魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった 作:鳩胸な鴨
「………どんな状況だよ、これ」
「コイツにクレープ奢られてる」
「わかった上で言ってるんだよ」
何が悲しくて、仇にクレープを奢られなきゃいけないんだ。
ただでさえとっ散らかった感情が、さらにぐしゃぐしゃになっていく気がする。
奢れ、と言い出した少女は、気の強そうな笑みを崩さず、「どうだ、美味いだろ」と胸を張る。
お前が作ったわけじゃねーだろ、というツッコミが出かけるも、ルミはその誘惑に負け、クレープに歯を立てた。
「…………おいしい」
クレープなどという「女の子らしい物」は、番組の中で、あるいは撮影の中で、さんざっぱら食ってきた。
しかし、どれもこれも「魔法少女ビューティ・ルビーを演出するためのもの」でしかなく、あまり美味とは感じてこなかった。
それなのに、今しがた口にした物はどうだろうか。
今まで味わってきたものとは比べ物にならぬほど鮮烈に、歯を、舌を、味覚を刺激する。
ルミがそのまま二口、三口と食べ進んでいく横で、リヴェリアが帰宅部に耳打ちする。
「やはりだ。相当にストレスを溜め込んでるぞ、この女」
「なんでわかるん?」
「質問を返すが。私の前の立場忘れたか?」
「…納得」
カルチャーショックに驚きまくるイメージが根付いてしまったが故に忘れていたが、彼女は一度は領地を任された身。
ルミの抱えているものも、言葉として形容できないながらも察していたのだろう。
帰宅部がルミに申し訳なさそうな視線を向けていると、リヴェリアが肩を突いた。
「その顔はやめておけ。
相手からすれば腹が立つだけだ」
「いや、こんな顔にもなるだろ…。
俺はアイツらみたく、人の心を捨てた覚えはないし」
「だから、元凶が今更反省を見せても神経を逆撫でするだけだと言ってる。
お前は自分勝手がすぎて、そう言う配慮が足りないぞ」
「……すんません」
そんなことを言っても、2秒後には忘れてそうだ。
リヴェリアは呆れを吐き出すと、クレープをほとんど食べ進めたルミの顔を覗き込んだ。
「すまない。コイツは神すら足蹴にしそうなほどのエゴイストでな。
貴殿に寄り添うことは、多分しない」
「…うん。そんな感じするわ。アタシのこと、パーフェクトに忘れてたし」
リヴェリアとルミの追撃に、申し訳なさで縮こまる帰宅部。
そんな帰宅部から目を外し、リヴェリアは優しげな笑みを浮かべ、ルミの手を取った。
「…そこで提案なのだが、私には話を聞かせてくれるか?」
「………ん」
コイツにならいいかもしれない。
ルミは残ったクレープを口に放り込み、暫く咀嚼することで、意識を整える。
魔法少女…ましてやビューティ・ルビーであることを明かすつもりはない。というより、できない。
赤羽 ルミという存在は、彼女とイコールで紐付けてはいけない。
華々しい彼女の人生を、泥に塗れた自分が邪魔してはいけない。
そんな強迫観念が邪魔してうまく整理できず、ルミは口をまごつかせた。
「……どうした?」
「あ、いや…。なにから、話そっかなって」
「なんでもいいさ。遠慮せず、ズバズバと言いたいことを言えばいい」
「………そっか。うん、そうだな」
思考の坩堝にハマりかけていたルミを、リヴェリアの声が引き戻す。
ルミは暫し深呼吸を繰り返すと、ぽつぽつと語り始めた。
「……その、生まれがクソでさ。
ほら、聞かないか?その、男の子じゃないからって、ぞんざいに扱ったりとか…」
「…長兄が重視される家だったのか?」
リヴェリアの問いに、首肯するルミ。
実を言うと、ルミの生まれは特殊な家系というわけではない。
ただ単に、時代錯誤なだけである。
そうとも知らないリヴェリアは、彼女に親近感を抱いた。
「そんな感じ。そんでさ、中学で反抗期入って、グレたんだよ。
私に絡んできたやつを片っ端から殴ってたら、いつのまにかチームが出来ててさ。
……その中にいる時だけは、楽しかった」
「…………」
自分にひどく似ている。
ある日、突如として居場所を奪われた怒り。
彼女が恨みを抱く理由も、よく理解できた。
帰宅部もその話を聞いてか、蚊の鳴くような声で「ごめん」と頭を下げる。
「…あの日の喧嘩だって、本当は『夜中だからやめろ』って止めに来たんだ。
なのに、それも聞かずにお前はチームを潰した。
今更謝ったって、私のチームは帰ってくるわけじゃない。
だからさ、会ったら思う存分殴ってやろうって思ってた」
「………今は?」
帰宅部が恐る恐る問うと、ルミは顔を伏せた。
「…わかんなくなった。
死ぬほどムカつくヤツを想像してたのに、全然普通にいいヤツだし。
見ず知らずな上、掴み掛かったアタシにクレープ奢るようなヤツだし。
…頭ん中、ずっとぐちゃぐちゃだ」
しばし沈黙が続く。
それに耐えきれず、リヴェリアがなんとか言葉を探していると。
帰宅部が突如として、ルミの前に立った。
「じゃ、殴ってくれ」
「………ナメてんのか?」
ぎろっ、とルミの鋭い視線が突き刺さる。
が。帰宅部はそれにたじろぐことなく、悪ふざけを抜いた顔つきで続けた。
「違う。俺はやらかしたことに責任を取らなきゃなんない。お前は心に整理をつけたい。
だったら、全部悪い俺が殴られなきゃ始まらないだろ」
「………そーか…」
ルミが帰宅部に向け、拳を放とうとしたその時のことだった。
ずんっ、と世界が揺れたのは。
「……っ!!」
「あ、ちょっ…」
その揺れを感じた直後、ルミは踵を返し、公園から出ていく。
彼女が走り去った先には、破壊をもたらさんと現れた魔神軍の怪獣が佇んでいた。
「…アイツ、魔法少女だったのか?」
「そんなことはいい。お前は出ないのか?」
「出るよ。横取りもアイツへのストレスかも知んないけど、それとこれとは話が別だからな」
帰宅部はグローブをはめると、駆け出すと共に軽く拳を合わせる。
展開された武装に備わったブースターで空を舞う帰宅部の背を見上げ、リヴェリアは不安を漏らした。
「……むぅ。覚えがある、嫌な感じだ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……なんでなんとかしなかった」
「いやぁ、あの空気で邪魔すんのは、ちょっと…、いや、だいぶ無理でしょ」
その頃。3人に増えた野次馬のうちの1人が、後から来た1人に詰め寄る。
親友のデートを見守るつもりだったのに、なんだってぽっと出の女の過去なんて聞かなきゃならないんだ。
そんなことを思いつつ、フィシィは顰めっ面でため息を吐いた。
「…あんなの、リヴィがほっとくわけない。
ほんと、なんで似たのが外にもいるんだか」
「家庭環境の地獄なんて、そこまで珍しいもんじゃないよ。
私なんて、覚えたくないこといーっぱい覚えちゃったもん」
「何気なく言うな。重いわ」
「あたっ」
アメジストの脳天に、軽くチョップをかます科学部。
膨れっ面で睨め付けるアメジストを無視し、科学部は帰宅部に解体されていく怪獣へと目を向ける。
「………おかしい。あんな弱かったか?」
「どっちが?」
「怪獣。なんか、今までのより明らか弱い。
見た目はガッチガチに強そうなのに」
「…言われてみれば」
まるで豆腐のように切り刻まれていく怪獣を前に、訝しげに眉を顰める科学部。
いくら強いからといって、怪獣をあそこまで簡単に倒せるようなスペックはしていない。
アメジストもその違和感に気づいたようで、軽く首を傾げた。
「………あー…。覚えがある。この嫌な感じ」
そんな中、フィシィがこぼす。
その脳裏には、憎たらしい笑みを浮かべる女性の顔が浮かんでいた。
と。フィシィに科学部とアメジストの視線が向く。
フィシィはその視線に応えるように、「多分だけど」と前置きした。
「リヴィのお姉ちゃんが、なにかを仕組んでると思う」
リヴェリアの姉…女狐。ちょっと前に店長にボッコボコにされた闇堕ちさせるマンの上司。実はすでに登場してる。
帰宅部…ガチ反省中。お前も悪かったんやで。