〜sideアクア〜
窓を打ち付ける音、揺れ動く硝子、それらが全てを掻き消して何もなかったかのように、部屋の中に響き渡る。
二人はベッドに横になり、互いに貪り求め合いその水音は、世界に掻き消される。
火照った身体から杭は抜かれ、私の下腹部の内側が寂しさに震える。
汗と湿気によってじっとりとした身体は気怠さとは裏腹に、満足感と多幸感に満ち溢れ、私が女であることを自覚させる。自分の身を守るために作り上げていた男という偽りの殻に身を包んでいた頃の私が現在を私を知れば卒倒するんじゃなかろうか。
そして波が引き、私は自我を目覚めさせふとベッドから身体を滑らせ、一人シャワールームへと行く。
シャワーよりの湯は、私を清め肢体についた様々なものを取り払ってくれる。役作りの観点から以前は忌々しく思っていたこの豊かな体つきも彼が求めてくれるようになってからは私の誇りとなった。中でも男と女の体を分かつ象徴とも言える胸と尻を石鹼水を浸したボディスポンジで入念に洗う……
私には分かる、また大きくなってしまうなと……特に胸は現在は翡翠も抱くようになってるから、実質二人の男の子に好きに委ねられてると言っていい……ただ、翡翠が私の胸にへばりついているのを見た母様から色んな感情が綯い交ぜに篭った複雑な目を向けられたけど……ルビーからも
「やっぱり男は老若問わず大艦巨砲主義なんだね」
といつもは星の輝きを宿した目が黒ずませた生暖かい視線で見られてたし……かなちゃんに至っては
「翡翠が歪んだ性癖を持たないようにしっかりと見張る必要があるかしらね」
と睨んできたな……全くいい歳した女たちがみっともない。翡翠が求めてくるのなら、いくらだってこの胸を貸そう。悪いが皆が何と言おうとお姉ちゃんは翡翠に味方だ。
私がそんな想いに浸っていたところで彼はというと…眠りについていたがどうやらちょうど今起きたらしい、タイミングは良いが果たして?
「おはよう…よく眠れた?」
「良く言うよ、散々やったんだ寝不足気味だよ。やっぱり君は父親似だね。」
そんなにも似ているだろうか、確かに髪の色や身長とかはそっちの遺伝が強いと思うけれど。
「自覚無しかい?……なぁ、俺は誰なんだろうな。」
「誰でも良いよ、貴方は貴方何だから。それ以外でも何でもない、だから余計なことは考えずにただ前を見て歩いてよ。」
「解っている…ただ俺は、利用されるだけされて君の未来を変えてしまったんじゃないかって。宏一みたいには割り切れないし、光生のようにあるがままに生きて受け入れていくことも八洲さんみたいに強い信念の下に突き進むこともできないからな」
心配してくれるんだ…嬉しいけれど消極的なその態度はちょっといけ好かないな。
「ふふ、あのね?今私は幸せなわけ、だからそんなの関係ない。それに…私は貴男のことを愛してるんだから。」
恥ずかしくも何とも無い、誰かに見られているということでもない、だから。
「それに、女の愛撫で男を奮い立たせられるなら、女はそれをすることだって出来るの。雄々しさで覆い隠してしまって本来の女としての自分を見失っていた私に貴方はそれを教えてくれた。だからね?もっと自分を信じて?」
「あぁ、自分を見失わないように今までの事を無駄にしないようにしていくよ。」
そうでなくっちゃ、私のことを支えてくれた人が簡単に折れてしまうなんて悲しいから。
「だからこそこのままじゃ駄目だと思うんだ。」
彼は何かを決意した瞳をこちらに見せて、一言私に言った。私はそこで眼の前が真っ赤になった。
……
B小町の特設スタジオ、私はそこに来ていた。
空調もしっかりしていて、何より湿度なんてもの感じなくて済む。とても清々しい場所だし、何より地下だからどんなに大声を出しても関係ない。
「どうしたの皆?そんな怯えた顔しちゃってさ。」
かなちゃんの顔が引き攣っている、どうしたんだろう何か怖い事でも有ったのかな、親友として相談に乗らないと。
「ねぇ、何か心配事でもあるの?話聞こうか?」
「いや、私こそあーちゃんに聞きたいことがあるんだけれど…その殺気抑えてくれない?MEMさんが怯えてるから…」
かなちゃんの指を指した方向には、私のことをまるで修羅のように思っているMEMちょがいる。人生経験豊富な彼女だ、きっと私達の中で私に何が有ったのかきっと直ぐに結論に達したのだろう。
普段の私ならば、握力を入れないものにもまるで八つ当たり気味に力を加えているし、何よりきっと目が笑っていないのだろう。私としたことがこれはいけない…感情を抑えなければ。
「ねぇお姉ちゃん…もしかしてだけど、その…振られた?」
しかし、昂った感情をどうにか抑えようとしていた矢先ルビーのその余計極まりない一言が私の目を尖らせた。
「はぁ?振られたわけじゃないし、心配されてとりあえず距離置こうって言われただけだし。私の事を嫌いになった訳じゃないのは解ってるから、だから絶対に違う。」
「でもマリリン重い女そうだから…案外耐えきれなかっただけなんじゃ…」
「MEM……ちょっと廊下で話をしようか?」
私が重い女?何処が?私はただ、ケンゴ君の事が心配で、だから彼を縛るものを全部破壊して彼を自由にして、その後二人仲良く暮らしたいだけなんだけど?
「二人とも流石に今のは普通に失礼よ。ごめんね、あーちゃん…この二人には後で私からも言って聞かせておくから。とりあえず心配されてるのは本当そうだから、向こうにも色々と考えがあるのよ。それに…今からアンタは有名人の仲間入りする時何だから、それもあると思うわよ。とりあえず、互いのことを尊重したほうが良いんじゃない?」
言われなくても解ってるから…あぁ、そうか。あの男、アイツの中にいる奴を殺せば全ては丸く納まるのかな?
そうだよね〜、元凶を潰せば良いだけじゃん簡単な事だったんだ。良し…そうと決まれば上を目指そうかな?
(無理な背伸びはやめておけ、今回の事はお前には手に余る……お前が惚れこんでる小僧の背後にいるのがあの男なら小娘の敵う相手ではない、逆により踊らされるだけだ)
(このまま漫然と流されるのは嫌!こういう時は自分から動かないと後で後悔する……待って、ハマーンさん、あの男って……光生君の中にいる人の事知ってるの?)
(……まだ完全に確信してはいないのと下手に情報を与えて先入観を持たれるとお前が対応を誤りかねなかったからな……だからあの時は沈黙に徹していた。しかし、こうなった以上何の情報も与えぬのもまた良くない。なので具体的なことはまだ言えんから殆ど抽象的なものになるが、いいな?)
(構わない、右も左もわからない手探り状態になるよりはいいよ。だから教えてくれない)
(……私が知るあの男は危険な男だ…まぁこれはかつてのシャアも方向性こそ違えど大概な所があったがな。
あの男は正しく天才だよ、軍人・科学者・政治家、ニュータイプとしての能力を始め才覚的な面に置いては私やシャア、そしてお前の父…アムロ・レイよりも上かもしれん。
ただ、そうした人間にありがちな所として人の好き嫌いが激しいからな、気に入った者は重用する特に女はな…逆に気に入らない者は容赦なく排除する……まあこれはお前にも覚えがあるだろう。
アムロ・レイは奴と直接の面識がないから今回は流石のアイツも打てる手が限られる。私以外であの男を知るのはこの世界ではシャアだけだから、あの男絡みで何かあればシャアの方に相談に行け。いいな)
〜sideルビー〜
黒いオーラを纏い始めているお姉ちゃんを私は見つめている。いや、見つめていると言うかなんというか冷めた目で見ていると言った方が正しいと思う。
というのも、お姉ちゃんは基本こうと決めたことをやろうとするけれど、人が良いから基本悪巧みは失敗するから。
というか、ここ1年で解った事があるけれどお姉ちゃんに悪事を働くことは出来ないのだ。
だって、恋愛リアリティショーに独断で出た時が良い例だったように良からぬことを考えると基本物事が良い方向に進まないし、小学から中学までの成功体験がここで足枷になっているのは明らかだ。何かを画策するとか、自分の為にとかそういうのをやると良い人が出てしまう。
パパに似て優秀だけれど、パパと違うところは覚悟が中途半端すぎるんだ。きっとそれは、人殺しを淡々とやろうと思えば出来るパパと、人殺しなんてそもそも知らない私達との違いなんだろうけれど。たぶんこの世界でパパと同じ価値観の人は表の人じゃ絶対に無い。芸能界もまだまだ表側だもの。
とにかくそういう甘いところもお姉ちゃんの長所でもあり、短所でもある。クラスのいじめ事件の解決や後輩の子が毒親からの虐待を受けていることに気付いた時、女子が悪徳教師に弱みを握られて陰で辱めを受けていたのを解決に導いた時のように皆の為に何かをしようとすると、良い方向に進めるんだからそういう人を前面に出せば良いんだけどねぇ…
そうだ、美味いこと誘導してお姉ちゃんが加入したいとか思ってるのなら、ママに否定してもらおう。そうすれば、諦めが付くはず。
「ねぇお姉ちゃん、ケンゴ君を見返してやりたいんじゃない?」
「え?まぁ、そうだね。何?良い方法でもあるの?」
「私が言いそうな事あるじゃん?ほら、たぶん直ぐに解ると思うけれど?」
そう言ってあげると、顎に手を添え始めた。何やら考え始めたようだ、深く考えているみたいだけれど別に私には打算とか無いし、ただアイドルとしてトップを目指してみたいというか?早くドームに立ってせんせに、私がこんなに凄い人になったって知ってもらいたいだけだけれど。
「う〜ん、ルビー。確かにその方向も良いかもしれないね、短期的に上に上がるならたぶん一番手っ取り早いし、何より私とかなちゃんは基本セットで動いてたりする。なら、私が本格参入しても誰も異論は無いわけだね?」
先輩に関して言えば、複雑な気持ちだよね。コロコロと仕事を変えるお姉ちゃんの姿を見たくないだろうし、やるならマルチタレントになりなさいとか思ってるみたいだし。
MEMちょは「やっと来たんだ」というのとB小町内での争いを恐れてる?でもたぶん1番の苦労人になるのは間違いない、B小町の潤滑油であるMEMちょがいないと空中分解の可能性だってあるかも。
「じゃあマリリンもやるってことだけれど、役者としてはどうする気なの?まさか、仕事を減らすとか?」
「それもこなしてみせるよ、だって私はルビーの姉にして星野アイの娘だよ?それくらい出来なきゃ、お姉ちゃんじゃないもん。」
「そういうの良いけれど、まずはスケジュール調整と今後のことを社長達にも話さないと駄目よ。あの人達が調整してるから私達は仕事できてるってこと、忘れたわけじゃないわよね?」
社長も副社長も胃が痛くなりそうだなぁ、それに…ママは応援してくれるとは限らないし?絶対に何かしら言うはず、自分の決めたこと曲げさせるほどママは優しくないから。
〜sideアイ〜
沈黙が事務所の中に拡がっている、この状況を作り出した張本人、星野愛久愛海の方を私は見る。私の彼女を見る目はたぶん、いつもの物とは違うだろう。
きっと冷めた目をしているに違いない、大好きだった演技を辞めて今度はアイドルをやりたいという愛娘の言葉を聞いて、私は流石に呆れていた。
それと同時に私はこう思った
「あぁ、やっぱりこの子も私の娘だなぁ」
と、だって恋煩いのせいで周りが見えなくなってるから。同じ頃の私なんて、子供を二人抱えながら芸能界を歩き、嘘を振りまいて周囲を欺き、〘愛する人との子供だから〙と子育てにすら嘘を入れたものだ。なので、私もその点においてはアクアのことは言えない。
当然今は時が経ち、二人の事も勿論愛しているけれど流石にこのままあの時の私と同じ轍を踏ませるわけには行かない。
だってそうでしょ、愛する人がそれを見たら軽蔑されるかもしれないという、そういうリスクすら考えられないなんて愚かしいから。要はそこはそれ、これはこれというわけだ。
「なぁ、アクアよう。流石にそこまでの我儘は俺達だって聞けないさ、B小町は今絶賛売れだしたんだ。
急遽新メンバーを組み込むなんて、今迄作ったCDやら何やらがおじゃんになるし、やっと終わったレコーディングを〘再度取り直して下さい。〙なんて直ぐに言えることでもないんだ。
お前も良くわかっているだろう?それに、急拡大したアイドルにはそれ相応のリスクが伴うというのもある。
人間関係の破綻なんてもの俺は身内で起こしたくない。」
社長も大分丸くなったものだ、嘗ては厄介事を持ってきて私達やアムロとミヤコさんの頭を悩ませた人なのに冷静に物事を見れるんだから、こういう時は役に立つ。
私もミヤコさんもそれに賛成で、事務所の他の人達もそれはそうでしょと言わんばかりだ。
「解りました、でも限定での出場は認めてくれたのに、正式なメンバーになれないのは不公平じゃないですか?」
「ねぇ、アクア。一見すると不公平かもしれないけれど、貴女は3人の努力の上に土足で踏み込もうとしてるってことを理解してくれないと困るなぁ?そんな事やってたら見限られちゃうよ?
謎の四人目でちょうど良いくらい、レアキャラでゲストなのが貴女何だから。」
不服そうだね、でも申し訳なさも入り混じってる。自分がどれだけ無理難題を言っているのかはちゃんと分かっているわけか。その通り、貴女が知らないところで裏方は大変な思いをするんだよ。
会場を借りるのも、出演するのだって契約が全て。それを満たせない、急遽変えるなんてことをやったらお客はどんどん減っていくんだ。
ここは劇場やドラマや映画の中の架空の世界じゃない、ご都合主義で全てが引っ繰り返るなんてことはないの。怪我や風邪だとかそういうときなら例外だろうけれど。もうそれが分からない程あなたも子供じゃないでしょ?なのに、どうして急にそこまで?っと思っていた矢先に心の中にあの子が直接訴えてきた…ここにいる社長たちには聞かせられない話ってことか。
『ごめんなさい、母様。迷惑かけてるのは分かってる。でも今は例え強引でも早く上を目指さなきゃならない理由が出来てしまって。その理由は今はまだ詳しく言えないけど、私の今後の人生に関わることなんだ』
『今後の人生?まさか、ケンゴ君と何かあったの?』
『昔の父様と母様の時と似たような状況とだけ言っておく』
『……わかった。そういうことなら私も何も言わず見守ることにするね』
私達はそこで心を通した通話を打ち切る。アクアとケンゴ君の恋が昔の私とアムロと似たような状況に陥っているのなら、こればかりは当人同士で解決しなくてはいけないことだろう。
だってあの時の私達もそうだったから……確かに親としての立場がある今の私だと二人してあげられることが限られちゃうな……でもアクアが思い詰めて早まった行動に出ないように釘は刺しておく必要がある。恋愛リアリティショーの時のようなことはもう嫌だもの。
「あ、ちなみにアムロに言っても無駄だよ?私から先にメールしといたし、何より会社全体で決めたことだから、だから今回は諦めて?そうだなぁ、次の貴女達の合同ライブが終わって、その後始末も考えると……今から半年後かな?半年経ったらもう1回持ってきてよ。そうすれば検討は出来ると思うから。社長それなら大丈夫だよね?」
「ああ、勘違いされないように言っておくがアクアが正式にB小町のメンバーになることを反対してるわけじゃない。それについてはむしろ俺も歓迎なんだよ、確かにルビー達は今波に乗っているが、次の飛躍に繋がる決め手が欠けている……。
かなの本質はあくまで役者だからアイドルとしてのカリスマ性ではかつてのアイや現在の不知火ころもの発するソレと比べるとやはりどうしても限界がある、ルビーはアイ譲りの素質はあるし、本来ならアイツこそがセンターの器だが歌を始め技術がアイツのカリスマにまだ追い付いていないせいでその座をかなに預けざるを得ない、MEMちょもまだユーチューバーとしての印象が強くてほとんどがその頃からのファンで占められていてアイドルとしてのあいつを見てくれる新規ファンを獲得する為の武器がまだない…だから今のB小町を中堅から上位に出世させるのに決め手を探してたんだ。
だから、アクアお前が来てくれること自体は渡りに船なんだよ。お前は歌が上手いし、スタイルも抜群、パフォーマンスも一流、そしてかつてのアイとは性質こそ異なれど人を問答無用で惹きつけるカリスマ性がある……その証拠にこの間のお前がゲストとしてステージに立った時、一気にB小町のフォロワーが激増したのも事実だ。ファン達からもお前が正式に加わってくれること願っている声も数多い。
だがな、お前を迎え入れるのにも段取りを組み立てることを始め準備がいるってことだ。いくら渡りに船が来ているからって助走も無しで飛び込もうとすれば、間の海に落っこちることになる……要はお前を迎え入れる為の準備をする時間の余裕を俺達にくれって言いたいのさ。悪いが今すぐは流石に急すぎる……それにお前の方でも事情が変わって気が変わる可能性だってないわけじゃないだろう。
だからアイが言ったようにまず幕張での合同ライブを後始末まで含めて全部無事終わらせなきゃならねえ……安心しろ半年もする頃にはちゃんとこっちも余裕を作っておくからよ」
「わかりました。今年中に何とかしてくれると約束していただけるのなら」
親としては子供を甘やかしたいけれど、コロコロと仕事を変えると信頼が無くなるからそこは覚えてねアクア。だから今回はこれで終わり、貴女なら解ってくれる筈だしね?
ルビーからは説得してオーラが出てるしね。アムロ、家では頼んだよ?この子は私よりも、お父さんの方が好きみたいだから。
〜sideアムロ〜
「アイドルになりたい?」
唐突に娘の一人がそう言うとは、正直驚いた反面。この子は、絶対にアイドルになりたいなんて思っていない、という確信が持てる。
何故なら家には昔からずっとアイドルになりたいと、心の奥底から叫んでいた
「演技は学んだみたいだけれど、嘘は下手になったね?去年の今頃の君なら、たぶん俺すら欺いていたんじゃないかな?」
「嘘ってどういう事?なに言ってるか解らないけれど?」
本人としては色々と理由があるのだろう、たぶん痴情の縺れがいい線を言っていると思う。
男の身体を知っているし、付き合っている人物がいる……いや、たぶん〘いた〙が正しいか。この感じは見返してやりたいのか?
「確かに見返してやりたいという目的のための手段としては、悪い手ではないが今の自分の状況から、その手を悪手にしているね。それに気が付かない程に盲目になったのかい?」
苦虫を噛み潰したような顔をした。そんな顔を見れば力を使わなくても分かるよ…本当はちゃんと俺の言ったことの意味を分かってはいるがそこから目を背けているな。
悪いがコレはルビーの今後を左右する事なんでね、真剣に当たらせてもらう。
「良いか?一時の気の迷いで、自分の妹の夢をめちゃくちゃにしようとするのは、姉のすることか?違うだろう?
互いに夢を尊重しあってきたのに、今になって裏切るのはルビーにとっては一番嫌なことだと思うんだが…どう思う?」
「じゃあ父様……私はどうすればいいの?」
納得はしているけれど、理解したくはないか…。アクアは頭の良いこの子だ…俺が今言ったことなどホントはとっくに気づいてはいて葛藤していたが、現状では他に最善手が見つからず、ルビーには申し訳ないと思いつつも苦渋の決断をしたつもりなのだろう。
「諦めろとは言わない、だがそれなら今の自分を大きく見せる事を焦点に置いて活動したほうが、より健全でより君を魅力的に出来ると思うんだがな…?急ぎすぎれば何かが破綻するかも…駄目かい?」
「駄目じゃないけれど…私の演技で上を目指せるかな?流石にかなちゃんとあかねちゃんのようには……」
「嫌に悲観するじゃないか…大丈夫。君は同い年の役者の中では郡を抜いている、今君が言った二人を筆頭に周囲のレベルが高いのが何よりの証拠だろ?特に今の台詞を二人が聞いたら間違いなく怒るぞ。あの子たちこそが君の才能を誰よりも高く評価して認めているんだからな。君が今すべきことは自信を持って今までの積み重ねを活かしていけば良いんだよ?」
諭すとはこういう事で良いんだろうか?肯定と否定するのはこうでいいのだろうか?俺の親父は両方ともそういう人じゃなかったから、これが正しいか解らないが。今はこれしか言えない。クェスの時はちゃんと向き合おうとせず碌な言葉を掛けてやらなかったせいで彼女は暴走してシャアの元に走り、そしてシャアも自分の元にやってきたクェスに対して俺と同じ失敗をしてしまったせいで彼女を破滅に導いてしまうという最悪の結果を招いてしまった。あんな悲劇が繰り返されないよう、今度こそ俺は父親をしっかりとやらないといけない。
「解った、それでも駄目ならまた相談に乗ってくれる?」
「あぁ、勿論さ。それに、俺も彼には色々と聞きたいこともあるし。俺は俺で、君の目的の人物と会えるように都合をつけている最中だしね?だから、君が無理しなくても大人である俺の仕事だ。良いね?
じゃあ気分転換にツーリングでも行くかい?」
若者の道標となるのが大人の仕事ならば、そのとおりにしてみせよう。これが俺なりの子育てだ。