HUNTER幻想曲   作:akiko

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武の極み

この勝負、長引かせるのは、不利ー。

一分、いや、1秒ですら気を抜けば、自分は「詰む」。

 

悠然と佇む蟻の王は、既に己の勝利を確信しているのだろう。

傲慢なまでの余裕に満ちていた。

 

王にとって勝利の報酬は己の「名」だ。

 

関心と好奇が入り交じる感情の色で王の瞳は、さらなる強い輝きを放っていた。

 

絶対王者の風格。

 

それは、万物の頂きに立つ者だけが、纏うことが可能な唯一無二の力の現れ。

 

 

だからこそ、ネテロは己の力の総てを賭ける。

 

−悟り−の世界を…精神を…命の総てを賭けて、その技の精度を高めてゆく。

 

己は老いた。

肉体も精神も。

だが、重ねた年月の中でも魂は、磨き続けてきた。

鍛錬と研磨の成果こそが、この技の総てに繋がるのだ。

 

「武の極み」

 

ネテロの観音から、数多の掌が繰り出される。

 

 

一個の生命を葬り、眠らせる。ただ、それだけの為に。

 

 

「ここは墓場」

 

ネテロは強い意志を持ち、言葉を発した。

 

そうだ。墓場だ。

 

「名前」は切り札の一つ。

だが、本当の切り札は他にある。

 

どうしたって、お前はここで死ぬ。

 

それが必然だと…ネテロは運命の皮肉を嗤った。

 

もう、終わる。

だが、何故か悲壮感はない。

かつてない程の戦意は己の魂をどこまでも、昂ぶらせていた。

 

至高にして、至極の業の形。

それは、ネテロの魂そのものである。

 

 

 

幾度となく、攻撃を受けた王だが、再び、ほぼ無傷で姿を現した。

 

数々の、技を受けながら視界で捉えたのは、ネテロが両の手を合わせる姿のみであった。

 

静かな所作ではあるが、王の可動速度すら上回っていた。

 

王は感嘆しながらも、観音の動きを注意深く、冷静に観察していた。

 

そして、この技の綻びを必ず見つけ、勝利を手にする確信を得ていた。

 

だから、嗤う。

 

勝利までの道筋の肯定を脳裏に描くのも、愉しい遊び。

この老いた男が打つ手がどんなものか、それも本当に興味深い。

 

 

「正解」の駒を並べられるのは、必ず「自分」である。

 

そして、その後に必ず余の名を吐かせてみせる。

 

ああ、愉しい。

 

 

王の哄笑は止まらない。

 

 

ギリギリと、命を削ぐに戦うネテロとは

対照的で、王にはまだ力が有り余っていた。

 

全身全霊の百式の技の数々。

 

それを、睡蓮の花の如く、咲かせていた。

けれども、王の初動はついにネテロを上回ってきた。

 

唐突に奪われる、己の片方の足。

 

 

 

血が溢れ出す。

 

ネテロは己の筋に半ば無理やり力を入れ、血液の流れをとめ、傷を防ぎ、止血した。

 

 

 

王はネテロに左腕をもらうと、宣告した。

 

 

ネテロは、生涯最後と己に誓い、再び、百式観音を繰り出した。

 

片方の足を失おうが、関係ない。己の肉体が動く限り、命ある限り、この勝負を投げ出すわけにはいかぬ。

 

それは、ハンターとしての使命というより、個人としての意志であり、1人の武人としての矜持でもあった。

 

 

 

一分にも満たぬ時の中で交わされる攻防。

 

無数の火花が散る中で、やがて、先に勝利の光を見つけたのは、王であった。

 

 

そして奪われる左腕。

 

 

「余の名を」

 

絶対王者たる者から、戦利品の要求だ。

 

だが、まだ応じるわけにいかぬ。

 

腕がなくとも…祈れるのだ。

 

心の所作が…正しい形をつくり、想いこそが身を結ぶ。

それが、百式の零。ネテロの持つ、至高の技だ。

 

王の背後から、現れた観音は王を慈愛の掌で包み、そして無慈悲の咆哮をで対象を葬りにかかっていた。

 

全身全霊、生命の全てを賭けてネテロは、決着をつけにいっていた。

 

 

しかし、この技でも蟻の王を葬るのは不可能であった。

 

もう、骨と皮しか残らぬ肉体。

それでも、ネテロは意志を失わずに生きていた。

 

風前の灯火の命ー

 

 

ネテロはようやく、王に告げた。

 

その、名をー。

 

「メルエム」

 

名前は戦利品であるはずなのに、王は勝利の実感を得ることができなかった。変わりに不可解で不吉な空気だけが場を支配する。

 

目の前の瀕死の男が何か話しているが耳に入ってこない。

 

やがて、これが最期とばかりに、瀕死の男は己の胸の辺りを自らの手で貫いた。

 

 

その瞬間に総ては…喪われた。

 

爆風と爆音の中でメルエムは無意識に手を伸ばしていた。

 

ただ、1人、心に唯一、在る脆い肉体を持つあの、アカズの女を護りたくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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