「いや〜、3人ともいい演技でした。ドラマの視聴率も平年のものよりずっと良いですし、何より君達のお陰で僕の評価も良いですし、本当にありがとうございます。」
俺はそう言って高校生3人に頭を下げる、ペコペコするのはいつものことでこうやってしておけば、役者との印象は悪いものにはならない。
何より、これで俺の脚本に対して顔も演技も棒の役者が来ることは無いだろう。
そんな事があって言い訳がないのだ、俺が描く脚本は俺のものではない。俺が心を燃やし萌やした、あの世界で最も俺を救ってくれたゲームのそれが入っているのだ。だからこそ、失敗するわけには行かない。
この世界が…〘推しの子世界のif〙ならばキャスティングは地雷以外は間違いなく成功するのだから。
この世界が何の世界か、俺が気が付いたのは高校2年の夏だった。
記憶を保持したまま生まれ変わり、屈辱の3年間と言うなの赤ちゃんプレイ、それでも精神を病まなかった自分を褒めてやりたい。
そしてある時俺の転機となる人物が来た。馬鹿な連中だと周囲の友人の事を思っていた小学生時代、一人の転校生が現れた。
〘安室 嶺〙英国人と日本人のハーフ、達観した性格に俺のように周囲の人間との壁を感じた。それこそコイツのことを転生者ではないかと思うほどに。
だが、俺の考えはある意味で杞憂であった。
この男、頭が頗る良いのだ。顔も良ければスタイルも良く、何より運動も出来て女の相手だって出来る。
人と話せば、人当たり良く誰とも軋轢を生むことはない。何より、学校の先生ですら舌を巻く。
だがこんな奴だが一つだけ大きな欠点があったのだ。
どうやらコイツの親は、嶺が6歳の頃に他界している。
それがどう影響したのか解らなかったが、確実に言えることは
〘死なない程度であれば、相手から何かをやられればそれと等価に手を出しても良い。〙という、ハンムラビ法典を持ち出してきた。
中学1年のある時、嶺に喧嘩を吹っ掛けた腕自慢がいた、そいつは腕が脱臼して二度とボールが投げられなくなった。
周囲は〘過剰防衛だ〙と言ったが、彼は〘正当防衛だ〙と言った。役者にとって顔は商売道具だ、野球部だった相手は商売道具を壊そうとして、逆に商売道具を奪われたんだ。
たぶん嶺は、たかだか脱臼がなんだと思っていたんだろうな。
俺達は内心〘スカっと〙していた。野球部のアイツは、俺達帰宅部を馬鹿にして頭もテストも出来ないくせに腕力で俺達を従わせていたんだ。
自然と俺等は強い方へと流れていく、先生や親が抗議しても俺達は嶺を庇った。奴がどれほどヤバいことをしてきたのか、それを嘆願書に纏めて嶺を庇った。
だから、この話題は当事者である俺達だけの秘密だ。
嶺に初めて声をかけたのは、中学2年の冬だった。
いつも授業中興味もなさそうにしながら、ノートに何かを書いてがそういうやつだ、先生に注意されることもない。
無視が基本、だけど俺は気になった。
「何をやってるんだ?」
そう聞くとすぐに答えは帰ってきた。
「仮想粒子と現在発見されている粒子に対しての、相互作用とその軌道計算だ。」
何を言ってるのかよくわからなかったが、スゲー事をしてるのは解った。
それから偶に話をしたり、将来の事を語ったりもした。
俺は勿論アイドルを育てたいから、プロデューサー希望だった。それが脚本家になるたぁこの時は解らなかったが。コイツの事務所が苺プロって名前だと聞いたのはこのときだ。
中3の頃、嶺は進学すべきか迷っていた。
俺にも相談してきたが、その時すら結論が出なかった。数日したら、さっぱりした顔で進学すると言ってきたんだから、あぁ女でも出来たのか?と、からかったが否定しなかった。
何故だか解らないが、同じ高校に通うことになりもうこの時は顔馴染み、友人と言っても過言ではない。
そんな時さ、嶺からチケットを貰ったんだ。
「B小町というアイドルを家の事務所でやることになった、最初のファンになってやって来れないか?」ってな!
いや~正直…薄々思ってたんだ、苺プロって名前が出てきた時からさ、この世界〘推しの子〙じゃね?って、四宮だとか四条だとか、そういう名前もチラホラあったしなんか既視感があるなぁ、と思っていたんだよ。となると〘推しの子〙と世界観を共有する〘かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜〙と〘恋愛代行〙のキャラクター達もこの世界には現実の人間として存在しているってことだ。
だけどよ?そうなるとだ〘嶺〙コイツは何者なんだ?って感想が出てきてよ、完璧で究極な人間が眼の前にいるんだ。まあ、ちょっと論理感があれだが、それでもこんな奴いたか?いや、いない!
なんか名前が〘アムロ・レイ〙に似てるなぁ〜なんて思ってたけれど、ガンダムの世界じゃ絶対に無いと、この時の俺は思ってたんだ…嶺がノーベル賞を獲得するまでは。
さて、俺はチケットを貰ってからB小町のファンになった。所謂箱推しだけれど、全員に好意を持ってサイリウムを振り誰も差別することはない。プロデューサーにはなれないようなそんな気がしていたのだが…、親に書き溜めていた〘
何が悲しくて小説家に等……と、当初は思っていたがやり始めると案外面白い。自分のやってたゲームがこっちになかったから小説にして、ラノベとか本格的な純文学にも挑戦した。
そうこうしている内にアイが急遽、休止を発表…あれ?そんな時期だっけ?と思いつつ、とある人物から電話が来た。
「子供が出来るんだが、親はどうやればいいと思う?」
嶺だった…あの情け容赦無い男が立派な父親に?パパラッチの実力も地に落ちたなと、最初は思ったさ。
俺はこう言ってやった。
「とりあえず奥さんと一緒に一歩ずつ進んできゃ良いんじゃないか?」てな、何を納得したのか解らないがありがとうと言われてそれっきり…そういや、この時アイツに電話番号教えた事なかったような?
そこからノーベル賞取ったり、ハイジャックを再度ジャックしたりと人間離れした行いをする嶺に、やっぱりと思った。
〘コイツ…アムロ・レイじゃね?〙と
それにしては学生時代は少し荒れていた気もするけれど…肉体に引っ張られでもしていたのか?それとも、何か生き甲斐が無かったのだろうか?それにアムロ・レイがやってきているってことはシャア・アズナブル……あいつもこの世界のどこかにいるかもしれないな?いるとしたら、こっちの世界じゃ何をやってるんだろうか?
ちょくちょく仕事をやりながら、連絡を取ったり俺の原作の作品に出て貰ったり、五反田っつう天才肌の監督を紹介してもらったりと。いやはや持つものは友人だねぇ、まったく。
いつの間にか俺は30を過ぎていた。あれ?アイ殺害イベントどこ行った?正直どこのアパートに住んでるとかそういうのは調べられないし、諦めも肝心だとそう思ってTVを静観していたんだ。そしたらいつの間にか、時期が過ぎて行ってあれまぁ…。
仕方がないので、星野アクアという子役を探すことに。というか、嶺に聞いたほうが?とも思ったが、野暮ってものだろう。何でそんな事聴くのかって、勘繰られたくなかったんだよ。
そこで見つけた星野アクアという、子役女優。女優である…原作崩壊してましたね、しかもしっかり役者続けてるし何より、〘有馬かな〙との仲が良い。
かなちゃんは、煽てると意外と乗ってくれるいい子なのだ。こんなに純粋な娘をどうやったら、あんな境遇に出来るのか解らない。
そして、時がさらに過ぎるにつれ嶺がアムロ・レイだという完全に確信させる出来事が起きる……そう〘哀の戦士〙だ。あの映画の内容は間違いなく、俺達の世界に存在していた〘機動戦士ガンダム〙の物語だ!
聞いたところによると星野アイが原作を務めたということだが、科学考証は安室嶺だという。
しかし、ガンダムを知る俺にだけは裏に隠された真相が分かる…この作品は安室嶺ことアムロ・レイが自分の辿ってきた人生を星野アイに書かせて世に出したものなのだろう……俺達の世界にあった劇場版と同様に3部作でアニメが構成されていて、こちらの世界ではガンダムシリーズが存在しなかったことによりリアルロボットという概念すらなかったから新時代の画期的なロボットアニメとして社会現象になるほどの大ヒットを遂げていたが、オリジナルの〘機動戦士ガンダム〙の物語を知る人間である俺にとっては大変な不満点があった。
元々ガンダムは宇宙における人類同士の戦争をリアルに描く群像劇としての物語が魅力だったはずなのにアムロ・レイの視点に偏っていたせいで、シャアの
「認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを」
や
「当たらなければどうということはない。援護しろ」
などの名台詞を言うシーンやガルマ・ザビの国葬でギレン・ザビが行った演説をテレビ越しで見た際に切り返した「坊やだからさ」の名シーン等がカットされていたことだ。
これは本来のガンダムを知る人間として許せなかった……悪いがこんな不完全な作品を俺は〘ガンダム〙と認めることはできん。何故なら、ガンダムの物語の素晴らしさはアムロの視点だけで語りつくせるものではない!俺は前世の頃からアイドルもののメディアミックスを愛しているが、それと同じくらい愛しているのがガンダムシリーズだからだ。アイドルものは高校生になってからハマったが、ガンダムは小学5年生の頃に始めて見た時からの付き合いだからな。まぁ最初にのめり込んだのは一つ一つの作品が独立していて敷居の低いアナザーガンダムからで、宇宙世紀の物語にハマったのは中学生になってからだったけど。
決めたぞ、次以降の〘哀の戦士〙シリーズの脚本は俺が絶対に関わるぞ!さもないと、このシリーズは不完全なままだ!俺がこの世界に転生してきたこと…そして小説家兼脚本家になったのにはこの為にあったのかもしれない。まずはアムロ・レイこと安室嶺からの視点じゃ絶対に書けない外伝で描かれた宇宙世紀物語を書いてやるか……あいつは一年戦争の後に幽閉されてグリプス戦争ことZガンダムの物語が始まるまでは外の状況にろくに関われなくなるから0083の物語であるデラーズ紛争の詳細とかは全く書けないだろうからな。今からさっそく行動開始だ、仕事の合間を縫って0083の物語を小説として執筆を密かに進めておくか…あの物語はZガンダムの物語に直接繋がるからこちらの世界では時系列順に宇宙世紀の物語が展開されていくことを考えると、これは外せないからな。
さて、自分も良い歳になったしと言うことである映画の脚本を発注されて描いた。
実にアッパレな出来だと、自分を褒めてやりたいよ。初めての大口受注。
俺の渾身の作品だぁ…ぜってぇ成功させるんだぁ。だから監督は絶対に五反田で、又兵衛は安室にやらせる。
そして…姫様は身長差と長髪の似合う演技も輝く!あの星野アイにやってもらったのだ!
ほんで、その映画の興行収入は世界にも宣伝したことから、2月現在の興行収入は512億、邦画の実写としてはかなりいい部類だが世界的に見たらまだまだ序の口、公開から1月と経っていないことを見るに、相当広報が良かったんだろう。
俺の元居た世界でもそうだったが、近年は復権を果たしたゴジラシリーズを筆頭とする怪獣映画を始めとした特撮と『哀の戦士』を筆頭とするアニメにばっかり豊かな才覚を持つ有能な人材が取られちまっていたのが業界全体の悩みの種だったからなぁ。
でも無理もねえよ、五反田監督も愚痴ってたように日本の環境じゃ実写で自由にやれる範囲が限られてたし、最近はハリウッド映画でも政治目的の規制が強くなって、実写映画の価値はもはや洋の東西問わず下がる一方で現実の論理や事情に縛られず自由で斬新な物語が展開できる日本の特撮とアニメは世界中から注目の的になる程の大躍進を遂げちまった。
昔は特撮とアニメはガキが見るもんだってバカにされてたのが、現在では完全に立場が逆転しちまって時代劇やドラマとかは衰退の一方だった……この映画のヒットが特撮とアニメ以外の日本の作品もまだまだ捨てたもんじゃないってことを証明できたのであれば嬉しい。
一応ハリウッドスターが主演の一人なんだ、これくらい行かなきゃね。そしてもう一つ、この映画に俺が関わった目的として安室と星野アイに接触することだった……なにせこの世界ではガンダムシリーズこと〘哀の戦士〙シリーズの権利は二人にあるから、俺がシリーズの制作に関わる為には二人にまず貸しを作って言い方は悪いが取り入る必要があったからな。挨拶に伺った所、安室が俺に気付いてくれた……お前からすればその他大勢に過ぎなかっただろう俺のことをまさか憶えていてくれてるなんて思わなかったよ、俺なんて学校のクラスメイトの奴なんて余程親しかった奴を除いて付き合いはそれっきりなのに……だから嬉しかったよ。その日の俺達はアイツの御用達のバーに誘われて思い出話に花を咲かせつつ、密かに書き上げていた小説〘哀の戦士外伝 星屑の記憶〙を手渡した。〘機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY〙に〘劇場版のジオンの残光〙と後に漫画でリメイクされた〘REBELLION〙で追加された設定や描写を付け加えてリビルドする形で書き上げたものだが、目の前にいる男にとっては現実だった話だ。少し読むだけで、あの普段は超然としている安室……いや、嶺が驚きに目を見開いて「君は一体?」と問いかけてきたが、俺は微笑んで「俺の書いたそいつを世に出したいだけさ。だから、話はまずそいつを読み終わってからにしてくれ」と言って俺は勘定を支払ってあいつと別れた。
そんな近況を報告しながら、俺は〘アイドル〙という〘推しの子〙アレンジを描いている。脚本は既に最終前まで出来上がっているが、それでも悲劇にするか喜劇にするか迷っているのだ。
だから指が進まない…
「どうすべきか…」
演者たちに聞こえるように言う、答えを知りたいよ。ねぇ、原作登場人物たち!教えて!ハッピーエンド?バッドエンド?
でも、星野愛久愛海ちゃんの笑顔を見ていると…ハッピーエンドの方が良いのかもなぁ〜。
この、世間知らずなお嬢様感のある実に日本人離れしたセクスィ~でダイナマイトな容姿の娘が映えるのはそっちだろう。英語もできるって言うし、金髪碧眼のクォーターなら外国人役もできるだろうな。今回の作品の撮影が全部終わった後、次の作品の脚本ではそういう役で愛久愛海ちゃんを引っ張って来れないかどうかを上に根回してみるかな?
そう決心して、ハッピーエンドを描くのさ。
家に帰ると妻と、18になる息子15の娘が俺を出迎えてくれる。
アーリア系インド人風の妻、名前は〘らら〙。
凄くララァ・スンに似ているし、声もそっくりだ。だけれど普通の女性で良く気遣ってくれる。
偶に一緒の現場に来たりともね。不思議な事に嶺が来る前にはいなくなってしまうんだ、不思議だよなぁ。
「あら、もしかして今のドラマの脚本?面白そうね、でも私に見せないでくれない?いつも楽しみにしているの。」
「解ってるさ〜、俺の作品好きなんだろ?結末なんて、絶対に映像にして見せてあげるよ!」
きっと嶺も良い奥さん見つけてるだろうし、良い家庭を築けてるかもなぁ、俺みたいに。
「そっちは?」
「あぁ、これかい?これはねぇ、新しいドラマの脚本だよ。古い作品のリメイク何だけれど、社会描写とかも少し新しくして、背景はそのままにブラッシングしたようなそんな内容かな?
貧乳貧乏マジシャンと頭の硬い巨根天才物理学者の、ドタバタコメディとでも言うべきかな?」
さぁ貧乳の役は既に決まっている、身長高く無くとも出来るだろ?後は誰にすべきかな?歳の差は確か元は16年くらいだったな、だが…若く見える人物ならば問題ないか?
嶺はあまり使いたくないな…では……
こうして俺の夜はふけていく