魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった 作:鳩胸な鴨
「……どうしたと言うんだ、私は」
クレープを食べ終え、そこらを散策すること1時間。
舞い上がりかけていた意識を無理やりに戻し、軽く自己嫌悪に陥るリヴェリア。
帰宅部の好き勝手に付き合ってから、自分がおかしな方向に行ってるような気がしてならない。
これまで帝国の剣として身を捧げてきた騎士であり、誇り…「不落のリヴェリア」を捨ててもいいとすら思えてしまう。
その考えが頭をよぎるたび、自分のそばに居てくれた親友の顔が頭をよぎる。
と。そんなリヴェリアの葛藤など知ったことかと言わんばかりに、帰宅部が建物が並ぶ方を指差した。
「あそこが普段の遊び場な。
ここらは個人経営の隠れた名店とか多いけど、学生が遊ぶとこねーんよな。
あっちは国道沿いだから、それなりに遊ぶとこ沢山あるんだぜ?
カラオケとか、ボウリングとか、映画館とか…、まあいろいろだ」
「…どれも初めて聞くな。
お前たちの文化は、娯楽が発展してるのか」
「俺らっつーか、お国が、だな。
今時は総理大臣…国のトップが人気ドラマに出てくるような時代だし」
「………威厳、なくないか?」
話を聞く限り、国のトップとして必要な威厳が、まるで感じられない。
リヴェリアが呆れと怪訝を込めた瞳を向けると、帰宅部もまた、呆れるように答えた。
「そらトップが国民から年がら年中ボロカス言われるようなお国だしなぁ。
テメェらが選んだんだろうが、とか思いながら働いてそう」
「国のトップを、国民が選ぶのか?」
「うん。そう言う仕組みの国なの。
お前らんとこはどうなん?」
「……君主制だ」
リヴェリアは忌々しげに吐き捨て、帰宅部から視線を逸らす。
帰宅部はその表情の変化に気づきながらも、それを突っ込むような真似はしなかった。
「へー…。ま、あんまいい王様ではねーだろうな。テメェみたいなガキに大役任せるくらいだし」
「……不敬な。極刑ものだぞ」
「ウチは不祥事起こしたやつにマイクロビキニを着せる文化があるような国だぞ。
不敬罪なんてモンが罷り通ってたら、ウチは犯罪者ばっかだ」
「………ごめん、もう一回言ってくれ」
今何か、聞き捨てならない単語があった気がする。
気のせいであってほしい、と願うも、現実は残酷だった。
「不祥事起こしたやつにマイクロビキニ着せる」
「……………マイクロビキニとは、あれだろう?どうせろくでもない服なんだろ?」
「これな」
マイクロビキニが何かは知らないが、どうせ碌でもない服装なのだろう。
そんなことを思いつつ、リヴェリアは帰宅部が差し出したスマホの画面を覗き込む。
と。そこに写る、あまりに破廉恥な格好をした少女…仲間内での悪ノリで罰ゲームを受けた演劇部を前に、目をひん剥いた。
「な、え、はぇへっ…!?こ、こんなの、隠せてないではないか!?」
「そりゃそうよ。そういう服なんだから」
「痴女のそれだ…っ!こんなものをトップに着せるのか、この国は…!?」
「コラ画像だけどな。こんな感じ」
「…………文化が独特すぎて眩暈する」
マイクロビキニを着た女性の顔に合わせるように、壮年の男性の顔がコラージュされた劇物を前に、複雑な表情を浮かべるリヴェリア。
故郷でこんな真似をすれば、確実に処刑される。それこそ、考えうる限り残忍な方法で。
どんな歴史を歩んだらこんな文化が生まれるんだ、とリヴェリアが呆れていると。
ふと、あるものが目についた。
「……あれは、城、か?」
「城?………あ゛」
遠目ではあるが、自分たちの文化形態に近い城のような影が見える。
大きさで言えば大したことはないが、窓の配置からして、部屋の数は多そうだ。
根本から壊せば、楽に制圧できるか、とリヴェリアが考えていると。
帰宅部がなんとも言えない表情で、その肩に手を置いた。
「あのね、リヴェリアさん。
あれはね、ラブホテルっていうの。お城じゃないの」
「ラブ…?確か、お前たちとは違う言語でいう、『愛』だったか?
婚約する際に利用する施設か何かか?」
「うーん、間違いではないけど…。
ハッキリ言うと、気兼ねなくセックスしたいカップルのための施設なんだわ」
「……………頼む、殺してくれ」
「ヤだ」
なんでそんな文化ばっかり発展してるんだ。
実際はリヴェリアが思うような破廉恥極まりない国家ではないのだが、悲しきかな。
彼女の中の日本は、すっかり「変態の国」というイメージで固定されてしまった。
「…とても戦時中の国とは思えないな」
「そら戦争してるって思ってねーしな。
どっちかというと、災害に対応してるって感覚だわ。
お前ら、攻めるばっかで話通じねーもん。
そーりゃ人語理解するってわかってても外交諦めるわ」
「俺らみたいなキチがいて良かったなー」と付け足し、からからと笑う帰宅部。
自分が異常者である自覚はあるらしい。
リヴェリアは帰宅部に対してか、それとも故郷に対してか、深くため息を吐いた。
「……上も下もボンクラが揃ってるのだ。
上の連中は、ほぼ全員がマナリア最後の王…『アイデルの遺産』を探すことに夢中になっている。
下の連中は、手柄を立てることにばかり目を向け、戦というものを理解していない。
ただ暴れるだけが戦ではないというのに…」
言って、ぐっ、と拳を握るリヴェリア。
ソレに対し、帰宅部は「大変だねぇ」と適当に返した。
「ま、ンな苦労なんざ知ったこっちゃねーけどな。
俺らからすりゃ、『俺らン街壊すな殺すぞボケ』くらいの認識だわ」
「…私に言ったところで、何が変わるわけでもあるまい」
「そらそーだわ。世界を変えるのって、どんなに圧倒的な天才でも難しいかんな。
お前みたいな凡人一人に、凡人の俺が言ったところで変わるわけねーだろ」
お前のような凡人がいるか。
リヴェリアはそう言いかけるも、帰宅部は被せるように声を出した。
「でもさ。俺の好き勝手に付き合って、お前から見える世界は、ちょっと変わったろ。
クレープは美味いし、空は綺麗だ。
世界にゃ、空より綺麗なモンも、クレープより美味いモンも山ほどある。
昨日までのお前は、そんなこと知らなかったはずだ」
「………」
「俺の言う『リフレッシュ』っつーのはな、自分のクソつまんねー世界に刺激を与えるために、知らない『当たり前』を探しに行くことだ。
知らない『楽しい』を見つけることだ。
自分が心の底から『生きたい』って思える糧を見つけることだ。
なぁ。こんなに楽しい今日を送っても、『誇りのためだけに生きる』とかいうつまんねー人生、送りたいか?」
帰宅部の言葉に困惑し、視線を徐々に下に落とすリヴェリア。
「不落のリヴェリア」として、否定しなければいけない言葉。
しかし。青空を見上げ、クレープを食べた今では、どうしても否定できない言葉。
リヴェリアが言葉を探すかのように、視線を右往左往させていた、その時だった。
警報音と共に、人々のざわめきが聞こえたのは。
「あー…。このタイミングで来るかぁ。ベタだなぁ」
突如として現れた見覚えのある巨影を前に、パチクリと目を丸くするリヴェリア。
街を蹂躙し、ずんっ、ずんっ、と地響きを轟かせるソレを前に、リヴェリアはなんとも言えない表情を浮かべる。
あの元には、自分とそう変わらない『人間』がいる。
そんな考えが頭の中に浮かんでは消え、喉に何かがつっかえていく。
魔神軍としては喜ぶべき光景を前に、リヴェリアの顔は、どこまでも険しかった。
「…俺らがお前らにムカつく理由、ちったぁわかったか?」
「………すまない」
「別に謝んなくていい。ちったぁわかって欲しかっただけだ。
テメェらが壊してんのは、俺らの遊び場で、俺らの思い出の場所で、俺らの家なんだってこと」
「魔法少女にも言えたことだけどな」と付け足すと、帰宅部は指を鳴らす。
と。どこからか現れた猫が、帰宅部が変身に用いるグローブを咥え、とてとてと彼に歩み寄った。
帰宅部はそのグローブをはめると、破壊の限りを尽くす獣を前に、心底呆れたため息を吐いた。
「はぁー…。んじゃ、ちょっくらお邪魔虫を駆除してくらァ。
帰るかどうかは、その後聞くわ」
言って、軽く拳を合わせる帰宅部。
足の装備が展開した途端、彼はそこに搭載されたスラスターを起動させ、空へと飛び立っていった。
「…………わた、しは…」
その姿を、リヴェリアはただ見てることしかできなかった。
リヴェリア…日本の文化に眩暈がした人。この国、変態が多過ぎる。
帰宅部…暮らしてる街は、作者が住んでた場所がモデル。ちょっとインター外れた途端に田舎になるような、どこにでもある半田舎。