魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった   作:鳩胸な鴨

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直訳:最高に可愛くぶっ飛ばす。
意訳:気に入らん。死ね。


シュレディンガー「さいこー、かわいく、ぶっとばす…!!」

「おいっ!連れてきたぞ!」

 

数分後。がぁん、と壊れかけた扉を蹴破り、ルミが声を張り上げる。

ぐるぐると回転しながら、サビや汚れが目立つ地面を滑る扉が、唐突に止まる。

それを止めたのは、病気を疑うほどに白っぽい足。

廃工場の奥から現れたのは、やけに余裕そうな笑みを浮かべる妙齢の女性。

ルミは彼女に向け、声を張り上げる。

 

「舞になにもしてねぇだろうな!?」

「見ての通りよ」

 

女性は言うと、暗闇へと伸びるロープを引く。

と。縛られた漫研がよろけ、光の元へと倒れ込んだ。

 

「あー…。面倒なことになったなぁ…。

編集さんになんて言お…」

「おまっ…、そんな場合じゃねぇだろ!?」

 

当の本人は、現状をそんなに重く受け止めていないらしい。

あまりに場違いなセリフに、ルミが叫ぶ。

ルミは知らぬことだが、漫研は過去に2回、誘拐事件に巻き込まれたことがある。

つまりは、この状況に変に慣れているのだ。

それに対し、誘拐した張本人ですら困惑しているのか、眉を顰めた。

 

「このお嬢さん、少し楽観的すぎない?

ここまで萎える相手、初めてだったわよ」

「残念だけど、厚化粧ババアの発情を考えた生き方はしてないよ」

 

ぱぁん、と乾いた音が鳴る。

はらはらとまとめた髪が地面に落ち、頬に赤い筋が走る。

じんわりと広がっていく痛みと、視界の隅に映る銃口を前に、漫研は「ひゅぅ」と軽い声を漏らした。

 

「次、ライン超えたら問答無用で殺すわよ」

「お前もういいから黙れ!

助ける前に殺されに行くなバカッ!!」

「あーい」

 

命の危機だと言うのに適当に返す漫研に、ルミは「お前なぁ…」と泣きそうな声を漏らす。

と。女性が大袈裟に「んんっ」と咳払いし、ルミの奥で佇むリヴェリアへと視線を向けた。

 

「お久しゅうございますね、リヴェリア様。

いえ、反逆者リヴェリア」

「……エルジュ」

「あらぁ、覚えていたのね。

こんな再会になって残念だわぁ」

「………は?」

 

そのやり取りを前に、思わず惚けた声を漏らすルミ。

それに対し、女性…エルジュは声を張り上げた。

 

「いい機会だから教えてあげるわ。

彼女はね、魔神軍…、いや、魔神帝国のお姫様なの。でも、今は裏切ってお尋ね者。

本当だったら殺すつもりなんだけど、『王の血筋を残すための腹としては使えるから』って、連れて帰るように命令されてるの」

「……っ、テメェら…!

どこまでクズだ、ゴラァ…ッ!!」

「あら。そんなクズの仲間だったのよ、その子」

「…否定はしない」

 

リヴェリアの言葉に、思わず彼女の顔を見やるルミ。

想起するのは、先日出会った時のこと。

ごちゃ混ぜになった感情に負け、いっぱいいっぱいだった自分を気遣ってくれたあの笑顔が、脳内で反芻する。

目の前のクソ女と、自分に寄り添ってくれた彼女が仲間なわけがない。

もし100歩譲って仲間だったとしても、今は違う。

そんな言葉を投げかける暇もなく、エルジュがリヴェリアに迫る。

 

「さあ、こちらに来なさい。

安心しなさい。この子の命は保証するわ」

「先に彼女を解放しろ」

「ダメよ。あなたが来るのが先」

「………わかった」

 

これ以上の交渉は無理だと悟ったのだろう。

リヴェリアは諦めたようにため息を吐き、彼女の元へと歩み寄る。

と。エルジュはリヴェリアの両手両足を、蛇のように蠢く縄で拘束した。

 

「これで任務は完了ね。ほら、行きなさい」

 

漫研を立たせ、背中を押すエルジュ。

縛られている影響か、漫研はよろよろとルミの元へと歩み寄る。

ルミがそちらに駆け出そうとした、その時。

エルジュが手に持った二丁の銃を、漫研の脳天に向けているのが見えた。

 

「返しはしたでしょう?」

「舞っ!!」

 

ルミが変身するよりも早く、弾丸が放たれようとしたその時。

 

「オラァッ!!」

「がっ!?」

 

変身した『もう1人のルミ』が、飛び蹴りをかました。

 

汚れた床を滑るように転がっていき、壁に激突するエルジュ。

ルミはそんな彼女に目もくれず、漫研へと駆け寄る。

 

「舞っ!…よかった…、間に合った…」

「あー、心配かけてごめんねー。

…こっちのルミっち、演劇部?」

「せいかーい。結構再現度高いでしょ?」

「高すぎて気色悪い」

 

全てを察した漫研の指摘に、最初から居たルミ…否。演技をやめた演劇部がくすくすと笑みを浮かべる。

と。よろよろと立ち上がったエルジュが、彼女らに向け、数発の弾丸を放った。

 

「やっぱ全員殺す気だったね。

ほら、早く守ってよ」

「アイツと言いお前らと言い、なんか言い方鼻につくわぁ…」

 

無論、ただの弾丸が魔法少女相手に通じるわけもなく。

なんとも言えない表情のルミが放った光弾に、その全てが打ち消された。

彼女は苛立ちを表すように舌打ちすると、リヴェリアへと駆けていく。

瞬間。天井の骨組みの上で機を待っていたのだろうシュレディンガーが勢いよく飛び降り、彼女の頭を踏んづけた。

 

「にっ」

「ぐぇっ!?」

 

天井から降りてきた猫の重さに耐えきれず、バランスを崩して派手に転ぶエルジュ。

顎も打っているあたり、かなり痛そうだ。

ルミは軽く憐憫を向けつつ、リヴェリアの手足に絡んだ縄を引きちぎる。

 

「マジで上手くいったな…」

「作戦とも言えない作戦だけどね。

知恵を練る必要のなさそうなおばさんで助かった」

「き、さ、ま、らぁ…っ!!」

「おや。ただでさえひどい顔がもっと酷くなってるね、お・ば・さ・ん」

「ぐぎきききゃぁあああああっ!!!!」

 

にまにまと意地の悪い笑みで煽り散らす演劇部に、エルジュは声帯をすりつぶすように奇声を上げる。

余程年齢を気にしているらしい。

若さの特権と言わんばかりに揶揄う演劇部に、ルミの白い視線が飛んだ。

 

「あんま年齢いじるなよ…。

お前も将来的におばさんだろ…」

「おばさんだろうけど、これほど醜くなることもないでしょ。下の下よ、コレ」

「いや、下の下て…。いい方だとは思うぞ。おばさん感がすごいだけで」

「ゔが!ががががが!がぁああっ!!!!」

「2人ともストップ。このババア、キレすぎて人語失っちゃった」

 

ばっつん、と浮き出た血管が皮膚を裂き、ぴゅっ、と軽く血液を噴き出す。

余程頭に来たのだろう。

エルジュはよろめきながらも立ち上がり、懐からスイッチのようなものを取り出す。

 

「もう許さないわ…!

まとめて地獄に落ちなさァい!!」

 

その親指が壊れんばかりの勢いでスイッチを押した途端、廃工場を爆炎が襲った。

彼女らが叫び声を上げる暇もなく、廃工場が崩れていく。

それを尻目に、エルジュは用意した逃走経路が破壊の波に飲まれる前に駆けていく。

数秒もしないうちに外へと出た彼女は、原型がほとんど残っていない廃工場へと振り向き、笑みを浮かべた。

 

「は、はは…!ざまぁ見なさい、クソガキども…!私をコケにした罰…」

「コケにされても仕方のないババアってこと自覚しなよ、おばさん」

「は?」

 

と。いけすかないあの声が、頭上から響く。

エルジュがそちらを見ると、紅い光の膜に包まれた4人がいた。

 

「面白いくらい演劇部ちゃんの予想通りに動くな、コイツ。

…なんでコイツの考えてることわかんの?」

「ボクは仲間内でも特に性格が悪いからね。

性格の悪い思考回路なら、観察するまでもなくトレースできるよ。

もっとエグいこと予想してたけど、漫研をとっくに殺してないあたり、結構マヌケだね」

「あーしを勝手に殺すな」

 

煤一つ付着していない状態のまま、彼女らが瓦礫の山へと降り立つ。

エルジュはしばし放心していたが、すぐさま険しい表情を浮かべ、親指ほどの大きさの液晶が付いた右手の腕輪を掲げた。

 

「そう。そう…。どこまでも私をコケにするのね、クソガキ共…!」

 

とっ、と彼女がそれに指を押し当てる。

瞬間。瓦礫が蠢き、その下から8匹の蛇が顔を出した。

散乱する破片を撒き散らし、激しくうねる其れを前に、ルミが唾を飲み込む。

勝てるのだろうか。

そんな不安が漏れ出た、その時だった。

その肩に乗っていたシュレディンガーが、瓦礫の上に降り立ったのは。

 

「……にーっ」

 

任せておけ。

そんな意を込めてシュレディンガーが鳴き、目を閉じる。

瞬間。ぽんっ、と音を立て、シュレディンガーが野暮ったい格好の少女へと姿を変えた。

 

「ほわっ!?し、シュレちゃん!?」

「困惑するよな。わかる」

「え、えぇ…!?な、なんで人間…、え、耳っ、首輪っ…、えぇ…?」

「ここまで取り乱してると新鮮だよね、逆に」

「あーしら、もう慣れちゃったもんね」

 

唐突に人間となったシュレディンガーを前に激しく取り乱すルミに、生暖かい視線を向ける女性陣。

シュレディンガーはその喧騒を気にすることなく、首輪に嵌められた宝石に軽く触れた。

 

「わたし、おまえ、きらい。

おきにいり、こまった。たくさん」

「だからなんだってのよォ!!」

 

エルジュが吠えると共に、蛇が彼女の体へとまとわりつく。

ぎちっ、とそれが固まるや否や、すぐさま亀裂が走り、弾け飛んだ。

それは、鎧というにはあまりにも薄かった。

というより、武装ですらなさそうだった。

ボンテージ衣装に近い趣を感じさせるそれを前に、シュレディンガーは呆れたため息を吐く。

 

「…みにくい。め、くさる。

『りゅーせーぶそー』ッ!!」

 

シュレディンガーが吠えると共に、その体が機械に侵食されていく。

両手を覆う、自身の胴よりも巨大な鉤爪。

体のラインを強調する、アンダースーツ。

所々に付着した、戦闘をサポートするための機能が搭載された装備。

すっぽりと目元を覆うバイザー。

頭頂部で揺れる耳には、ちりっ、と流れ星を模したデザインのイヤリングが揺れる。

シュレディンガーは姿勢を低くし、バイザーの奥からチラつく瞳を、ナイフのように尖らせた。

 

「おまえ、いらない。

さいこー、かわいく、ぶっとばす…!!」




演劇部…本当だったらリヴェリアに変装するつもりだったけど、ルミを演じたくなってそっちに変更。相手を数秒観察するだけで、思考すらもトレースできる。

エルジュ…41歳独身。見た目こそは美人だが、どことなく滲み出るおばさん感がすごい。徹頭徹尾言動がキツいおばはん。装備もキツい。

シュレディンガー…人語に不慣れ。一回鳴くだけで全部の意味が込められる猫語とは大違い。「なんでこんなにたくさん鳴き声があるんだ」と文句を抱いてる。

帰宅部…別行動中。
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