〜sideアクア〜
八洲さんが私達の観光に付いてくる。ケンゴ君の秘密と、この人が私達に付いてくるということは、果たして何かしらの共通点があるのだろうか?
父様が警戒するに越したことはないと、そう考えていた理由がなんとなくだが解ったような気がする。この人の感覚は私達のものとは何処となく違う。
そう、偏に言えば父様やシャアさん、ハマーンさんと同じ様な匂いがする。
ルビーも解っていると思うけれど、ルビーは彼に〘同族意識〙を持ち始めている事に憂慮しなくちゃならない。
現在と過去の自分を認識している彼女は、それ程強い警戒をしていないのがその証だろう。
(ほぉ、貴様もそこまで解るか。ならば手を貸そうか?)
それが目的の可能性だってある、だからせめて彼の気を私の方に向けて置かなければならないかも知れない。ルビーの方に毒牙が向かないとも限らないから。とはいえ、彼とはどこかで話し合って人柄を詳しく知りたいとは思っているが、みんながいる今は少々間が悪い……仕方ない、今回はみんなを通して間接的に彼がどんな人間なのかを測ってみるか。
私が警戒している中、彼は淡々と周辺の草花。果ては樹木になんかも説明を始めていた。
どうしてか解らないけれど、あかねちゃんは草花の事を頻りに聞いており、どういう日の当たり具合だとか風通しだとか、家で育てる場合だとかを聞いていた。花屋さんでも聞けると思うんだけれど、こういう野草が好きなのか?
「あの〜、私達観光に来たんですけど。社会見学してるみたいになっちゃってるんで、この辺りで一区切りしていただいても良いですか?」
それを区切ったのはまさかの、かなちゃんだった。なんだか目をトロ~ンとさせており物凄く眠そうだ。実際、専門的な話しすぎて何をどういうことなのか、全くと言っていい程ついていけてない人が大半だろう。唯一ついていけてるのは私の他には吾郎先生とあかねちゃんだけだ。
「あぁ、すいません。どうも植物のことになるとつい、職業病ってやつですかね?」
そう言って話を打ち切り、私達の行く方向と同じ方へと歩みだした。そして、私とすれ違い
「本当に仕事なだけだよ」
と言った。
「神社だとか神聖な場所っていうのは、昔から良く草花があってね。僕みたいな植物学をやっている者としては、結構重宝するんです。罰当たりですけど。」
罰当たりにも大概だろうが、そういう事をしているといつか天罰が…降ってきたりするんだろうか?
(アンタまた変なの入れたでしょ!)
(う〜ん、入れたような入れてないような?)
誰かがそんな事を言っているように感じたが、たぶん気の所為だろう。
暫くの間一緒に行動していたのだが、どうも悪い人ではないようだ。それどころか、かなりの世話焼きと思う。
先入観抜きで見ることが出来る、皆が羨ましく思う程には優しすぎるのだ。
目的地が同じであることから、ずっと私達と行動を共にする。時折思い出したかのように、道端の野草や雑草を採取してパックに保存しながら。
あかねちゃんが落とし物をした時には、直ぐに拾って渡していたりもした。
警戒のし過ぎなのかもしれない、一人の人間に何が出来るのだろうか?父様みたいなお化けじゃあるまいし。
「さて、そろそろ良いかな植生とか色々と調べられたから。明日から本格的に始めるんだけど、君達もどうかな?」
「いえ、大丈夫です。明日からは別の場所を巡ってそのまま帰る予定なので!」
珍しくもルビーが彼を突き放す、どうしたのだろうか?彼から嫌な感触でも感じたのだろうか?
ルビーはずっと吾郎先生と付かず離れずで、歩いていたけれどもしかしたら邪魔に感じたのかな?
「まあ、僕自身も仕事をさぼったと言われるのは嫌だから、そうしておくよ。それじゃあ、ごきげんよう。」
歩いて去っていく彼の背中が小さくなった頃、かなちゃんが喋り出した。
「やっといなくなったわね、あーちゃん。これで清々したって顔してるわよ?あの人の事苦手でしょ。」
「マリリン、流石に態度に出すのは駄目だよ。」
「お姉ちゃんが大変そうだったから、ああ言ったけど顔に出すのはよそう?」
「アイと違って人に対する演技のon offが下手ね。」
「マリンちゃん…露骨過ぎたよ?流石にあれじゃあ誰にでも解るよ。」
「愛久愛海ちゃん、ちょっとアレは無いんじゃないかな?」
全方位からのバッシングが飛び交った、私はそんなにも不機嫌な顔をしていたのか?ポーカーフェイスは得意だったはずなのに、そんなにも彼に嫌悪感を抱いていたのか?JIFでケンゴ君から始めて紹介された前回の時と同様に今回も結局悪い感じはしなかったというのに……
なんで?私は彼に誰を見ていたんだろう?…そういえば、ハマーンさんさっきから妙な感情を漂わせてるけどあの人がどうかした?
(……あの少年、どこか昔のシャアと似て非なるものを感じた気がしてな。そうだな……奴がクワトロ・バジーナと名乗っていた頃のあいつに近いか。しかし、当時のあいつのような心に影を抱えてはいても煮え切らないような不甲斐なさは見られない所が違う……何者だ?あの少年は)
〜sideあかね〜
コレ…どうしよう。
私のポケットの中には一枚の紙切れが入っている。そこにはこう書かれてあった。
《お暇な時ございましたらこちらへご連絡ください。
貴女の知りたがっている人物の秘密お教えします。》
ご丁寧なことに、末尾には電話番号まで書いてある。
この紙に気が付いたのは、皆との観光が終った後。ホテルの自室で徐ろに地面に落としてしまったハンカチを畳んでいる時だった。
ハンカチの間に、違和感があったのだけれどその正体がこれだったのだ。
1度落としてしまったのだから、トイレ等ではかなちゃんやマリンちゃん達のそれを借りるしかなかったので、気が付くのが遅れたのだ。
スリという犯罪の手口にはこういうものもあるという、本で呼んだ知識だけれど、それが役に立つとは思いもしなかった。
十中八九、八洲さんが入れたのだろうことは想像に難しくなく。逆に言えばそれしか心当たりがない、そしてその事実に鳥肌が立った。
立派な会社に努めて、一部門の部長を任されている17歳の青年がこんな技術を磨く必要がないことなど、考えなくても解るだろう。
私は踏み込んでは行けないものに、踏み入れてしまった可能性がある。
マリンちゃんが彼に対して警戒していたのをなんとなく、解っていたから猛烈に質問を浴びせ掛けて、私へと気を引いて正体を暴いてやろうと少しでも思った私に、今は叱りつけたい。
もしかしたら、私は数日後東京湾に沈んでいる可能性があるのではないか?
そう思わずにいられない。
旅行から帰ったあとも、誰にもこの事に付いて相談出来ないでいる私。
私が知りたいこと、その事についてルビーちゃんやマリンちゃんは元より、かなちゃんにも話すことなど出来るものじゃない。
アイさんの言った言葉、《アムロが想定した未来の出来事》それがずっと私の頭の中でグルグルしているのだ。
未来の出来事なんて想定出来るのか、想定したところで覆ってくるのが現実ではないのか?
アイさんがそれを執筆する意味とは?
なんで本人がそれを執筆して、世に出さないのか?
考えてもキリがないことばかり、所詮は他人の事なのにどうしてこんなにも気になるのか?
プロファイリングをした時、安室嶺という人物を上手くトレースすることが出来ない理由は、そこにあるのではないか?
それこそが真実なんじゃないのか?あり得ない、未来人なんて考えが頭によぎる。
時間は一方通行にしか進めない、それは万物の理でそれを捻じ曲げることなんて、人間には不可能だって思ってるのにその考えが離れない。
マリンちゃんが時折言っていた、〘ニュータイプ〙その言葉の意味は?〘新しい型〙〘新しい物〙いや、〘新しい
そう思考した時、私はスケジュール表を見て電話を手に取った。
〜sideかな〜
「えっと、あの…嶺さんとアイさんの娘になりました、かなと言います。不束者ですがどうぞ、よろしくお願いします。」
「かなちゃんね…有馬かな。あぁ、昔TVとかでよく見たあの、天才子役のね…、随分とまぁ大きくなったこと。この娘達よりも一つ上だったのね?血の繋がらない孫が出来たと…。」
私は今は、非常に気まずい状況にある。旅行から帰った次の日に、我が家に一人の女性が現れた。
その女性は何処か、アイさんのような艷やかな髪をしながらも、アイさん以上に気が強そうな人だった。
アイさんは30代に入ったにも関わらず、未だに20歳前後にしか見えない若々しい容姿だけど、この人も30代後半にしか見えないくらい若々しい……聞いたところによるとこの人も確か18歳の時にアイさんを産んでいるらしいから、今年に入ってちょうど50歳を迎えた所か……MEMさんを始め加齢に悩む世の女性が見知ったら嫉妬しそうな遺伝の資質ね。
何処となく、あーちゃんやルビーの顔にも似ていて一目で血縁者だと解った。
今迄一度も出会ったことのない、二人のお祖母ちゃん。
私は猫をかぶるべきか?それとも真実を白日のもとに晒し、己の姿を洗いざらい見せてやるべきか?
いや、ここは正直にいこう。取り繕ったっていつかはバレるのだ、それに家族となる人に嘘や誤魔化しをするような真似は私もしたくない。ならばここで言っても良いだろう。
「はい、私は二人の養子にしていただきました。今迄様々な事を共に乗り越え、私にとっても掛け替えのない家族です。
ですから、私も貴女のことを本当の祖母だと思って接します。これからよろしくお願いします!」
「ふ〜ん、そっか。悪い子じゃなさそうだし、この娘達も貴女のことを信頼しているみたいだし、大丈夫そうね。気軽にお祖母ちゃんとでも呼んで頂戴?」
何処か不気味な人だ、アイさんのような何かを持っているような感じではないけど、アイさんの母親だから似ている。
声も容姿も似ているけれど、全体的に疲れているようなくたびれた印象だ。
「ようやく娘と一緒に暮らせると思ったのも束の間、娘は妊娠してまた遠い場所で入院。
嶺さんは仕事で家を開けることが多いどころか、海外に行くなんて。
この娘達が可愛そう…。瑠美衣、愛久愛海、それに…かな!
貴女達が悲しくならないように、お祖母ちゃんの全力を持ってお世話していくからね?」
何故か私にも優しい、お祖母ちゃんというものはこういうものなのか?幼少期から仕事仕事で甘えたことのない私は、そんな疑問を持った。
「まずは何の料理を教えようかしら?やっぱりここは、アイの好物にしようかしら?
あの娘が小さい頃、大好きだったそれ。私が優しかった頃に作ったそれを教えようかしら?」
でも待って欲しい、アイさんは昔母親から虐待を受けて育ったと聞いた事があるけれど、そんな親相手に心を許してしまっても良いのだろうか?
この様子だと、本当にアイさんは私達の事を任せたようだけれど、それでも虐待をしていた張本人に心を許せるものなのだろうか?私だって、パパとママのことを憎みこそはしていないが、そう簡単に許せるかと言われると言葉が出せないし……
「かなちゃん?ちょっと手伝ってね、ふふ。上手ね、そうフライパンはそうやって使うと良いのよ。」
過去何があったのか知りたいことはあるのだが、あまり詮索しないほうが身のためだろう。
こういうものは、発掘しないほうが良い筈。藪蛇だけは勘弁だ。
だから少しずつ、心を開いていこう。