魔法少女世界にいる文化部どもが悪ふざけした結果、スーパーヒーローが爆誕してしまった 作:鳩胸な鴨
旅行を終え、迎えた作戦当日。茶道部の自宅の一角にて。
サファイアの不祥事を垂れ流すグループとして組み込まれてしまったルミは、機械に囲まれた空間の中、呆然と突っ立っていた。
何をすればいいのか、全くわからない。
そんな彼女の不安など知らないのだろう、パソコン部がモニターを前に笑みをこぼす。
「細工は流々、あとは仕上げをご覧じろってな」
「それどういう意味?」
「ゴタゴタ言わず結果だけ見ろって意味」
「なんでこっち見る?」
「ゴタゴタ言いそうだからでしょ」
「殴るぞ」
工学部の余計な一言に青筋を浮かべるルミ。
いちいち相手を小馬鹿にしないと気が済まない病でもあるんだろうか。
ルミが疑問を覚える横で、自分は関係ないと言わんばかりにパソコンと向き合っていたパソコン部が小さく呟く。
「これ、国内株どーなっかなぁ…」
「いや、株どころじゃ無いんじゃねーの…?
国家ぐるみどころか、世界存亡に関わる大不祥事なわけだし…」
パソコン部の一言に、呆れ混じりに訝しむルミ。
と。そんな彼女に言い聞かせるように、ボドゲ部、工学部が矢継ぎ早に答える。
「一瞬大騒ぎになるくらいで、燻ってる比較的マトモ寄りな政治家マンが盛大な解体ショーやって終わりだよ」
「もしかしてだけど、僕たちってそんな誰もが思いつくリスクヘッジができないバカ連中だと思われてる?」
「そんなわけないか。君、それ以上のバカって自覚あるだろうし」
「本当に漫研の身内か、お前?想像力枯れすぎだろ」
「質問一つでここまでディス飛んでくる?」
この場に帰宅部が居れば、文字通りの鉄拳制裁が飛んでいたことだろう。
しかし、ここに彼はいない。この好き勝手を止める術を持たないルミは、気力が削がれた顔で疑問を投げかける。
「……ってかさ、これアタシだけ不祥事から逃げたって見られね?」
「それも織り込み済み。告発者、君ってことにしたから」
「………………は?」
今、何か聞き捨てならないことが聞こえた気がする。
きっと気のせいだ、そうに違いない。
そう思い込もうとするルミに、工学部が満面の笑みを浮かべ、スマホを見せた。
「ほら、ここに君の名前入れといた」
「何してんの!?!?」
工学部が見せた資料の数々。その作成者の名がまるまる自分になってしまっている。
しかもだ。いつの間に作業を済ませていたのか、ルミが公式として使っていたはずのSNSが彼らに乗っ取られている。
泡を食ったように愕然とするルミに、ボドゲ部が淡々と語り始める。
「筋書きはこう。君は自分の過去をぶちまけて大炎上したけど、それは表向きの理由。
本当は『サファイア周りを調べたかったから、フリーの状態になった』。
それだけであら不思議。元ヤン素行不良無責任魔法少女から一転、泥を被って人類の敵を炙り出した知将に早変わりってわけさ」
「ツッコミどころが多すぎるわ!!」
どこに文句を吐けばいいのかわからない。
一つずつ問い詰めてやりたい、と息巻いたルミだったが、途中で面倒になったのだろう。ルミはしわくちゃに顔を歪め、問いかける。
「……アメジスト先輩の方が良くね?
あの人、雲隠れしてた時期長いし…」
「それ難しいんだよね。彼女、公に僕らの仲間入りしてるからこういうのに使いにくくて。
そもそも今回の作戦自体、君がいたから思いついたやつだし」
「思いつきで国家を大混乱させないでほしい」
「叩けば埃が雪崩れるようなことしてるお偉いさんが悪い。自業自得」
「お前らの叩き方は豪快すぎる」
大義名分を得た時の問題児が厄介なのは、どの世代でも一緒なんだろうか。
そんな呆れを抱くルミだったが、ふとある疑問に気づき、怪訝そうに眉を顰める。
「ってかさ、アタシにその役できる?
自慢じゃないけど、サファイアに勉強見てもらう前はテスト用紙でトランプ出来そうな点数しか取ったことないぞ?」
「………」
不安を見せるルミを前に、文化部たちは目を丸くして沈黙した。
「な、なんだよ…?」
「バカでもわかるようにできるだけ噛み砕いてるつもりだったけど、これまでの話理解できてる?」
「ボドゲ部、その言い回しすら理解できてない可能性あるよ。
ここは僕が…、こほん。ウホッホホッ、ホホホホホ」
「殴んぞ!!!!」
ここまでバカにされたのは初めてだったのだろう、大きな青筋を浮かべ、怒鳴るルミ。
そんな彼らのやり取りを尻目に、SNSを見ていたパソコン部がカラカラと笑う。
「おーおー、流石はお偉いさん、下手な弁解してら。ほれ追加の証拠ぽちっと」
見覚えのあるSNSアカウントだ。確か、有力議員の一人ではなかっただろうか。
確実に来るだろう社会崩壊を前に戦慄を覚えるルミ。
しかし、そんな彼女の心配など知らないと言わんばかりに、文化部たちはわいわいと談笑を交わす。
「いやぁ、思い出すね。世界征服ごっこ」
「なにその物騒なごっこ遊び!?」
「征服側と秩序側に分かれてどんちゃんぱらりら大喧嘩するって遊び」
「遊びじゃねぇ!!」
「懐かしー。勘づいた帰宅部が全員薙ぎ倒して終わるからやらなくなったんだよね」
「なんでお前ら法で裁かれてないの?」
「バレてないから」
「立件できないようにしてるから」
「その分念入りにボコボコにされてるから」
ルミは知らぬことだが、そのごっこ遊びが原因で世界が終わりかけたこともあった。
もし帰宅部がカケラも反省していない今の彼ら見れば、「もう一度ボコボコにしてやろうか」と拳を握っていたことだろう。
現代社会崩壊どころではない大騒ぎをいい思い出として語っているとはつゆ知らず、ルミは携帯を取り出す。
「……やっぱ連絡来てねーよな」
「あとはサファイアの出方見るだけなんだけど…、ルミちゃんってサファイアのプライベート把握してたりする?」
「知らん。そもそもの話、アイツのプライベートなんて、偽装されてた分しか知らねーよ」
「相棒のくせに?」
「相棒だからプライベート全部把握してるは流石に暴論だろ」
「僕と帰宅部は把握し合ってるけど」
「きも」
間違ってもただの幼馴染の距離感ではない。
そんなルミの罵倒に腹を立てたのか、文化部どもが胡散臭い笑みを浮かべ、圧を放つ。
「試しにこっちからかけてみたら?めちゃくちゃボロ出してくれるかもよ?」
「お前ら本当に人の心ないよな」
「世界平和のためなんだから早くかける」
「ノンデリのパイオニアかよ」
ここに帰宅部がいれば、「こいつらにデリカシーなんて上等なモンあるわけないだろ」と返したことだろう。
気乗りしない。途方もなく。
携帯をいじるルミだったが、なにかが気になったのか、その指を止めて彼らに問いかけた。
「………なんて言えばいい?」
「文面はもう考えてあるよ。これカンペ」
渡されたカンペに目を落とすルミ。
その刹那。彼女の顔が強張った。
「………………え、これ読むの?」
「サファイアが電話に出たらね」
「いや、でもこれ流石に…」
「やらないと被害広がると思うよ」
「……わかった、読む」
本当に人の心がない。
そんなふうに呆れた直後、ぶっ、と電話が繋がる音が右耳の鼓膜を震わせた。
『もしもし?』
「よく出れたな、お前…」
『かけてきたの、そっちでしょうが』
まだ、いつもと変わらない。
今からでも戻れるかもしれない。もう遅いのに、そんな希望を抱いてしまう。
『で、なに?』
「……ニュースってまだ見てない感じ?」
『見てないけど。どうかしたの?』
「あー…っと、だな…」
言ってしまえば、もう2度と戻れない。
とうに取り返しのつかない場所にいるはずなのに、そんな予感が胸に重くのしかかる。
ルミは何度か呼吸を繰り返したのち、意を決して告げる。
「お前がやってたこと、全部垂れ流した」
『………………』
少しばかり、息を飲んだ音が響く。
果たして、それは焦りだったのか。
ルミが疑問に思うも束の間、先ほどと変わらない、しかしどこか平坦に感じてしまうサファイアの声が響く。
『なるほどね。私の部屋を荒らしたのは、あなたのおともだちってわけ』
「認めるんだな」
『この前の電話と合わせて考えると、もう誤魔化しようがないレベルでバレてんでしょ?
だったらもう開き直った方が楽かなって』
嘘であって欲しかった。
ルビーがでっちあげただけの、とんでもない冗談だった。自分の人生が壊れたとしても、それで済まされたかった。
親友だった女は、いつものようにルミに問いかける。
『で。その上で電話をかけてくるなんて、どういうつもりかしら?』
「…………っと、だ、な」
正直、気は進まない。
しかし、これを読まないと後々被害が出ると言われては、そうせざるを得ない。
ルミは意を決し、カンペを読み上げる。
「手元にあった駒に盤面ひっくり返された気持ちどう?悔しい?悔しい?
せっせこやってた裏工作全部無駄になっちゃってかわいそ〜!慰めてあげよっか?
あっ!やったの全部アタシなんだった!ごめーんねっ⭐︎」
後半はもうヤケだった。
これまで生きてきて、ここまでの煽りは使ったことがない。
面食らっているのか、それとも苛立ちのあまり言葉が出ないのか。
電話の向こうの沈黙に冷や汗を滲ませるルミ。
その沈黙を破ったのは、明らかに怒りが滲んだ深いため息だった。
『性格が悪いのね。そこで聞いてる誰かさんは』
「まあ、それは否定しない」
思わず苦笑を浮かべるルミ。
気のせいか、この一瞬だけは前の関係性に戻れたように思えた。
が、しかし。それはすぐに霧散することになる。
『いいわ。まとめて始末してあげる。まずはそこにいるあなたたちからよ』
ぶっ、と電話が切れた、その時だった。
突如として天井が崩れたのは。
「…ッ」
降り注ぐ天井の破片、それに紛れるようにして、いくつかの影が落ちる。
佇むそれは、骨格だけ見れば人とそこまで遜色はない。
が。その容貌は明らかに人のものではなかった。
全身を覆う黒の鱗。こちらをただ見つめる、爬虫類のものらしき瞳。ふしゅう、と漏れる吐息。
どれを取っても異形としか言えないソレを前に、文化部たちが「ほらやっぱり」と言わんばかりの呆れ顔を見せた。
「来るよねそりゃ」
「電話からの探知が早いな。アタシと同類…、いや、最悪文化部キメラの可能性あんなこれ」
「にしては怪獣全般クソ弱いよね。多分、広く浅く手ぇ広げてるタイプだ」
「それな。魔神武装も型落ちでしかない以上、とにかく使えそうなのはなんでもやっちゃえタイプのテキトー天才なんでしょ」
「なに呑気に喋ってんだ下がれ!!」
「だいじょーぶ、想定済み」
言って、片手でスマホをいじる工学部。
瞬間。床に格納していたであろう、球体型の機械が飛び出す。
その機械が一瞬にして異形を取り囲むと、砲身らしき穴から光芒を放った。
魔法少女が放つものと同じ、魔力を用いた光だろうそれを全身に浴びているのだ。すぐに消し炭になるだろう。
が、しかし。そんなルミの想像に反し、異形はそれを易々と耐え、機械の一つをたたき落とした。
「耐えられてんな」
「あれっ?…っかしぃな、生体を通さない魔法は出力落ちるとはいえ、普通の怪獣なら問題なく倒せるくらいの威力なんだけど」
「あーもー、下がってろ!!」
機械を壊し終えた異形へと駆け出し、変身を遂げるルミ。
魔力を纏ったその拳が異形に突き刺さると同時、かぁんっ、と金属を叩いた音が響く。
「っでぇえええっ!?」
「そいつ、たぶんサイズ凝縮ガッチガチタンクビルドだからステゴロ効かないよ」
「さ、き、に、い、えぇええええっ!!」
「さっき言ってたの聞いてなかったの?」
「バカな上にそそっかしい、救いようがない」
「お前らから先に殴り飛ばしてやろうか!?」
「助けに入った人間に対して言うことか!!」と目をひん剥いて怒鳴るルミ。
その隙を突き、異形がルミを引き裂こうと爪を振るう。
「うぉっ、あぶ…」
ない、と言葉は続かなかった。
先ほどまで見えなかった視界を覆う影が、彼女の言葉を遮ったのだ。
その影には見覚えがある。
…いや、見覚えがあるどころじゃない。ルミはその影を毎日見ている。
彼女の視界を隠したのは、彼女自身の髪。魔法少女の装備の一つである頑強な髪飾りによってまとまっていたそれが、垂れていた。
「本当に…」
魔法少女の装備を容易く引き裂く爪の持ち主。それを躊躇いなく差し向けたサファイアの声が、ルミの耳にこびりつく。
攻められない上、一撃でも喰らったら死ぬ。
頭ではわかっているのに、動けない。
そんなルミを見かねてか、工学部がルミの足元にスマホを向ける。
「ほら、これ使いな」
「うわと…!?」
突如、足元から棒状の何かが突き出たことにより、身を引くルミ。
現れたのは、一振りの剣。
幾何学なラインに、鍔の部分に埋め込まれた指紋認証らしきパネルが埋め込まれた、独特なデザイン。
ルミが恐る恐るそれを握るや否や、工学部がスマホを構える。
「ちょうど魔法少女の生体魔力を通したデータが欲しくてね。よろしく」
「よ、よろしくって…」
剣と工学部を見比べるルミ。
目の前の異形は、その困惑への配慮などしてはくれない。
向かってくる異形に、ルミは慣れない手つきで剣を振りかぶった。
「ぅう…、えいっ!!」
「掛け声かわいっ」
剣の重さに振り回される形で、ルミが振るった刀身が異形にぶつかる。
外骨格が砕ける音。それと同時に、手首に重みが伝わる。
ほんの一瞬の痛みが手首に走り、顔を顰めるルミ。
が。その表情は、背後から響いた肉が落ちる音によって消えた。
ルミが振り返ると、その足元に先ほどまで立ちはだかっていた異形が二つになって転がっていた。
「あ、あんだけ硬いのが、まっぷたつ…」
「なるほどなるほど…。生体魔力持ちのが威力高いね、やっぱ」
「武装前でこれか。デチューンした方がいいだろ、また帰宅部キレるぞ」
「こういう物騒ベクトルの開発であいつがキレなかったことないじゃん」
「確かに」
唖然としているのは、ルミだけだった。
そのことが気恥ずかしくなったのか、ルミがほんのりと顔を赤くしながら、彼らに問いかける。
「……んで、ここからどうするんだ?」
「僕らがやることなんてもうなにもないよ。
あとは帰宅部がぶちのめして終わり」
「は?終わり?」
「うん終わり。アイス食べに行く?めっちゃ美味しいよアイス」
「いや、いい…」
命を狙われた自覚あるのか、こいつ。
そんな呆れが一瞬だけよぎるも、すぐさま「こいつらが素直に殺されるわけないか」と思い直すルミ。
彼女の顔は、晴れない。
ジクジクと胸がざわめくような、そんな感覚が薄まらない。
このままでいいのか。このまま終わらせてしまって、本当にいいのか。
今更になって湧いて出た疑問が、脳裏に浮かんでは消える。
別れはもう済ませた。そう思い込めばいいだけだ。
そう自分を納得させようとするルミだが、強く意識するたびに嫌悪が増幅していく。
そんなルミの心情など知ったことではないのだろう、工学部があっけらかんと言い放つ。
「あ、一応言っとくけど、今日は僕らから離れるの禁止ね」
「へっ?」
「君が殺されでもしたら面倒臭いから。演劇部に代打やらせるのも無理あるし」
寝覚が悪いとかではないのか、と文句を言おうとして、やめる。
どうせ言っても聞かない。彼らの道徳心のなさはこの数日で嫌というほど味わった。
抜け出そうとすれば、それこそあらゆる手を使って自分を止めるだろう。
表現しきれない感情に顔を顰めるルミ。
と。それを見ていた工学部が声を張り上げる。
「あっ、うわー、目が、目が痛いー」
「何その大根演技」
「えいっ」
「あっだ目ぇあがぁぁああああっ!?」
ボドゲ部の指摘を遮るように、彼に目潰しをかます工学部。
工学部のわざとらしすぎる演技とは違い、本気で悶絶するボドゲ部。それを前に、パソコン部もまた目を抑えた。
「お、オレも目がー。さっきの埃がー」
「お前ら…、なにやって…」
「なにもみえないよー、ルミちゃんがどこにいるのかもわかんないよー」
「……………」
絶対に何か企んでる。
善意などカケラも持ち合わせていないヤツらが、なんの打算もなしにこんな真似をするわけがない。
一名除き、わざとらしくのたうち回る文化部たちを半目で睨めるルミ。
しかし、どんな思惑があれど、一度サファイアに会っておきたいのは事実。
ルミはばたばたと暴れる文化部たちをまたぎ、扉に手をかけた。
「……あんがとな」
その手に握った剣を離す気は、彼女にはなかった。
ビューティ・ルビー/赤羽 ルミ…情緒ぐちゃぐちゃになってる人。サファイアのことはまだ友達だと思ってる。
世界征服ごっこ…放送部、演劇部が立案した、終わってる遊び。タイムリミットまでに世界征服を済ませることを目的とした征服側と、その阻止を目的とした秩序側にわかれ、ありとあらゆる手を使って達成を目指す。今のところ23回開催されたが、その全てがなんやかんやで気づいた帰宅部の鉄拳制裁によって粉砕されている。
サファイアだった女…めちゃくちゃピキってる。