〜sideあかね〜
マネージャーから仕事の話があると言われ私が事務所へと赴くと、1つのパンフレットを渡された。
オーディション…いったい何のものだろうか、そう彼に聞いた。
何でも国際的なドラマのものらしい、衛星放送で大河ドラマをやった後ろ番組、それとN○Kの日曜9時枠及びネットでの配信もある。お金の掛かった大きなドラマ、ドラマのオーディションなんていつ以来だろうか?子役以来?
今回もある意味では子役らしい、中学3年生の主人公の娘だって。私は今は高校3年生、ちょっと年齢的に大人になってきていることを踏まえると、正直ギリギリだがそれくらいなら出来そうな気はするし、何より私の外見の成長度合いを鑑みて中学生を演じられるのはこれが最後と見ていいだろう。
マネージャーに、どうして私にこの仕事を配ったのか聞いてみると、私の経歴にテレビドラマ出演というものを加えようとしてくれている。
主演は…〘安室嶺〙役柄は考古学者、役柄が彼の娘でそれなりに似ていないとおかしいと思うのだけれど、母親は出てこないみたいだから意外となんとかなるのかも。
父親母親似の賢い娘で気が強く、何をやるにしても行動的。
「マネージャーさん、これって原作あるんですよね?」
「あるよ?欲しいのかい?」
原作があるのなら、このキャラクターの事を深く知ることが出来る。私の本領で仕事が出来るようになる筈だ。
「このオーディション、受けます。」
「国際的なものだそうだから、大手も中々に手が出せない領域だそうだよ。だから、今回もしオーディションに受かれば大手を抑えられる。
ちなみにだけれど、不知火フリルもオーディションを受けるらしいから、やるなら徹底的にやるよ。家も本腰を入れてね。」
同じドラマに出るのなら、少しばかりは彼のことを観察できるかもしれない。私なりの彼への考察、その答えを。
……
私の最近の日課はとある動画を探すことから始まる。そう、B小町ファンクラブその中での有馬かな特集、その更新。そして、かなちゃんだけの切り抜きを作る事だ。
今の彼女の笑顔は私にとってはアスピリンのように、心の鎮痛剤となっている。
追い詰められた私が藁をも掴む思いで掴んでしまったものは、かなちゃんという偶像を拝むこと。
宗教的な意味合いでもう私は彼女無しでは生きていけない、彼女がアイドルをして居るという事実が私を奮い立たせてくれる。
どんな道に行っても彼女は諦めず真っ直ぐに道を記して、私の前に現れる。
一度はその姿が見えなくなっていたけれど、万能の天才。スターというものは彼女にこそ相応しい。
だから私は彼女の為に振るうのだ、彼女を推していくのだと私が現実逃避するために。
そう言えば、かなちゃんは私がオーディションを受けるドラマのオーディションを受けるのだろうか?
彼女が羨望の眼差しを向ける人物が主役なのだから、出たいはずなのにそんな話を聞いたことすら無い。普段の彼女なら、私に宣戦布告するかのように言うはずなのに。
こうなると少し心配になってくる、役者としての自分を大切にしていた彼女がこれに応募しないなんて、何か良からぬことを考えているのではないか?と。
〜sideかな〜
「は?そんなんで電話を掛けてこないでくれる?いい、私が出たいと思った作品には私は喜んで飛び込んでいくわよ、でもね今回のこれ私のキャラには合いそうもない、そう思ったら出ないだけよ。身長からして、私は不釣り合いだからね。」
あの鏑木さんが顔やコストに括らず役者を選んで選別し、キャラクターにあった人物を選んでいるのだから、その本気度は計り知れない。
そうなってくると私のこの身長が仇になる、アカネならきっと調度いいものだろうし、あの娘のやり方なら必ず役になれる。
「私の事よりもアンタ自分の事心配しなさい、アンタもあーちゃん同様に自分一人で解決しようとするタイプなんだから無理しないようにしっかりと私やあーちゃんに相談するのよ。
ただ、私はドラマとアイドルの双方が佳境だから、少ししたら当分時間を空けるのが難しくなるからそれまでは何かあったらあーちゃんの方に相談して。あーちゃんもB小町の活動と掛け持ちだけど私達と違って副業だから次に大きなステージが迫るまではあーちゃんの方が時間にある程度余裕が作れるから、良い?」
そう言ってあかねを了承させると私は電話を切る。はぁ、私は今のドラマの撮影とアイドルとして活動で忙しいっていうのに、あかねにはホントに悪いとは思うけど今の私にはとてもそっちに気を割ける程余裕もなければ力もないわ。なので、今回はあーちゃんにあかねを託すしかない。
仕事を選んでいるわけではないけれど、自分の身の程を知って仕事をすることを考える事。体を壊したら元も子もない。
私は完璧でもなければ究極でもない、私を調べ上げればボロなんて幾らでも出てくる。だからこそ、私という存在を全面に出せる作品が良いのだと。
「嫌なものね、大人になるって。自由極まりないことだからこそ、色々と制約がかかる。」
「そうなんだぞ〜、有馬ちゃんもやっと気がついたようだね〜。ようこそ大人の社会へ」
「それよりも、今はB小町の方を優先しなきけりゃならない時期だからよ。このままずるずると行くと、MEMさんはあっという間に30歳に」
「グフッ!それはクリティカル。 そうだよね、ちなみにだけれど現在この前取ったMVの再生回数何だけど、100万再生突破したよ。」
「本当に!一週間でそこまで行ったの!うわぁ、嬉しい!ねぇMEMちょ、もっと再生数伸ばすにはどうすれば良いかな?」
MVも順調で、私達の生配信生ライブも少しずつ人数が増えてきている。
実際、定期的なライブをやることで私達の実力が確かに上がっている事を喜んでもらえてるようだから、固定層のファンの人数も徐々に増えてはいる。
登録者数の伸びも順調だ、アイドルとして私達は今中堅になろうとしている。
「だけど、それだけだと一発屋で終わるわ。だから2手3手先を考えて」
「そこら辺は大丈夫よ。と言うよりも、そういうのを考えるのが私達の仕事だからね。ということでこれよ。」
幕張合同ライブというパンフレットを持ってミヤコさんが現れた。私達のマネージメントをやってくれているのは、彼女だ。副社長の秘蔵っ子という立ち位置の私達、私達を支える裏方の人達は嘗て旧B小町に何らかの形で関わった人達。中にはファンだった人もいる。
「いきなり大きなステージですね、これ大手と出るってことですか?」
「ええそうよ。知名度はコツコツ行くことも重要だけれど、他から奪うことも考えなくてはね?それに…色々と彼女にも教えなければならないから。」
そういう彼女の視線の先には、ルビーがいる。間違いない、多分だけれど芸能界の暗い部分を彼女に見せようとしているのだろう、知っておいて損はない。これから私達が挑むのは、そういうところなのだと教える必要があるのだから。
〜sideアイ〜
「よいしょっと、皆〜見えてますか〜。」
私は病院の外にあるベンチに腰掛けて、本格的なカメラに向けて微笑む。一応反射カメラで、今の自分がどう映っているのか解るようにはしているけれど、こういうのは久し振りの感覚だ。
[はい、見えてますよ。アイさん、そちらのお子さんは?]
私の腕の中ですやすやと気持ちよさそうに眠っている子に対して、そういう質問が来た。
「今は寝てるけれど、私の子です。名前は…教えてあげません。流石にプライベートなので、ただお世話になった皆さんに少しだけ自慢と、幸せのお裾分けを…なんて思ってまして。」
[へぇ、ありがとうございます。それにしてもねぇ、ディスプレイ越しで参加してくださるなんて。]
「流石に主演の内の二人が参加出来ないなんて、そういうのはアレだと思いまして。本当は、ステージの方へ行きたかったんですけれど、安室さんの方は今はヨーロッパで撮影中で来れないと。それで、一応お産も済んで一ヶ月。身体も自由に動かせるようになった私が、こうして出てこれたのが良かったなぁと。
急遽日付が変更になった時は焦りましたけれど。」
ほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、観客席にいる他社のマネーの顔は芳しく無い、私達を出させないように従ったに違いない。
こうやって最低限でも誠意を見せなければ、中堅どころとはいえコネが限られる私達なんて直ぐにも転落してくでしょう。
故に社長達は今後そういう圧力に負けない基盤を作り上げるべく、アムロと私、ぴえヨンさんといった主力で利益を稼ぎつつ、アクアやルビーたち次世代のアイドルタレントを育て上げることで、苺プロダクションを中堅から大手へと成長させる新たな道筋をつけようとしている。
だからこそ、受け答えには最深の注意を図りつつ臨機応変に対応しなければならない。
気を取り直して会場では暫く雑談をしていくと、今度は恋愛の話になっていく。
そうなると必然それぞれの結婚相手に対する思いとか、そういう話になる。
[なるほど〜、監督さんは恋愛に興味無いと…確かにモテなさそうな風貌ですものね。というか映画が彼女?]
[そうそう俺にはコイツがって、はぁ?もういっぺん言ってみ?怒るぞ!]
[さて最後にアイさんの番ですけれど、お相手は公表されて無いと言うことでしたが、実際どうなんです?一般の方なんでしょうか?
巷で噂の、安室嶺さんとそういう関係だったりとかするんですか?この際、お子さんも産まれていることですしどうなんです?]
「そうですね…私の口からはなんとも。ただ、今年中にはアクションを起こすと思いますので、そこまでは待っていただきたいですね。流石に安室さんとの協議無しでの発言は憚れると、そう思いますので。」
だからパパラッチの人達はもう少し我慢しててもらえるかな?
席の後ろの方にいるはずの、関係者の後ろをつけ狙う人達。
「では観客の皆さんは本作を楽しんで行ってくださいね〜。」
[いや、それ俺の台詞!]
そうやって私は接続を切った。それと同時に
「あ〜、ヨシヨシ。お腹すいたのかな〜、よいしょっとはい、おっぱいですよ〜。」
公衆の面前だけれど、それほど気にすることでもない。赤ちゃんはそういう生き物なんだから。
「それにしても先生、ここまでしていただけるなんて。なんてお礼すれば良いのか…」
「いえいえ、元はといえど推しが困っているんですから、手伝いくらいしますよ。それに、今日は休みでしたので。何かありましたらまた頼って下さい、僕は担当医ですから。」
医者だからってそこまでやってくれる人はいないよ?そういうのは無粋だから言わないけれど。
でも、やっぱり寂しいからさ早く帰ってきてくれないかなぁ。
〜sideアクア〜
食卓の上の朝食を啄みながら、昨日の夜届いた母様からのメールを皆に話す。
「母様今週には戻って来れるってさ、お土産欲しいものがあったら言ってだって。」
「そんなものよりも、二人が無事に戻ってくることの方が大切だって、送っておいて?孫の顔もアイの顔も見たいのよ。」
「了解。」
早く弟の顔が見てみたい、赤ちゃんの顔なんてルビーと空君の顔を見てきたから、今となっては全然新鮮味がないけれど、この歳になって初めての弟だ。きっと可愛いに違いない。早く抱きしめたい。
「3人共赤ちゃんの顔見るの始めてでしょ?あの無垢な顔は本当に可愛いわよ?」
祖母に言われるまでもない、前世の人格が覚醒していたルビーとは違い、空君の一切の邪念の無い顔には何度癒されてきたことやら。
苺さんとミヤコさんから本来であれば自分達がしなければならない世話を私に任せて申し訳なさそうにしていたが、空君の生まれたばかりの頃は、幼い頃から感じ取ってきた人間の醜い欲望や負の感情に辟易していたことに加え、父様と母様ともギクシャクしていた頃だったから。
故に純粋無垢な赤ちゃんの一切の穢れの無い心は私の荒んだ心を癒してくれる空君の育児を率先して引き受けていた。
さらにNTの力の御蔭で言葉の喋れない赤ちゃんのサインを直接感知することが出来たことから、空君がぐずった時も何を欲しているのか理解し、的確に対処できたこともあって赤ちゃんの面倒を見るのには下手な保育士やベビーシッターにも負けない自信がある。
「ご馳走様。何日に来るか連絡来たら、また教えるよ。」
今はそれを楽しみにしておこう。こちらもドラマの撮影あるし、君ちゃんを通して四宮……光生君とも近い内に会う。
あかねちゃんも誘って一緒に君ちゃんを介して会う約束もしたから、元々は私とケンゴ君の問題だったのに結果的に巻き込むこと形となってしまったことには責任を感じていたし、かなちゃんからもあかねちゃんのことを託されている以上、私にはあかねちゃんを守る義務がある。
八洲さんの時も何事も起きずに済んだし、ケンゴ君からも信頼されてる子のようだから今回も大丈夫だと思いたいが、懸念は君ちゃんがあかねちゃんをすっかり気に入っちゃったので心配なのはむしろそちらの方だな。
それにもう一つ、海外で撮影している父様や今アイドル業が波に乗ってるルビーたち程忙しくないとはいえ、新生B小町にとってJIF以来の大きな舞台である幕張合同ライブには流石にルビー達と共に私も新生B小町のメンバーとしてステージに立たないといけない。
こちらのレッスンにもそろそろある程度時間を割く形でスケジュールをミヤコさんと相談して調整しなければいけないので私の方もやらなければならないことが公私共にそれなりにある。
それでも、幕張でしかも合同ライブとなると打ち合わせを始め、その準備に最低でも一二か月は必要だろうから、私も本業は役者の方であるからそれまでは時間に余裕がある。
そうなるとしばらく弟……翡翠の面倒は私と母様とお祖母ちゃんの三人が中心になって見ることになるだろうな……はぁ、早く会いたいなぁ……いけないいけないあの顔を思い浮かべるだけで顔がニヤけてしまいそうになるなぁ……私も早く自分自身の赤ちゃんが欲しいなぁ……
……
昼休み、それは私にとっての憩いの時間だった、今日は心地の良い日差しが照らしているので、庭で昼寝をする予定であったのだが………そうではない。必ず現れる刺客そう、不知火フリルの登場だ。
「毎回思うんだが、どうして私の居場所が解るんだ?」
「だいたいの場所は把握済み、だから後は貴女のテンションによって場所が決まる。ちなみに今日はここ中庭と、体育館の裏手が候補だった。」
コイツの特技はなんだ、人の観察か?それとも、ストーキングとでも言うのか?
「推しの日常を追うのもファンの勤め、そうではなくて?」
「そうではなくて?ではないんだよ、そもそもどうして私が推しなのか前からずっと気になっていたけれど訳が分からない。」
「昔、まだまだ駆け出しの頃仲良くなったエキストラの褐色お姉さんにこう言われたんだよ?
気になっている相手とは積極的にして行きなさいって。例え相手から何と言われようとも、遅すぎる事はないって。
自分を曝け出せる理解者を求めなさいって、それが貴女なだけ。」
その人の受け売りをまだ続けてるってことか…大切な人だったのかな?
「その人、1回きりしか共演しなかったけどね。今、何をやってるんだろう。」
「探したりしなかったの?仲良くなったんでしょ?」
「プライベートと作品内の線引きはとても大事、私はそう思っているから。だから、貴女のおっぱいを揉ませて。今この時も育ち続けてるその果実の成長を手助けしてあげる」
良い話だと思ったのに、途端にそれかい。
「嫌だね!ドラマの中でそういうシーンがあれば別だけど、そういう状況じゃない限り絶対に嫌だ!」
キャイキャイ言い合う私達は皆からどう思われているのだろうか?とても愉快な眼差しが、私達を指していた。