虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第八十七話

〜sideアクア〜

私は今アカネちゃんと一緒に君ちゃんの家に来ている。

 

大君という家格は本来のそれは、古代史語られるワカタケル大王に由来するもので、その家系図を辿るとそこには

〘やんごとなき人々〙つまりは大和朝廷頃に分かれた家格であるといえる。

さて、関東に居を構える彼等の家は東京の中心部から離れた場所にあり、所謂田舎と呼ばれる部類。

勝沼城という山城を改装して作られたもので、その広さは城であるがゆえに一般的なものではない。

三田氏という滅ぼされた氏族のものであったという、北条氏より献上されたものであるという。以来そこに住み続けている。

 

「凄い場所だね、東京も中心から離れると田舎があるって何よりの証拠だけれど、こんなところにまだお城が残ってるなんて……マリンちゃんの豪邸も凄かったけど、それでもあくまで家の範疇を超えていなかったから流石にここまでじゃなかったし…こっちはお城なだけあってそれより遥かに大きい。」

 

「だいたい最初に来る人達はそう言うよ、それにここに来るまで気が付かなかった?町の人、ここの城を絶対に目に入れないようにしてたこと。」

 

この城の方を見る人はいない、畏れ多い故にそれが昔からの習わし。それが、この大君という一族だ。とりわけ現在の大君清一郎ことシャアさんの手腕によりついこの間まで片田舎の小地主にまで落ちぶれていた大君家は全盛期以上の勢いを取り戻しており、彼らの機嫌を損ねればこの町はおろかこの国で生きるのにも難しくなる。

開け放たれた門より悠然と中へと入っていく、門の直ぐ横には黒装束でサングラスをした人々がいる。だいたい門の裏手にいるのだ。

 

「なんか…とてもじゃないけど普通の家じゃないみたい…手握っていいかな。」

 

「良いよ、私は顔見知りだから良いのだけれどここの人達は実際怖い人たちだから。裏の顔もあるって聞いたことがあるくらいに。」

 

3つの連郭式の内の二の丸を過ぎると本丸がある。君ちゃんの住まいは本丸御殿の更に置く奥御殿と呼ばれる空間だ。

本丸の玄関に入るが誰もいない、チャイムもないから大きな声でこう言わなければならない。

 

御免ください!星野家の愛久愛海です、美鈴様より連絡を頂き馳せ参じました。

 

シーンと静まり返った廊下へと私の声が響き渡る。まるで周囲には人がいないような、そんな空気が流れている。

 

「ねぇ、マリンちゃん。留守なんじゃ…」

 

「あかねちゃん、何を言われても絶対に怒らないでね。」

 

ビックリそんな頭に?を浮かべないでよ……来たか。

 

「ほぉ、お嬢様がまたそなたのような下賤の輩を屋敷へと入れると…少しは礼儀を覚えたようだが、まだまだ。所詮はその程度かの?

本当にお嬢様方には困ったものですの、殿に似たのかこのような輩と仲良くするとは…卑しいものよ。」

 

老婆は私を見てそう言った。あかねちゃんの姿等目に入れることもなく、私の髪を、瞳を見て言う。この人は昔からそうだ、私のことを私達姉妹の事を穢れたものとして見ている。父様に至ってはもっと酷く完全に目の敵状態だ。

あかねちゃんが一瞬驚いたような目をしたあと、何かを口にしようとして、老婆の後ろから人が来ていることを知ったようだ。

 

「婆や、下がりなさい。私が呼んだのです、何より私のご友人を悪く言うことは許しません。」

 

綺麗な濃紺の和服を纏って、髪を後ろで結っている。何処かの大河ドラマの姫のように、お淑やかに見えて美しい。

 

「ですが、このモノは混じり者その娘で御座います。大和の血筋よりも遥かに鬼共の血が…」黙りなさい!」

 

凄い怒気だ、毎回思うんだけれどそれを何処に納めているのかな?

 

「お二人共上がって?靴はそのままにしておいてください、使用人達が移動させますので。婆や、茶菓子の用意出来てますね?

ではお二人共、行きましょう。」

 

松の廊下は旧くあるがそれでも掃除が行き届き、屏風の刺繍も年代が古い事がわかる。そう辺りを見回していると、君ちゃんが話し始めた。

 

「すみませんねアカネさん、ビックリしましたでしょ?あの者もこの家を思ってのことです、許してください。まだ彼女が幼い頃…この国が第二次大戦末期、当時の満州国で平和に過ごしていた彼女はソビエト連邦軍の侵攻によって家族をすべて失い…さらにはソ連兵に他の女の子たちと共に囚われて酷い仕打ちを受けていた所をある日本兵達……若き日の高祖父率いる部隊に助けられそのまま日本に帰国して彼女達を引き取り、大君家の女中として迎え入れたそうなんです。

 

高祖父への恩義とかつて外国人に受けた仕打ちによるトラウマから、大君家への忠誠心は強いのですが外から来た人に他の家の者と比べても排他的になってしまってるんです。

 

歩きながらで申し訳ありませんが、今日お会いするのは件の四宮光生です。もっとも、テルちゃんの方ですが。

 

本人もお会いしたいと言っておりました、彼も大分苦労しておられるようで、もう一人が最近無茶をしすぎると。」

 

「………?もう一人って、光生さんって双子なんですか?あんまり詳しくは解らなくて、前もテルちゃんとテル君と別けてたみたいですし?」

 

「合えばわかります。彼は少し……特殊ですので、さ付きました。」

 

和室の客間、真ん中に大木で造られたと思われるテーブルがある。直径5mの立派な切り株だ。

襖を開けたそこから、真っすぐ正面に雪のような純白の髪の腰辺りまで伸ばしたロングヘア―の小柄で美しい顔立ちの少年?少女?が座りながら、一人で将棋をしていた。私達が来たことが解ったのかそそくさと卓上盤を片付け、立ち上がった。背丈はかなちゃんと同じくらいだ。

 

「初めまして、四宮光生と申します。」

 

物腰柔らかな透き通った声は女の子または声変わりしていない幼い男の子を思わせるハイトーンボイス……前回出会った時とはまるで気配が違う。そう、まるで別人のような。たぶんだけれど、本当に別人(・・)なのだろう。JIFで会った時のこの子は底なしに澄み切っていて吸い込まれそうな眼差しをしていて、あらゆる光も透き通してしまう無色透明の真空のような神秘的な雰囲気だった。でも今目の前にいる子はどんな光も全て反射してしまいそうな雪原の無垢な白さを持つ清廉で儚げな雰囲気だ。

 

「初めまして、私は星野愛久愛海です。こちらは黒川あかね、ケンゴ君たちと一緒に会ったことがあると思うのだけれど…、本当に初めてなんですか?」

 

僕は、(・・)初めてお会いします。たぶんですけれど、もう一人の僕が貴女方と面識があるのでは?ちなみに会う時はいつも、夜間だったはずです。ちょうど僕の就寝している時間かと。」

 

「解離性同一性障害…?マリンちゃんのと同じ…」

 

「あかねちゃん?だから、私のは別にそういうものじゃないからね?」

 

あかねちゃんはどこまで引き摺るのだろうか、全く意固地だ。ハマーンさんは別に私の邪魔してるわけじゃないし、何より表に出てくることは滅多に無いし!私がそう思いながら、上からあかねちゃんを威圧しているのを横目に、彼は微笑んでいる。

 

「ゔっうん!さて、テルちゃんに愛久愛海様にあかね様?お巫山戯は、そのくらいにして話を始めましょうか?

まず、あかね様。あかね様の疑問であるテルちゃんの…いえテルくんの目的に付いて、テルちゃん説明して下さい。はぐらかさないように!!門限がありますので、本日の5時までにお三方には帰って頂く予定ですよ?」

 

「そうだね…、まず僕というか彼という存在が何を目的としているのか何だけれど、彼は世の中を良い方へと変えたいらしいんだ。それに嘘偽りは無いのだけれど、少し過激な思想の持ち主でもある。

僕も彼の意見を否定するつもりはないし、寧ろ肯定する。鍵となるのは、女性という性別と愛久愛海さん、そして君さん…貴女達のような人だ。

人の心を誤解なく理解することが出来る、女性を中心にそういう人物を増やしていきたいらしい。黒川さん、君は僕と彼が何を行ってるのか解るかい?」

 

「女性優勢の社会の実現とマリンちゃんや美鈴さんのような特殊能力持ちを増やすこと…、じゃあケンゴ君や八洲さんも持ってるって事かな?

でも、自己矛盾に陥ってると思うよ?だって、その言い方だと女性を道具としか見てない。そういう事じゃない?」

 

光生さんがそれを聞いて口角を上げて、嬉々として頷く。

 

「やっぱりそう思う?!そうだよね、僕も何度も言ったよ彼にだけれど聞く耳を持たないんだ。理解できても全てを肯定することは出来ない、それは人の芯だから。

 

でも、その芯と過激な思想が形成されるのも無理も無かったんだ……何しろ彼の生まれ育った時代…世界の惨状があまりにも酷すぎたから…彼の記憶を通してその世界の惨状とその果てにある最悪の顛末を見てしまった僕にはとても彼を否定することなんてできない。それと誤解されないように言っておくけど、女性優勢の社会を目指しているからといって、彼に女尊男卑のような性差別の意識はないからね。彼曰く『男性の役割は時代に変化に促すことを始め変革を齎すことにあり、女性の役割はその変革で齎された新たな時代の平和を維持していくことにある』っていう役割分担の論理によるもので……つまり男性だと世界を始め何かを変えることは得意でも、それを維持し続けることが苦手だから変えて得たものを維持の得意とする女性の手に委ねることで平和を可能な限り長続きさせようということなんだ。もちろん、現在でも世の中のあちこちに残っている男尊女卑の風習みたいにそこを勘違いした人達の間で女尊男卑の風習が蔓延して新たな争いの火種になるような本末転倒の事態にならないように調整していかなきゃいけないけどね。

 

それに僕たちが生きるこの世界をあの世界の二の舞にはさせたくないっていうのは同じ気持ちなんだ。何より僕たちのような存在が公になる前に少しでも同胞を増やして数と力を蓄えておかないとおかないと彼の生きた世界と同様確実に僕達も君さん達も迫害される…それだけは嫌だから」

 

「…君も私と同じなんだね。私の中にも君と同じように悲しい生い立ちを辿った人がいる……そして、君の中にいる人は私の中にいる人と同じ時代と世界を生きた人なんだね。

 

だからそれは解るよ…どんなに説得しようとしても既に形作られた人の信念を、そう易易曲げる人はいない。力を持っていても実感できる程度には自覚はあるよ?

でも、じゃあなんで彼は私に彼を合わせようとしたの?確証がなかったはずだよ?」

 

「君のご両親が鍵だったのさ。」

 

「鍵ってどういうこと?」そう尋ねるのと同時に彼は私の心の中で直接語り掛けてくる……精神感応による共振、思った通り彼もニュータイプなんだ。

 

『ごめんなさい、詳しくはここでは話せない。ここの家の人たちは外の人間に対する目は厳しいのは知ってるよね。 

前に四宮 雁庵…僕の曾お爺様が四宮家を大きくするために色々とやらかして周囲に禍根や遺恨を残してるから……大君家もその一つ。

その禍根が原因で君さんと僕が婚約する時だって相当の一悶着があったんだ…その時は彼女のお父さんがどうにか黙らせてくれたけど、故に僕に対するこの家の人たちからの風当たりは貴女よりも強い。

なので、ここではそうした危険があるせい全部を話すことは出来ない、今日ここで僕の口から直接話せる範囲も断片的になる。だから、今度は僕の家で改めて貴女と会いたい……そこでなら、彼を起こせる』

 

『結構手間がかかるね。私達はやろうと思えばこの場で入れ替われるけど』

 

『羨ましい…僕と彼はそうは簡単にはいかないんだ。こうして僕が起きている間にも彼を起こすことはやろうと思えば可能だけど、それをするとその間僕と彼の人格が入り混じる形になっちゃうんだ。すごく精神に負担がかかるし、最悪完全に人格が入り混じって僕は僕で、彼が彼ではいられなくなる……だからこれは緊急時とかでもない限りやりたくない手段なんだ』

 

『なるほどね。確かにそれは難儀だ』

 

『それに君さんが知ってる普段の彼……君さんからはテル君って呼ばれてる人は僕と入り混じった状態の彼であって完全な彼じゃない。

完全な彼を呼び起こすには僕が完全に心の奥底で強く眠らなきゃいけないから、完全な彼とはテル君としての僕を知る大叔母にあたるかぐや姉様や婚約者の君さんとそのお姉さん達もまだ会った事が無い、完全な彼と直接会わせたことがあるのは、ユピテルメンバーと今は亡くなってしまった僕の曾お爺様とかぐや姉様の恋人さんだけ。

こうなった以上、隠し通すのも限界だからもうお互いに会った方がいいと僕は思うから……こっちはユピテルのみんなを呼んでおくし、君さんと黒川さんと一緒に愛久愛海さんも来て欲しい』

 

『…わかった。それと私のフルネーム、呼びづらいようだったらアクアで構わないよ。あかねちゃんを始め女の子の友達からはマリンって呼んでもらってるけど。ケンゴ君を始め男の子にはアクアで通してるから』

 

『そうなんだ。ありがとう…』

 

そうして彼は語りだす、どうして私をマークして彼と合わせたのかを。

 

 

 

〜sideあかね〜

 

私達は黒塗りの豪華な送迎車に揺られて帰路に付いている、私の横にいるマリンちゃんは少し複雑な表情をして私と一緒にいる。

時折彼女がため息を吐きながら何かを呟いている、何を思考しているのか私には解らないけれど、でも苦悩しているのはなんとなく解る。

 

送迎の人は、私達のことを見向きもしない。きっとここでした会話は大君家には筒抜けで一字一句全て報告されるんだろう。光生君もそれを察しているようで

 

「これ以上のお話は港区にある僕の家で」

 

と促し、私達の方も門限が迫ってたことも含めてそれを理解し、今回はそこで話を切り上げることにした。その直後、美鈴さんに

 

「よくできましたね、流石は私のテルちゃんvいい子いい子v」

 

とゆったりとした和服をも大きく盛り上げてしまっている彼女の豊かな胸に彼の小さな頭がスッポリと埋まってしまうほど抱きしめられて。

 

「だから子ども扱いはやめてぇ~(泣)」

 

「私にとってはテルちゃんは婚約者であるのと同時に子供なのです。こんな奇麗な心を持つ子が汚れるなんて私は耐えられませんもの……それとねテルちゃん、こういう私的な場では私の事は君さんじゃなくて君ちゃんと呼んでって何度も言ってますでしょぉ~」

 

「でも、アクアさんと黒川さんの前で……」

 

「この二人はお友達だから大丈夫ですよ。でも私は傷ついてしまったことには変わり在りませんわ…あとで寝室に行きましょうそこで私の可愛い赤ちゃんになってもらいますわぁ~…たっぷりとお世話して甘えさせてあげますv」

 

「い、嫌だぁ~~~(大泣)」

 

「ああ~早くテルちゃん、テル君…貴方たちとの赤ちゃんも欲しいですわ。私はテル君に言われるまでもなく十人でも二十人でも好きなだけ産んで差し上げますから……私と貴方で新しい時代のアダムとイブとなり、生まれてくる子供達と一緒に世界を救って差し上げましょう。その日も間もなくやってくる……今から楽しみですわ」

 

とマリンちゃんのそれにも匹敵する程の彼女の大きな胸の中でジタバタして幼子のように泣いている光生君の姿と重すぎる彼への愛情と自らの性癖をうっとりとした表情で嬉々として語る美鈴さんの姿に先程までの陰鬱な雰囲気が全て吹き飛んでしまい、同時に私とマリンちゃんのそれぞれスマホに送られてきた東京の港区にある彼の家を住所を見て、私は再び仰天することになり、マリンちゃんも思わず目を見開いて固まっていた。

 

マリンちゃんの家も凄かったけど、美鈴さんの実家であるお城の前には霞んでしまって、その許嫁にして四宮家の後継者とされる光生君に至ってはそのお城ですらもはや……世界ってこんなに広いんだなぁ…………

 

いけない!いけない!今はそんな事より、気落ちして考え込んでいる友人を励ますことが先決だ。こんな状態の彼女を放っておくほど私だって薄情じゃない!!

 

「マリンちゃん、ケンゴ君の事信じてる?」

 

そう私が声をかけると彼女は瞳を少し潤ませながら、こちらを見上げた。

 

「信じたい、彼からの愛は嘘じゃないって愛してるって言葉は真実だって、そう想いたい。彼が私を道具として見てないって。でも…心配なんだ。」

 

光生君の言っていた言葉は彼女を何かしらの道具として見ている言葉だった。彼の中の人物の目標は、マリンちゃんや美鈴さんのような特別な女性を利用して長い年月を経てやっと実現できる。

そのために、ケンゴ君を餌にしたそれを光生君自身は悪く思っているけれどその中の人物は、おそらくそれを何とも思っていない。

だからこそ、ケンゴ君が本心で彼女を愛しているのかは未知数なんだ。その一方で、光生君と美鈴さんはというと彼女は光生君のことを純粋に愛していて、光生君の方も…まあ私よりもいろんな意味で玩具にされてる所はあるけど彼女への愛は本物のようで、その中にいる人の理想にもやり方はさておき賛同しているようだ。

 

マリンちゃんにも自分と一緒に新しい人類の母となってくれると嬉しいと語っていたし……正直彼女の事は未だに怖いが、改めてマリンちゃんと光生君のことについてどう思ってるのかは恐る恐る聞いてみたら

 

「愛久愛海様はかな様と共に家族以外の人間との繋がり方を教えてもらいました。テルちゃんは、私の心に癒しと安らぎと愛を与えてくれました。テル君は私に夢を見せてくれました。皆様がいなければ私は今も両親とお姉様達以外の人と世界は灰色に見えていたことでしょうね」

 

とそう語った時の彼女の真黒の瞳には一瞬だが小さな光が灯ったのを見た気がした。時間が無かったので、詳しいことは聞けなかったがそれまで同じ人間に思えずにいた彼女に人間味を始めて感じたのは気のせいではない……ケンゴ君とマリンちゃんとの今後の関係も気になるが、彼女とも改めて話し合った方が良いかもしれない。

 

「次に光生君の家で直接会って話してみれば良いんじゃないかな、そうすれば貴女の力があれば解るんじゃ?」

 

「そんなに便利だったら、今までも苦悩するなんてことは無かったよ。愛ってなんだろうね…私には解らないよ。本当に私は愛されているのかも解らない。君ちゃんと光生君が羨ましいよ……あの二人の想いは既にそんな計画に関係なく本物だもの……私達もそうなれるのかなぁ……」

 

恋…私は誰かに恋をしたことがない、だから私が彼女がどんな想いをしているのかも想像するのが難しい。

本や劇での愛を恋を知っているけれど、実際に私がそれを感じたことは無い、だから

 

「アドバイスは出来ないけれど、相談に乗ることは出来るから。だからいつでも頼って、私も貴女と同じように苦悩する事もあるから、その時は頼らせて?私達友達でしょ?」

 

「ありがとう…頼らせてもらうよ。」

 

頼らせてもらう…嘘だね、また抱え込むつもりだよこれは。

 

「マリンちゃん…こっち向いて私の顔をしっかり見て?」

 

彼女の瞳は深い蒼色、まさにアクアマリン。吸い込まれるような、宇宙の色。

 

「私の目は嘘吐きの目?それとも」

 

「今は違うよ…だからな」抱え込まないで?吐き出して?何があっても、私は貴女を信じるから!」

 

嘘をつくと直ぐに解る、演技しているって直ぐに。彼女の瞳にある星は、嘘を付くと輝いて見える。

 

「私だけじゃない、かなちゃんもルビーちゃんもお父さんもお母さんも、皆信じてあげて?誰かを疑って生きるのはきっと辛いことだから。」

 

そう言って私は彼女の頭を優しく抱きしめる、こういうのがきっと1番落ち着く筈だから…確証はない、単なる勘だけれど。

 

 

……

マリンちゃんと別れて家に帰ると早速私はパソコンを起動して、保存してあったデータと、作品の内容をメモに書き写しとある人物について羅列していく。

 

初めはマリンちゃんを助けなければならないという使命感に駆られて始めた、安室さんの考察だけれど…今は仕事でもある。

彼の演じる役柄の娘であるのだけれど、父親としての彼をいかに分析するかによって、彼の自然な反応を引き出せるのではないか?と、そう思ったのは最近のこと。

オーディションまでの間にできる限り詰めたかった。

 

そんな時に、美鈴さんの家に呼ばれ一つの物事に対して確信を得た。

やはり彼こそが、〘哀の戦士〙なのだと。

だとすれば、彼の自然な動きを見ることが出来るのはこの機会を置いて他にはない。

人を愛し家族を愛した人がなぜ、未来を変えようとしたのか。それがあの小説に積まっている。

 

その上で、父親という存在が子供に対してどう接するのか?あまり頻繁に合うことのない、離婚した相手の子供と合う時父親はどう接するのか。

合うことが叶わない娘と出会う事が、どれほど嬉しいのか…。

 

「そう言えば…ルビーちゃんがそんな感じの夢を見るって言ってたっけ?」

 

だとすればきっとその子が会いたい人なんだろう。

 

 

 

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