知らない世界へと…
全く未知な、新しい世界に足を踏み入れるのは、なんだか怖い気もする。
でも「産まれる」決意をしたのは、他の誰でもない私自身だし、
私には「王」のお姿をこの目で確かめたいという、確固たる願いと目標があった。
それに、あの汚泥の沼を抜け、光の繭に吸収されてからは、傍らに常に誰かがいて、その誰かは、常に私の手を握ってくれていた。
そして、柔らかな声でずっと語りかけてくれていたのだ。
(僕たちは、『同じ』なんだニャ)
(あの方のお側で、命を賭してお仕えさせて頂ける慶び…こんな大任…これ以上ない幸福だニャ)
(早くお会いしたいニャ)
ふわふわと、脳裏に響く声に私は、同調するように頷いた。
どこまでも、輝かしく、慕わしいあの方。
我らが唯一無二の王よ。
どうか…どうか!
繭が破れる。
繭の切れ目から、輝かしい光が射す。
目をとじたくなる、そらしたくなる。
少し怖い…あんなに待ち望んでいたのに。
この繭から出るのが…
(大丈夫だよ。何も怖がらなくて一緒なのだから…と僕は)
手を強く握られる。
私も強く握り返して、頷いた。
迷わない。
そんな暇はないから。
だから、一緒に飛び出す。
私の半身ともいえる、その存在と共に。
足元がよろめく。
自分の足で踏みしめる、初めてのそとの世界。
周囲の空気はどこか、生暖かく湿気を帯びていた。
手を握られたまま、私は産まれた。
顔を覆う柔らかな癖のある毛。
獣耳。
繭の中でいつもみてきた、感情の読めない不思議な色を宿した瞳。
私と同じ志を持ち、同じ魂を抱くもの。
ああ、本当は…
繭の中で一つになり、同じ個体として生まれてくるはずだったのに。
そうすれば、私たちはもっと強くなり、もっと王のお役に立てるはずなのだ。
でも、どうしてか…
わかたれてしまった。
私は酷く悲しく、残念な気持ちでずっと一緒だった存在に視線を向けた。
実体を持った形で、こうして初めて向き合う、私の半身。
私は、おずおずとその名を唇にのせた。
「ネフェル…ピトー」
ネフェルピトーは、目を合わせたまま、目と口元をふっと緩ませた。
「なんて呼べばいいかニャ?」
「なんとでも…だって本当は私も『ネフェルピトー』として生まれてくるはずだったもの。…こんな…姿だけどさ」
ネフェルピトーと同じ形の耳。
同じ色の毛。
尾。
でも、身長はネフェルピトーの腰の辺りまでしかない。
体型はスッキリとした、洗練されたネフェルピトーと違い、丸く、ふくよか。
それが私。
何より違うのは、力の質。
ネフェルピトーには、圧倒的な力がある。
それこそ…あの方に相応しいような。
圧倒的な力が。
繭の中で分かたれた私には形ばかりの「命」が宿り、何故かなんの力も持たぬまま、こんな形で産まれおちてしまった。
うなだれる私に、ピトーは呑気な笑顔で語りかけてきた。
「僕のことは、ピトーとよぶといいニャ。そーだな。君は僕の妹みたいなものだから…『シスター』…『シー』とでもよぼうかな」
呑気に笑う半身に私は頷いた。
私の名は「シー」。
この先に見える景色がどんなものであっても…
前に進むことを今、ここに誓います。