魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった   作:鳩胸な鴨

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ビューティ・ルビー「やってられるかァッ!!」

翌日。公園にて。

帰宅部とリヴェリアがクレープを食べるのを覗き、フィシィがなんとも言えない表情を浮かべる。

絶賛無自覚な片想い中の親友の様子を見守っているが、まるで進展する気配がない。

自覚がないのだから仕方ないことではあるが、見ていて歯がゆいことこの上ない。

赤面の一つでもしろ、と念を送るものの、まるで家族にそうするように、普通に食べさせ合っている。

こちらの文化をある程度知っているフィシィからすれば、今すぐに怒鳴り散らしたいところだった。

 

「……むぅ。当て馬でもけしかけてみる」

「やめとけ。あのバイオレンス自由人のことだ。どーせ『誰だテメェ』からの路地裏ワンパンで終わる」

 

同じく、彼女の隣でもどかしそうに様子を見つめていた科学部が、諦めを込めて告げた。

なにせ、美少女…演劇部のマイクロビキニを爆笑で済ませた男だ。

そう簡単に落ちるとは思えない。

フィシィは深いため息を吐くと、帰宅部を指差した。

 

「アレ、不能?美少女のリヴィに反応しないとか、そうとしか思えない」

「残念ながら100パー健康な人類だ。

暴走10トントラックを正面から殴り飛ばして止めたようなヤツだけど」

「10トントラックって、あれ?

あそこ走ってるデッカいの」

「それ」

「………人間?」

「人間。ひっっじょー…に!疑わしいがな。

生物部が検査したところ、生物学上はマジにフツーの人間だ」

 

ノーマルな人間は、パンチで10トントラックを止めたりしない。

そんなことを思いつつ、フィシィは帰宅部の肢体をまじまじと見る。

芯は細いが、がっしりしているように思える。

随分と昔に聞いたリヴェリアの好みも、たしか「引き締まった男」だったか。

ここまで条件が揃ってるのに、なぜ自覚しない。

ぬぐぐ、とフィシィが唸り声を上げると。

 

「見つけたぞ、『拳の魔王』!!」

 

そんな声が轟いた。

フィシィたちが怪訝な目でそちらを見ると、紅玉にも似た色合いの赤い髪を靡かせた少女が、親の仇と言わんばかりに帰宅部を睨め付けているのが見えた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「だーーーっ!!やってられるかァッ!!」

 

遡ること、1時間前。

ばしぃん、と床に台本を思いっきり叩きつけた音が響く。

そんな叫び声を上げたのは、魔法少女の衣装に身を包んだ少女…。

『最強の魔法少女』と名高い、ビューティ・ルビーその人であった。

が。その称号も今や飾り。

テレビやら雑誌の取材やらに出突っ張りの彼女は、被った仮面を投げ捨て、荒ぶっていた。

と。それを咎めるように、彼女とコンビを組んでいるクール・サファイアがため息を吐く。

 

「ちょっと、ルビー。あんまり素を出さないでよ。誰が見てるかわからないんだから」

「もう知るか!もーーー知るかッ!!

魔法少女なんて今すぐ辞めてやらァアーーーーッ!!!」

「辞めてどうすんのよ…」

 

そう。ビューティ・ルビー…本名、赤羽 ルミは元ヤンだった。

拳一つとママチャリで地域一帯の不良をまとめ上げ、別の地域の不良と抗争を起こすレベルの、バッチバチの元ヤンだった。

相当無理をしていたのだろう、彼女はがしがしと頭を掻き乱し、可愛らしく整えた髪を乱す。

サファイアをそれを前に、「ああ…」と呆れを吐き出した。

 

「ここ一年は文句言ってなかったから大丈夫だと思ったのに…」

「だって!だってぇ!!

あンのポッと出の特撮ヒーローみてぇなヤツに横から獲物取られんだもん!!」

「ああ…」

 

うがーっ!と咆哮するルミに、呆れと納得を込めて吐き出すサファイア。

コンビを組んだ当初は大変だった。

なにせ、すごろくで1番抜けした時のような悪意と快活さが入り乱れた凶悪な笑顔で、敵をサンドバッグにしていたのだ。

メディアに出る以上、その笑顔を矯正し、丁寧な言葉遣いも叩き込んだ。

しばらくすれば、本人も「この性格を露出させるのはまずい」とわかっていたようで、溜まったストレスは怪獣退治で発散し、徹底的に「ビューティ・ルビー」を演じた。

最近はやり甲斐を感じていたのか、プライベートでも笑顔が増えていたのに。

 

その矢先、歩く理不尽みたいな奴らが動き出した。

 

出てくる獲物は、大抵ペルセウス一派に叩き潰され、骨すら残らない。

先日の防衛戦も、ルミは別件で沖縄まで飛ばされており、参加できず。

結果。ストレス発散の術を失ったルミが暴走に至るのも、仕方のないことだった。

はぁ、はぁ、と息を切らしたルミに、サファイアが宥めるように声をかける。

 

「そもそも、不良に戻ってどうするの?

チームはもう解散したんでしょ?」

「解散じゃねぇ!

『拳の魔王』に潰されたんだよ!!」

 

────『うるさくて寝れねェ』つってんだろうが!!

 

ルミの脳裏に過ぎるのは、バイクに乗った不良たちを、バイクごと殴り飛ばした少年の鬼のような形相。

その少年の襲撃をきっかけに、彼女が立ち上げたチームは崩壊。

その数日後に魔神軍が襲来し、ルミは力に目覚め、魔法少女となったのだ。

そんな過去を想起していると、サファイアが訝しげに首を傾げた。

 

「なんなのよ、その拳の魔王って…」

「時速40は出てたバイクを『正当防衛』って叫んで真正面から殴ってぶっ壊した男」

「……それは、すごいわね」

「その顔…、信じてねーだろ!?」

「そりゃあねぇ…」

 

サファイアは知らないが、出来そうなのが何人か存在している。

何はともあれ、この一言でルミは更に機嫌を損ね、変身を解除した。

 

「もうホントに知らん!!」

「ちょっ…、もうすぐオンエアなのよ!?

ルビー抜きで進行しろって…」

「知らんったら知らん!!

そっちでなんとかしろ!!」

 

がぁん、と楽屋の扉を強めに閉めるルミ。

それを前に、サファイアは更に深いため息を吐いた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「はーーー…っ。どうすっかなぁ…」

 

勢いで出てきたはいいものの、どう過ごすかを考えていなかった。

変装したルミはそんな後悔を込め、ため息を吐く。

ここらは地元だが、仕事をバックれて実家に戻るというのは気が引ける。

かと言って、そこらにカフェに入れば、正体を看破されてしまう恐れがある。

無難に公園でも寄ろうか、と視線をそちらに向けると。

ある看板が目に入った。

 

「クレープ屋『ライオン座』…。

そういや、そんなもんあったなぁ」

 

舎弟の手前、一度も食べたことはないが。

この際だから一度食べてみるか、と思い立ち、ルミは公園に足を踏み入れる。

少しあたりを見渡すと、それらしきキッチンカーが停まり、中で筋骨隆々とした男が作業しているのが見えた。

 

「あれか」

 

ルミが呟き、そちらに少し近づいた、まさにその時だった。

 

「ん、こっちも美味いな」

「うむ。そちらも美味いが、私はシンプルなのが1番だと思うぞ」

「ふっふっふっ…。わかっちゃいねぇな、リヴェリア。

シンプルなのは、他の奇抜さがあってこそ際立つんだぜ?」

 

忘れもしないあの声が、少女と談笑する声が聞こえたのは。

そちらを向くと、男女がクレープを手に笑い合っている。

女の方に見覚えはないが、男にはある。

あの日、自分の全てだったグループを叩きのめした魔王。

ルミは憎悪が突き動かすがままに叫んだ。

 

「見つけたぞ、『拳の魔王』!!」

 

沈黙が漂う。

びしっ、と立てた人差し指が、少年…帰宅部の間の抜けた顔を指す。

帰宅部はきょろきょろとあたりを見渡したのち、すっとぼけた態度で問うた。

 

「…………え?俺?」




ビューティ・ルビー/赤羽 ルミ…バチボコ不良だった人。帰宅部の家の近くで抗争してたので、寝れなくてキレた帰宅部によってグループを潰された過去を持つ。趣味はボランティア。

帰宅部…知らんうちにダッサい二つ名付いてた。なにそれ知らん…。ダサ…。

フィシィ…「くそっ、じれってーな…。ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!」をやろうとしてたら、なんか面倒そうなのが親友のデートの邪魔しにきた。処す?処す?

科学部…なんか面倒そうなのが乱入してきたので、録画を開始。あとで文化部全員で笑いものにする気。

リヴェリア…クレープおいしい。デート楽しい。…ってな感じで楽しさで脳が死んでたのに、邪魔が入ったのでご機嫌斜め。
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