虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第八十一話

〜sideあかね〜

はぁ…何やってるんだろう。

 

冬休みに入り、毎年恒例の家族旅行の準備をしている時、ふと私はそう思った。他人へのプロファイリング、今追っている相手は危険な人達から付け狙われている。

それが解ったのはつい最近で、そして私はそれに自ら足を入れた。 

 

それがどれほど危険で、愚かなことかってことかは私も解っていた筈なのに、相手は私なんか歯牙にもかけない奴で、気まで使うことが出来るほどに余裕がある。

そんなのと対峙できるそういう人物が、安室嶺という人物…馬鹿げたような妄想だと思いたいけれど、それが事実だ。

 

今生きている人の中で、彼程人を殺した(・・・)ことのある人などいないのではないだろうか?大戦で前線を経験した人達は、今はきっと数えられる程度しか生きていないだろうし、そんな人達を入れてもなお、異常な数になるんではないだろうか?

 

そういう人が心を病まないはずがないのだけれど、八洲さんのしてくれた彼の話を聞く限りでは、英雄(・・)としての側面が良くも悪くも強すぎて、弱みがあまり見えてこない。

小説を読んでいく限りだと、その人間らしい弱さもあるのだけれど、でも小説で描かれている一年戦争時点の彼は戦渦に巻き込まれるまでは家庭環境には些か問題はあったものの争いとは無縁の平穏な環境で暮らしていた身の上に加えまだ未成熟な十代後半の少年だった頃の話だからそれは無理もない話で、成長して大人となった今の彼にその弱さがあるのだろうか?

 

どうやって克服した?私ならどうする?でも、経験したこともなければ、証言の中戦争しか理解したことのない私に、果たしてそれを理解することが出来るんだろうか?

演じるには遥かに代償が必要な筈なのだ、自分の1番の理解者を自分の手で殺した。それだけでも計り知れない傷が有るはずなのに。

 

「あかね〜、ご飯よ〜」

 

「は〜い、今行くよ〜」

 

仕事の事だと思ってお母さんは気を利かせて、食事を作ってくれた。実際切羽詰まってるのは事実だし、もう私は背水の陣なんだと言うことを自覚した方が良い。

 

……

 

今日は私の好きなメニュー、本当にお母さんには頭が上がらないな〜。どう考えても、私のことを気遣ってくれてる。

 

「あかね…何か困っていることでもあるんじゃないか?」

 

「ちょっと演劇の役で調べ物してるだけだよ。解りづらい役でね、人生観とかそういうのが希薄で、性格と生涯が不一致起こしちゃってて、正直お手上げなんだ。」

 

「あらそうなの?お父さん、あかねに何かアドバイス出来ること無いかしら?」

 

「う〜ん、あかねは出来が良いからなぁ。正直父さん達で手を貸せるようなことは…いや、コネが無いわけでは無いけれど…」

 

駄目だ、家族だけは巻き込んじゃ駄目だ!どんな事があっても、追い詰められてもそれだけは。

 

「二人共ありがとうでも大丈夫、友達のマリンちゃんも協力してくれるだろうし、それでも駄目だったらお願いしようかな?」

 

孤軍奮闘かぁ…どこまで出来るんだろう、正直助けて欲しい。どっちかに巻かれたほうが絶対に良いに決まってる、だけど得体の知れなさが恐怖を駆り立ててどうしようもない程に、信用出来ない。でも、もし縋るのなら安室嶺だろうなぁ。

 

マリンちゃんの父親だから、友達の父親なら信用出来るはずだから、たとえどんなに過去で人を殺して(・・・・・)いようとも、誰かの親になって精一杯あんなにも子供達を育て上げている人なんだ。もしも救世主という存在がいるのなら、きっとそういう人に違いない、だから縋ろう例えそれがみっともない姿であっても。

 

 

 

〜sideアイ〜

 

「はい、星野さんありがとうございます。脈も正常ですし、お腹の子も元気ですねエコーでも検査しました通りです。

さて、今日は元旦なわけですけれどお見舞いは誰か予定されてるですか?」

 

「う〜ん?アムロが夕方くらいに来れそうだって、子供達は家で過ごしてね〜って言ってあるからたぶん来ないかな〜。

お母さんも決心したみたいだし、来年からは本当に一家総出で暮らすことが出来るから今からワクワクしてるよ〜。

 

どう?推しが家庭を持って、しかも二度目の主治医になったんだよ?!嬉しくて誇らしいでしょ!」

 

「残念だけれど、俺の推しは今は君じゃないから。」

 

ふ〜ん知ってるかも、吾郎先生の推しはルビーだってこと。でもね、何だろうねルビーを見ているんだけれど誰かと重ねているのかな?

 

「その推しはルビー?それとも〘さりなちゃん〙どっち?」

 

「俺として……ルビーちゃん推しだと思ってるんだけどね…どうしても重ねちゃうんだ。きっと、彼女がアイドルになったら今のルビーちゃんみたいな、明るく元気で少しお馬鹿なそんなアイドルになってたんじゃないかって。

年齢は君と同い年だけれど、君みたいな性格じゃなかったから、かつての君みたいな破天荒なアイドルじゃ絶対にないね。」

 

辛辣〜前まで推しだって言ってたのに、今じゃすっかりルビーの虜じゃ〜ん。

ま、母親としてそれでも良いんだけれど、こうして入院している間に私のレギュラーとかも取られてたりするんだろうな〜。

一人の母親としての幸せか、〘星野アイ〙というタレントの幸せか…、でも私は世界で1番欲張りだから、どっちも手に入れるぞ!

 

「だからかな、中1の頃の彼女は特に〘さりなちゃん〙本人に見えたよ。今はしっかりとルビーちゃんだって思いながら、応援してるよ?」

 

「まあ良いけどね、母親として彼女が一生懸命やってる事は応援してるし、何よりそれで先生がルビーの推しになってくれるんだったら嬉しく思うよ。

だけど、あんまりさりなちゃんの事ばっかり考えてたら、前に進めないよ?」

 

「ハハ、看護長にも言われましたよ。良い加減に前向きに考えろ〜っていつまでドルオタやってないで、真面目に仕事しろ〜って。人間である以上、息抜きも大切なんだけれどね…。」

 

息抜きばっかりしてるからじゃないかな、最近だと私の部屋とか患者の部屋を廻りつつ布教活動に専念しているのだとか…。

患者に生きる希望を与えるって意味では、有りだと思うけど度を越したら天罰が降るぞ〜。

 

……

 

「って事がありましたって、アムロ聞いてる?なんか難しそうな顔してたけど、嫌なことでもあった?」

 

「いや、少しね。アクアの付き合っている彼、その仲間に四谷という少年がいたと思うんだが、似たような奴を見たことがあると思って調べたんだが十中八九こいつだろうなと。」

 

また争い事か…アムロ…良い加減戦いから身を引いてもらいたいけれどアクアの身の危険もあるし、今は黙っておいて。

なになに…

 

「四宮 光生(みつせい?)これなんて読むの?」

 

光生(てるみ)と読むらしい、まさか財界人が混ざっているなんて、誰が予想できた?それも日本の経済界を統べる四大財閥の四宮の一族となるとこれは厄介だ。昔こいつの親族とも会ったことがあるが、一筋縄ではいかない連中だ」

 

どう厄介なのかは置いておいて、アムロ来年から海外での撮影が多いから大丈夫かな?

 

「それも問題だ、大きい相手だからこそ動きが鈍いというわけでもないからな、ああいう手合いは俺の管轄外。政治と財界の世界だからな、考えるだけ無駄かもな。

 

シャアに丸投げのほうが良いだろう。ヤツとしても、不穏分子はなんとかしたい筈だし、かつて四宮家と四条家が互いに私怨に基づく経済戦争を繰り広げて共倒れしかけた際に四条家出身のアイツの奥さんと当時の四宮家令嬢だったかぐや嬢を介して上手く仲裁を漕ぎ付けた経験もある。

 

以来、四宮と四条の両家はそのことでアイツの大きな借りを作っているから、この件については俺よりシャアの方が適任だ」

 

「ねぇ、アムロ。最近暗〜い方にばっかり行ってない?あんまりそっちの方に行くと、戻ってこれなくなっちゃうよ?」

 

3人目が生まれてくるというのに、そういう話ばっか。プンプン!アイは怒ったぞ!ここぞという時に、妊婦の精神的な不安定さが役に立つなんて、良いぞ!わたし!

 

「いや、そうだね。深く考えすぎるのは良くないね、もっと直感的に動いてみるよ。下手の考え休むににたり、とでも言えば良いのか。身近な所から進めていくよ。

さ、暗い話はこれくらいにして建設的な話をしようか。」

 

ヨシ!じゃあ何の話をしようかな?病院食の改善?それともベッドをよりフカフカにする?

 

「いやそれ以外…そうだな子供の名付けはどちらがやるかという話でもしようか?」

 

「ヘヘ〜ん、実はもう私は候補を見つけてあるのです〜。はいこれ!」

 

翡翠(ヒスイ)

 

「由来は、宝石の翡翠みたいに色んな色の緑とかあるでしょ?それにあやかって、色んな可能性を持った人になって欲しいなって、思ってつけました。

 

それに鳥の翡翠(カワセミ)みたいに、皆の注目の的になるようなそんな人にもなって欲しいって意味でもある。」

 

「なるほどね…、俺はまだ考えても無かったよ。こういうのに疎いと言うか何と言うか、前もそうだったね。」

 

そう話しているとガラガラと引き戸が開かれた。

 

「今晩はお二人さん、嶺さんはお久しぶりですね。二人で子供の名前を考えていたんですか…今回は結構良い名前ですね。」

 

「むう!まるで前回の名前が変な名前って言ってるように聞こえるんだけどぉ〜、アムロだって納得してくれたもんね〜。」

 

「俺にとっては、宝石の名前だとかは全然変な名前だとは思えなかったんだが、やはり先生としては看過できないのか?」

 

「えぇ、まあ。最近だとそういう名前も多くなって来てはいるんですが、あの時はああいった名前を〘キラキラネーム〙とか言って、虐待の一種みたいに思われていた時期があったので。

流石に不味いんじゃないかなと、躊躇しましたよ。」

 

「子供達を思ってのことなんだ…なるほど、だからあの時色んな人から言われたんだ〜始めて知ったよ。アムロは知ってた?」

 

「そういう者は人それぞれだと思っていたからな、気にしたことはなかったな。」

 

う〜ん、そうなんだ。なんかアクアとルビーに悪いことしちゃったような気分だけれど、絶対に名前だけは忘れないようにってそういう意味も籠もっていたし、当時はあの名前以外は嫌だったから。

 

「今となっては二人共スクスク育って…この前二人にあったんですが、アクアちゃんは大人びましたね。一皮剥けたみたいな感じでしたけれど。」

 

「アクアね〜、彼氏が出来たんだって。だから髪の手入れとか、前以上に気にかけてるんだよ。」

 

それでか〜、何て言っているけれど本当に一皮剥けてるって事は黙っておこっか。こういうのは普通本人の了承と、後は場所を選んで言うものだしね。私も変わったのかな?

 

「それで、アムロはどんな名前にするか決めた?」

 

「もう少し考えさせてもらってもいいかな?明日の誕生日プレゼントと一緒に、聞かせてあげるから。」

 

宝石類とかジュエリーはいらないから、何か美味しいものとかそういうのが良いって私からお願いしたけど、病院の中だからどんなプレゼントか気になるな〜。

 

「忘れないでよ〜、アムロはそういうところ抜けてるって自覚してやった方が良いんだから。」

 

「了解した。それじゃあ、少し雑談でもしながら考えるよ。」

 

器用な真似をする彼は私と頭のできが違う、でも私と同じ目線で話してくれる。お互いに理解し合って、共に歩んできて二人三脚どこまで一緒にいよう?

 

……

 

「誕生日おめでとう」

 

日を跨いで深夜、夜更かしは身体に良くないけれど今日は特別だし、病室は1人だから吾郎先生が大目に見てくれる。

彼からのプレゼントは、〘アイマスク〙だった。柔らか素材でコンパクトに出来る。目に優しい気持ちのいいヤツ。

 

「ありがとう、それで次は何かな?」

 

「ああ、名前だけれどね。千歳(ちとせ)にしたよ、いつまで健康に過ごして欲しいっていうありきたりな由来だけれどね。」

 

「ううん、全然ありきたりじゃないよ。そっか、どっちが良いんだろうね。二人に選んでもらう?」

 

「その方が良いかも知れないね。」

 

二人はどっちを選んでくれるかなぁ。

 

 

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