「よいしょっと…これはここに置いてと、えっと台本ケースは…こっちね…ふぅ、これで一段落ってところかしら?」
今日からここが私の部屋、ここが私の家。
そして
「かなちゃ〜ん、そろそろご飯だから降りてきて〜。」
「は〜い、今いきま〜す。」
食卓テーブルを囲んで、私を待っている4人
そう、私の新しい家族。
星野家は5人家族、夫婦と姉妹そして離れて暮らしている祖母が一人。今日から私は6人目の家族になるわけだ。
「かなちゃん、家のお祖母ちゃんちょっと来れないらしくてね、たぶん再来月くらいには来れると思うんだけど。」
今迄一度も会ったことのない、彼女たちの祖母。写真立てで見るだけではあるけれど、美人の部類だ。50代というのが嘘のようで、一応初老ではあるはずなんだけれど?これじゃようやく30半ばに達したかどうかって域じゃない!星野家はファンタジーの異種族かSFの宇宙人の血でも引いてんじゃないかしら?
「お昼食べたら家の中の間取り案内するよ…と言っても、結構来てるから知らないところなんてあまり無いでしょ。」
「そうねぇ…1階のエントランスやリビング、室内温水プールとバスルーム、サンルームと中庭とガレージといった生活スペースのフロアに2階のみんなそれぞれの私室と嶺さんの書斎のあるパーソナルスペースのフロア、3階のレッスンスタジオとジム、化粧室、シャワールーム、レコーディングスタジオ、映像編集室といった芸能活動の為のワークスペースのフロア、4階は嶺さんの工作室を始めシアタールームとカラオケルームを始めとした趣味の為のホビースペースのフロア……そして1階から4階までを繋ぐエレベーター……始めて来た時は思わず冒険心を刺激されてあーちゃんとルビーと一緒に目を輝かせて探検したものね……そう言えば地下室にだけは入ったこと無かったわね。」
「それ私達も入ったこと無いんだけど。あそこはエレベーターからも直接繋がってなくて行けないし。パパとママくらいじゃない?入ってるの。」
はえ?16年も一緒に暮らしているくせに、1度たりとも入ったこと無いだと?
「いい機会だからさ、お願いして入ってみる?」
「「良いねそれ!」」
ということになり、嶺さんのところへと歩みを進めた。二階の書斎、机の上にタワーのように置かれた台本。いったいどれほど長い台本なのか、〘Master〙というアルファベットが見えた気がする。
「それで、地下室を見たいと?う〜ん…まあ別に危険なものがあるわけではないから、良いとは思うけれど周囲の物にはあまり触らないでくれよ?基本一品ものになるからな。」
あっさりとした回答にどうして二人は今迄入らなかったのか、そう疑問が浮かんで来た。
「いやほら、いつ切り出してくるのかな〜って思ってたら、そらもうずっと引き伸ばしちゃって!」
「私は全然興味無かったから、ママの事ばっか見てたし。地下室見なくても、別に暮らしていくのには必要ないじゃん?」
「そう言うけど、あーちゃんはどうせ反抗期のせいで正直に聞けなかっただけでしょうに、それとルビーは不足の事態ってのも考慮して、家の構造は把握して置くべきでしょ。」
「結果的に何も無かったがね?それに、何かが起きたら俺か、アイが直ぐに駆け付けるけれどね。」
確かに…この人ならばあり得るかも。妙な勘の働きといい、先に何が起こるか把握しているみたいに。たぶん、未来を無意識に見てるんじゃないかしら?
「さて、じゃあ行くとしようか。ちょっと驚くかもしれないけれど、足元注意してくれよ?」
二階から一階へと降りて、地下への扉を開ける。
「暗証番号は00631104だ、それと俺の網膜と指紋もしくはアイのもの。それと、コレだ」
薬指の指輪を見せる、結婚指輪が鍵なの?
「俺とアイしか持っていないもの、それが鍵になる。なんてね、そろそろ君達にもと思っていたんだけれど、渡しそびれてね?」
3人分の指輪…私の分も?
「心から信じられる、そういう人にしか渡せないだろ?」
心から信じられるか…なんだか嬉しい。
「さて、御開帳といったところかな?]
耐圧扉が開いて、全貌が明らかになる。というか暗!何ここ、匂いは…無いっていうか鉄の匂い?
「耐圧扉はこういう時、臭気を外に逃さない為でもあるわけだ。」
確かにこの匂いは、外に出しとくと嫌なものだ。鉄臭い、と言っても気持ち悪くなるようなものではない。
少し入って灯りを点けると、そこには何やら人一人が入れそうな、何かが置いてある。
「中に入ってみるかい?」
そう言うと、その何かの表面を叩く、プシュッという音を立ててそれが開く、中には椅子とレバー?
「勘がいいならだいたい予想付くだろう?」
これってあの〘モビルスーツ〙とか言うもののコックピットかな?でも、あんなの今の時代にないのになんでこんなもの。
「忘れていけないこともある、忘れられないこともある。忘れようとしないからこそ、形にしたいものがある。つまりは、俺の郷愁というものだよ。こんな棺桶タイプのコックピットでもね。」
忘れられないんだ…あの時代を、アイさんも了承の上でこれを創っているのなら…備えてるってことでもあるのかも知れない。けれど、そんな事しても。
「解っていても、辞められないのさ。NTだなんだと言われても、こういうところは変われない。俺の弱みみたいなものさ。」
それでも、そういうところがあるのが人間らしいところで、だからこそ憧れているだけでなく、隣合いたいとすら思えてくる。
それが、この人の魅力でもある。
「ちなみに4台があるが、どうだ?対戦モードとかもあるから、戦ってみないか?」
その後、操縦を教わりながら遊んだ。非常に難しくて、覚えることが沢山ある。舞台だってあるのに、これがまた息抜きになって良いのだ。選択できる機体のバリエーションも連邦軍とジオン軍の一年戦争の時代のものはごく一部を除いてほぼ全て網羅してあり、グリプス戦役以降の機体はエゥーゴ製は全て揃っているが、ティターンズ製とネオ・ジオン製は不完全で結構抜けているのが多いらしく、あっても数値上のデータに基づいた再現こそできたが、その機体の独特のクセや隠された機能まではデータが乏しく完全な再現は出来ていない機体もあるらしい。
ちなみに一番弱いのがルビー、彼女曰く
「映像だと遠くにいるのに、気配は近くだから訳解んない!」
だそうだ。一番強いのがあーちゃん、その次私。と言っても、どっこいどっこいだけれどね。
最後に嶺さんと3対1…それも私達は全員がガンダムMk-IIで嶺さんが一年時代とデラーズ紛争の間で開発されたジム・カスタムという大幅なハンデ付きでやってもらったにも関わらず、10秒で全滅した。おかしいな…あんなに連射できるの?
鉄臭い地下室は元気に臭いを発している、けれどもそれは郷愁で私達にとっては遊び場になる。
アイさんにとっては、何なんだろう?と思って訊ねてみようとした矢先、あーちゃんが……
「素人が我がジオンの将兵を恐怖のどん底に叩き込んだ白い悪魔を相手に束になったところで勝てるわけなかろう。私に貸せ……アムロ・レイ、これにはキュベレイのデータは入っているか?」
ん?あーちゃんの様子が……
「入ってはいるが、ずいぶん前にシャアにせがまれてアイツの家の地下にもこれと同じ物を作った時に、奴の意見を聞いた上で俺の頭に元より叩き込んであったデータを元に再現したものだから、機体のクセとかには不備があるかもしれないぞ」
「不備があれば、私が指摘して修正を促す。何せ私の半身と言ってよい愛機だ。機体のデータも独特のクセも完璧に私の頭の中にある」
「そうなのか、それは助かる。できれば、第一次ネオ・ジオン抗争時のネオ・ジオンの機体もデータが不完全な再現に留まっているのもあるから、それも指摘してもらえるとありがたい」
そう言って嶺さんはあーちゃん?と一緒に二人だけの世界に入っていってしまった。ルビーは目を点にして…
「そういえば、ハマーンさんって軍隊の総大将にも関わらず自分も前線の先頭に立っていたって話だったけ?」
と呟いている……なるほど、あの人があーちゃんの中にいる前世のハマーン・カーンなのか……確かにあの強烈なオーラに比べれば女帝呼ばわりされてるあーちゃんでさえまだまだお姫様の域なわけだ。