虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第七十六話

〜sideルビー〜

 

「へ〜い、タクシーぷり〜ず!」

 

宮崎空港に来るとママは真っ先にタクシーを呼んだ、そう私達がレンタカーを使うのとは違ってママだけがタクシーなんだ。

 

「それじゃあ皆、良い旅行を楽しんできてねぇ〜。私はこのまま病院に行って検査してから、そのまま入院する事になるから、皆と一緒には周れないの。だから、しっかり楽しんできてね。」

 

「ママ(母様)〜身体に気を付けてね〜。」

 

「おう!まっかせなさ〜い!」

 

と言って、一足先に高千穂の病院の方へゴローセンセのところへと向かっていった。

 

私達もその後、ミヤコさんの運転で追い掛けるように同じ街へとやってきた。

 

「アネモネ!」

 

「MEMちょおひさー!」

 

アネモネさん私達のMVを撮影してくれるカメラマン、MEMちょとは仕事柄一緒にしていたりと、それなりに深い間柄らしい。

この街と、自然豊かな環境が好きでここに会社を構えたという、利便性とか考える今の都会とは真逆の思考。なんか気が合いそう。

 

「久しぶりって言っても去年も来たんですけどね。」

 

「えっ?お二人共、ここに来たことあるの。ってことは結構詳しかったりするのかな?」

 

「はい、家族で良くここに来るんです。年に1度はここに来て、私達の生まれ故郷何だから、心に刻んだほうが良いって父様が。」

 

「父様……仰々しい言い方だけど人それぞれだよね。

じゃあさ、ここの近くに奉られている神様の名前知ってるでしょ?」

 

そんな事、聞かれなくても解ってるわ。アメノウズメ、芸能の神様だって来るたびにママとパパは参拝してる。パパはどちらかといえば無神論者だけど、〘神は人みたいなもの〙っていう思想だからある意味では神様を信じてるのかな?

 

「じゃあ早速参拝でもしたいものね!だって芸能の神様なんて私達にはピッタリだもの!」

 

「と行きたいけど、残念ながら今日は2本MVの撮影があるので、結構スケジュールキツキツだから行きましょう。」

 

ガーンという音が聞こえてきそうな表情をする先輩、お姉ちゃんとあかねちゃんはそれをどこ吹く風、って顔で見てるけど。

 

「お姉ちゃん。そんな目で見てるけどお姉ちゃんも撮るんだからこっちだよ?」

 

「えぇ…じゃあ本当に撮るの?絶対条件?…解ったよ、あかねちゃんはどうする?私達に付いてくる?それとも…」

 

「う〜んそうだね、じゃあ私はアイさんのところに行ってくるよ。その方が解りやすいでしょ、それに観光するなら皆と行きたいし。」

 

そう言って、あかねさんは単独行動することになった。なんだか悪い事しちゃったかな、私達の仕事にお姉ちゃん巻き込んじゃったから、なんか気まずいよ。

 

「それじゃあ、アクアちゃん?からMV撮ろうか、確かアクアちゃんは本数他の3人よりも少なくして欲しいって、そちらからオーダーあったから。その方が、あの娘も寂しくないでしょ?」

 

そんな気遣いから撮影は始まった。

 

 

……

 

「かなちゃん…こういうセットとか懐かしいね。」

 

「そうねぇ、昔アンタと一緒にデュオで歌を売り出そうなんて、前の事務所で話があったからね。結局はその前に、契約打ち切りで、MVの撮影もそれっきりで終わったしそれ以来ね。」

 

アレ?お姉ちゃんそんな事やってたんだ、いつもドラマドラマとか言ってて、こんな事やったなんて話し始めて聞いたよ。

 

「へぇ、なるほどね。だからそうやって、おっ良いね!ポジショニングとか初めてにしては上手いなと思ったわ。」

 

お姉ちゃんの撮影見てると、なんかグラビアモデル撮影風景みたい。アイドルっていうよりも、みなみちゃんの方に寄ってるし。

 

「あーちゃんのはそれで良いのよ。大人びた容姿にあどけなさの残る笑顔、齢相応の女の子の仕草、完璧なギャップ萌ね。私とは正反対。

私はどちらかといえば、歳不相応な容姿にあどけない笑顔、歳不相応な大人びた仕草。時折見せる子供らしさとかね。」

 

ふぇ〜、一人一人のそれに合わせるんだ、結構大変なんだな〜。

それでも、お姉ちゃん楽しそうにしてる。やっぱりアイドルになりたかったんじゃ…克服できたからそっちの方へ舵をきったのかな?身内が最大のライバルになりそう。

 

「身内が最大のライバルとか考えてんじゃないの?大丈夫よ、キャラ被りなんて無いから、アンタはアンタの姿をやれば良いのよ。」

 

そういうものなのかな?ただ、心配してるのはキャラ被りよりもお姉ちゃんがもし正式に参入すれば間違いなく先輩はお姉ちゃんにセンターの座を取って代わられるのは時間の問題になるよ。

 

だって、トラウマを克服した今のお姉ちゃんはもう全盛期のママにも引けを取らないもん。実力主義に忠実かついずれ本業を役者に戻すつもりでいる先輩は気にしないだろうけど、私は気にするよ……だって私はセンセが推すに相応しいアイドルになりたいんだもの。

 

 

〜sideあかね〜

 

やっぱりあるところにはあるもんなんだな〜、こういう乗り物って都会とかだと一般に普及してるけど、田舎には無いイメージだったから意外というか。下調べはしてたけど、もっと古い型とかだと思って。

 

「最新モデルはジャイロ効果で転倒防止機能付き、バッテリー寿命も2倍!が売りだったって言うけど、なるほど確かにそうだね。」

 

原付き免許持ってて良かったよ、これならスイスイ何処でも移動できるね。

っとそろそろ病院に到着っと、それなりに大きい病院だね。設備はそんなに新しそうじゃないけど、キックボードの充電器も一応完備してるんだ。はぇ〜意外。

 

病院玄関を抜けて中の受付の看護師さんに、アイさんの事を聞くともう入院の仕度を始めてるらしい。

それにしても、都会と違って人があまりいない。人口が少ないってこともあると思うけど、それにしても少ないなぁ。

少子高齢化、私達が産まれた時には既に始まっていた現象。最近だと出生率が3を上回ったらしいから、もう少しすればなんとかなるって話だけど。

あ、ここだね。

 

コンコンコン

 

「は〜い、どうぞ〜入って良いですよ〜。」

 

「お邪魔します。へぇ、こういう感じで入院するんですか、アイさん手慣れてますね。」

 

私が部屋に入ると、既に色々と準備していたアイさんが出迎えてくれた。アイさんの寝具の上にはテーブルとノートパソコンが置いてあって、更に横には眼鏡まである。

 

「そりゃあ16年ぶりとはいえ2回目だからね、アイドルの柵さえなかったら今お腹にいる子を含めて3人ぐらいはアクアとルビーに弟妹を作ってあげたかったんだけど。

 

改めて昔のことを思い出してみると、アクアとルビーをお腹に宿しちゃった始めての時は大変だったなぁ〜色々と揃えるものがあってさ、知ってる?マタニティワンピースタイプの病院服って結構危ないんだよ。

 

それよりも丈の短いマタニティウェアのほうが、動きやすくてさ何かと運動するときとか、市販のゆったりとしたやつとか過ごしやすいんだよ。」

 

「いや、妊娠したこと無いので解らないですよ。それよりもそのパソコン何に使うんですか?」

 

「うん?これ?フフフ、これはね小説の執筆に使ってる奴です。耐久性、防水性、きっちりした奴で尚且つアムロのお墨付き。」

 

小説の…というか本当に自分で執筆してたんだ、巷で噂の代筆がいるとか言う話は嘘なんだね。というか、そんな小説書けるくらいに教養あるんだったら、どうして大学に……あっそう言えば中卒…。

 

「御名答!私は中卒だし、数学とか英語とか苦手だから高校卒業レベルは無理です、だけど国語だけは子供達が産まれてから必死に勉強したよ。おかげで文章だけは丁寧に書けるんだから。」

 

そう言って私に見せてくれたのは、書きかけの原稿。主人公がシャア・アズナブルという人物が行おうとしている〘5thルナ〙という隕石の地球落下作戦を止めようとする、そんな内容だ。

なんだろう、凄く間が空いている気がする。

 

単行本持ってるけど、今の主人公は連邦軍に軟禁喰らって鬱屈した毎日を過ごしている。そこへ、確かデラーズ・フリートっていう敵国家の残党のせいでまたコロニーが落ちてきて災害派遣されるとか、監視の目を誤魔化して手紙を出したりとかそういう内容ばかりで、ロボット小説とは思えない程ロボットが出て来ない。

 

現在、ミドジャン本誌の小説コーナーでされてる連載では二度目のコロニー落としが原因で連邦軍内でティターンズっていうギリシャ神話のティターン神族の名前を由来とした敵国家の残党を討伐する目的の軍事組織が創設された所だけど……

 

「実際はさ、もう結構書いてるんだ。出版社が一ヶ月づつチビチビ出すもんで今書いてるのが世の中に出るの、後5年とか掛かりそう。」

 

少しだけ読ませてもらったけど…これでハッピーエンドになるなんて思えない内容なんだけど。

 

「そうだね〜、確かにそう思うよね?実際、主人公視点からだとハッピーエンドじゃないと思うしね。」

 

「え?ハッピーエンドじゃないんですか?」

 

「うん。完全なネタバレになっちゃうんだけど、この後主人公は他の場所での戦いの最中、命を落とすんだ。自分の護りたかったものを護り抜いて、命を落とす。彼から見ればハッピーエンドだと思うけど、周囲の知り合いから見ればきっとバッドエンドなんだろうね。」

 

どうしてそんな内容にする必要があるんだろ?護り抜いて、それで帰るべき場所に戻れる方が絶対に良いはずなのに。

 

「奇跡ってね?何かを代償にするしか、起こらないものなんだよ?都合の良いことは2つは起きない、主人公が死ぬか隕石が落ちるかどっちかしか選べないの。」

 

「そんな悲しい事言わないでください。」

 

「あかねちゃんもまだまだ子供だね、奇跡を奇跡じゃなくす。そういう努力を怠らなければ良いだけって、そういう結論が有るんだけどね?

この作品は、アムロが想定した未来の出来事…それを文字に起こして、皆が見れるようにする。それが、私の役割だからね。」

 

この人は何を言ってるんだろう、いきなり安室さんの事なんて今は関係ないでしょ。

 

「さてと、そろそろ先生が来ると思うけどまだいる?普通のMV撮影なら、そろそろ撮影が良いところまで行ってると思うけど。」

 

そう言われてふと時計を見ると、既に来てから2時間経っていた。小説を読み過ぎたんだ。

 

「じゃああかねちゃん、またね〜。たぶん、ルビーがここに来たいって言うと思うからその時また、お話しようね〜」

 

扉を開けるのと問診の先生が来るのが偶然重なった。

 

「あっ!すいません。」

 

「いえいえこちらこそ、もうお帰りですか?」

 

「はい、また後日来ますので。」

 

首からぶら下がる名札には〘雨宮吾郎〙と書かれていた。

 

 

〜sideアクア〜

 

「やっと終った…でもあかねちゃんまだ帰ってきてないんだ。何処まで行ったんだろう?」

 

「はぁ、おまたせ。ごめん、アイさんとの話が長くなっちゃって。」

 

良いタイミングであかねちゃんが現れた。

 

「やっとMVの撮影終わったところだよ、ちょうどいいタイミング、今日はもう遅いからアレだけどどうする?これから何処かいく?」

 

「う〜ん、今日はもう良いかな。ちょっと色々と考えたいことあるし。」

 

母様と何か話した?いや、小説の事を聞いたのかな?実は父様と母様にもまだ言っていないが、東ブレが終わって手持ち無沙汰になって以来、密かに書き始めた小説がある。

 

現在母様が書いている父様の自伝〘哀の戦士〙のスピンオフ……私の前世であるハマーンと彼女の初恋相手にして父様のライバルであった大君元総理ことシャアさんの視点で描いた宇宙世紀の物語だ。

 

きっかけとしては頭の中が桃色の欲求が高まるのを少しでも抑える術はないかと探していた最中、母様の娘としての特権で先んじて読ませてもらった私の前世であるハマーン・カーンが宇宙世紀の歴史の表舞台に始めてその姿を現わすグリプス戦役の章を読んだことだ。

 

父様はハマーンとは直接の関りが無いから、母様の執筆する父様視点の物語では彼女の描写がほぼ皆無であり、その彼女を前世に持つ私としては蚊帳の外に置かれてるような感じがしてならなかったのと、父様の自伝を読むにつれて、ハマーンを始め父様と同じ世界で生きた人たちのことをもっとよく知りたいとも思えたからだ。

 

それに二人の物語を綴ることで、彼らから見た父様の知られざる一面を知れるかもしれないのと同時にハマーンとシャアさんとの間にある確執を少しでも解消できる切っ掛けができればと思い……シャアさんの娘であるキミちゃんを通してシャアさんに取材協力をお願いしてみた。

 

正直言って辛いことを思い出させちゃうかもしれないという後ろめたさはあったが、意外にも快く応じてくれた。そして彼から直接聞かせてもらったお話に加え、口だけでは語りきれない所をシャアさん自らが資料化して纏めてくれたものをUSBに入れて送ってくれた。

 

ここまでしてもらったからには、私もその期待に応えたいと思いシャアさん視点の物語を〘哀の戦士 赤い彗星の軌跡〙とし、ハマーン視点の物語を〘哀の戦士 鋼の織女星の素顔〙という上下巻構成でプロットを定めた私はその小説の執筆を始めた。

 

この物語を公表するかどうかは父様と母様との相談で決めることになるが、それもまず母様が父様の物語の原稿を全て書き終えてからにするつもりだ。でも、その前にルビーやかなちゃんには先んじて見せても良いかなと思ってる。

二人の口の堅さは信用できるし、父様と母様の秘密を共有するものとしても感想を聞きたいしね。

 

「ルビー!かなちゃん!ホテルに行くよ!」

 

本当はもっと色々なところ連れて行きたいんだけどね。残念ながら、今回は時間が足りないから……本当にごめんね。

 

……

 

 

「お姉ちゃん、私。」

 

「今から先生の家に行こうとしてるの?流石に駄目だよ、こんな時間に行ったら迷惑でしょ?」

 

ブーブーと、頬を膨らませて抗議してくるルビーを尻目に私達はホテルへと向かっていたら、反対側から人影が近付いてきた。

 

「あれ?愛久愛海ちゃん?それに瑠美衣ちゃん、こんなところで何してるの?それに…病室ですれ違った君も…。あぁ、なるほどMVの撮影があるって言ってたけど、それでこんな時間までいたのかい?」

 

「あー!センセっ!久しぶりー、元気にしてた?風邪引いてない?恋人とか作ってないよね!」

 

「ルビー!辞めな、あんまりベタベタしてると先生が捕まっちゃうよ?」

 

そういう私に助けの目を向けていた先生が、『ありがとう、助かったよ』と感謝の目を私に送ってくれた。この人はルビーにとっては最愛の人で、私にとっては年の離れた兄に等しい人だ。

 

「えぇ〜!お姉ちゃんの癖に生意気だぞ!センセっ聞いてよ、お姉ちゃんね初体験を」ルビー!それ以上言ったらどうするか解る?」う〜ん解ったよ…」

 

「吾郎先生、すいません。妹が毎回毎回。」

 

「良いよ良いよ、こういうの慣れてるし。なにより、君達が大きくなったのは僕としても嬉しいよ。そういえば、瑠美衣ちゃんから聞いたけど、愛久愛海ちゃんもアイドルやるんだってね。頑張ってよ?どっちを推すか迷えるようにね。」

 

女誑しってこう言う人の事を言うんだろうね、私がケンゴ君を好きじゃなかったらたぶん、今の言葉で勘違いしてたかも知れないね。そうなったら私とルビーは火花を散らすことになってたかもしれない。

 

「今からホテルに向かってるんですけど、この子が先生の所に泊まりたいって言ってたんだよ。大丈夫ですか?」

 

「ちょっと今日は無理かな、色々と片付けなきゃならないし。そうだ、この日付は非番なんだよ。それでね、一緒に観光して少し付き合って貰いたいんだけどスケジュール大丈夫かい?」

 

あぁ、そうか。ルビー……貴女のお墓参りしてなかったね。だから、宮崎に来るの楽しみにしてたんだね。自分がちゃんと生きて、先生の横にいられて、何より喋っていられる事を。

あなたにとって〘生を実感する何よりの方法〙だから。

 

 

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