〜sideアムロ〜
「未だにこんな町並みが残っているものなんだな…東と西の経済的格差はここまで酷いものなのか、東西冷戦とはよく言ったものだ。これじゃあ、東側が倒れる訳だ。」
簡素なアパートメントが立ち並び、寂れた建物がそこかしこに見え隠れしている。東西で分断されていた首都の中でこれだけ違いがあるのなら、いったい国土の東西でどれ程違いがあるのだろうか?
「あの…安室さん、そろそろ行きましょう。相手はドイツ人です、我々日本人もそうですが時間にはそれなりに厳しいと思うので、到着時刻に間に合わせなければ、向こうを怒らせることになりかねません。」
「解っているさ、仕事の為に来たんだ。観光している暇なんて無いよ、明日から撮影が始まるからね。忙しくなるな。」
俺はドラマの撮影の為に丸一年海外に居ることになる予定だ、スケジュールはビッチリと埋められており、冬場の撮影が今しか出来ないのだからこうして足繁く、色々な国を回ることになる。
「俺は慣れているから大丈夫だが、君は体力的に大丈夫なのかい?」
「何年一緒にやってると思います?もう6年ですよ?良い加減に慣れましたよ。貴方の体力に付いていくのに、どれだけトレーニングしたと思います?」
「それもそうだったな、済まないな。」
彼と共にチャーターした車に乗り、予定していた場所へと行く途中メールが届いていることに気が付いた。
「お?誰からです?」
「娘からだね、内容は…相談事があるそうだ。今夜は…電話は難しいか?いや、昼頃ならば可能か…」
夢で何かの情景を見たか…これは話では駄目だな。
《絵を送って欲しい、それを見れば大まかな人物の特定が出来るだろう》
しかし…連邦宇宙軍のマークに俺の名前が入った墓か…どういう心境で見れば良いのやら。だが、墓参りに来ている人物がどういう者なのかルビーもアクアも気にはなるだろう。
自分の過去と向き合うというのも大切なことなのだが、さてどんなものが送られてくるのやら。
「安室さん、もう少しで付きますよ。もう機材チームも揃っているようですし、到着次第挨拶から始まりますよ。」
まずドイツ人だろう彼等との第一印象は大切となるだろうな、このドラマの主演になったのも、マルチリンガルの人間にしか出来ないものだからというものもある。
実際、原作の彼は様々な地方の言語を習得していなければ、あれ程の場所へは行けないのだから。
「解っているさ、仕事に取り掛かろうか?」
俺は胸ポケットからサングラスを取り出して、掛ける。晴天だが雪がある、下は眩しい雪景色向かう先には既に多くのキャストがいる。
俺はドアを開けて、そこに脚を降ろし歩き始めた。
……
[この街を見てください、寂れているでしょう?ソ連の崩壊により冷戦が終わって西と東に分断されていたドイツは、分断の象徴だったベルリンの壁を打ち壊して悲願の再統一を果たしたというのに何年も経って未だに東西の格差は是正されず、そればかりか政府は自国に居座る中東やアフリカからの難民を東側に追いやってただでさえ酷い格差はより広がるばかりだ。
このドラマを通して、それを政府に見せたいのです。でなければ、我々は前へと進むことは出来ない。惨めな想いをしてまでも、この景色を国中に晒し笑い者とされて初めて、政府はこの事に目を向けるに違いない。]
撮影中に現地スタッフに言われた言葉だ、思い出深い街なのだろうが、それでもこれ程までに寂れていればそうも言いたくなるだろう。上下水道はあるだけマシで、老朽化もあちこち診られる。水道水は飲めるものでもなく、必ず煮沸は必須だ。
最悪濾過も検討に入れなければならない、赤錆が混じっているからな。
このドラマを撮影する趣旨はここにある、娯楽のためだけではない。撮影できてしまう街並みが、今なお世界中あちこちにあってしまう、という現実を見せるためでもある。
それが、各国への見えざる干渉であるわけだ…これを厄介と取るかは各国の見解だけだろう。
さて、娘たちからのメールの件であるが、四日経ったにも関わらずまともな絵が帰ってこない。
ルビーの絵なのだと思うのだが、こういうアンバランスな絵は何処かの誰かが言った所謂〘画伯〙というものなのだろう。蔑称に他ならない。他の人間に直してもらうという手はなかったのか?
連邦のマークだけしか未だに帰ってきていないのだから、相談に乗ることも出来ない。なにより、描き出されている4人の人物と目線の人物が気になるところだ。何処となくだが、苦労人の気配がするのは気のせいか?
何はともあれ、国が変わるとインターネットが通じない場所もあったりするのだから、早く返信が欲しいな。こちらも、暇ではないのだから。
〜sideかな〜
新学期が始まり、学業とダンスレッスン。そして、プチライブも程々に私達はアイドルとしての活動を続けている。
地道にやってきているおかげか、オリコンチャート100選に私達の曲が載った時には、皆で喜びあったものだ。
チャンネル登録者数も鰻登り…とはいっていないけれど先日7万人に到達。生ライブ映像が意外と好評だ。ゲーム実況?そんなものは一度も無いと言うね。
ところで今私達はある問題に直面している、ルビーの眠りながら見る方の夢。それが嫌にリアルで他者の記憶を覗いているようで気持ちが悪いと、ルビー自身が我慢できなくなってきているものだ。最低限、その人物の事が解かれば良いのだが、生憎それが解らない。
嶺さんがそのヒントを持っている筈なんだけれど…
「海外に行ってる間に絵でも寄越してほしいとは言われているけれど…ルビー。アンタの絵下手ね、美術の授業サボっていたでしょ?」
「なっ、何のことかなー?だいたいアイドルに絵の良し悪しは関係ないと言うか、寧ろ下手な方が伸び代があって応援のしがいもあるって!」
本当にポジティブね、でもね今はそういう事態ではないのよ。
「良い?あんた自分で記憶の流入止められないからって、それでも誰の記憶か知ってればなんとかなるとか言ってたわよね?じゃあその下手な絵が足枷になってるって事自覚持ったほうがいいわよ。」
「私は別に最初は良いと思ってたよ!でも、今更遅いじゃん。それに下手なのは昔からだし、今更だから。それにママだって絵は上手くないもん。挿絵は別の絵師さんに描いてもらっているし!」
別の絵師さんに描いてもらっている?そう、それよ!もっと早くそれを考えつかなきゃ駄目ね、警察だって似顔絵を書く人がいると言うし、こうなれば善は急げね。
「先輩、誰に連絡する気!?」
「こういう時に?コネって言うものは役に立つのよ、見てなさい?了承取り付けてくるから!」
あーちゃんにだけ頼っているわけにも行かないし、あーちゃんはどちらかと言えば、今はあかねの方に気を使って欲しいのよね。色々と追い詰められていたみたいだし、私は私でできることをやるだけよ。
……
「それで私を頼ってきたの…イラストレーターねぇ。私の知り合いにもいるにはいるけれど、人の顔をリアルに描くのと漫画を描くのって少し違うのよ?解っていると思うけれど。」
私の前には吉祥寺先生がいる。今日アマの頃からちょくちょく連絡を取り合ってきたかいが、ここに来て現れたと言ってもいい。
一度出来た縁を繋ぎ止めるのは難しいことだって、嶺さんには言われたことがあるけれど、色々な方に顔を覚えてもらうだけでも結構効果があるのだ。
「そこをなんとかお願いできませんか?はっきりと顔が解かれば、色々と都合が付くんです。」
「う〜ん…そうねぇ。それなら調度いい子がいるわ、貴方達と同い年の子なんだけど絵は上手いの。漫画向きじゃない子だけれど。ちょうど背景描いていると思うから、私の仕事の邪魔にならない範囲でお願いね?」
紹介された子は私と同い年くらいで、誰かに似ているような気がした。そう、鮫島先生に似ているのだ。でも、絵は違うというか業と崩して漫画絵にしてるみたいに見える。
「あの…初めまして。有馬かなと言います、今回はあるイラストをお願いしたく契約をお願いしに来ました。」
「私は…鮫島アサリ。漫画家を目指しています…でもイラスト以外に自信がない落ちこぼれです」
自己評価が低い子。ペンネームもまだ何もないのかも、それに吉祥寺先生がこの子を指名したのはきっと、色々と見てきて欲しいっていう親心なのかも。
「早速で悪いのだけれど、これが家との契約書。吉祥寺先生からは既に許諾済みだから、署名してくれれば良いのだけれど。」
「これは…私の初めての連載?いえ、ただのイラストレーターとしての契約…それに必要なものは写実画…漫画じゃない私は漫画がやりたいのに。」
なりたい自分とは違う結果になるのはいつも致し方ないこと、夢を諦めず輝くことが出来るのはほんの一握り、だからこそ私達と一緒に来てもらいたいんだけれど…。
「最初の二ヶ月は試用期間、それに満足したら契約の更新をしていくわ。大丈夫、たぶんだけれどシナリオとかが出来てくると思うから。」
たぶんね、きっとルビーの夢を題材に漫画書けるんじゃないかしら?
それか…あーちゃんの書いてるあのノートの中身とかやったら結構受けるんじゃ?
「解りました…ではそちらの事務所の方に色々と移します。それと、事務所の方って住み込みできますか?出来たら私そちらに住みたいのですけれど。」
「そこは社長達と相談するわ?たぶん大丈夫だと思うけれど。」
これで、ルビー画伯の絵を封印できるわね。あとは、あーちゃんのノートを借りる許可をもらわないと…また勝手に見せれば逆鱗に触れちゃう。それだけは避けないと……あの前世仕込みだっていうあのプレッシャー攻撃を受けるのだけはもう二度とごめんよ!!
〜sideアクア〜
日課のランニングを終えて、私は帰路に付いていた。ふとその時の私は何を考えていたのか、コースを少し離れて小さな公園へと脚を向けた。
ブランコがまだ残っている、古い公園。誰もいないだろうそこに一人で、私は立っていた。
何処か懐かしい面影がある、昔良く遊んだ遊具達はその姿を消していたりもした。
唯一残ったブランコに座り、少しの間黄昏れる。いつもより走り込んでいたせいか、ブラが胸に食い込んで少し息苦しい…早く家に帰って休まないと明日に差し支えそうだ。
ケンゴ君との件から始まった色んな心配事、それでも愛していることに変わりないから彼を救いたい一心で行動を行っている事に、私は胸が熱くなる。
ルビーの誰とも言わぬ者の記憶?記録といったほうが良いか、どうもあれは私のハマーンさんとは、また違う物。人格への影響よりも、眠りが浅くなることに嫌気が差しているらしかった。
私の身の回りには色々な事が起きていて、退屈することがない。特にこの一年間は、本当に楽しくも辛い記憶がある。それを乗り越えてきたという、自分なりの答えは自信を持つにはそれなりにあるもので、それでも全能感というものはない。
そんな事を思っていると、ここに誰かが現れた。金髪の長身の男、ガッシリとした体型じゃなく細身の人。カミキヒカル…かなちゃんから要注意人物と言われている人だ。
「おや?偶然ですね、東京ブレイドのあの時以来でしょうか?」
和やかな雰囲気の奥に2つの意見がある。一つは命の重み?を感じるために何かをしようとする心。もう一つの儚いそれは…謝意の心?
「一介の事務所の社長がこんな所で何をやっているんですか?仕事に戻らなくても大丈夫なんですか?」
「事務の仕事は僕がいてもいなくても同じですよ?しかし、ここはいつ来ても寂れていますね、それがまた良いんですが。」
意外な反応だ、もっと常人離れした不気味さがあるとかなちゃんから聞いていたのだけれど。
「1つ伺いたいのですが、貴女は安室嶺の娘ですよね?」
真意が読めない、別に裏があるようなものでもなければ、何かをするというものでもない、ただ普通の疑問の声のようだ。
「はい。と言ったらどうなるんですか?それとも、いいえと言ったらどうなるんですか?」
「どうにもしませんよ、ただ確認したかっただけです。彼ならば命の重み、その意味を僕に教えてくれると思っているのですが、接点があまり無くてですね…」
何を言っているんだ?命の重みとは?純粋にそれを疑問に思っているのか?
「もし帰ってこられましたら、〘神木ヒカルが貴方には会いたがっている〙と、伝えておいてください。彼はきっと断らないと思いますので………。それではお嬢さんまた何処かでお会いしましょう。」
勝手に話して勝手にいなくなった…私は1人公園でブランコに座る。このために私は来たのか?NT能力って何なんだろう、意識的な時は良いけれど無意識的な部分はいつも振り回される。
「帰るか…」
もうそろそろ帰らなければ、お祖母ちゃんから鬼のような電話が来てしまうと立ち上がったその時。ブチッん?ま、まさか……嫌な予感がして確認して見るとブラジャーの紐がちぎれていた。
そのまま、ブラジャーという縛めが失われたことで身動きするたびに大きく揺れ動いてしまう自分の豊かな胸を抱えて大急ぎで家に帰って部屋に入った私は上半身のみ裸にしてハロの機能を活用して胸のサイズを正確に測ってもらった結果……
「カップサイズH。アクア、バストサイズアップ!」
「……はぁ~~~」
新学期になって再会したみなみちゃんの胸が去年よりも大きくなっていたから、私の方も予感はしていたがとうとうミヤコさんのサイズを完全に上回ってしまった。かなちゃんとルビーにまた生暖かい目で見られて弄られる。
特にケンゴ君と体も心も結ばれてからは、女の本能の高まりと共に体の発育がそれ以前よりも明らかに勢いを大きく増してきている。母様の出産も近づいているし、それを想うと……いかん、またお腹を摩ってる!早く着替えて、小説の続きを書いて本能の高まり沈めなければ。