第七十四話
[2032/8/6
{センセ!お久〜ごめんね、夜にお電話して。実はね今年はそっちに行けなくなっちゃてね、今年からアイドル活動始めたんだけど夏休み中も予定が結構詰めてあるから…本当に残念なんだけどごめんね。}
その言葉に俺は愕然とした。
「え…あ、あぁそうなんろ。確かB小町が活動再開したってファンクラブのリーダーから聞いてたんだけど、そっか。
じゃあ星野ルビーっていう本名で活動してるんだ、YouTubeで見てたけどそうかな〜って思っててね。」
結局は君も〘さりなちゃん〙のことを忘れてしまうのかって、だってそうだろ。僕は君と約束をしたじゃないか、毎年いつでも良いから必ず〘さりなちゃん〙のお墓参りをするって。
{えへへ、どうだった?私のダンス綺麗でしょ!}
嬉しそうに笑うじゃないか、その眩しい笑顔は何処か似ていると思ったのに。これじゃあ、〘あの時〙彼女の墓前での言葉に反するよ?
《センセ、ありがとう。私の事ずっと忘れずにいてくれて、けどね私はもう良いの。だからね、変わりにこの娘の夢を叶えてあげて?
この子は私の生まれ変わり、だけどきっと覚えていないと思うんだ。だからねセンセ。それが、さりなとセンセの約束だよ?》
「う〜ん、確かにダンスは良いけど…もっと歌を練習したほうが良いと思うよ?正直に言って歌の問題をどうにかしないことにはアイに勝つには足りないよ?これじゃあまだまだ推せないぞ?」
「その言葉、ザクッと心に刺さるんだけど…よ〜しならもっと練習しないとね♡!絶対センセの推しになって見せるんだから。」
でも大丈夫だよ、瑠美衣ちゃん。さりなちゃんとの約束は護るから、絶対に護って見せるから。だから、俺のことを君の推しにして見せてくれよ?もしかしたら、それが君なりの供養なのかもしれないしね。
〜sideMEM〜
「え?ウソこんなに一気に増えたの!」
私はいつもの日課である、チャンネル登録者数の巡回を行っていた。私のチャンネル以外、B小町の公式チャンネルも私が管理しているから、その都度どのくらいの人数が来てるのか。何て思いながら、色々と試行錯誤していたんだけど。
「B小町のチャンネルが5万人に到達してる……開設して半年も経ってないのに…それに、昨日で千人も増えたってこと?それに私の登録者も50万人まで後2万人!これが、アイドル効果だとでも?でも、これは絶対に」
波が来ている!!
……
「というわけで、チャンネル登録者数が5万人到達したので、記念配信と、更に押し上げるために秘策を用意しました!!」
「えぇ?なんだまだ5万人か、意外と少ないわね。」
「目標の百万人までまだまだだね…」
こっこいつ等、YouTuber舐めとんのか…ふ、巫山戯ている。
「あのね二人とも…一応言っておくけどYouTubeで5万人行くのがどれ程難しいか解ってないでしょ…説教臭く成るけれど言っとかなきゃならないね!いい!?YouTubeには国内だけで30万チャンネルあってね、その内の75%が登録者が1000人以下だっていう───」
歳上の威厳を見せてあげよう、大人社会というものを教えて上げるのだ。
〜説明中〜
「だいたい解ったわよ、流石に無知だった事は認めるわ。で?最初にMEMさんが言ってた秘策って奴を、聞かせてもらおうじゃない。」
「はい、ルームツアー動画を作ります。本来なら、このルビーちゃんの家をまるごと撮らせてもらって、ハウスツアー動画にした方が確実に映えんだけど……それをするとうっかりと映っちゃうモノ次第で安室さんとアイさん、そして二人とマリリンとルビーちゃんの関係がバレかねないことを始めスキャンダルに発展する危険性があるから、なので今回はB小町メンバーの個室に限定します」
「ルームツアーか〜…最近流行ってるやつだよね。別にやってもいいけど、私の部屋ママのポスターだらけだから、映してもそんなに面白くないかも知れないよ?」
「私の部屋も、最近引っ越したばかりでそんなに目新しいものは……無いわよ。」
今の間はなんだろうね〜何かを隠してるんじゃないの〜?
「べっ、別に何かがあるとかそういうのは無くて、そう。そうよ、片付けとかしなくちゃならないから、そんなに直ぐには撮れない…」でも引っ越したばかりなんだよね〜?」うっ」
というわけで、
「ちょっと待った。流石に日常生活を売り物にしたくないわ。自分の部屋をネットに晒すなんて……いくら私達の人気が波に乗ってるからって私生活の切り売りなんてリスクは極限状況でもない限りはやりたくないわよ!私は絶対反対!断固拒否!」
「でも動画にすると、経費で全部落ちるよ?」
〜sideかな〜
「お、お金には勝てなかったよ…」
「先輩〜?お〜い、ちょっと折れちゃってるから先に私の部屋映してもらって良い?」
く、小癪な。人の弱みにつけ込んで、こんなにもあっさりと私に土を着けるとは、やはり人生経験は伊達じゃないのね。
「は〜い、ご開帳〜。わっ!スッゴ、これがルビーちゃんの部屋なんだ、ひぇ〜全部アイのポスターじゃん!そんなに好きなんだ!」
「当然!だってマ…アイさんは私の憧れだもん。このくらい当然だよ。」
コレクションケースの中には、旧B小町メンバー全員の全衣装をそれぞれ着せたフィギュアが、キメポーズで置かれてる。
うん、いつ見てもドン引きするわねこの部屋。あーちゃんの部屋とは別の方向でヤバい空気が漂ってるから…
「あ、これ非売品でねお姉ちゃんにお願いして」
あっ!懐かしい〜忙しかった時に、たまの休みで楽しかったバーベキューパーティ〜……っておい!
「はい!アウト〜それ映しちゃ駄目〜!それ、日常生活のやつだから!プライベートをフィギュア化したやつだから、私の両親まであるから!いつのバーベキューパーティの奴よ!」
「流石に芸能人じゃない人とか、映しちゃ駄目なのは編集面倒くさいからあれだね〜、悪いけど外して良い?」
「えぇ〜ジオラマはこれだから完成なのに〜…。まあ良いけど、じゃあ先輩の奴も撮ろうよ。」
ルビーの部屋の紹介が終わったら次は私だ。
「配信用に買った30万のゲーミングPCに10万は近くするお気に入りの有名ブランドのバッグ、高品質が売りの大手メーカーのアーロンチェア……まだまだ買い揃えて無いものもあるけれど、今はこんなもんよ」
「えぇ〜、先輩なんか面白そうな趣味とか無いの〜?それだけじゃアイドルというよりその辺の小金持ちのお嬢様って感じでインパクトが足りないよ」
あんのねぇ、小金持ちってね……この業界安い女と見くびられれば後で足元とか見られたりして、舐められるのよ!それはさておき趣味ね〜、読書とかはタブレットで事足りてるし台本とかのストックも、電子化してるし。そうねぇ…一つあったけど紹介したくないのよね…
「ちなみにギャップとかあると、より売れる可能性は高くなるっていうか?」
「じゃあ、クローゼットの中も見せますよ。」
コスプレ衣装…別に私の趣味ではない、あくまでもあーちゃんの趣味に付き合った形であって。
「これ!ピーマン体操の服だ、しかも少し大きくなってアレンジされてる…まだ歌う気で?」
悪いかしら…ぷるぷると震える身体から迸る恥ずかしさを抑えなきゃ…
「持ち歌を歌っちゃ駄目なんて誰が決めたの?」
私の一番売れた歌なわけで、代表ソングはコイツなの。アイドルで上になれば必然的に、歌うことになるわけでならいっその事って思ってるだけなのに!
「まあ、人それぞれだよね〜…。そうだ!新メンバーでもあるお姉ちゃんの部屋も撮っておこうよ!今日デートだって言ってたし事後承諾取れば、別に出さなくても良いわけだしさ。」
あぁ、あーちゃん。貴女も毒牙にかかるのね、憐れだわ。
「言っておくけど私は反対よ、無断であの娘のプライベートまでやるなんて、正直駄目だと思うわ。正式にアイドルになるとは言っていないのだし。」
「でも一応デビューはしたわけで、だから大丈夫でしょ!それに……今回の伸びは完全に間違いなくお姉ちゃんが齎したことだから……」
「そうだね。正直マリリンにはホント悪いんだけど、こればっかりは撮らせてもらわないと確実に今乗ってる波からずり落ちるハメになりかねない……」
確かに……それはMEMちょの言う通りまずいわね。でも……あぁ…見えるわよ彼女が怒髪天を衝く勢いで怒るそんな景色が。あーちゃんに配慮して折角のチャンスを不意にするか、あーちゃんの怒りを買う覚悟でチャンスをモノにするか……私達はどうすればいいの!?
〜sideアクア〜
私は肩で息をする、それなりに大きなベッドに横たわり、果てた彼と共に。
もう慣れたものだ、身体の違和感はなくそれが入っているのが当然に思うほどには…それでも私は彼に違和感を覚えた。
「ハァ…ハァ…アッァァ…ねぇ…どうしたの?突然会いたいなんて言ってさ…こんな強引に終わっちゃって。何か悩み事でもあるの?」
「別に無いさ…ただお前が心配になって。なあ、俺のメンバーから声が掛けられたりとかって無かったか?」
メンバーか…やっぱり何かを隠してる、迷いが見えるよ。私を騙すつもりはないみたいだけど、何かを決断出来ないんだね。しかし、この間のJIFの時に出会った際に一応念の為に力を使わせてもらって彼らの心を失礼を承知で少し調べさせてもらったけど、リーダーの八洲さんを始め別に悪いものは感じなかったが……
「嘘は良くないよ?だって、貴方の瞳は恐怖に震えているもの。」
隣に横になる彼の顔にそっと、私は顔を近付けてその瞳を覗くと、まるで怯えたように震えた瞳が見えた。
何を恐れているのだろう、誰を恐れているのだろう。私を失うこと、失敗する事?それとも…
「なぁ、もし。もしもの話だけれど、前世なんてものがあってそれに自分が引き摺られるなんてことがあったら、どう思う?」
どう思う…か。でも引き摺られるなんて、所詮はその程度で自分そのものが消えるわけじゃない、私はそれを知ってるし体験もした。もしかして…貴方もそうなの?
「ねぇ、話してみて。貴方の中にいるもう一人のことを、どういう人なのかとか。私なら力になれると思うの、私は貴方の彼女なんだから少しくらい力になるよ?」
父様、この人の背後に誰がいるかなんて解らないけれど、今目の前でこの人は苦しんでいる。根はいい人だし、正義漢なのは明らかだもの、利用されているだけなんだよ。
「あぁ…あぁ…、ゴメンな。本当は俺が君を護らなくちゃならないのに…失いたくないんだ。
だから、話すことは出来ないゴメンな…それと言っておくがメンバー奴らも決して悪人じゃないからな。
普段はとっても良い奴らなんだよ……ここまで来るのにあいつらには何度俺は助けられたか……あの楽曲だってあいつらの協力があってこそつくれたんだからな。
悪いが詳しく話すのはもう少し待って欲しいのさ……俺達ユピテルは訳ありの奴らの集まりだから、その訳をメンバー外の人間に話すには俺だけじゃなく他のみんなにも君が信頼に足る女性だってことをまず証明する必要がある。
すまないが、今の段階で俺の口から言えるのはここまでだ」
彼は泣いている、自分の事が解らなくて。メンバーとの間にある友情と私との愛を天秤に掛けることになってしまって。私を勇気付ける為に私に楽曲を来れた彼が、こんなにも悩み苦しんでいる。
あの楽曲が無ければ、私はトラウマの克服の一環とはいえライブ会場でアイドルとしてステージに立つというルビーの提案を受け入れる勇気を持てなかっただろう。
それに彼の言う通り、ケンゴ君以外のユピテルメンバーについてはまだよく知らない。私にだって転生やNT能力を始め、迂闊に話せない秘密が多い。
私もケンゴ君の立場に立って、他のユピテルメンバーを私の家族とハマーンさんに置き換えて考えてみると……確かに個人の独断では話せないな。故にケンゴ君を責める気にはとてもなれない。近い内にケンゴ君を通して他のユピテルの皆さんとも話し合う機会を作った方がいいな。
だから今の私には、彼に少しでもそれを忘れられる様に身体を貸すくらいしか出来ない、別に自画自賛するわけではないがこれほどの才能と新人類と評されるNTの能力に恵まれていながら、肝心な時に私はなんて無力なのだろうか。
思い返してみればこの間までは私が彼に甘えるばかりだったからな……ならばこういう時はせめて彼を私に甘えさせたい…今はそれぐらいしかできないから……
……
「お姉ちゃん、ちょっとこっち来て。」
彼との時間からか幾らか経ったころ、ルビーが私に手招きをしてB小町のスタジオへと連れ込まれた。
そこにはかなちゃんとMEMちょがいて、何やら契約書のようなものが机に置いてあった。
「あーちゃんちょっと協力してほしいことがあるのだけれど、良いかしら?」
この日の私は彼とのことがあって、少し人には優しくしようと心掛けていた。そのせいもあったのか、切り出された言葉に首を縦に振ることになる。
「えっとね、お姉ちゃん一応B小町のメンバーの1人になってるんだけど…お姉ちゃんの部屋を配信してもいいかなぁ…なんて思ってるんだけど。」
「別に良いよ、恥ずかしいものでもないしいちいち許可取らなくたって、勝手にやれば良いじゃん。」
かなちゃんどうしたの、そんな意外そうな顔をして。そして、ルビーとMEMちょ、ホッとした空気を流してどうしたの?まさかと思うけど、無断でもう撮ってるとか無いよね
「私の部屋に無断で入ったわね?ルビー。それじゃ泥棒とやってること変わんないよ?皆…後で覚悟しておいてね?」
私は怒気を放ちながら、皆に笑顔で答えた。