゃったと…なるほどね。」

 

純愛過激派ってなんだよ、っていうかそういう言葉が出る時点でアンタも姉と同じく清純とは呼べないじゃない……間違いなくこういう所は姉妹だわ。それは置いといてこのまま夢だと思ってくれればいいのだけれど。

 

「でもいつかは喋らないと、後ろからかなちゃん刺されちゃうよ?」

 

過激派っていうそういう…あかね…いつか、またいつかは話すからそれまで待っていてよ。

 

……

 

東ブレも千秋楽を迎えたけれど、あかねは私にあの時の事を聞いてくることはなかった。果たして、覚えているのかいないのかそれは本人と星野一家のみ?ぞ知るね。

 

それにしても

「はぁ…あんな演技私には出来ないわね〜」

 

嶺さんのあの演技。本人の身体能力に裏打ちされた、正に職人技の領域のそれ。どうあがいて到達できないだろうことは、私も理解している。いつかはものにして見せる、そういう心もあるけれどだからこそ無理だと解る。

 

だから、私はそれを演技と演出家の力を借りて、後進の役者達の誰もが出来るように下地を創るべきなんだろう。これは良い意味でも悪い意味でも特別すぎる嶺さんにはできないことだ……これからの私は単に大人たちに用意される役を演じるのではなく、私達の後からやってくる子達が進めるような新たな時代の役者の在り方を示す道筋を作り上げて往きたい。

つまり、私がやるべきは

〘もっと世界を見て役者として大成する〙

 

日本の役者は世界的に見ると、大御所ですら知らない人もいる。だからこそ、私は世界を目指すべきなんだ。

だけど今は下地創り、色んなものを経験して吸収して始めて上を目指せる。

 

 

〜sideアクア〜

う〜む、う〜むう〜むうむむ

 

「どしたのあーちゃん。」

 

「うん?あ、かなちゃんか。いや…これどう思う?」

 

私は眼の前にあるコオロギの佃煮を見て、かなちゃんに言った。

 

「あぁ、コオロギね。気色悪いわよねぇ、中学の時給食に出てきた時は全校生徒が文句を言いに、学校を休んだくらいには人気が無かったやつね。」

 

それは流石に言い過ぎだろう。ただ給食で極々たまに出てきた時も、いつも残っていたっけな。グロテスクだし、苦いし、美味しくない。何より、こんなの食べて何が良くなるんだがさっぱりだ。

 

「昆虫食なんて、時代遅れなのになぁ」

 

確か八洲産業だったけ?今じゃその会社が起こした農業革命とか言って工場で野菜や、大豆を使った代替食品が在るんだから、こんな味の悪いもの食べなくてもいいのに…父様は無頓着に何でも食べるけど。

 

「二人共好き嫌いは駄目だよ、食べられる時に食べておかないと、同じものしか食えない時だってあるんだ。」

 

父様は前世での一年戦争の時を思い出しているのだろう。だからってねぇ…こんな時にこんなの食べたくない、食べなきゃ良いだけだけど。というか、戦場での常識を今に当てはめないでください。

 

「父様、そう言えば今日は2次会に行くんですか?私はかなちゃんと帰りますけど…」

 

「うん?そうだね、この前断ったから今日くらいは、行くよそれに…」

 

『どうやら気になっているらしいからね』

 

瞳をあかねちゃんの方へ向けて、私へと思念を飛ばす。あかねちゃんに何を話すつもりなんだろうか。

 

「ま、悪い話ではないさ。二人は明日も仕事だろ?特に、かな。君は明日ステージがあるんだ、早めに帰るように。」

 

「解ってるわ、嶺さん。」

 

凄い笑顔だ。かなちゃんはどんどん美しくなっていく、色々見ているんだろうけど、目標が近くにいるとこんなにも人は変わっていくものなんだろうか?

 

昔のかなちゃんよりも、きっと今の方が輝いているに違いない。だから、負けないようにしなくちゃね日々が勉強、かなちゃんはライバルであり、目標なんだから。

 

 

 

〜sideあかね〜

 

あの日の、かなちゃんに質問した記憶が無い…いったい私はあの後どうした事か眠りについてしまったらしい。

東ブレの舞台も千秋楽を迎えて、舞台役者や裏方を交えた大規模な身内でのパーティ。

と言ってもどうせ終わったら二次会三次会とかに行くのが大半なのだけれど。

 

安室さんやマリンちゃんはあいも変わらず、一緒に行動していてマリンちゃんは珍しい食べ物を目の前にすると、安室さんにそれが何なのか聞くくらいには親密になっている。

お互いがお互いの演技を見て、何か家族として色々と知ったんだろう。親子のほのぼのとした光景。

そこに、一緒にかなちゃんが紛れ込んでいるという状況を除いて。

 

まず目を疑ったのは、あの彼女が2人と話す時はまるで花が咲いたかのように笑い合っている、演技でも見せたことのない私の知らない笑顔。

いつもの仏頂面のような、ムスッとした顔は何処に消えたのだろうか。これではまるで家族ではないか…頭がチクリと痛む。

何だろっ、何か大切なものを忘れているような。

 

そうだ…あの日こんな返答があったんだった。

 

〘養子になったていうのはそのままの意味〙

 

ああ、そうか。養子になったんだっけ?…納得してる場合でないでしょ!あの、かなちゃんが安室さんの家の子供になるってことは確定的に、安室って人が師匠ってことじゃない。

そもそも、何で養子になったの?

 

そう思ったら私は有ることに気が付いた、私は

〘有馬かなという役者〙

を知っているが、〘有馬かなという少女〙を知らない。

 

彼女が普段どんな生活をしていて、どういう家庭を過ごしどういう人生を歩んできたのか、私は知らないんだ。

私は〘役者有馬かな〙のファンであって、まだ友達というところまで行っていないんだ。

 

かなちゃんはマリンちゃんの事をさも当然の様に〘あーちゃん〙と呼び、二人の会話の中には変な垣根が無いように思える。

それは互いに信用し合っている親友と言うことで、ファンである私とは一線を画す。

私はもっとかなちゃんにもっと近付きたい、実力を認めてもらいたい、その為ならなんだってできる筈!

 

「姫川さん、安室さんの演技で聞きたいこととかありませんか?」

 

「うん?そうだな、あそこまでのことをやるきっかけとかそういうのを聞きたいね。もっともここじゃあプライベート出ないから、良いところがあるんだけど連れて行くか。

おっさんも一緒に連れていけば、意外とすんなり行くだろ。

人当たりが良い人だってのは、なんとなく解ってるからな。」

 

色々と聞き出せるかな。

 

 

……

そう思っていた時期が私にもありました。

金田一さんを連れて、私は始めて大人が、通うバーというものに入った。姫川さんがバーの店員さんに二人に酒を振る舞うという作戦を展開、まんまと二人に酒を煽ったのまでは良かったんだけど、先に金田一さんが潰れるのは予想外だった。お酒に強い方だって聞いたのに。

 

「俺はハーフだ。純粋な日本人よりかは酒に強いぞ?」

 

「え?そうなんですか、てっきり純血かと…以外ですね?」

 

姫川さんがそう言った。

 

「身長からとかは意外と解らないものだからな、それはしょうがないさ。それよりも、話が聞きたいならそう言えば良い。隠し事なんてそんなにしないよ。」

 

「じゃあ、あそこまでの技術何のために磨いたんです?演技の為だとは思えない、アンタの目からは別の何かが見えるからな。」

 

姫川さん曰く狂気じみた何か、そういう類のものだって。欠けているってことなのかも知れない。

ショットグラスをテーブルにカタリと置くと話し始めた。

 

「そうだな、君等もいつかは解る時が来ると思うんだけどね、護りたいもの、護りたい人が出来たとき、護りたい約束がある時、人はそれに全てを捧げられるようになる、それだけさ。」

 

「にしては、だいぶ以前かららしいですけど。」

 

「俺は人よりもそれを見つけるのが早かっただけさ。

さて、あかね君はそれとは別件だろ?そうだな当ててあげよう。〘かな〙彼女の事だろう?」

 

見透かされてる、いや思考を読んだんだ。

ブルリと背中が震える。

 

「怖がらなくていいさ、別にそんなに珍しい事じゃない。彼女のプライベートでの、俺等家族との関わりとかを知りたいってことだろ?」

 

「兼ね兼ねその通りです。」

 

言わなくても解ってくれるのは便利だけど、やっぱり不気味でもある。

 

「彼女とは昔、家の娘が共演してからの付き合いでね。最初は家族ぐるみだったんだ、けどね段々と彼女の周囲の人が彼女を人として見なくなっていった。母親ですら。

それが嫌で、彼女が段々とおかしくなっていくのを実感してね。

 

少し手を伸ばしたんだ。

娘達と接するようにね、そうしたら少しずつ心を開いていってね、年長者として娘達の姉として振る舞うようになっていった。演技を教えてほしいとも言われたよ、たぶんあの娘が一番俺の演技には詳しいんじゃないかな。

今では、本当の娘のように思っているよ。」

 

そんな過去は知らなかった、実質的に親に捨てられているようなものだ、なのに私は彼女の事を何も知らなかった……いえ、知ろうともしなかった。これでは、かなちゃんを人して接しようとせず、挙句の果てに彼女を捨て去った人たちのことをとやかく言えない、自分が恥ずかしい。

 

「だからね、友人として接してやってくれないかい?彼女もその方が気安いと思うから。批判を受け止めるのも良い事だと思うしね。」

 

そうだよね、そうしよう。今まで通り接していけばいいんだよね?

そう思っていると金田一さんが起きて来た。

 

「よぉ、お前さんもよぉやってるよ。あん時のガキが…俺等の鼻明かした奴が親たぁねぇ…」

 

何てグチグチ言い出したかと思えば、直ぐに寝息を立て始めた。

いつもこんな感じなんだろうか、姫川さんは全く動じていなかった。

 

 

 

 

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