魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった 作:鳩胸な鴨
「せっかくの旅行でいつでもできるクソ会議に強制参加なのどうかと思うんだけど」
翌日。帰宅部の不機嫌そうな声が、ある一室に響く。
それに対し、集まった頭脳班…ボドゲ部、文芸部、放送部、演劇部が小馬鹿にした視線を向けた。
「実行犯が作戦頭に叩き込んでないの死ぬほど不安じゃん」
「お前ら、そう言うの関係ないだろ。
これまでの作戦、重要な部分把握してたのお前らだけじゃん。
どうせ放送部あたりが『この会議で遊ぶ時間潰れるから帰宅部も巻き込んだれ』とか考えたんだろ」
「バレてるよ、放送部」
「そりゃバレますよ。
そうとしか思えない建前で呼んだんですから」
「皮剥いでてっさにするぞ」
「扱いがフグと同列」
「食える分フグの方が価値あるわ自惚れんな」
エッジの効いた悪態に動ずることなく、放送部はいつもより香りが強いコーヒーを啜る。
現在、朝の7時。
夏休み真っ只中な上、先日の遊び疲れが残っている身での会議は、いくら常軌を逸した気狂いでも堪えるものらしい。
一方、眠気にはある程度の耐性があるのか、眠たげながらもしっかりと姿勢を保った文芸部が口を開いた。
「くだらないやり取りは置いて、まずはリヴェリアちゃんの姉ちゃんをどう処理すっか考えましょう」
「ぶっ飛ばすのは変わらんだろ」
「それはそうなんすけど、ぶっ飛ばし方について聞いてるんすよ」
「殺すのはナシだ。俺、お前らと違って倫理観って概念搭載してるから」
「は?」
「本気で言ってます?」
「知ってる?倫理観ある奴は女の両腕へし折らないんだよ?」
「生物部呼んで脳検査するべきっすね」
「上等だコンクリ詰めて太平洋沖まで投げ飛ばしてやっからな」
せっかくアピールした倫理観がかけらも感じられない罵詈雑言である。
4人はそれに反応することもなく、話を軌道に戻す。
「殺すの抜きにすると、捕まえるか記憶処理して存在消すかになるっすけど」
「捕まえるはわかるけど、記憶処理で存在消すって何?」
「文字通りっす。生物部の技術で脳みそ弄って人格も過去の人生もまるごと変えます」
「……やったことあんの?」
それはもう殺人と変わらないのでは?
帰宅部の冷ややかな視線に、放送部は首を横に振った。
「いくら私らでも流石にないです。
理論的にも技術的にも可能ってだけ」
「やるとしたら、もう目も当てられないくらいに精神ぶっ壊れた廃人を都合のいい誰かに作り変えるくらいじゃないかな?」
「本当に倫理もクソもないよな、お前ら」
「脳死した人間の蘇生法を開発しようと思ったらどうしてもこうなるらしくて。
その気になれば、脳死状態の患者からノーベル賞軽く取れる大天才も生み出せるらしいよ」
「……それ、俺らでどうにかできるレベルなんか?」
帰宅部の危惧に対し、ボドゲ部は少しばかり悔しげに眉を顰める。
どうやら、どうにもできないらしい。
道理でやらないわけだ。
文化部連中は負けず嫌いが揃っている。
仲間内で作ったものを制御できないとなれば、その屈辱は計り知れないだろう。
帰宅部はその技術への興味を横に置き、話を戻した。
「じゃ、やるべきは捕縛だな。
表舞台に引き摺り出す方法は世間様に醜聞を晒すだけでいいとして、戦闘面に対する懸念事項はないか?」
「『手綱引かれてない私らと同スペック』という点くらいですかね」
「そこ、一番憂慮すべき点じゃない?」
現在の文化部たちのスペックは「帰宅部」という名の枷により、本来のポテンシャルより2割ほどセーブされている状態にある。
そのスペックと並ぶ存在が相手ともなれば、作戦の難易度は劇的に跳ね上がる。
帰宅部は装備しているグローブに目を向け、小さく呟く。
「……これ、邪魔になるかもな」
「どういうことです?」
全員が驚愕と呆れを混ぜた視線を向ける。その中でも帰宅部は淡々と続けた。
「お前らと似た思考回路なら、街の破壊の片棒担がせる立ち回りとかしてきそうだろ。
そうなれば、生身の方が被害少なくて済む」
「…勝てるんです?
倫理フル無視文化部スペックで魔法少女を上回る装備使ってくる可能性高いんすけど」
否定できない説得力を誇る憶測に対し、文芸部が神妙な声色で問いかける。
帰宅部は言葉に詰まることもなく、あっけらかんと言い放った。
「知るかんなもん」
「………………は???」
予想外の回答に目を丸くする文芸部。
彼だけではない。全員が「こいつホンマ」と言いたげな視線を向けている。
射殺さんばかりの視線の集中砲火を浴びる帰宅部だが、彼は気にせず続けた。
「『勝てない可能性』が少なからずある時点で勝っても負けても問題ない策を練るだろ、お前ら。
だったら、俺が頭に入れなきゃいけないことは結局、『気に食わんアバズレは全力でブン殴るべし』くらいだろ?」
「嘘でしょ、こいつ全部投げてきた」
言うだけ言って満足したのだろう。帰宅部は勢いをつけ、椅子から立ち上がる。
「パンピーの俺が知力で力になれるかよ。
眠いから二度寝させろ」
「ったくよ」と悪態をつき、軽く扉を開く帰宅部。
刹那。バタンと強く扉を閉め、帰宅部は振り向いた。
「どしたの?」
「ドマゾが全裸で練り歩いてた」
帰宅部の言葉に全員がその情景を浮かべたのか、呆れた視線を扉に向けた。
奥から響く嬌声は、聞こえないふりをした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
その頃、ロビーにて。
朝風呂に入って頭をスッキリさせたはずのルミは、到底風呂上がりとは思えないほどに浮かない表情を浮かべる。
その視線の先にあるのは、携帯に表示された連絡先。
登録名は「サファイア」。
クール・サファイアこと海澤 ルリが使用している個人用の携帯。
こうして画面と睨めっこを初めて何分が経ったことだろうか。
少なくとも、十分程度は過ぎてるはず。
が、しかし。最後のひと押しがどうしても押せない。
そんな葛藤に苦しむルミの隣に、同じく朝風呂に入っていたフィシィが腰掛けた。
「かけないの?」
「いや、かけようとは思ってんだけど…。
何言おうかとか整理したはずなのに、いざとなったら頭真っ白んなっちゃって…」
土壇場でセリフが飛んでしまうのはよくあることだった。その度にサファイアがしかたないと笑って、フォローしてくれた。
こんな些細なことですらサファイアとの思い出に関連付けてしまう。
自分の頭が嫌になる。
せっかく意識しないようにしていたのに。
ぐるぐると回る思考に翻弄されていると、画面を覗き込んでいたフィシィが通話ボタンへと指を伸ばすのが見えた。
「ふんっ!!」
「だっ!?」
がぁん、とフィシィの脳天を拳骨が穿つ。
それだけでは足りなかったのだろう、ルミは胸ぐらを掴み、彼女に詰め寄った。
「何やってんだお前…!?」
「余計な世話」
「自覚あるならやるな!!」
「そういうやつだ、諦めろ」
「お前はもっとコイツを叱れ!!」
「聞かないから諦めた」
「ニホンには『馬の耳に念仏』ということわざがある」
「自分で言うな!!」
怒涛のツッコミをかまし、ぜぇ、ぜぇ、と息を切らすルミ。
フィシィは特に反省を見せることなく、こてん、と首を傾げた。
「話したいなら話すべき」
「あのなぁ…、裏切り者って言われた相手とダチなんだぞ、アタシ。
お前らが企ててることぜーんぶ悟られちまう可能性とか考えろよ…」
「ルミにそんな頭ない」
「なんだとこの野郎ーーーッ!!」
「むぎゅっ。り、リヴィ、たすけて」
「絞められてろ」
「ひとでなし」
ヘッドロックを極められ、苦しそうに顔を歪めるフィシィ。
わちゃわちゃと揉み合っていると、ルミが手に持っていた携帯が震える。
画面を見ると、そこにはサファイアの連絡先が浮かんでいた。
「……………」
「出ないの?」
「………………出る」
いつも休みの日は普通に話していたのだ。いくら炎上中で活動を自粛しているとはいえ、出ないと不自然に思われるかもしれない。
それに、こうして友人として話すのは最後になるかもしれないのだ。
ルミは通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
「もしもし?」
『あ、もしもし、ルミ?元気かしら?』
いつものサファイアだ。声音からは、とても人類の裏切り者とは思えない。
あの人でなしどもが言っていたことが嘘だったんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎるも、これまでに提示された証拠がそれを否定する。
どう対応すればいいのだろう。これまでの自分は、どう対応していたのだろう。
疑問が巡る中、ルミの口が勝手に動いた。
「元気元気。今、親戚と旅行しててさ。久しぶりの休み、堪能してるぜ」
『いいご身分ね。こちとらアンタの尻拭いしてるってのに…』
「わりーわりー」
おそらくは、最後の電話。
そうわかってるのに、ルミの口からはいつもの軽口が飛び出る。
旅行先で海を見た。
仕事で海を見た。
旅行先で美味い飯を食べた。
仕事先で豪華な飯を食べた。
ルミの意思に反し、何気ないやりとりが続く。
『あなたが抜けたせいで、こっちは気が休まる暇はないわ』
「…そりゃ世間に言えよ。私は騒ぎが収まるまで大人しくしとけって言われてんだからよ」
『そうよね。…じゃ、早く騒ぎが鎮火するよう、頑張るわ』
彼女の吐いた全てが嘘なのだろうか。脳の奥で疑念が掠める。
二人が見守る中、ルミは思い切って口を開いた。
「……ありがとな、相棒」
『なによ、改まって。…早く帰ってきてね、相棒』
ごめん、無理だ。
その一言を、彼女はどうしても言えなかった。
倫理観フル無視文化部…帰宅部が死に物狂いでぶん殴って押さえ込んできた化け物。帰宅部に人の心がインストールされてなかったら、確実に人類が滅んでいたレベルのやらかしが多発していた。暴力に依らないスペックの文化部ほどやらかしのレベルが酷い。
フィシィ…お節介がストレートすぎるアホの子。凍った心に熱した鉄球をぶつけてくるタイプ。