HUNTER幻想曲   作:akiko

19 / 26
王とネテロの視点から…




譲れぬもの

「場所を変えるか」

 

王の一言で、ネテロは意を決した。

 

異論はない。

 

ここに、人間がいたのは誤算で、更にそれが妊婦というのは、予想だにしないことだった。

 

 

蟻の殲滅の為にここまで来たネテロであったが、人間…しかも命を宿したものに深手を与えてしまったことは、あきらかな失態で、己の思慮と力量不足を痛感していた。

 

何の罪もなき、人間を傷つけてしまったことは、言い逃れできぬ大罪だ。

 

例え、彼女の身に宿る命が…人間とはえぬ、半獣のようなものであれ…

 

 

こんなことを考えるのは、蟻の討伐隊の責任者としては、失格かもしれない。

しかし、どうか、母も子も1命をとりとめてほしいというのが、誰にもあかせぬ、ネテロの想いだ。

 

ふと、ゼノを見遣るとゼノもうかぬ顔で、押し黙っている。

 

おそらくは、自分と同じ胸中であろう。

 

だが、今は女人や、ゼノのことよりも優先すべきことがある。

ネテロは、心の中でゼノに最期の別れを告げ、王と共に宮殿から離れた。

 

2人はやがて荒野に辿り着いた。

 

 

かつて、核兵器の実験場として使用されていたというその場所には、剥き出しの岩しかなく、生物の気配は一切なかった。

 

無機質で、冷たいこの場所で己は最期の戦いに挑む。

ネテロにはその覚悟が十分にできていた。

 

「心おきなく暴れていいぜ」

 

老いた男の言葉に、王は微かな違和感を覚えた。

 

様々な人間や、キメラアントを見てきた。

この目の前の老人は、いわゆる「レアモノ」の属性だ。

そして、自分が今まで見てきた、食したことのある、どんな者より強い生命力を持っていた。

ぶくぶく肥えた我欲を満たすだけしか脳がない、形だけの権力者たちとも、まるで違う。あのピトーの護りを欺くだけのことはある。

 

おそらく、生半な蟻では彼に傷一つつけることすら、敵わぬだろう。

一般の蟻なら秒殺。

師団長クラスでも、おそらく。

護衛軍、そして自分なら勝てるというところだ。

戦力も高いが、精神性が優れている。そういう点が王の興味をひいた。

 

 

 

コムギの肉体を傷つけたことは赦し難い。

しかし、王が赦せぬのは、コムギを護りきれなかった己自身だった。

 

あの程度の攻撃、自分にあたったところで、石ころ以下でしかない。

 

だが、コムギはどうだ?

 

脆い人間の身体でありながら、蟻の子をその身に宿し、命を賭して守り、育てている。

 

それを護りきることすら、敵わぬとは…王としてあるまじき、恥。

 

 

だが、どんな恥であれ、護るべき譲れぬ者の為、その恥すらのみこみ、生きる覚悟はある。

 

−共に在り続ける−

 

という、単純でありながら、難解なこの願いこそが、王を動かす、最大のトリガーとなっていた。

 

喪わぬ為に、すべきことは見えている。

目の前の老人の命を奪っても、目的の本質は果たせぬだろう。

 

だからこそ、王はゆるりと言葉を紡ぐ。

 

「なぜ戦う?」

 

厄介だとネテロは感じた。

 

 

「何故戦う?」

 

目の前の蟻の言葉には、邪気も殺意もなかった。

だから、ネテロはギリギリと歯をくいしめた。

いっそ、敵意を剥き出しにして、殴りかかってきてくれた方が闘りやすかったかもしれない。

 

 

自分も相手も馬鹿ではない。

 

力量の差はあきらかで、目の前の蟻にとって自分など、塵芥にも等しいのだろう。

 

鉾をおさめるよう、王に諭されたネテロだが、大人しく退くわけにはいかなかった。

 

ハンターとして、人間の社会と命を護る責務がある。

 

 

自分は「人間」の社会に属している。そして、人間の社会に害を及ぼしてきた「蟻」を討伐せよ。と命が下されたら、

自分はそれを遂行するしかない。

 

己が属する社会を守る為に。

 

この蟻は、精神が高尚だ。

 

葬るには惜しい命ではある。

 

しかし、ネテロはその感情に、蓋をし、静かに臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。