虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第七十九話

〜sideあかね〜

 

クリスマスまであと数日といったところで、私は知りもしない男に会いに行く。それはスキャンダルと言っても良いことなのかもしれない、それでも私は人気女優と言うにはまだまだ名前も売れていないし、パパラッチが目をつけるのには話題が弱すぎる。 

 

指定した日にちに、指定されたお店へと変装して入る私を周囲の人達は別に何の感慨もなく、私を注目することもなくスルスルとお店へと入っていく私。小さな店舗だが、それなりに名を馳せたフランス料理店。

私の名前を言ったら席へと誘導される、手慣れた人なのだろうこういう事を当たり前のようにするのだ、非常に社交的だ。

 

「やあ、お久しぶりですね。」

 

個室だ…案内された席へと行くと、歓迎するかのように、

彼・八洲 望

ケンゴ君とバンドを組んでいて、八洲産業にてバイオ事業部の部長をしている人。検索すれば出てくる、それなりに有名な人物だ。

 

「緊張しているみたいだけど、大丈夫ですよ?ここは別に変なお店ではありませんし、普通にしていただいても。」

 

私が周囲に警戒していることなんて、全てお見通しとでも言うつもりだろうが、それでも警戒せざる負えない。

この人は、あのマリンちゃんが警戒していた人なのだ、ポーカーフェイスを崩してでも嫌悪感を抱く姿は未だに脳裏に焼き付いている。

 

「ハハ…、まずは軽く食事でもしましょう。」

 

フレンチコース料理なんて、こんな本格的な物が出てくる店は正直言って始めてだ。

いったいこの料理だけでどれ程のお金がかかるのだろう?事務所の給料ではきっと、あまり食事には赴け無いような値段だろうか?

 

「さて、食事をしながらで申し訳ないけれど少しだけお話をしようか?」

 

「こんなお店が予約できるんですか…相当お金を持っているんですね?」

 

「僕個人がそんなに持っているわけじゃないよ、結構無理して予約したからね。さてと、そんな世間話をしに僕に連絡をくれたわけじゃ無いだろう?質問は1度だけ受け取るよ、それ以上は対価を受け取ろうかな?」

 

前菜を食べ終えた頃だろうか、私に聞きたいことの内容を解いてきた。

未だに信用ならない、貼り付いた笑顔…役者だから解るけれどこの手の人の顔は皆作ったものだ。本心を顔で隠している。

 

「どうしてマリンちゃん…愛久愛海ちゃんに接近したのか?

〘ニュータイプ〙という言葉とその意味。安室嶺という人物と安室嶺と貴方の関係は?」

 

「1つの話題じゃなくて一息にね…結構ストレートに聞くね、じゃあ一つずつ答えていこうかな。

まず、愛久愛海ちゃんにあの時なんで接近したのかだけれど、アレは単に仕事の関係で偶々あっただけに過ぎないよ、そして君達と同じ方向に歩いていったのも、本当に偶然にすぎない。だから、あのときのアレは別に他意はない。」

 

「信じろと?」

 

彼の言葉を無条件に信じるということは出来ない、警戒することに越したことはない。

 

「信じるも信じないも、それ以外に理由がないからね。それに…僕の担当は彼女じゃなくて瑠美衣ちゃんの方だから、もっとも時既に遅しって感じだったけれど、潔く諦めておくよ。」

 

信じたくはない、だけれど過ぎた事は良い。でも、今度はルビーちゃんの方が

 

「どうしてルビーちゃんなの?」

 

「ルールは守らなくちゃ、質問は1度だけだよ?

さて、2つ目ニュータイプという言葉の意味を話すけれど…実のところ僕自身も良くは解っていないんだ。

ただ、昔の人がこう言っていたらしいという事を言うのだとしたら、

〘誤解なく解かり会える者たち〙

〘戦争を必要としない人類〙

とかが一番良いかもね。他者を互いを完全に理解出来たら、それは争いのない世界への一歩だと。そう思わないかい?」

 

「まるで答えになっていないんですが?そんな曖昧な事に対して、さも知っているような口ぶりで私を誘うなんて、頭がおかしいんじゃないですか?」

 

「そう言われちゃったらしょうがないけれど、君の感じている怒りは尤もだよ。だけどね、単純な定義は出来ないけれど君の周りの知り合いには、該当者がいるんじゃないのかい?

そんな彼女は今の世の中では、非常に暮らしにくそうにしていただろう?つまりは、思考を読み取っていたんだよ、正に該当者じゃないかい?」

 

マリンちゃん…情緒不安定で他者、特に不特定多数の人間に対する恐怖心を持っている。私との会話の際、私の思考することを誤解なく読み取って協力してくれた。そして、危険人物に対しての警戒心が非常に強い。

 

「さて、次にいこうか?君が思考している間にもメインディッシュが冷めてしまうからね。」

 

彼はそう言うとカチャカチャとナイフとフォークを動かし、牛肉を口へと頬張る。

柔らかく、口溶けの良いそのお肉は質もさることながら、味付けも一流で口当たりが良かった。

 

「さ、安室嶺という人物のいや…アムロ・レイという人物の話をしようか?」

 

なんでイントネーションを変える必要があるのか、同一人物…待てよ?前にマリンちゃんの家で見た、〘哀の戦士〙その主人公の名前。モデルにしたとかそう言う…

 

「アムロ・レイは、現実に存在した。いや…存在することになる人物だ。」

 

存在することになる?訳の分からない、どうして未来系なのか?

 

「冗談も大概にしてください!そこまで言うなら私は帰り」プロファイリングしても、彼の素性が解らないんだろ?そりゃそうだよ、彼の前半生は彼の姿(・・・)じゃないんだから。

 

良いかい?ここからする話は〘哀の戦士〙という本にも載っていない()の父さんと母さん、そして戦友の人達から聞いた彼、アムロ・レイという人物の話だ。

もしもそれを聞いて信じるかは別として、君がそれからプロファイリングをするのなら、俺は止めない。寧ろそれによって答えを導き出してほしいんだ。」

 

彼は何を企んでいるのか、私を利用しようとしているのか?それでも、小説や映画の登場人物の話を聞く気は…

 

「アムロ・レイは宇宙世紀0093・3月12日、地球へと落下する小惑星アクシズを押し返すという通称『アクシズショック』と呼ばれる奇跡を起こし、当時のネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルと共にそのまま行方不明となった。その後地球を滅亡の危機より救った大英雄あるいは救星主と称され、以後小学校の社会の教科書にも載せられる程の偉人扱いとなり、軍歴においても目出度く二階級特進してアムロ・レイ中佐となった。」

 

[この後主人公は他の場所での戦いの最中、命を落とすんだ]

 

アイさんが言っていた言葉を思い出す、アイさんが言っていた言葉よりも遥かに解像度が高く、それはもはや小説の後の話で妄想でしか無いのかも知れないけれど、命を落とす事に変わりはない。

 

私はゆっくりと視線を彼の方へと向ける、不敵な笑みを浮かべて私を見る彼の目には、同情と哀れみと決意が見て取れた。

 

「彼は俺の幼い頃からの憧れの一人で、父さんと母さんの一年戦争時代からの戦友。僕と母さんと妹を父さん達に対する人質にしたティターンズの魔の手から僕等を命がけで逃がしてくれたことさえあったし、何より彼は彼こそが僕の道を標してくれた人の、1人である。

彼の残した1つの命に、光を残して行きたい。そんな人生だった。」

 

彼は語りだす。

アムロ・レイという人物が如何に素晴らしく如何に愚かで、どの様に生きて、死んでいったのかを。

 

 

 

〜sideかな〜

 

「ただいま〜、ゔ〜ざっぶい。お祖母ちゃん、お風呂って沸いてる!」

 

「お帰り、ルビーにかなちゃん。お風呂沸いてるわ、御飯の方ももう準備出来てるから、二人共早く入ってきてね。アクアちゃんはどうしたの?」

 

「お姉ちゃんはフリルちゃんと今度一緒に出るドラマのスケジュール調整で少し帰るの遅くなるって、売れ始めが肝心だからここで頑張らないとだってさ。ご飯は帰ってきてから食べるんだってさ。」

 

「そうなの?じゃあ、取り皿に移しておかないとね?」

 

クリスマスまであと数日と言ったところで、家の中の片付けも程々に掃除や洗濯はこのお祖母様に任せている始末。とはいえ、こんな豪邸を掃除するには普段からお祖母様一人はもちろん、星野家全員総動員で手伝っても広すぎるので、嶺さん自らが制作した掃除用ロボット何台も用いて清潔さを保っているのだとか。それでも流石に掃除ロボットでは出来ない個所については1ヶ月に一度家族で掃除しているらしい。

ちなみに料理の味付けの方は、やはり親子というものかアイさんのそれに非常に良く似ていて濃くもなく薄くもない、平凡なものだ。

 

その代わりと言っては何だけれど、朝食はパンではなくお米。それも白米ではなく、玄米を使用しているところに注目すべきだろう。

これはどういう訳かは解らないけれど、たぶんアイさんに深く関係するところだ。アイさんの苦手な食べ物に白米があるところが、そういう事かもしれない。

 

先にシャワーを借りて、身体を洗い湯船に浸かる。その間にルビーがシャワーを浴びる。自然と視線が彼女の胸に行ってしまうのはしょうがないことだろう、私の胸と見比べてみてもやはり…私は貧乳…なのだろう。アイさんだって私と同レベルの小柄な体にも関わらず不相応な肉感的なスタイル持つトランジスグラマーだし。ちなみにあーちゃんに至っては、もはや規格外の域なので比べること自体愚かの極みだから今となってはもう何とも思わずにいられるけど……

 

カポンという音と共に、風呂桶を隅に置いたルビーが湯船に入ってくる。二人入っても窮屈にならない程度には広い風呂だからこそ、高校生二人が入っても大丈夫なのだ。この豪邸を立てる際に嶺さんも建築設計に携わっただけあって、家族全員が湯に浸かれるように作られたというデザインと機能性を両立させた組み込み式ジャグジーで、その気になれば現在でも私を含め星野家全員が一度にゆったりと湯船に入れるくらいの広い……これだけでも改めてあの人の規格外ぶりを痛感させられるわね。

 

「先輩…なんかさっきから私の胸をジロジロ見てた気がするんだけど、それってもしかしてお姉ちゃんみたいなっちゃったの?」

 

「いやいや、そんな事あるわけ無いじゃない。ただ、遺伝って残酷ねって思っていただけよ。私の胸とルビーの胸を比べてたのよ、いつも隣にいるあーちゃんが凄すぎるせいで見落としがちだけど、あんたもしっかりと胸付いてて羨ましいとかね。」

 

「まあ、ママのほうからの遺伝だから、お姉ちゃんみたいに爆乳じゃないけどね?でも、先輩だってちゃんと出るとこは出てるって言えるくらいの大きさはあるし、そんな悲観することは無いと思うよ。それよりもさ、どう?私達のお祖母ちゃん、結構優しい人でしょ。」

 

そう、優しい人なのだ。それどころか、毎朝毎晩私達の食事処か洗濯果ては部屋の掃除までやってくれる。これじゃあ家政婦よ、その根底のあるのは本来なら償いようのないアイさんに対するかつての仕打ちへの罪滅ぼしの為なのは見ただけで分かるけど、流石に身体が心配になるわ。

 

「アレで元はママを虐待してたって言うんだから…世の中不思議というか残酷っていうか、和解できて良かったなって。」

 

「壮絶な過去ね…虐待をしたものと受けたもの。その和解がどうして出来たのか解らないけれど、でも今のアイさんを愛しているというのは解るわ。

アイさんが愛しているから、貴女達の事が大切なのよ…私は二の次かも知れないけれど。」

 

「そんな事無いと思うよ、先輩にだってちゃんと愛を注ごうとしてるっての私は解るし、もし注いでなかったらこんなに私達と一緒に要られてないんじゃない?」

 

想像するのは簡単だけれど、考えを読めるのってこういう時羨ましいわね。

 

「読めるって言うけど…便利とは違うよ。嫌なことだってあるんだから。」

 

「そこは個人差よ、貴女は前と後で判別出来るし。なにより、その明るい性格が素敵なのだしね。」

 

ついつい口からそういう言葉が出た、あれ?ルビー照れてる。

 

「さ、さあそろそろ出ようよ!ご飯冷めちゃうし!」

 

「ええ、そうしましょうか。」

 

 

風呂上がりの食事は滋養強壮を考えた、栄養士の作るようなレシピだ。これがまた、美味しいのだ。Uberとはまた違った家庭の味にいつも感動を覚える。

 

「ふふ、可愛いわね貴女。」

 

面と向かって可愛いと言われた。養祖母のその言葉が真実かは置いておいて、どうしてそう思ったのか?

 

「可愛い…ですか?」

 

「ええ、貴女の料理を食べる姿。3人とはまた違った可愛さがあってね、この娘も私の宝にしようかしらって。」

 

嬉しいのやら、恥ずかしいのやらそれでもなんか悪くは無い。

 

「ねぇ、誰かに愛を注げるって事は素晴らしいことよ?こうやって、生きる糧になるしなにより、愛でる事は悪いことじゃないわ。」

 

どうしたことだろうか、雰囲気が少し変わってきた。

 

「ごちそうさま〜、ちょっと宿題やるから先に部屋に行ってま〜す。」

 

私を置いて部屋へと帰る彼女を尻目に、お祖母様は語りだした。

如何に愛は素晴らしく尊く貴く、愛は薬となるかを私に凄い形相で…

これは、愛なんだろうけどちょっと狂気的では!?

 

 

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